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4章
248 新たな剣アーツの力
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アリアさんに目配せして、ジークの注意を引いてもらう。
この隙に僕は、左手を柄に添える形で剣を持ち、全身鎧のアールグランへ狙いを定める。システムウィンドウの説明を見る限り、【上級剣術】の新アーツはカウンター技のようなのだ。
僕が攻撃してこないことに焦れたのか、アールグランは大剣を上段に構え……。
「来ないのであればこちらからゆくぞ!
『グラヴァイトダウン』『インパクトスラッシュ』
『アーク・ワインド』『リターンスラッシュ』ッッ!!」
連続アーツ――!
こちらは『アクセラレーション』を発動して加速した世界へと突入。ゆっくりと振られる剣を目視しながら、敵が放ったコンボについて思考する。
【中級大剣術】Lv20アーツ『グラヴァイトダウン』は、己が持つ剣の重みを感じなくなる。
【大剣術】Lv5アーツ『インパクトスラッシュ』は、剣系武器の攻撃に衝撃を乗せる効果。
【上級大剣術】Lv1アーツ『アーク・ワインド』は、剣によるVの字斬り攻撃。
【大剣術】Lv10アーツ『リターンスラッシュ』は、一つ前の剣系アーツを、クールタイム等を無視して再現する。
これらを繋げた結果、速くて重いVの字斬り二連発が繰り出されるはずだ。
……となると、受け流しより回避を選択すべきか。
FSOにおける武器アーツの軌道は使用者次第で、ある程度の自由が利くようになっている。
ただし、それにも限界はあり、あまり本来の技からかけ離れた使い方はできない。マスター化していないスキルのアーツなら、なおさらに難しくなる。
アールグランの剣筋をじっくり観察し、一撃目の軌道から二撃目以降の限界可動域を推測。
……右に三歩と後ろに一歩移動し、剣が服に擦れるスレスレで一撃目をかわした。
ここで加速の効果が終了し、通常速度の世界へ戻る。
二発目、三発目。
敵の大剣が数ミリ届かない位置取りになるよう、右に後ろに動いて、避ける。
驚愕の表情を浮かべるアールグランの四発目。
寸でのところでかわすのは先程までと同じ。
彼から見て左側。右足をバネのように使い、回り込むようにして懐へ踏み込む。
そして――【上級剣術】Lv15アーツ『フラッシング・ハウル』を発動。
使用する直前にアーツ発動者が攻撃を受けていると、この一撃は威力が上昇する。
効果の上昇具合は、
体で受ける(1.5倍)<武器で受ける(1.7倍)<回避する(2.0倍) だ。
また、回避の仕方が間一髪であるなら、より威力が高まり(最大で4倍)。敵の攻撃が四連続技だった場合は四回ともにこれらの計算が行われ、次に自らが行う攻撃に威力が乗算され続ける。
計算式は 4×4×4×4=256
すなわち、元の攻撃と比較して約256倍の威力となるのだ。
よって――
「――『フラッシング・ハウル』ッッ!!」
「ガッ……!?」
左から右へ振り抜かれた神速の剣が、フルプレートアーマーを見事に粉砕。
アールグランの胴体をも斬り裂き、横に真っ二つにした。
当然、HPは全損。ただちにシステマによる転送が行われた。
剣速自体は他の剣系アーツを圧倒するポテンシャルがあるが、アーツ自体の攻撃力は『スラッシュ』並でしかない。
にもかかわらず、相当に酷い威力が出てしまった。
まさか、防御力極振りと名高い彼を即死させてしまうとは……。
条件が厳しいとはいえ、まさに一撃必殺だ。
《熟練度が一定に達し【疾風】スキルがLv10になりました》
《熟練度が一定に達し【超反応】スキルがLv10になりました》
《熟練度が一定に達し【閃駆】スキルがLv6になりました》
《熟練度が一定に達し【敏捷強化】スキルがLv17になりました》
《熟練度が一定に達し【闘気】スキルがLv14になりました》
《熟練度が一定に達し【拡張】スキルがLv13になりました》
さて、と……。
「……てい」
「ぐぶっ!?」
アリアさんの攻撃に集中しているジークを後ろから蹴り飛ばしてやった。竜の右腕さんは衝撃で剣を手離し無様なうつ伏せの体勢に。
「『クリティカルスナイプ』『パワーアロー』っ!」
高威力の矢が頭に突き刺さり、ジークのHPバーがゼロになった。ジークのHPはレッドゾーン間近だったし、僕が手助けせずとも勝てただろう。
地の利があるとはいえ、やっぱアリアさんも強いじゃないか。
○○○
辺りを一望できる見張り台へ戻り、木の手すりに寄り掛かりながらスケート靴の改善点について話し合った。
氷の上での機動力は問題なし。
地上での戦闘では、やや小回りに難があるので、できるのなら改良した方が良い。
もっとも、これはあまりに贅沢な要望なので、実現する可能性はほぼゼロだろう。一応言ってみただけだ。
「――ところで、アストはミレアと二人暮らしだったわよね? 昼食の準備とかは大丈夫?」
「え? ええ、まあ。朝の内にそうめんをゆがいておきましたから」
ログアウトしたのち、つゆと一緒に冷蔵庫から出すだけだ。
なお、ミレアのめんつゆにはゴーヤが投入される模様。慈悲はない。
「そういうアリアさんこそ、支度はいいんですか? 今日は平日ですし、ご結婚されているなら――」
「結婚なんて、二度としないわ」
「あ、はい」
手すりに手を置き、毅然とした口調でそう断言するアリアさん。
結婚関連で何か嫌な思い出でもあるのか、端正な顔を苦々しく歪めている。
はぁ……失敗した。
どこに地雷が埋まってるか分からんもんだな……。
……話を戻そう。
「それで、昼食の方は……?」
「朝の内にコンビニで買ってあるわ。でも、私もそうめんにしておくべきだったかしらね……」
「今日は一段と暑いですからね……」
朝のニュース曰く、今日は全国的に記録的猛暑になる恐れがあるらしい。
八月中旬とはいえ、予想最高気温が40℃とか、外に出る気にならん。
「コンビニ弁当だと喉を通らないかもしれませんね。冷房の効いた部屋で、氷を乗せてキンキンに冷えたそうめんというのも、悪くなさそうです」
「……っ。そうめんのストック、残っていたかしら……?」
そうめんを食べる様子を思い浮かべたのか、アリアさんが僅かに息を呑んだ。
栄養的にはアレだけど、ゴーヤを使えば幾分かマシになるだろう。
家が近ければおすそ分けできるんだがな……いや、ゲームの関係をリアルに持ち込むのはNGだ。きっぱり忘れておこう。
……ん? ウェザリア周辺のマップに四人分の青光点が入ってきた。
「ミレアたちが帰ってきたみたいですね」
「本当ね。もう少し遅くなると予想していたのだけど……」
それからしばらくして、HPを半減させたレインたち三人と、HPが満タンのミレアが見張り台に到着した。
「ただいまっ! フラッグを強奪してきたよ……はいっ!」
「おかえり。強奪って、もう少し言い方が……多くね!?」
「おかえりなさい、ミレア。フラッグは……あり得ないくらいに多いのだけど……!?」
僕とアリアさんは声を揃えて驚愕した。
なぜなら、ミレアの手に握られた赤いフラッグは……あまりにも多い。山のようなフラッグ、と形容してしまっても相違ないくらいに。
まだ拠点を出てから一時間かそこらなんだぜ……?
何をどうやったら、こんな膨大な数になるんだよ……。
もしかしたら幻覚を見ているのかも。
そんな淡い希望を抱きつつ、我が妹に尋ねる。
「……ミレア、このフラッグは何本くらいあるのかな?」
「五十二本だよっ!」
やはり幻覚ではなかったらしい。
明るい希望はハンマーで粉々に砕かれ、満面の笑みを浮かべるミレアの手でゴミ箱に捨てられてしまった。
なんでこうなった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
『ギルド対抗「攻城戦」開催中!』 <残り二十一時間十分>
・参加ギルド 302ギルド
・残りギルド 272ギルド/302ギルド
・獲得フラッグ0 喪失フラッグ0
・獲得ポイント0 喪失ポイント0
・総合ポイント0
・広域マップ確認
・周辺マップ確認《ウェザリア》
・―――――――
・―――――
―――――――――――――――――――――――――――――――
この隙に僕は、左手を柄に添える形で剣を持ち、全身鎧のアールグランへ狙いを定める。システムウィンドウの説明を見る限り、【上級剣術】の新アーツはカウンター技のようなのだ。
僕が攻撃してこないことに焦れたのか、アールグランは大剣を上段に構え……。
「来ないのであればこちらからゆくぞ!
『グラヴァイトダウン』『インパクトスラッシュ』
『アーク・ワインド』『リターンスラッシュ』ッッ!!」
連続アーツ――!
こちらは『アクセラレーション』を発動して加速した世界へと突入。ゆっくりと振られる剣を目視しながら、敵が放ったコンボについて思考する。
【中級大剣術】Lv20アーツ『グラヴァイトダウン』は、己が持つ剣の重みを感じなくなる。
【大剣術】Lv5アーツ『インパクトスラッシュ』は、剣系武器の攻撃に衝撃を乗せる効果。
【上級大剣術】Lv1アーツ『アーク・ワインド』は、剣によるVの字斬り攻撃。
【大剣術】Lv10アーツ『リターンスラッシュ』は、一つ前の剣系アーツを、クールタイム等を無視して再現する。
これらを繋げた結果、速くて重いVの字斬り二連発が繰り出されるはずだ。
……となると、受け流しより回避を選択すべきか。
FSOにおける武器アーツの軌道は使用者次第で、ある程度の自由が利くようになっている。
ただし、それにも限界はあり、あまり本来の技からかけ離れた使い方はできない。マスター化していないスキルのアーツなら、なおさらに難しくなる。
アールグランの剣筋をじっくり観察し、一撃目の軌道から二撃目以降の限界可動域を推測。
……右に三歩と後ろに一歩移動し、剣が服に擦れるスレスレで一撃目をかわした。
ここで加速の効果が終了し、通常速度の世界へ戻る。
二発目、三発目。
敵の大剣が数ミリ届かない位置取りになるよう、右に後ろに動いて、避ける。
驚愕の表情を浮かべるアールグランの四発目。
寸でのところでかわすのは先程までと同じ。
彼から見て左側。右足をバネのように使い、回り込むようにして懐へ踏み込む。
そして――【上級剣術】Lv15アーツ『フラッシング・ハウル』を発動。
使用する直前にアーツ発動者が攻撃を受けていると、この一撃は威力が上昇する。
効果の上昇具合は、
体で受ける(1.5倍)<武器で受ける(1.7倍)<回避する(2.0倍) だ。
また、回避の仕方が間一髪であるなら、より威力が高まり(最大で4倍)。敵の攻撃が四連続技だった場合は四回ともにこれらの計算が行われ、次に自らが行う攻撃に威力が乗算され続ける。
計算式は 4×4×4×4=256
すなわち、元の攻撃と比較して約256倍の威力となるのだ。
よって――
「――『フラッシング・ハウル』ッッ!!」
「ガッ……!?」
左から右へ振り抜かれた神速の剣が、フルプレートアーマーを見事に粉砕。
アールグランの胴体をも斬り裂き、横に真っ二つにした。
当然、HPは全損。ただちにシステマによる転送が行われた。
剣速自体は他の剣系アーツを圧倒するポテンシャルがあるが、アーツ自体の攻撃力は『スラッシュ』並でしかない。
にもかかわらず、相当に酷い威力が出てしまった。
まさか、防御力極振りと名高い彼を即死させてしまうとは……。
条件が厳しいとはいえ、まさに一撃必殺だ。
《熟練度が一定に達し【疾風】スキルがLv10になりました》
《熟練度が一定に達し【超反応】スキルがLv10になりました》
《熟練度が一定に達し【閃駆】スキルがLv6になりました》
《熟練度が一定に達し【敏捷強化】スキルがLv17になりました》
《熟練度が一定に達し【闘気】スキルがLv14になりました》
《熟練度が一定に達し【拡張】スキルがLv13になりました》
さて、と……。
「……てい」
「ぐぶっ!?」
アリアさんの攻撃に集中しているジークを後ろから蹴り飛ばしてやった。竜の右腕さんは衝撃で剣を手離し無様なうつ伏せの体勢に。
「『クリティカルスナイプ』『パワーアロー』っ!」
高威力の矢が頭に突き刺さり、ジークのHPバーがゼロになった。ジークのHPはレッドゾーン間近だったし、僕が手助けせずとも勝てただろう。
地の利があるとはいえ、やっぱアリアさんも強いじゃないか。
○○○
辺りを一望できる見張り台へ戻り、木の手すりに寄り掛かりながらスケート靴の改善点について話し合った。
氷の上での機動力は問題なし。
地上での戦闘では、やや小回りに難があるので、できるのなら改良した方が良い。
もっとも、これはあまりに贅沢な要望なので、実現する可能性はほぼゼロだろう。一応言ってみただけだ。
「――ところで、アストはミレアと二人暮らしだったわよね? 昼食の準備とかは大丈夫?」
「え? ええ、まあ。朝の内にそうめんをゆがいておきましたから」
ログアウトしたのち、つゆと一緒に冷蔵庫から出すだけだ。
なお、ミレアのめんつゆにはゴーヤが投入される模様。慈悲はない。
「そういうアリアさんこそ、支度はいいんですか? 今日は平日ですし、ご結婚されているなら――」
「結婚なんて、二度としないわ」
「あ、はい」
手すりに手を置き、毅然とした口調でそう断言するアリアさん。
結婚関連で何か嫌な思い出でもあるのか、端正な顔を苦々しく歪めている。
はぁ……失敗した。
どこに地雷が埋まってるか分からんもんだな……。
……話を戻そう。
「それで、昼食の方は……?」
「朝の内にコンビニで買ってあるわ。でも、私もそうめんにしておくべきだったかしらね……」
「今日は一段と暑いですからね……」
朝のニュース曰く、今日は全国的に記録的猛暑になる恐れがあるらしい。
八月中旬とはいえ、予想最高気温が40℃とか、外に出る気にならん。
「コンビニ弁当だと喉を通らないかもしれませんね。冷房の効いた部屋で、氷を乗せてキンキンに冷えたそうめんというのも、悪くなさそうです」
「……っ。そうめんのストック、残っていたかしら……?」
そうめんを食べる様子を思い浮かべたのか、アリアさんが僅かに息を呑んだ。
栄養的にはアレだけど、ゴーヤを使えば幾分かマシになるだろう。
家が近ければおすそ分けできるんだがな……いや、ゲームの関係をリアルに持ち込むのはNGだ。きっぱり忘れておこう。
……ん? ウェザリア周辺のマップに四人分の青光点が入ってきた。
「ミレアたちが帰ってきたみたいですね」
「本当ね。もう少し遅くなると予想していたのだけど……」
それからしばらくして、HPを半減させたレインたち三人と、HPが満タンのミレアが見張り台に到着した。
「ただいまっ! フラッグを強奪してきたよ……はいっ!」
「おかえり。強奪って、もう少し言い方が……多くね!?」
「おかえりなさい、ミレア。フラッグは……あり得ないくらいに多いのだけど……!?」
僕とアリアさんは声を揃えて驚愕した。
なぜなら、ミレアの手に握られた赤いフラッグは……あまりにも多い。山のようなフラッグ、と形容してしまっても相違ないくらいに。
まだ拠点を出てから一時間かそこらなんだぜ……?
何をどうやったら、こんな膨大な数になるんだよ……。
もしかしたら幻覚を見ているのかも。
そんな淡い希望を抱きつつ、我が妹に尋ねる。
「……ミレア、このフラッグは何本くらいあるのかな?」
「五十二本だよっ!」
やはり幻覚ではなかったらしい。
明るい希望はハンマーで粉々に砕かれ、満面の笑みを浮かべるミレアの手でゴミ箱に捨てられてしまった。
なんでこうなった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
『ギルド対抗「攻城戦」開催中!』 <残り二十一時間十分>
・参加ギルド 302ギルド
・残りギルド 272ギルド/302ギルド
・獲得フラッグ0 喪失フラッグ0
・獲得ポイント0 喪失ポイント0
・総合ポイント0
・広域マップ確認
・周辺マップ確認《ウェザリア》
・―――――――
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