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3章

141 レインの変化と回顧

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 小休止を終えて南へ出発。
 ここからはリザードマンの編隊が相手になる。
 武器全般を扱う技術が他の魔物よりも高い傾向があり、知能も高いので強敵だ。


 予想通り、現在レインとアリアさんは同数のリザードマン相手に苦戦している。
 プレイヤーレベルに換算するとレベル18の二体が相手だが、前衛のリザードマンに度々接近されて辛そうだ。
 平均的な同じレベルのプレイヤーより強いので、仕方がない。

 逆に言えば、同数のリザードマン相手に勝てれば、現在のレベルにおいて平均並の実力があるということだ。
 指標とするには悪くない相手である。


「シャアアアッ!」

「クレイボール!」


 レインが接近してきた剣持ちリザードマンの目の前に土球を発動。
 マスタースキルになったことで魔法を出現させる場所もある程度操れるのだ。

 だが、どうして目の前に置くだけ・・・ああ、なるほどな。

 目的に気づいた直後、リザードマンが視界を塞ぐ土球をアーツで破壊。
 すると、破壊した土球の後ろに一つ目よりも小さな土球が隠れて存在していた。
 剣を振り切った直後で動けないリザードマンに土球が炸裂して、大きくのけぞらせることに成功。
 そこに杖による渾身の一撃。


「パワースマッシュ!!」

「グシャー!?」


 リザードマンは弾き飛ばされて後衛のリザードマンの近くに転がった。
 アリアさんとレインが目配せをして、このチャンスを生かそうとする。


「パワーアロー!」

「ストーンエクスプロージョン!」


 アリアさんが後衛を牽制しつつ、転がっている前衛を撃ち抜いて動きを止める。
 そこへタイミングを合わせたレインの魔法が決まり、大ダメージを与えた。

 そこから形勢はレインたちに傾き、最後まで優勢を維持したまま決着。

 緊迫した戦いで集中力を使い果たしたのか、レインはその場に座り込んだ。
 アリアさんは立ったままではあるが、肩で息をしていて、色白の肌に汗のエフェクトが滴っているのが窺える。
 敵から逃げ回るために激しく動いたからな。

 僕は汗のエフェクトなんて経験がないので、精神状態が影響してエフェクトが発生するのかもしれない。
 だったらどうしたという話だが。


「お疲れ様です。良い戦いでしたよ」

「そう・・・ありがとう。
 ああ、アスト。私の方は良いから、レインの方へ行って褒めてあげて頂戴」

「ええ、分かりました」


 言われずともそのつもりだったけれど、水を差されてしまった。
 息が整うまで待つつもりだったのだが、ちょっと判断を誤ったかもしれない。
 アリアさんには感謝せねば。


「お疲れ様、レイン。不慣れではあるけど、上手く戦えてたぞ。
 特に土球でブラインドの効果を出したところは、いい戦法だった」

「ありがとうございます、アストさん・・・」


 レインは座ったままの態勢で嬉しそうに微笑んだ。
 ドキリとさせられるほど綺麗な微笑みだった。
 動揺しているのを自覚しながら、レインの隣に腰を下ろす。


「に、二重のクレイボールは自分で考えて実行したんだよな?
 相手の視界を塞いで行動を制限できるし、かなりいい手だと思うぞ」

「はい。休憩中に思いついて・・・咄嗟に上手く出来たのは運が良かったです」

「運が良かったというのも間違いではないけど、レインの努力なしでは引き寄せられなかった幸運だと思う。だから・・・もっと自信を持っていい」


 適度に自信を持つことは良い方に転ぶ可能性が高いからな。
 過剰な自信は毒になるが、レインは控えめなので大丈夫だろう。
 万が一おかしくなっても、誰かが指摘してあげればそれで済む。


「・・・・・・私に優しいですね、アストさんは」

「・・・レイン?」


 レインがこちらに寄り掛かってきた。

 え・・・何これ?
 いつの間にか二人の距離が詰まってたみたいだし、動揺で気づけなかったのか?
 そして今すぐ死んでもいいくらいに幸せなんだけど。
 
 ・・・え、本当に何事?これって疲れたから寄り掛かっているだけなのか?
 それとも、ちょっとだけ期待してもいいのか?
 絶無の可能性が0.1%くらい上昇したのか?

 ・・・分からん。そして何も出来ない。この状況でどうしろと?


「思えば、始めて会った時もそうでしたね・・・」

「初めて・・・?」


 レインと初めて会ったのはウェザリアで・・・いや、違うか。
 あの事故の時に初めて会ったんだ。

 言われてみれば、見ず知らずの人の為に車に撥ねられるなんて、おかしなことをしたと思う。
 普段だったら助けたいと思いつつ体が動かないのではないだろうか。

 あの時は・・・確か、何故か絶対に助けなければいけない気がしたんだよな。
 それで、気づいたら体が動いていた。
 言うならば、直感のようなものか。

 今思えば、あの時体が動いてくれて本当に良かったと思う。
 そうでなければレイン、いや、優香は・・・・・・。


「ですから私は・・・「敵襲よ!」・・・っ!?」


 甘酸っぱい雰囲気を霧散させたのは、そんなアリアさんの叫び声だった。
 疎かになっていた気配感知で四体のリザードマンを感知。

 とりあえず、理不尽だと理解しつつも、四体のリザードマンは許さん!
 途轍もなくいいところで邪魔が入ったような気がするぞ!

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