155 / 264
3章
155 デート終了
しおりを挟む
「・・・・・・・・・えっ?」
優香は目の前にある料理を見つめてしばし絶句した後、そんな声を漏らした。
うん。言いたいことは分かるよ。
予想していたよりずっと豪華だったんだろうね。
けど、目の前のそれは『和の海鮮御膳・梅』で間違いないぞ。
一般的には、松>竹>梅、という感じなのだが、この店ではその逆。
つまり・・・梅>竹>松、という順序なのだ。
梅は一番高価なやつということである。
ちゃんと端っこに書いてあるんだが、優香は見落としたようだ。
注文した『和の海鮮御膳・梅』には日本産の最高級海鮮素材が使用されている。
僕の『海老尽くし彩御前・梅』と同じ伊勢海老を始めとして、北海道産のタラバガニやらバフンウニやら、イクラやら、各種魚やら、見ただけで高級だと分かる食材が所狭しと並んでいる。
活けづくりに刺身、味噌汁、天麩羅、丼もの、などなど。どれもこの上なく食欲をそそる香りであり、一体いくらになるのかは見当もつかないだろう。僕は以前注文したので知ってるけど。
なお、僕の料理は伊勢海老の他にも海外産の海老がふんだんに使われている。
前回、これと別の料理とで迷って選ばなかった方なので、これを注文することは早々に決まっていた。
「優香、急かすつもりは無いけど・・・食べないの?」
「はっ、はいっ!勿論頂きますけど、これはっ・・・!」
「一応もう一度言っておくけれど、支払いは僕が持つ。
優香が思っているよりは安いから、心配せずに味わって」
この部屋なら緊張で味が分からなくなることはないだろうけど、一応な。
僕が食べ始めたのもあって、恐る恐る料理に手を付ける優香。
まずは無難に、鯛の天麩羅を一口。
「・・・ッッ!?」
それからは非情に早かった。
どの料理もひたすらに美味しいこともあり、パクパクと食べていく。
僕も料理には自信があるのだが、到底敵わないと思わされ続けているほどの味。初めて口にする人は大抵一心不乱に食べ続ける。あの美鈴ですらそうだったのだから、やはり優香もその例に漏れなかった。
途中から観察していたのだが、その食べっぷりは上品さを残しつつもとても幸せそうなものだった。自分以外がこんな顔をさせているのには少々嫉妬してしまうが、こればかりは仕方ない。素直に、幸せそうな顔を見れただけでも十分だと思っておこう。
料理長のメイティアラには今度お礼を言わないと。
あ、メイティアラは名前に似合わず日本人だ・・・と思う。
少なくとも見た目は完全に日本人女性だ。
「・・・・・・っ!?」
む・・・観察していることに気づかれた模様。少しだけ食べるペースが落ちた。それでも相変わらず一心不乱という言葉が似合う食べっぷりだが。
そこそこの量があったはずなのだが、三十分程で完食した。
不思議なことに、いつも腹八分目というところで収まるんだよな、これが。
「ご馳走様でした・・・」
完食した優香は、どこかにトリップしているように見えた。
この食後の余韻も素晴らしさに一躍買っているのだ。
これまでの経験からして二、三分は戻ってこないだろうと思われる。
僕は・・・流石にある程度慣れているので、ほんの十秒くらいだ。
これ以上はどれだけ慣れても短くならない。多分。
数分後。
「・・・とても。とっても美味しかったです。ご馳走様でした、飛鳥さん」
「そうか。気に入ってもらえたようで何よりだ」
本当に幸せそうな顔でそう言ってきた。
その顔を見られただけで、連れてきた甲斐があったというものだ。
ちょっと色っぽくて、ドギマギさせられているのは秘密だ。
「こんないいお店をご存知なんて・・・飛鳥さんって、実は凄い人ですか・・・?」
「言わんとすることは分かるけど、僕自体は普通だよ。この店は父に連れてこられたことがあって、それから時折訪れているだけで。凄いというなら、僕の父じゃないかな」
「ですが、時折訪れられるということは・・・いえ、何でもありません」
途中で言葉を止めた優香に苦笑を返す。
恐らく、金銭的な話になりそうなので踏みとどまったのだろう。
別に聞かれても失礼だとも思わないが、わざわざひけらかすつもりもない。ここは優香の好意に甘えて何も言わないでおこう。
ちなみに、父さんとこの店の関係はいまいち分からない。
VIP扱いかと思えば、そうではない一面も垣間見えた。
というより、父さんには色々と不明なことが多く、正直知らないことだらけだ。そしてそれにまるで疑問を覚えていなかったということに、つい最近思い至った。ますます不思議だ。
だが、言ってしまえばどうでもいい。
母さんもそうだが、この上なく愛してくれていることはどうしようもなく理解出来てしまう。だから、その程度のことは些事なのだ。
少しのんびりした後で、会計を済ませて『セレスティア』を出る。
支払いは、優香に先に外へ出てもらってから行った。金額を知らない方がいいだろうという配慮からだ。少し気にしていた様子だが、素直に外へ出てくれた。男を立ててくれるいい女性だよな、本当に。
なお、支払い金額は二十万は超えていないと言っておく。
味を考えれば途轍もなく安いと思う。
その後、駅まで手を繋いで歩いた。
手の握り方や距離感から、好感度が上がっているという手ごたえを感じられた。
多分きっと恐らく、気のせいでは無い。
こうして、初デートは成功で終えることができたのだった。
優香は目の前にある料理を見つめてしばし絶句した後、そんな声を漏らした。
うん。言いたいことは分かるよ。
予想していたよりずっと豪華だったんだろうね。
けど、目の前のそれは『和の海鮮御膳・梅』で間違いないぞ。
一般的には、松>竹>梅、という感じなのだが、この店ではその逆。
つまり・・・梅>竹>松、という順序なのだ。
梅は一番高価なやつということである。
ちゃんと端っこに書いてあるんだが、優香は見落としたようだ。
注文した『和の海鮮御膳・梅』には日本産の最高級海鮮素材が使用されている。
僕の『海老尽くし彩御前・梅』と同じ伊勢海老を始めとして、北海道産のタラバガニやらバフンウニやら、イクラやら、各種魚やら、見ただけで高級だと分かる食材が所狭しと並んでいる。
活けづくりに刺身、味噌汁、天麩羅、丼もの、などなど。どれもこの上なく食欲をそそる香りであり、一体いくらになるのかは見当もつかないだろう。僕は以前注文したので知ってるけど。
なお、僕の料理は伊勢海老の他にも海外産の海老がふんだんに使われている。
前回、これと別の料理とで迷って選ばなかった方なので、これを注文することは早々に決まっていた。
「優香、急かすつもりは無いけど・・・食べないの?」
「はっ、はいっ!勿論頂きますけど、これはっ・・・!」
「一応もう一度言っておくけれど、支払いは僕が持つ。
優香が思っているよりは安いから、心配せずに味わって」
この部屋なら緊張で味が分からなくなることはないだろうけど、一応な。
僕が食べ始めたのもあって、恐る恐る料理に手を付ける優香。
まずは無難に、鯛の天麩羅を一口。
「・・・ッッ!?」
それからは非情に早かった。
どの料理もひたすらに美味しいこともあり、パクパクと食べていく。
僕も料理には自信があるのだが、到底敵わないと思わされ続けているほどの味。初めて口にする人は大抵一心不乱に食べ続ける。あの美鈴ですらそうだったのだから、やはり優香もその例に漏れなかった。
途中から観察していたのだが、その食べっぷりは上品さを残しつつもとても幸せそうなものだった。自分以外がこんな顔をさせているのには少々嫉妬してしまうが、こればかりは仕方ない。素直に、幸せそうな顔を見れただけでも十分だと思っておこう。
料理長のメイティアラには今度お礼を言わないと。
あ、メイティアラは名前に似合わず日本人だ・・・と思う。
少なくとも見た目は完全に日本人女性だ。
「・・・・・・っ!?」
む・・・観察していることに気づかれた模様。少しだけ食べるペースが落ちた。それでも相変わらず一心不乱という言葉が似合う食べっぷりだが。
そこそこの量があったはずなのだが、三十分程で完食した。
不思議なことに、いつも腹八分目というところで収まるんだよな、これが。
「ご馳走様でした・・・」
完食した優香は、どこかにトリップしているように見えた。
この食後の余韻も素晴らしさに一躍買っているのだ。
これまでの経験からして二、三分は戻ってこないだろうと思われる。
僕は・・・流石にある程度慣れているので、ほんの十秒くらいだ。
これ以上はどれだけ慣れても短くならない。多分。
数分後。
「・・・とても。とっても美味しかったです。ご馳走様でした、飛鳥さん」
「そうか。気に入ってもらえたようで何よりだ」
本当に幸せそうな顔でそう言ってきた。
その顔を見られただけで、連れてきた甲斐があったというものだ。
ちょっと色っぽくて、ドギマギさせられているのは秘密だ。
「こんないいお店をご存知なんて・・・飛鳥さんって、実は凄い人ですか・・・?」
「言わんとすることは分かるけど、僕自体は普通だよ。この店は父に連れてこられたことがあって、それから時折訪れているだけで。凄いというなら、僕の父じゃないかな」
「ですが、時折訪れられるということは・・・いえ、何でもありません」
途中で言葉を止めた優香に苦笑を返す。
恐らく、金銭的な話になりそうなので踏みとどまったのだろう。
別に聞かれても失礼だとも思わないが、わざわざひけらかすつもりもない。ここは優香の好意に甘えて何も言わないでおこう。
ちなみに、父さんとこの店の関係はいまいち分からない。
VIP扱いかと思えば、そうではない一面も垣間見えた。
というより、父さんには色々と不明なことが多く、正直知らないことだらけだ。そしてそれにまるで疑問を覚えていなかったということに、つい最近思い至った。ますます不思議だ。
だが、言ってしまえばどうでもいい。
母さんもそうだが、この上なく愛してくれていることはどうしようもなく理解出来てしまう。だから、その程度のことは些事なのだ。
少しのんびりした後で、会計を済ませて『セレスティア』を出る。
支払いは、優香に先に外へ出てもらってから行った。金額を知らない方がいいだろうという配慮からだ。少し気にしていた様子だが、素直に外へ出てくれた。男を立ててくれるいい女性だよな、本当に。
なお、支払い金額は二十万は超えていないと言っておく。
味を考えれば途轍もなく安いと思う。
その後、駅まで手を繋いで歩いた。
手の握り方や距離感から、好感度が上がっているという手ごたえを感じられた。
多分きっと恐らく、気のせいでは無い。
こうして、初デートは成功で終えることができたのだった。
0
お気に入りに追加
4,949
あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる