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4章
251 一回戦決着
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僕の降参宣言に静かに頷くシステマ。
「承知しました。第二ゲームにおいて、アスト様の棄権を認めます」
三人のプレイヤーが唖然とした表情でこちらを向く。HPの減少を軽く捉えているのだろう。確かに、手早くカードを出せば済む問題ではある。
赤髪男なんて馬鹿を見るような目で、僕への嘲りを隠せていない。
金髪女性だけは、我関せずといった風にカードを並べ替えている。
「ふぅ……あ、消費するのはMP半分で頼む」
「かしこまりました」
僕のMPバーがグググっと減って半分になった。
APは加速のアーツで使うし、できることなら減らしたくない。
「それでは、カードの交換を行います……第二ゲーム、始めてください」
僕も青髪さんにカードを二枚渡して、ゲームが開始された。
棄権に躊躇がなかったと言えば嘘になる。
勝ち抜けに必要なポイントを捨てるに等しいのだから、最後まで迷ったさ。
でも、交換前の手札に3・A・2・ジョーカーがなく、ペアも一つだけ。
これでは、一着を逃して都落ちになるリスクが高すぎる。
大貧民になってしまえば這い上がるのは困難だし、ポイントを諦めてでも次に平民でスタートできる方がいいと考えたのだ。
HPの減り具合的に、どこかで一度棄権せねばならないのは確実。ならば大富豪かつ手札が悪い状況で降りるのがいい……はず。
だが絶対ではない。手札交換でいいカードが来る可能性はあったのだし。
僕抜きで進むゲームを眺めつつ、開始前に考えかけたことへ思考を巡らせる。
全五ゲームで、大富豪が2ポイント、富豪が1ポイント。最終的な五人の総獲得ポイントは15となる。
先へ進めるのが二人なら、6ポイントで勝ち抜け確定で、5ポイントであれば三人が同率一位以外のパターンで勝ち抜けが決まる。
現在僕のポイントは2だから、残りの三戦で3ないし4を取れればベスト。
第二ゲームの結果次第だが、もう一度大富豪になっただけで勝てる可能性もある。
数分後、各自HPを減らしながらも第二ゲームが決着。
一抜けは、一ゲーム目で富豪だった金髪の女性。順当なところだな。
……って、この金髪の女性どこかで見た顔だと思ったら、やっぱり知ってる人だ。
ギルド《桜花絢爛》所属、【雷の先導者】ルノアじゃないか!
初っ端から副長を投入とか、度胸あるなぁ……。
あ、残りの順位は、二着・赤髪男、三着・巨漢、四着・青髪さん。
ま、大体予想通りだな。
第三ゲームは、僕が平民に入るから……
大富豪・ルノア
富豪・赤髪
平民・僕
貧民・巨漢
大貧民・青髪さん
……となる。
そして、僕の予想が正しければ――。
「ん……。棄権、する」
カードが配られたのち、ルノアがゲームを降りると宣言した。
メンバーは違えども、第二ゲームに続いて四人での戦いになったわけだ。
棄権のしどころは難しい。
都落ちして大貧民になってからというのも、一度に平民へ上がれるので一つの手ではあるのだが……。
ルノアもしばし思い悩む様子があった。
僕の場合、第四・第五ゲームは是が非でも参加したかったし、第三ゲームでの棄権は、同じことを考えたルノアと先着一名の枠を争う恐れがあった。
また、彼女は第一ゲームで富豪になった。
都落ちの危険はなく、降参する可能性は低い。
僕が安全にゲームを降りられるのは、終わったばかりの第二ゲームだけなのだ。
「カードの交換は完了しましたね? 第三ゲーム、始めてください」
さて……第三ゲームに意識を集中しよう。
僕の手札は……うわっ、前回とは逆の意味で凄かった。
『♡3・♧3・♤4・♧9・♤Q・♢K・♤2・♡2・♢2 ジョーカー』
この十枚で負けたら恥ずかしいってレベルじゃないかもしれない。
青髪さんの親番から、反時計回りでゲームスタート。
当然と言うべきか、僕は早い段階で一抜けして2ポイント獲得した。
僕の手持ちが良かったのもあるが、三人ともHPの減りが気になりだして焦ったのか、札を切る際の失策が多かった気がする。
彼らの残りHPは、一割前後といったところか。
現在までの総得点は、
僕が4ポイントで一位。
ルノアが3ポイントで二位。
今のゲームで富豪になった青髪さんと、赤髪男が1ポイントで同率三位。
……勝ち抜けがぐっと近づいた。HP残量も考慮すれば、ほぼ確定的、か?
続く第四ゲームでは、ある意味予想通りの展開が起こった。
ゲーム開始前、赤髪男と巨漢が、一つしかない棄権枠を巡って争ったのだ。
どちらも第五ゲームを待たずに擦り切れてしまいそうなHPだし、ギルド戦からの脱落が嫌なら、当然のように勝負を降りようとするだろう。
そう、このゲーム……途中でリタイアすることができないのだ。
恐らくはそういう仕様なのだろうけど、ルールブックのどこにもリタイアの方法について載っていなかった。
そして、リタイアができないのなら、勝ち抜くかHP全損しか道がない。
当然、僕はこの仕様に気づいていたし、多分ルノアも察していたと思う。
だからこそ、争わずに済む早い段階で、棄権を選択してHPを温存したのだし。
ゲームに勝ちたいからと長考すると、脱落のピンチに陥る……酷い罠だ。
結局、システマの仲裁でじゃんけんが行われ、巨漢が棄権の権利をもぎ取った。
そんな喧嘩せずとも、早いか遅いかだけの違いだと思うがね。
――第四ゲーム――
ルノアが一着。青髪さんが二着。僕は都落ち。
大貧民になったのは残念だが、想定の範囲内だ。
なお、赤髪男はゲームの途中でHPがなくなって退場した。
碌に考えもせずカードを出していたのだが、それでも間に合わなかった。
急に頑張っても無理なものは無理。
こういうのはコツコツ努力し積み重ねるのが大切なのだ。
順位
一位 ルノア 5ポイント
二位 僕 4ポイント
三位 青髪さん 2ポイント
勝負あり。
青髪さんのHPバーは第五ゲームで持たないし、棄権するしかない。
巨漢は一抜けしても僕とルノアのポイントに届かない。
――第五ゲーム(消化試合)――
ルノアがじゃんけんで勝利し、棄権。
青髪さんと巨漢は絶望的な表情に。
ゲーム中に二人のHPがなくなり、自動的に僕が一着。ルノアが二着。
終了前に三人が消えるという、何とも言い難い悲惨な結末になってしまった。
「第二十七番テーブル、ゲームセット。
ルノア様とアスト様が、6ポイントで同率一位です。
お疲れ様でした。そして、勝ち抜けおめでとうございます。
全テーブルのゲームが終了するまで、ごゆるりとお寛ぎください」
「これで一回戦か……長かった」
僕は椅子から立ち上がって伸びをし、精神と肉体の疲労をほぐしにかかる。
参加人数が272人だから……5人と6人のテーブルに分けて五十組。
上位二人が勝ち抜けだから、二回戦は百人まで絞られたことになる。
二回戦に勝つと40人に、三回戦に勝つと16人に。
四回戦は4×4にして一位だけ勝ち抜け。
残った4人で決勝戦。
「――みたいな感じだと考えたんだが、当たってるか?」
「相違ありません。アスト様が仰る通りのスケジュールです」
「動かない表情と抑揚の小さい喋り方は、雰囲気を壊さないためのキャラ作りなのか?」
「……妙なことに興味を持ちますね。回答は……Yes」
おお、やっぱりそうだったのか。
まだ確信までは持ててなかったんだよなぁ……。
ひょっとしたら別人なのかと思うくらいに演技が上手かったから。
「普段の柔らかい表情と明るい声もいいけど、クールなのも似合ってるぞ」
「……ありがとうございます。ですが、褒めただけでは、買収には応じませんよ? 付け加えるならば、買収に失敗すれば不正扱いで失格となります」
「そんなつもりで言ったんじゃなかったんだが……まあいいか」
妙な誤解をされてしまったが、取り立てて騒ぐ話でもない。
収穫もあったことだし、肩を竦めて話を打ち切る。
そのタイミングを見計らったかのように、隣に座るルノアが話しかけてきた。
「フレンド、登録……」
大会で見た時と同様、ルノアは表情変化が薄い。
でも、フレンド登録したいという思いは伝わってきた。
「あいよ。ギルドマスターのサクラにも、よろしく言っといてくれると嬉しい」
「ん、承知した……」
「時間になりました。次の会場へのゲートを開きます」
僕たちの会話が終わるのを見計らったように、システマがパチンと指を鳴らす。
するとすぐに、彼女の背後で二つの紫門が出現した。
僕とルノアはテーブル横を通り、二つの門の前に立つ。
「ルノア様は右のゲートへ、アスト様は左のゲートへお入りください。二回戦は十分後の開始となっております」
「了解。……それじゃあ、また」
「また、ね……」
互いの健闘を祈った僕たちは、左右に分かれてゲートに入ったのだった。
「承知しました。第二ゲームにおいて、アスト様の棄権を認めます」
三人のプレイヤーが唖然とした表情でこちらを向く。HPの減少を軽く捉えているのだろう。確かに、手早くカードを出せば済む問題ではある。
赤髪男なんて馬鹿を見るような目で、僕への嘲りを隠せていない。
金髪女性だけは、我関せずといった風にカードを並べ替えている。
「ふぅ……あ、消費するのはMP半分で頼む」
「かしこまりました」
僕のMPバーがグググっと減って半分になった。
APは加速のアーツで使うし、できることなら減らしたくない。
「それでは、カードの交換を行います……第二ゲーム、始めてください」
僕も青髪さんにカードを二枚渡して、ゲームが開始された。
棄権に躊躇がなかったと言えば嘘になる。
勝ち抜けに必要なポイントを捨てるに等しいのだから、最後まで迷ったさ。
でも、交換前の手札に3・A・2・ジョーカーがなく、ペアも一つだけ。
これでは、一着を逃して都落ちになるリスクが高すぎる。
大貧民になってしまえば這い上がるのは困難だし、ポイントを諦めてでも次に平民でスタートできる方がいいと考えたのだ。
HPの減り具合的に、どこかで一度棄権せねばならないのは確実。ならば大富豪かつ手札が悪い状況で降りるのがいい……はず。
だが絶対ではない。手札交換でいいカードが来る可能性はあったのだし。
僕抜きで進むゲームを眺めつつ、開始前に考えかけたことへ思考を巡らせる。
全五ゲームで、大富豪が2ポイント、富豪が1ポイント。最終的な五人の総獲得ポイントは15となる。
先へ進めるのが二人なら、6ポイントで勝ち抜け確定で、5ポイントであれば三人が同率一位以外のパターンで勝ち抜けが決まる。
現在僕のポイントは2だから、残りの三戦で3ないし4を取れればベスト。
第二ゲームの結果次第だが、もう一度大富豪になっただけで勝てる可能性もある。
数分後、各自HPを減らしながらも第二ゲームが決着。
一抜けは、一ゲーム目で富豪だった金髪の女性。順当なところだな。
……って、この金髪の女性どこかで見た顔だと思ったら、やっぱり知ってる人だ。
ギルド《桜花絢爛》所属、【雷の先導者】ルノアじゃないか!
初っ端から副長を投入とか、度胸あるなぁ……。
あ、残りの順位は、二着・赤髪男、三着・巨漢、四着・青髪さん。
ま、大体予想通りだな。
第三ゲームは、僕が平民に入るから……
大富豪・ルノア
富豪・赤髪
平民・僕
貧民・巨漢
大貧民・青髪さん
……となる。
そして、僕の予想が正しければ――。
「ん……。棄権、する」
カードが配られたのち、ルノアがゲームを降りると宣言した。
メンバーは違えども、第二ゲームに続いて四人での戦いになったわけだ。
棄権のしどころは難しい。
都落ちして大貧民になってからというのも、一度に平民へ上がれるので一つの手ではあるのだが……。
ルノアもしばし思い悩む様子があった。
僕の場合、第四・第五ゲームは是が非でも参加したかったし、第三ゲームでの棄権は、同じことを考えたルノアと先着一名の枠を争う恐れがあった。
また、彼女は第一ゲームで富豪になった。
都落ちの危険はなく、降参する可能性は低い。
僕が安全にゲームを降りられるのは、終わったばかりの第二ゲームだけなのだ。
「カードの交換は完了しましたね? 第三ゲーム、始めてください」
さて……第三ゲームに意識を集中しよう。
僕の手札は……うわっ、前回とは逆の意味で凄かった。
『♡3・♧3・♤4・♧9・♤Q・♢K・♤2・♡2・♢2 ジョーカー』
この十枚で負けたら恥ずかしいってレベルじゃないかもしれない。
青髪さんの親番から、反時計回りでゲームスタート。
当然と言うべきか、僕は早い段階で一抜けして2ポイント獲得した。
僕の手持ちが良かったのもあるが、三人ともHPの減りが気になりだして焦ったのか、札を切る際の失策が多かった気がする。
彼らの残りHPは、一割前後といったところか。
現在までの総得点は、
僕が4ポイントで一位。
ルノアが3ポイントで二位。
今のゲームで富豪になった青髪さんと、赤髪男が1ポイントで同率三位。
……勝ち抜けがぐっと近づいた。HP残量も考慮すれば、ほぼ確定的、か?
続く第四ゲームでは、ある意味予想通りの展開が起こった。
ゲーム開始前、赤髪男と巨漢が、一つしかない棄権枠を巡って争ったのだ。
どちらも第五ゲームを待たずに擦り切れてしまいそうなHPだし、ギルド戦からの脱落が嫌なら、当然のように勝負を降りようとするだろう。
そう、このゲーム……途中でリタイアすることができないのだ。
恐らくはそういう仕様なのだろうけど、ルールブックのどこにもリタイアの方法について載っていなかった。
そして、リタイアができないのなら、勝ち抜くかHP全損しか道がない。
当然、僕はこの仕様に気づいていたし、多分ルノアも察していたと思う。
だからこそ、争わずに済む早い段階で、棄権を選択してHPを温存したのだし。
ゲームに勝ちたいからと長考すると、脱落のピンチに陥る……酷い罠だ。
結局、システマの仲裁でじゃんけんが行われ、巨漢が棄権の権利をもぎ取った。
そんな喧嘩せずとも、早いか遅いかだけの違いだと思うがね。
――第四ゲーム――
ルノアが一着。青髪さんが二着。僕は都落ち。
大貧民になったのは残念だが、想定の範囲内だ。
なお、赤髪男はゲームの途中でHPがなくなって退場した。
碌に考えもせずカードを出していたのだが、それでも間に合わなかった。
急に頑張っても無理なものは無理。
こういうのはコツコツ努力し積み重ねるのが大切なのだ。
順位
一位 ルノア 5ポイント
二位 僕 4ポイント
三位 青髪さん 2ポイント
勝負あり。
青髪さんのHPバーは第五ゲームで持たないし、棄権するしかない。
巨漢は一抜けしても僕とルノアのポイントに届かない。
――第五ゲーム(消化試合)――
ルノアがじゃんけんで勝利し、棄権。
青髪さんと巨漢は絶望的な表情に。
ゲーム中に二人のHPがなくなり、自動的に僕が一着。ルノアが二着。
終了前に三人が消えるという、何とも言い難い悲惨な結末になってしまった。
「第二十七番テーブル、ゲームセット。
ルノア様とアスト様が、6ポイントで同率一位です。
お疲れ様でした。そして、勝ち抜けおめでとうございます。
全テーブルのゲームが終了するまで、ごゆるりとお寛ぎください」
「これで一回戦か……長かった」
僕は椅子から立ち上がって伸びをし、精神と肉体の疲労をほぐしにかかる。
参加人数が272人だから……5人と6人のテーブルに分けて五十組。
上位二人が勝ち抜けだから、二回戦は百人まで絞られたことになる。
二回戦に勝つと40人に、三回戦に勝つと16人に。
四回戦は4×4にして一位だけ勝ち抜け。
残った4人で決勝戦。
「――みたいな感じだと考えたんだが、当たってるか?」
「相違ありません。アスト様が仰る通りのスケジュールです」
「動かない表情と抑揚の小さい喋り方は、雰囲気を壊さないためのキャラ作りなのか?」
「……妙なことに興味を持ちますね。回答は……Yes」
おお、やっぱりそうだったのか。
まだ確信までは持ててなかったんだよなぁ……。
ひょっとしたら別人なのかと思うくらいに演技が上手かったから。
「普段の柔らかい表情と明るい声もいいけど、クールなのも似合ってるぞ」
「……ありがとうございます。ですが、褒めただけでは、買収には応じませんよ? 付け加えるならば、買収に失敗すれば不正扱いで失格となります」
「そんなつもりで言ったんじゃなかったんだが……まあいいか」
妙な誤解をされてしまったが、取り立てて騒ぐ話でもない。
収穫もあったことだし、肩を竦めて話を打ち切る。
そのタイミングを見計らったかのように、隣に座るルノアが話しかけてきた。
「フレンド、登録……」
大会で見た時と同様、ルノアは表情変化が薄い。
でも、フレンド登録したいという思いは伝わってきた。
「あいよ。ギルドマスターのサクラにも、よろしく言っといてくれると嬉しい」
「ん、承知した……」
「時間になりました。次の会場へのゲートを開きます」
僕たちの会話が終わるのを見計らったように、システマがパチンと指を鳴らす。
するとすぐに、彼女の背後で二つの紫門が出現した。
僕とルノアはテーブル横を通り、二つの門の前に立つ。
「ルノア様は右のゲートへ、アスト様は左のゲートへお入りください。二回戦は十分後の開始となっております」
「了解。……それじゃあ、また」
「また、ね……」
互いの健闘を祈った僕たちは、左右に分かれてゲートに入ったのだった。
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