異世界転生? いいえ、チートスキルだけ貰ってVRMMOをやります!

リュース

文字の大きさ
上 下
256 / 264
4章

255 陣地と優勝ボーナス選択

しおりを挟む
 ゲートの先は、白亜の壁に囲まれた明るい個室。長らくカジノに居たからか、若干眩しく感じてしまう。
 白い部屋は数畳のスペースしかないが、不思議と窮屈な印象はない。

 中で待っていたのは、先にゲートへ入っていったシステマ。
 ただし、さっきまでのディーラー姿ではなく、神に仕える女神官のような服装だ。プラチナブロンドの髪を隠す頭装備があれば、きっと完璧だった。


「お疲れ様でした、アスト様。
 早速ですが、こちらの画面から獲得する拠点をお選びください」


 クールなキャラ作りを取っ払った、温かみのある微笑みを浮かべるシステマ。
 彼女に促され、目を凝らしてギルド戦の全体マップを見る。

 ふむふむ……グレーアウトしている点が、まだ機能している城砦。光っている点が、すでに陥落して選択可能になっている陣地だな。

 どこを選ぶべきか……ああ、ミレアに相談したい。


「……悩むようであれば、本拠と同じエリアの陣地を選ぶべきかと。陣地と陣地の線分が各境界線を跨ぐと、敵陣地支配効果などが途切れるようになっておりますので」

「えっ、本当か? だとしたら、現段階でウィーンフライトエリア以外は選べないな。ありがとう、システマ」

「どういたしまして、アスト様」


 やれやれ。危うく遠くを選ぶところだったぞ。
 システマの心遣いに感謝。

 僕は、ウィーンフライト中央から数キロ東にある、ギルド《もののけフェスティバル》の拠点だった陣地を選んだ。
 陣地間においては転移が可能なようだし、ここの近くには敵ギルドが密集している。攻撃と移動の利便性を合わせて考えれば、悪くない選択のはず。


「続きまして、優勝者にのみ贈られる特典です。こちらの中から、お好きなスキルまたはアイテムを、一つお選びください」


 ……何ですと?


「えっ、貰っていいのか?」

「はい。これは隠し報酬のようなものですので、事前の情報開示はなされませんが」


 マジですか……。
 不正してでも一位になっといて良かったぁ……!!


「なお、スキルをお選びの際は、スキルポイントとスキル枠を消費致しません。アイテムでしたら、現在開催中のギルド戦へ持ち込み可能となっております」

「至れり尽くせりだな。ま、貰えるものは貰っておこう」

 どれどれ……?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ランダムバトルマッチ・優勝報酬一覧』

《スキル》
 【陽剣術】【陽魔法】【修復】【広域化】【迅雷】
 【月槍術】【月魔法】【交渉】【狭域化】【怒涛】

《アイテム》
 【暗紫の雷剣】【氷輪の霊槍】【岩隠の大盾】【白光の穿弓】
 【震駆の風脚】【日輪の法衣】【破邪の指輪】【水姫の加護】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 え、選べねぇ……。
 どれもこれも、見るからに強力そうな名称だ……。

 試しに【修復】をタップしてみたが画面に変化はない。
 どうやら、詳しい説明は見ることができないらしい。

 ……ネタスキルが混ざってたりしないよな?

 お客様の中に地雷をお持ちの方はいらっしゃいませんか!? と問いたい。もし危ないスキルがあるなら、笑顔で却下するから。
 いや、空飛ぶ飛行機に地雷があったら笑いごとじゃ済まないけども。

 アイテムは盾と弓以外が魅力的だし、スキルに至っては全部欲しい有様だ。
 とてもとても、一つには絞り切れない。


「スキルを貰った場合、すぐに覚えなくちゃいけないか?」

「いいえ。スキルの書を渡しますので、必ずしも習得する必要はありません」

「アイテムに所有者固定の設定は?」

「ございません。他者に譲渡することも可能です」


 なるほど。システマの回答を聞く限り、ゲット即死亡、という悲惨な展開にはならなそうだ。ハズレのあるなしまでは分からないままだがな!


「……ランダム決定にしますか?」 


 僕がうんうん唸っていると、見かねたシステマがそんな提案を口にした。
 いっそのこと運を天に任せるのもありなのではないかと思い、盾と弓以外の十六個からルーレットで決めることになった。

 十八に色分け&等分された板が出現。
 すべての欄にスキルとアイテムの名称が刻まれていて……ん? なんで十八個? 僕が指定したのは十六個なのに……。
 よくよくルーレットを眺めると、中に二つだけ『金のたわし』と書かれた欄が……おいいいいいいっ!? なんでこんな余計なもんが入ってんの!?


「ルーレット、スタートです!」

「ちょっ、待っ――」


 ほんの一瞬、僕の制止が間に合わなかった。
 カタカタと音を鳴らし、無情にも回転を始めるルーレット。

 ……やっちまった。

 いや、待て。
 まだ『金のたわし』になると決まったわけではない!
 自らの運を信じるんだ!


「あ……申し訳ありません。ですが、心配はありません。数合わせに載せているだけで、たわしに当たる確率は0.01%に満ちません。枠も凄く細いですし……」

「何故にフラグを立てるシステマァアアアアアッ!」

「えっ?」


 ポカンとした顔すんな!
 お前、実は僕のことが嫌いなの!?
 お気に入りのプレイヤーじゃなかったの!?

 上に付いている赤矢印がルーレットに擦れ、徐々に回転速度が落ちてくる。
 頼むからたわしは勘弁してくれぇ……!!

 やがてルーレットが動きを止め、赤矢印が一つの枠を指し示した。



 ○○○



 僕は黒のゲートを潜り抜け、ウェザリアの拠点に帰ってきた。
 開始時にゲートが開いた場所とは違い、城の正門前に立っている。

 メニューの時計を確認……大会システムの概要通り、十分しか経過していない。


「あ、おかえりアスト兄っ! よっ……と。首尾はどうだった?」


 見張りをしていたミレアが転移光に気づき、城から飛び降りて出迎えてくれた。残りの四人の姿が見えないが、ログアウト中だろうか。


「ただいま、ミレア。勝ち抜き大富豪をやらされたのは大変だったが、なんとか空き陣地は確保してきたぞ。場所はウィーンフライト東部。システムから確認するといい」

「やったー♪ さすがはアスト兄っ。愛してるっ!!」

「おう。でも、くっつきすぎだから、ちょっと離れような」


 感極まって抱きついてきたミレアを、やんわりと拒む。
 僕は恋人が居る身なのだし、できれば女性と抱き合うのは避けたい。

 
「あ……ごめん、アスト兄……」


 さーっと顔を青ざめさせたミレアが、慌てて数歩分距離をとった。

 ……今のが、家族愛からの抱擁だというのは、ちゃんと分かっている。
 少なくとも、色恋にまつわるドロドロした感情は存在していなかった。

 でも、区切りはつけなくてはいけない。レインが許してくれるからといって、いつまでもなあなあで済ませていいことではないのだ。
 

「つい、いつもの調子で……ごめんなさい」

「謝らなくていい。今までの癖を急に直すのは大変だし、少しずつ、な?」

「うん……」


 ついさっきまでの様子と打って変わり、酷く消沈した様子のミレア。

 ……胸が苦しい。

 彼女は僕に迷惑をかけないよう、精一杯気を遣ってくれている。それは、朝からずっと自らの肌で感じ取っていた。さっきのは、本当にちょっとした気の緩みからの失敗だったのだろう。

 ミレアは今、これでもかというくらいに自分を責め、申し訳なさに打ちひしがれているというのに、かけるべき言葉が一つとして浮かんでこない。


「……と、ところでっ、ずっと気になってたんだけどっ――」


 花が咲いたように笑うミレアが、やや強引に話を変えようとする。
 無理をしているのは分かるが、ここは乗らねばならない。普段通りに楽しく会話していれば、心の痛みを忘れることができる。

 悲しむよりも楽しむべし。
 それが僕たち兄弟の生き方なのだ。


「どうしたミレア。何か気になることでもあったか?」

「うん。その右手に持ってる金ぴかの……たわし? どうしたのかなーって」 

「これか? これは粗品みたいなものだ。欲しいならやるぞ?」

「えー? 使い道ないし、さすがにたわしはいらないかなぁ……」


 だよなぁ……。
 
 僕は密かに決心した。
 もう二度と、ルーレットなんて回さない、と。




―――――――――――――――――――――――――――――――
『ギルド対抗「攻城戦」開催中!』 <残り二十時間五十分>

 ・参加ギルド 302ギルド
 ・残りギルド 268ギルド/302ギルド

 ・獲得フラッグ0 喪失フラッグ0
 ・獲得ポイント0 喪失ポイント0

 ・総合ポイント0

 ・広域マップ確認
 ・周辺マップ確認《ウェザリア》
 ・空き陣地争奪戦
 ・―――――
―――――――――――――――――――――――――――――――

しおりを挟む
感想 715

あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

処理中です...