異世界転生? いいえ、チートスキルだけ貰ってVRMMOをやります!

リュース

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4章

256 ポイント変換と石像の防衛

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 ウェザリアの城砦に戻ってから十分後、五十二本の赤フラッグが――。


「あっ、見て見て、アスト兄。旗がポイントに変わったよ」

「おっ、もうそんな時間か。長かったような短かったような……」


 僕は右手の指を動かして大会専用システムを表示する。
 ……確かに、代わり映えしなかったデータが、獲得フラッグ52、獲得ポイント52、総合ポイント52と数字を変化させていた。

 でも、このポイントだと全体で何位くらいなんだろうな?
 最小規模ギルドにしてはかなり頑張ってる方だと思うのだが……生憎と、総合ポイントランキングを確認できるタブはないようだ。

 と、その時、見張り台の上で、何かが連続で光った。


「ミアとアリアさんが戻って来たみたいだな。ミレア、そろそろいい時間だし、先に昼休憩に入ってくれ。冷蔵庫にそうめんがあるから」


 僕とミレアは同時にログアウトできない。
 ならば、先にミレアを行かせるべきだろう。


「はーい。あ、でも、私が先でいいの? アスト兄だってお腹すいてるでしょ?」

「お前が責任をもって、洗い物と夕飯の支度をしてくれるというなら、僕が先でも――」

「行ってきまーす!」


 ミレアが僕の言葉を遮り、ただちにログアウトした。
 予想を裏切らない奴め。

 程なくして、シエラとレインもログインしてきた。
 見張り台のベンチに腰を下ろし、先に来ていた二人も合わせて、僕が経験した空き陣地争奪戦について話していく。
 

「大富豪、ね……」

「とても複雑なルールですね……お疲れ様でした、アストさん」

「ありがとう、レイン」


 可愛い恋人に労われれば、頭を酷使した疲れもふっ飛ぶというものだ。

 ……レイン? 何で顔を赤くしてるんだ?


「ねぇ、ミア。私、砂糖を吐きそうなんだけど……」

「うぃ。私も同感」


 内容は聞こえないが、シエラとミアがヒソヒソと言葉を交わしている。

 そんな顔してどうした?
 砂糖とゴーヤを同時に食べたみたいな顔をして。


「アスト。レインとの仲が順調なのは喜ばしいのだけど、人前で堂々と……そういう行動に出るのは、どうかと思うわよ」

「えっ?」


 そう言ってこめかみを押さえるアリアさん。体面に座る彼女の視線の先にあるのは、僕の右手。レインの左手に重ね合わされている。

 …………。


「うわわっ!? ごめんっ、レイン!!」

「あ……い、いえっ」


 慌てて手をどけた。
 完全に無意識だった……。

 自分のやらかした恥ずかしい行動をしっかり認識し、体がカッと熱くなった。
 
 
 ○○○


 あの後、ミレアとバトンタッチしてログアウトした。

 食後の後片付けと夕食の支度をして再びFSOへログイン。
 嬉しいことに、レインが出迎えてくれた。


「おかえりなさい、アストさん」

「ただいま、レイン」


 新婚夫婦のようなやりとりを交わし、一時の幸せな気分に浸る。エプロンがあったなら……いや、妄想はやめておこう。
 
 今度、現実世界で頼んでみようかな……。

 二人で見張り台まで歩き、残りの面子も交えて作戦会議を行う。
 場所は、いつの間にかできていた木製テーブルで。

 順調に進んでいた会議はしかし、終盤にて中断されることになった。


 ――ファンファンファンファンファン!!


「えっ、何っ、この音!?」

「落ち着きなさい、シエラ。アストが手に入れたサブ拠点に侵入者が近づいているのよ。ミレア……は無理だから、アストが迎撃をお願い」

「了解です。ついでに、近くにある敵陣地を攻めてきますね」

「あっ、待ってアスト! 私も行くっ!」


 僕とシエラは立ち上がり、アリアさんが見張り台に設置した白い転移ゲートに飛び込む。

 体が浮くような感覚が終わりウィーンフライト東部の拠点に到着。ウェザリアとは異なる構造をした洋風城に降り立つ。広さは大学の講堂くらい。どうやら、城にある訓練場のようだ。


「到着……っと、これが守るべき像か……」


 僕たちの目の前、訓練場の中心には二メートル近い石像が佇んでいた。
 サブ拠点に開く転移ゲートは、この石像の前で固定らしい。


「えっ、何でクマの形してるの、これ」

「さぁ? 大した理由なんてないんじゃないか? 運営の趣味とか」


 二本足で立ち上がり、雄々しく吠える姿を象ったクマ石像。
 目は赤く輝き、開け広げられた口からは牙が顔を覗かせる。まるで、人を襲う直前みたいな体勢だ。

 ……これをデザインした人、いいセンスしてるなぁ。

 気を取り直して――ここ、第二拠点周辺のマップを開く。


「近づく敵プレイヤーは……二十七人か。シエラ一人でもいけるよな?」

「そんな軽い調子で言われても無理だけど!?」

「お前には期待している。散々目をかけてやったんだ。期待を裏切るなよ?」

「重く言えばいいってものじゃないよっ! 無理なものは無理っ!」
 

 はぁ……。
 仮にも、二万人が参加した個人戦予選を勝ち抜いて、ベスト三十二に入ったというのに。もう少し自信を持ってもいいんじゃないか?
 個人戦で僕にダメージを与えたのは、お前とサクラ、ミレアの三人だけなんだぞ。

 僕は、傍にあるクマ像をコツコツ叩きながら、言う。


「なにも、一度に敵全員と戦え、と言ってるわけじゃない。僕はコイツの守りに専念するから、自分なりに工夫して戦ってみるいい」

「う……分かった。頑張ってみる。でも、危なくなったら助けてよ?」

「考えておく」

「そこは助けると断言してほしいかなぁ!?」


 そうこうしているうちに、角を曲がってきた数人の敵が、訓練場の入り口前に現れた。ギルドマークこそばらばらだが、全員『ウィーンフライト連合』の所属だろう。


「四人かぁ……レベルは私より低いけど、勝てるかなぁ……」


 不安げに呟くシエラの声が、僕の耳に届く。

 敵はやはり、手分けして像を探す手段できた。

 ギルド《ウェザリア》の人数からして、僕とミレアのうち片方が、サブ拠点の防衛に回ると考えるのが普通だ。であるならば、僕は像を守るために像の傍から離れられないし、少数で行動しても途中で見つかって撃破される危険は少ない。
 捜索時間を短縮しようと数人ごとのグループに分かれるのは、ごく自然な思考回路である。

 ……シエラの戦闘力を考慮しなければ、だが。


「あったぞ! あれを破壊すれば拠点を奪取でき……なぁ、なんでクマなんだ?」

「どうでもいいだろ、そんなこと! それより、【瞬刻の戦神】に近づいたらヤバい。距離をとったまま像を攻撃しろ!」

「【無冠の戦姫】は俺が抑えておく! なるべく早く頼むぞ!」


 早い話が、ウチのシエラを舐めすぎなのだ。

 確かに、同レベル帯のプレイヤー相手なら、四人組でかかればまず負けない。


「待って、あれでも一応二つ名持ちなんだから、私も一緒に――えっ」


 敵が会話している数秒で、シエラが十メートルの距離を詰めた。

 紅一点の魔法士は状況を理解できず、突如目と鼻の先に現れたシエラに驚愕。呆然としたまま一歩も動けない。

 いつになく真剣な目をして構えを取ったシエラは、小さく息を吐き――。


「ふぅ……『パワーインパクト』っ!」

「っ、うぐっ……!」


 無駄のない軌道を描く拳が、女性の腹部へ炸裂し、「ドンッ!」と鈍い音が響く。

 鳩尾を思いっきり殴られた女性魔法士は、呼吸困難に陥り地面に蹲る。かなり辛そうにしていて、一分くらいは復帰できないだろうと思われる。


「てめぇっ……! おいっ、コイツからやっちまえ! 三人がかりなら――」

「『オラクレア・ペンタグラム』!」


 リーダー格の男には最後まで言えなかった。
 シエラがアイテムボックスから出した剣で、その喉元を斬り裂かれたのだ。

 シエラは残りの二人を【中級剣術】Lv20アーツ『スラッシュショット』で牽制しつつ、HPの減ったリーダーに駆け寄って剣アーツの応酬を食らわせた。

 リーダーが転送され一対二までもっていければ、あとは難しくない。
 剣と拳による多彩なコンビネーションが、連合の二人を圧倒。ほんの十数秒でHPを消滅させ、蹲ったままの魔法士にも止めを刺した。




―――――――――――――――――――――――――――――――
『ギルド対抗「攻城戦」開催中!』 <残り二十時間三十五分>

 ・参加ギルド 302ギルド
 ・残りギルド 266ギルド/302ギルド

 ・獲得フラッグ52 喪失フラッグ0
 ・獲得ポイント52 喪失ポイント0

 ・総合ポイント52

 ・広域マップ確認
 ・周辺マップ確認《ウェザリア》《第二拠点》
 ・空き陣地争奪戦
 ・―――――
―――――――――――――――――――――――――――――――

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