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4章

249 空き陣地争奪戦?

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 自慢げなミレアからフラッグの獲得方法を聞き出した。
 すると、目から鱗が落ちる驚きの内容だった。

 なにせ、フラッグが集まっている拠点を狙う、というだけの話なのだ。

 敵陣から一本ずつ、ちまちまと奪ってくるのではなく、大規模ギルドが近くの中小規模ギルドから集めたフラッグを、ポイントに変換される前に纏めて奪えばいい。

 実に見事な作戦だ。まさしく強奪。


「……それで? お前はこの大量の赤旗を、どのギルドから盗んできたんだ?」

「盗んだなんて人聞きが悪い。仕返しも兼ねて、ちゃんと《龍の咆哮》から取ってきたよっ」


 あ、頭が痛くなってきた……。
 まさか、一、二を争うほどめんどくさい相手に喧嘩を売るとは……。

 これ、絶対後で報復に来るよな……?

 リュウガの怒り狂う顔が脳裏に過ったので、個人戦よろしく殴り飛ばしておいた。


「はぁ……大量得点は喜ばしいことなのに、どうしてこんなに、頭が痛いのかしら」


 アリアさんがこめかみに手を当てて頬を引き攣らせている。

 全くもって同意見です。
 ホント、ウチの妹がすみません。

 いや、ポイント自体は嬉しいし、頑張ったミレアのことはちゃんと称賛するよ?
 でも、後の苦労を考えると……素直には褒められないのだ。

 それと、報告・連絡・相談くらいはしてほしかった。


「ミレア。今日のお前の夕食は、生のままのほうれん草&ゴーヤだ」

「!?」


 とにもかくにも、今から三十分……厳密には二十五分ちょっと守り抜けば、手元にあるフラッグが52ポイントに化けるわけだ。

 ちなみに、彼女たちは『ウィーンフライト連合』からもきっちり旗を奪ってきている。
 というか、レインとミア、シエラの三人は、イウェスティアの町まで赴いていない。《龍の咆哮》を襲撃したのはミレア一人だけだ。風魔法で加速できるからって、随分と足が速い。

 そも、ミレアの計算が完璧すぎるんだよな。

 敵城の構造および配置、要する戦力からの行動予測。
 敵の行動予測を前提に、どのタイミングでどこに旗が集まるかを推測し、ありうべき膨大なパターンのすべてを把握。
 自らの移動速度や追撃の可能性、ボスの性格なども勘案し、それらのパターン中から低リスクとなる襲撃先を選択する。

 ……やっぱり、僕の妹は尋常でなく頭がいい。

 ……昼食のゴーヤを減らしてやろうかね。


『――競技開始から二時間五十五分が経過。こちら、司会進行役のシステマです!』


 空からシステマの張り気味な声が響いてきた。
 運営アバターの姿は見えないが、どこかしらの空に居るのは間違いない。

 だが、なぜこのタイミングで?
 開始から二時間五十五分って、やけに中途半端な時間帯だよな?


『五分後、現実時間十三時より、空き陣地争奪ランダムバトルを執り行います!
 詳細につきましては、大会専用システムに追加された新項目をご覧ください!』


 さあ昼食をいただこう、というタイミングで、これか。


―――――――――――――――――――――――――――――――
『ギルド対抗「攻城戦」開催中!』 <残り二十一時間四分>

 ・参加ギルド 302ギルド
 ・残りギルド 270ギルド/302ギルド

 ・獲得フラッグ0 喪失フラッグ0
 ・獲得ポイント0 喪失ポイント0

 ・総合ポイント0

 ・広域マップ確認
 ・周辺マップ確認《ウェザリア》
 ・空き陣地争奪戦 ←New! 
 ・―――――
―――――――――――――――――――――――――――――――


 システムメニューを開いてみると、『――』になっていた位置に文字が書きこまれていた。指でタップして概要を表示する。


『空き陣地争奪ランダムバトルマッチ 十ヶ条』

 ・ギルドの脱落により空いた陣地を奪い合うゲームを行う
 ・ゲームの勝者には空き陣地の獲得権利が発生する(選択順はゲーム順位に依存)
 ・ゲーム内容については、参加してのお楽しみ(開催タイミングは五分前に告知)
 ・ゲーム会場は時間の加速なされ、ゲーム後に外へ出ると十分が経過している
 ・ゲーム内でHPがゼロになると、ギルド戦から脱落(ギルドマスターを除く)
 ・空き陣地を所持すると、陣地一つにつき三十分ごとに1ポイント獲得できる
 ・獲得した空き陣地は、本拠の城砦と同じく青で表示される
 ・青陣地を頂点とした線分および図形上は、本拠内と同じく回復速度が上昇する
 ・青線分・図形上の敵対ギルドはフラッグ獲得によるポイント加算が行われない
 ・獲得された空き陣地は、陣地内に設置された像を破壊することで奪取可能


 ……ややこしいルールだが、概ね理解できた。

 現在、僕たちが居る本拠の城砦⇒A
 自分たちが獲得して、青く表示された空き陣地⇒B~D
 敵対ギルドの本拠となる城砦⇒Z

 このように仮定すると、
 以下の状況下でZのギルドはフラッグポイントが獲得できなくなる。


 A――Z――B


 A―――――B
 |   Z |
 | Z   |
 |   Z |
 C―――――D


 頭を悩ませるシエラへの説明用に描いた図だが、中々いい出来だと自負している。


「あと二分でゲームが始まるみたいなんだが……どうする?」


 見張り台の近くに出現した、緑の光が吹き上がる転移ゲートを指して尋ねた。

 まさか全員で参加するわけにもいくまい。
 ゲーム中も外の攻防(フラッグの奪い合い)は続くのだし、HPがゼロになればギルド戦から脱落となってしまうのだ。
 

「ゲームをやりたい人、挙手っ!」

「「「「「……」」」」」


 ――沈黙が辺りを支配した。

 やはり、最初は誰でも二の足を踏むよな。
 ゲーム内容が分からないうえ、脱落の危険があるなんて、並の心臓では立候補できないだろう。
 
 しかし、実際にやってみなければ、危険度や難易度の情報は手に入らないし、参加したギルドに情報面で後手に回ることになってしまう。
 どうしたって、生贄の羊が必要になるのだ。

 ……仕方ない。


「誰もいないなら、僕がやろう」


 やむをえないとばかりに、僕は右手を上げた。


「……待って。アスト兄ばかりに危ない役はやらせられないよ。私がやる!」

「アストさん……。私もミレアと同じ気持ちです。自信はありませんけど、私がやります……!!」


 続けて、ミレアとレインが、僕を思いやって名乗りを上げる。


「……三人ともダメ。一番弱い私が参加すべき」

「いいえ。負けても脱落にならない人がやるべき仕事よ。私に任せて頂戴?」


 ミアとアリアさんも、意を決したように傘下の意志を告げた。


「うぅ……こうなったら、私も立候補するよ!」


 一人残されて孤立したシエラが、破れかぶれになってそう叫んだ。

 ……はっはっは。


「よし分かった。シエラがやるんだな。生贄役を押し付けてすまないな。それじゃあ行ってみようか!」

「え、ちょっ……!?」


 僕はミレアとともに、暴れるシエラを羽交い絞めにし、転移ゲートの前まで連行した。
 ミレアはノリノリだし、ほかの三人は状況の変化についていけないのかポカンとした表情だ。

 残念だったなシエラ。
 これはお約束というやつなのだよ。
 昔、両親が何気ない流れでこのネタをやり、僕もミレアもその犠牲者となったのだ。

 思い出すのはとある夏の日。
 なぜに、まだ幼かった僕が、銃を持った銀行強盗を説得せねばならなかったのか、今でも分からないままだ。

 ……僕が危なくなったら、あっという間に助けてくれたんだろうけどね。
 何だかんだで、あの時の一件はいい経験になったし、文句はない。


「――とまあ、詳細は省くが、シエラが参加しなければならないんだ。理解したか?」

「詳細を省かれたら何も理解できないけどっ!? というか、私の体勢、すっごく恥ずかしいことになってるよね!? お願いだからやめてってば! やめないとハラスメントコード使っちゃうよ!?」

「「またまた、ご冗談を」」

「今の私のセリフのどこに冗談ととられる要素があったの!?」


 さて、お遊びはここまでにしようか。
 羞恥で真っ赤になったシエラを解放し、ミレアから預かっていたものを返す。


「そんじゃ、留守番よろしく」

「うん! いってらっしゃい、アスト兄っ!」


 右手でミレアとハイタッチをかわし、参加者が締め切られる数秒前――僕はゲートへ飛び込んだ。




―――――――――――――――――――――――――――――――
『ギルド対抗「攻城戦」開催中!』 <残り二十一時間>

 ・参加ギルド 302ギルド
 ・残りギルド 270ギルド/302ギルド

 ・獲得フラッグ0 喪失フラッグ0
 ・獲得ポイント0 喪失ポイント0

 ・総合ポイント0

 ・広域マップ確認
 ・周辺マップ確認《ウェザリア》
 ・空き陣地争奪戦
 ・―――――
―――――――――――――――――――――――――――――――

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