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3章
154 食事処『セレスティア』
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駅からしばらく歩いて、目的地に到着。
食事処『セレスティア』は和洋中はもちろんのこと、フランス料理やらイタリア料理やらも扱っており、味と環境には非の打ち所がない。
ただし、一見さんお断りの予約制で、少々敷居が高い。
外装は地味なので事前にここのことを知っていなければ、まず食事処だとは分からないだろう。
「いらっしゃいませ。藤堂飛鳥様ですね。お席の方にご案内させていただきますのでこちらへどうぞ」
「ああ。よろしく頼むよ」
顔見知りの男性従業員だが、キッチリと公私は分けている。
彼の案内に従って予約した席へ向かう。
「・・・・・・」
優香は緊張のせいか表情が硬く、体の動きもぎこちない。
内装は外装と違ってそこはかとない高級感が漂っているので、見る目のある人や感覚の鋭い人は気づいてしまうものなのだ。
折角緊張がほぐれてきたところだったのに、残念だ。
だが、部屋に入れば今よりもマシになるだろう。
僕も父に連れられて初めて来た時は緊張でガチガチだったものだが、これから行く部屋に入った途端緊張が和らいだのだ。その時の事は今でも鮮明に覚えている。
「こちらがお席になります。では、ごゆっくりどうぞ」
従業員は去っていき、二人が残された。
中に入ると、そこは和風のようでもあり洋風のようでもある、不思議な空間。
僕にとってはリラックスして過ごせる最高の環境だ。
「この部屋に入るととても安心できると思わないか?」
「あ、はい。確かにこの部屋に入った途端、緊張が和らいでいきました・・・」
「そうだろうね。ま、勝手知ったるなんとやら、だ。
心配は要らないからのんびりするといい。と・・・これがお品書きな」
部屋にある戸を開けてそこからお品書きを二つ取り出す。片方は対面に座った優香の前へ置き、もう片方は自分の前へ。
お品書きに書かれた料理の数はとても多い。初めて来た客はどれにしようか非常に迷うだろう。どれも値段が書かれていないせいか、優香も目を白黒させているので助け船を出す。
「ここの支払いは僕が持つから、好きなのを選んでくれ。
迷うようなら・・・ここにオススメが載っているから、ここから選ぶといい」
「は、はい・・・!」
案の定困っていたようで、アドバイスに従ってそのページに見入り始めた。初めて来たときの僕を見ているようでとても微笑ましい。
それと、素直におごられてくれることはありがたい。
つまらないプライドだが、女性に払わせるわけにはいかないからな。
ちなみに、僕は既に頼む料理を決めているが、優香にプレッシャーを掛けないように迷う振りをしている。急かしたところでいいことなんて一つもないからな。
十分後、決まったような素振りが見えたので、尋ねる。
「優香、注文は決まったかな?」
「はい。この、『和の海鮮御膳・梅』にしようかと・・・」
「お、いいところを選んだな。個人的にもオススメ出来る品だ」
優香の注文を細かいオプションも含めて専用の注文用紙に書きつける。
僕の注文も書きつけ、用紙を部屋の外に置いておく。
従業員がすぐに回収してくれるので、あとは料理が来るのを待つだけだ。
「あ、飛鳥さんはどれになさったんですか?」
「僕はこれ。『海老尽くしの彩御前・梅』・・・海鮮系で重なったな」
「海老尽くし・・・美味しそうですね・・・」
オススメには書かれていない品なので、優香は候補にも入れていなかったようだ。
これからも時折連れて来たいと思っているし、今回はそれでいいだろう。
「・・・あっ。もしかして、最初から決めてましたか・・・?」
「・・・さて、何のことやら」
「・・・・・・。本当に、優しいですね、飛鳥さんは・・・」
完全にバレてるな。なんで気づかれてしまったのか・・・。
そんな素振りは見せてない・・・いや、優香尋ねた後、迷いもせずにすぐに書きつけたのが不味かったのかもしれない。次は気を付けよう。
「ところで、優香はどうしてその品を選んだんだ?」
「それは、ですね・・・一番最初に目について、それで気になってしまい・・・」
「なるほど。そういう理由か・・・」
どれを選ぶにしてもハズレはないので、そういう決め方もありだな。
「それと・・・あまり高い物は心情的に抵抗があって、選びたくないな、と」
「・・・ん?」
「・・・え?」
見つめ合ったまま数秒。
どちらからともなく恥ずかしくなって目を逸らす。
この部屋は緊張を和らげてくれるが、この手のドキドキは変わらないままのようだ。今まで美鈴以外の女性を連れてきていなかったから初めて知ったよ。
「その・・・気を悪くされましたか?」
「いや?優香が何を頼んでも全く気にしないぞ?たとえそれが高くても安くても、同じことだ。ただ、優香の言い方に違和感を覚えたというか・・・」
「違和感、ですか・・・?」
優香の発言を思い出して違和感の正体を探る。
・・・・・・ああ、そういうことか。ちょっと気の毒な事をしたかもしれない。
「あの、飛鳥さん・・・?」
「いや、何でもないぞ?気のせいだった」
「・・・嘘、ですね?」
「ぐっ・・・!」
正面から見据えられて見破られてしまった。
正直に話した方が良いのか、黙っていた方がいいのか、悩みどころだな。
一応お品書きの端っこに書かれていることなんだが・・・。
「飛鳥さん、分からないままだと落ち着かないので、不都合が無ければ教えてほしいのですが・・・」
「あー、そうだな・・・不都合はないんだが、優香に気を遣われそうで・・・」
「・・・?」
話そうか迷っている内に、男性従業員の手で料理が運ばれてきた。
ひょっとしたら料理で気づくかもしれないが、それはどうしようもないな。今回の勘違いはお品書きにサンプルや写真が載っていれば起こらなかったことかもしれない。
・・・松竹梅って、店によって上下が変わるのだ。
食事処『セレスティア』は和洋中はもちろんのこと、フランス料理やらイタリア料理やらも扱っており、味と環境には非の打ち所がない。
ただし、一見さんお断りの予約制で、少々敷居が高い。
外装は地味なので事前にここのことを知っていなければ、まず食事処だとは分からないだろう。
「いらっしゃいませ。藤堂飛鳥様ですね。お席の方にご案内させていただきますのでこちらへどうぞ」
「ああ。よろしく頼むよ」
顔見知りの男性従業員だが、キッチリと公私は分けている。
彼の案内に従って予約した席へ向かう。
「・・・・・・」
優香は緊張のせいか表情が硬く、体の動きもぎこちない。
内装は外装と違ってそこはかとない高級感が漂っているので、見る目のある人や感覚の鋭い人は気づいてしまうものなのだ。
折角緊張がほぐれてきたところだったのに、残念だ。
だが、部屋に入れば今よりもマシになるだろう。
僕も父に連れられて初めて来た時は緊張でガチガチだったものだが、これから行く部屋に入った途端緊張が和らいだのだ。その時の事は今でも鮮明に覚えている。
「こちらがお席になります。では、ごゆっくりどうぞ」
従業員は去っていき、二人が残された。
中に入ると、そこは和風のようでもあり洋風のようでもある、不思議な空間。
僕にとってはリラックスして過ごせる最高の環境だ。
「この部屋に入るととても安心できると思わないか?」
「あ、はい。確かにこの部屋に入った途端、緊張が和らいでいきました・・・」
「そうだろうね。ま、勝手知ったるなんとやら、だ。
心配は要らないからのんびりするといい。と・・・これがお品書きな」
部屋にある戸を開けてそこからお品書きを二つ取り出す。片方は対面に座った優香の前へ置き、もう片方は自分の前へ。
お品書きに書かれた料理の数はとても多い。初めて来た客はどれにしようか非常に迷うだろう。どれも値段が書かれていないせいか、優香も目を白黒させているので助け船を出す。
「ここの支払いは僕が持つから、好きなのを選んでくれ。
迷うようなら・・・ここにオススメが載っているから、ここから選ぶといい」
「は、はい・・・!」
案の定困っていたようで、アドバイスに従ってそのページに見入り始めた。初めて来たときの僕を見ているようでとても微笑ましい。
それと、素直におごられてくれることはありがたい。
つまらないプライドだが、女性に払わせるわけにはいかないからな。
ちなみに、僕は既に頼む料理を決めているが、優香にプレッシャーを掛けないように迷う振りをしている。急かしたところでいいことなんて一つもないからな。
十分後、決まったような素振りが見えたので、尋ねる。
「優香、注文は決まったかな?」
「はい。この、『和の海鮮御膳・梅』にしようかと・・・」
「お、いいところを選んだな。個人的にもオススメ出来る品だ」
優香の注文を細かいオプションも含めて専用の注文用紙に書きつける。
僕の注文も書きつけ、用紙を部屋の外に置いておく。
従業員がすぐに回収してくれるので、あとは料理が来るのを待つだけだ。
「あ、飛鳥さんはどれになさったんですか?」
「僕はこれ。『海老尽くしの彩御前・梅』・・・海鮮系で重なったな」
「海老尽くし・・・美味しそうですね・・・」
オススメには書かれていない品なので、優香は候補にも入れていなかったようだ。
これからも時折連れて来たいと思っているし、今回はそれでいいだろう。
「・・・あっ。もしかして、最初から決めてましたか・・・?」
「・・・さて、何のことやら」
「・・・・・・。本当に、優しいですね、飛鳥さんは・・・」
完全にバレてるな。なんで気づかれてしまったのか・・・。
そんな素振りは見せてない・・・いや、優香尋ねた後、迷いもせずにすぐに書きつけたのが不味かったのかもしれない。次は気を付けよう。
「ところで、優香はどうしてその品を選んだんだ?」
「それは、ですね・・・一番最初に目について、それで気になってしまい・・・」
「なるほど。そういう理由か・・・」
どれを選ぶにしてもハズレはないので、そういう決め方もありだな。
「それと・・・あまり高い物は心情的に抵抗があって、選びたくないな、と」
「・・・ん?」
「・・・え?」
見つめ合ったまま数秒。
どちらからともなく恥ずかしくなって目を逸らす。
この部屋は緊張を和らげてくれるが、この手のドキドキは変わらないままのようだ。今まで美鈴以外の女性を連れてきていなかったから初めて知ったよ。
「その・・・気を悪くされましたか?」
「いや?優香が何を頼んでも全く気にしないぞ?たとえそれが高くても安くても、同じことだ。ただ、優香の言い方に違和感を覚えたというか・・・」
「違和感、ですか・・・?」
優香の発言を思い出して違和感の正体を探る。
・・・・・・ああ、そういうことか。ちょっと気の毒な事をしたかもしれない。
「あの、飛鳥さん・・・?」
「いや、何でもないぞ?気のせいだった」
「・・・嘘、ですね?」
「ぐっ・・・!」
正面から見据えられて見破られてしまった。
正直に話した方が良いのか、黙っていた方がいいのか、悩みどころだな。
一応お品書きの端っこに書かれていることなんだが・・・。
「飛鳥さん、分からないままだと落ち着かないので、不都合が無ければ教えてほしいのですが・・・」
「あー、そうだな・・・不都合はないんだが、優香に気を遣われそうで・・・」
「・・・?」
話そうか迷っている内に、男性従業員の手で料理が運ばれてきた。
ひょっとしたら料理で気づくかもしれないが、それはどうしようもないな。今回の勘違いはお品書きにサンプルや写真が載っていれば起こらなかったことかもしれない。
・・・松竹梅って、店によって上下が変わるのだ。
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