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3章

57 利益と収束

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 ログアウトして夕食作りなのだが、気分が乗らなかった・・・。


「お兄ちゃん、珍しく手抜きだね?それでも美味しいけど」


 大皿に盛られた野菜炒めをつっつきながら、美鈴が正直な感想を述べてくれた。美鈴はそういうところでは嘘を吐かないので、不味くはないようで一安心だな。


「そうか・・・。美鈴、僕がしばらく料理はしないと言ったらどうする?」

「ええっ!?そ、それは・・・ちょっと嫌だけど、お兄ちゃんが作りたくないなら無理強いは出来ないよ・・・」

「お、おう・・・そうか・・・」


 思ったより真剣な答えが返ってきてしまったな・・・。
 別に本気で言ったわけでもないし、明日には平気になってるだろう。
 元々料理は嫌々やっているわけではなく、ほどほどに好きでやっているんだし。


「・・・あ、料理スキルの情報、掲示板に載せといたよ?」

「お、それはありがとう。明日には問題も収束に向かうだろうな」

「うんうん、だから今日が稼ぎ時だよ!」

「僕は少し休むから、頑張って売ってくれたまえ」

「はーい!」


 まあ、流石に完売はしないだろう。
 今もウェザリアのメンバーが交代で売ってくれているが、五百も作り置きがあれば余るはず。



 ・・・そう思っていた時代もありました。


 先にログインしていた美鈴が、ログアウトしてきてこの一言。


「アスト兄!もうすぐ完売しちゃうよっ・・・!」

「なんでそうなった!?」


 昼過ぎから夜までに五百食売れた。
 その状態で五百食の作り置きがあれば、今日中は平気だと思っていた。

 一体どうして、そんなに売れた数が伸びてるんだ・・・?

 美鈴も相当焦っていたらしく、呼び方がゲーム内のままだ。
 

 慌ててログインすると・・・うわぁ。


「・・・用事を思い出したのでこれで失礼します」


 阿鼻叫喚になっているウェザリア前におののいて、踵を返した。


 ガシッ!


「・・・あの、アリアさん?この手は一体・・・?」

「・・・お願いアスト。本当に用事があるなら別だけれど、そうでないなら・・・助けて」


 肩を掴まれている感覚は無いが、何故か必死さが伝わってくるような気がする。


「何故にそんな切羽詰まっているので・・・?」

「ここで売り切れになってしまったら、暴動モノよ。ウェザリアへの悪印象を持たれてもおかしくないわ・・・」


 なるほど。
 だがしかし、何故そんなにお買い上げ数が伸びているのだろうか?
 これから夜中だぞ?

 そんな疑問への答えも仕入れてくれていたらしい。


「明日は日曜だから。みんな今日の内に一日分買って、プレイするつもりなのだと思うわ」

「ははぁ・・・。考えることは皆同じ、と」


 納得できた気がするが、事前に予想するなんて無理だな。
 二回目とかならともかく。


「今、フランとミレアにオークを狩ってきてもらっているわ」

「分かりました。では、先に残った分で作り始めますね」

「そうしてもらえると助かるわ・・・」


 アリアさんも疲れ気味のようだな。
 ちゃんと取り分はあるので我慢してくださいな。









《熟練度が一定に達し【中級料理】スキルがLv3になりました》


 注文が入るペースも遅くなってきたとのことで、本日の料理はここまで。
 最終的な販売数は、千三百くらいになっただろうか。


「お疲れ様でした、アリアさん」

「そちらこそお疲れ様。苦労を掛けたわね・・・」


 大変ではあったが、嫌々やっていたわけでもない。
 ウェザリアからの勧誘も保留にし続けているし、これくらいの苦労はどうということもない。


「そうでもありませんよ。他のみんなも、今日はお疲れ様」

「お疲れ様、アスト兄!」

「お疲れ様でした、アストさん」


 ウェザリアの一室に集まったみんなが、思い思いの返事をしてくれる。
 それにしても、よく最後まで付き合えたな・・・。
 リアルの用事とかは大丈夫なのだろうか。


 その後、アリアさんから500万ゴールドを超える利益が報告された。
 大金なんだけど、割に合っているのかは微妙だな。


「アスト、この分配についてはどうしたい?」

「・・・えっ?僕が決めるのですか?」


 アリアさんは深く頷いた。
 周囲を見回しても、反対者は居ないようだ。


「それなら、七等分・・・」

「「「「「「却下!」」」」」」


 おおう・・・一瞬で却下されてしまった。
 アリアさんに淡々と説明されて、やり過ぎたと気づいた。
 僕が反対の立場だったら、とても納得できない分け方だった。


 結局、僕の所持金は900万ゴールドを超えることになったのだった。
 というか、最後はアリアさんがごり押ししたし。
 微妙に解せない。もっと少なくて良いんだが・・・。

 それにしても、今日の予定は滅茶苦茶になってしまったな。
 思えば、もうログアウトするというのに、一度も戦闘をしていない気がする。
 まあ、そういう日があってもいいし、それはそれで結構楽しめた。文化祭のノリみたいな感じかな。そういう訳で全く問題は無いのだけれども。


 そして、ログアウト前に、フレイムエクスプロージョンを超えた威力がある爆弾が落とされた。



「アストさん!今度リアルで料理を教えて頂けませんか・・・!?」


 レイン、それは僕の家に来るということかい?
 それとも、僕が君の家にお邪魔するということか?
 どちらにしても大問題だと思うのだが・・・考え過ぎだろうか?

 僕は、曖昧な答えしか返せなかった。
 いきなりハードルが高すぎたのがいけないのだ。

 周りがニヤニヤと見ているのもいけない。
 特にミア。普段はあまり表情を変えないくせに、何故こんなときばかり、そんなに表情豊かなんだ!?

 レインも!いまさら周りの状況に気づいて恥ずかしそうにしないでくれ!こっちまで恥ずかしくなるから!

 そしてミレア・・・そんな複雑そうな顔をするんじゃない!
 やっぱりブラコンは矯正するべきなのだろうか・・・?


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