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4章

263 ギルド《虹色独奏》

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 あの後、ミレアとシエラの誤解は簡単に解けた。

 当然と言えば当然なのかも?
 別に、アリアさんとの関係にやましいことなど一つもないのだから。

 もし次があったなら、抱き抱えたり密着したりするような、紛らわしい状態にはしない。落ち着いて、言葉を使って誘導するとしよう。


「あの時は言葉が出なくなるくらいに驚いたんだからね? レイン一筋だったアストが、アリアと密着してたんだもん。私、軽くパニックだったし……」

「シエラさん。私はアストさんのことは信じていますし、終わったことをあまり掘り返さないでいただけると……」 

 レインは遠慮がちな雰囲気ながらも、ハッキリとした声色でシエラを窘めた。

 なお、レインはついさっき、《第三拠点》から転移してきた。

 僕はひたすらに謝り倒し、「やむを得ない事態だったようですから」とのお許しをいただいている。
 嫌われたらどうしようかと、中々に戦々恐々な心境だったので、無罪放免にされた時は感極まって、あわや彼女に抱きついてしまうところだった。
 寸でのところで思いとどまり、現実でのお楽しみにとっておくことにしたが。


「うっ、ごめん」

「私はすぐに、アスト兄がアリアを庇ったんだ、って分かったのにねっ」

「ちょっと―! もとはと言えば、ミレアが紛らわしいこと言ったんじゃん!」

「あはは。私もちょっと動揺しちゃって。騒ぎを大きくしかけてごめんなさい!」


 ミレアは恥ずかしそうに頬を掻き、両手を合わせて謝罪した。

 ……別に、お前はほぼほぼ悪くないだろうに。


「私も――」

「この話はお終い。それより、言伝」

「あっ……そうでしたッ!」


 続けてアリアさんが頭を下げようとしていたが、その気配を感じ取ったミアが強引に話を変えた。
 レインはミアの視線を受け、目を見開いたのち思い出したように話し出す。


「私、伝言を預かっていたのを忘れてました……すみません、アストさん」

「伝言?」


 誰から……って、例の助っ人からか。
 レインやミアと一緒に、《第三拠点》の石像を守ってくれていたはずだし。

 でも、どうして伝言なんて面倒な真似を……あっ。
 彼女は《ウェザリア》のメンバーじゃないから、拠点間の転移ゲートを使えないのか。


「はい。えっと……『わざわざ遠くまで出向いたというのに、顔ぐらい見せたらどうなのだ、アスト? 私は、個人戦でサクラに負けてから、世界の見え方が少し変わった気がする。早くお前と戦う機会が訪れてほしいものだ』です」

「はぁ……そんなんだから戦闘狂だと噂されるんだろうに」


 不機嫌そうな赤髪赤眼女性の姿が、さして労せずとも頭に浮かぶ。

 そう。クレアのギルド《虹色独奏レインボーブレス》からの援軍というのは、鬼畜戦闘狂――ではなく、【深紅の槍神】ことフランである。


 ――ギルド《虹色独奏レインボーブレス》。

 
 構成員はたったの八人。
 どこかの生産ギルド並に超少数精鋭の集団である。

 ギルドマスターはクレアで、サブマスターが【闇の帝王】こと闇鍋御膳。
 メンバーについては、フラン+他五名となっている。

 未だ、残りの五人についてはまったく情報がない。
 一体、どこの誰が所属しているのやら……うん、嫌な予感しかしない。

 にしても、色々と切羽詰まっていたとはいえ、フランには悪いことをしてしまったな。援軍の対価は援軍で返すことになっているし、その時に改めて礼を言おう。

 かくして、敵の一斉侵攻を防ぎきり、僕たちは『ウィーンフライトエリア』の三分の一近くを、完全なる支配下へと置くこととなったのだった。


『――ギルド戦開始から六時間五十分が経過しました!
 只今から十分後、空き陣地争奪ランダムバトルを開催いたします!
 なお今回は、第三回と第四回を同時に行う形式をとらせていただきます!
 各ギルドは最大で二名まで、ランダムバトルへ参加することが可能です!』


 システマのよく通る声が、なんの前触れもなく空から降ってきた。

 今までとは毛色の違う通達だったが……同時開催、だと?
 六人しか居ないのに二人も引き抜くのは、防衛戦力的にちょっと不安だ。

 ……いや。
 たかだか十分なのだし、四人だけでも問題はないのかも。

 でも、なんか引っ掛かるんだよなぁ……。
 ここがおかしい! と明確な言葉にはできない。
 だが、システマの追加説明に妙な違和感を覚える。何と言うべきか……そう、話すべきことを話してないような、そんな感じだ。

 こういう時は、妹頼み!


「どう思った、今のアナウンス」

「うーん、今のだけじゃ確証までは持てないけど……トラップっぽい?」


 真剣に考え込んでいるミレアは、躊躇いながらそう口にした。

 彼女の意図を汲み取りきれなかった僕たちは、揃いも揃って首を傾げ、頭の上に『?』を浮かべる。もう少し詳しい解説プリーズ。

 僕と同じことを思ったのか、レインが右手を挙げてから発言する。


「罠、というのは……?」

「……二人まで参加可能って部分。これだと、同じギルドからの参加者は味方同士、みたいに聞こえるけど、システマはそんなこと言ってないよね?」

「「「っ!?」」」


 ミレアの言わんとするところを理解して、思わず息を呑んだ。


「つまり、送り出した味方同士の潰し合いになる、かもしれないってこと。あと、ギルド内で潰し合いをさせるのが目的なら、ゲーム内容はガチガチのバトル系かも。それも、どちらかのHPが全損するまで続く――」

「……うわぁ」


 あり得る中で最悪の展開を思い浮かべ、知らず知らずのうちに変な声が漏れた。

 だって、万全を期して僕とミレアで参加したら、どちらが勝っても大惨事だ。
 クイーンの駒が欠けたチェスみたいなものだろう。

 あらかじめ恐ろしい可能性に気づけてよかった。


「同士討ちリスク排除のために、参加するのは一人だけにしましょう。ゲーム内容は、HPを全損する戦闘系が濃厚。なら、アストかミレアに任せるべきかしら」


 議論をまとめにかかったアリアさん。
 僕たちに参加の意思を尋ねるような視線を送ってきた。


「あ、アリア。私はパスでお願い。【月魔法】の練習したいから」


 これに対し、ミレアはすぐさま断りを入れた。
 新しく習得した【月魔法】の修練で忙しいらしく、それが山場の今は十分という短時間であっても、決して練習から離れたくないようだ。

 無理強いはできないし、仕方ないな。

 しかし、また僕が参加するのも、ワンパターンで面白くない。
 ほかに希望者は居ないのか?


「レインはやってみたいと思わないか?」

「へっ……?」


 急に話を振られたレインはポカンとした顔になった。
 その直後、大きく目を見開き、首をブンブンと横に振る。


「参加したい気持ちはありますけど、ちょっと怖いです……」

「そっか……」


 元々レインは生産職メインだからな。
 HP全損の恐れがあるデスマッチだと、参加するハードルが高いみたいだ。

 というか、僕とミレア以外は生産職なのだし、ランダムバトルは戦闘職二人でローテーションを組むのが普通だ。彼女たちの活躍の場を奪わないようにと、気を遣いすぎていたのかもしれない。

 僕が参加してもいいかと確認するも、誰からも異論が出ず、そのまま本決まりに。

 まだ三分ほど余裕はあるが、緑の転移門へ――入る寸前、ミアに引き留められた。


「ちょっと待ってアスト。たった今、投槍が完成したから、持って行ってほしい」




―――――――――――――――――――――――――――――――
『ギルド対抗「攻城戦」開催中!』 <残り十七時間二分>

 ・参加ギルド 302ギルド
 ・残りギルド 177ギルド/302ギルド

 ・獲得フラッグ59 喪失フラッグ0
 ・獲得ポイント59 喪失ポイント0

 ・総合ポイント59

 ・広域マップ確認
 ・周辺マップ確認《ウェザリア》《第二拠点》《第三拠点》
 ・空き陣地争奪戦
 ・―――――
―――――――――――――――――――――――――――――――

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みんなの感想(715件)

マサト
2021.04.06 マサト

明日で二年経ちますか。続きを楽しみたいと思っております。続きは書かないのですか?

解除
りょぽん
2020.08.18 りょぽん

もう書かないの?

解除
ヒロカレー
2020.06.09 ヒロカレー

少数とはいえ各々がアナザースキルを得ているのなら、神から個人的に貰った
チートの「加速」はゲームとは関係なくたまたま偶然のもので、
「加速」は現実世界の方で使えるということでしょうか? 「瞬間再誕」の対象が
現実世界に使われましたし。

解除
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