異世界転生? いいえ、チートスキルだけ貰ってVRMMOをやります!

リュース

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4章

245 攻撃準備

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 砦の入口から侵入してきたプレイヤーたちが、転がってきた大岩群に呑み込まれ、ポリゴンの欠片となって爆散した。足が氷漬けにされているせいか、回避行動すらとれなかったようだ。

 【幻影魔法】で再現した風景から顔を出し、坂の下に生き残りが居ないか確認する。


「どれ……魔力も気配も感じないし、全滅したみたいだな」

「みたいだね。あ、アスト兄。岩の回収をよろしくね。私はアリアたちに報告してくるからっ」

「はっ!?」


 僕に面倒ごとを押しつけたミレアは、返事も聞かず城の方へ駆けていった。彼女の姿は既に十数メートル先にある。僅かな逡巡すらない、清々しいほど思い切りがいいスタートダッシュだ。
 まあいいさ。岩運びは泥臭い力仕事なんだし、男の僕が快く引き受けようじゃないか。

 だが、その前に……。


「ミレアっ! おまえの分の昼食は使い損ねたゴーヤだけだ!」

「そんなあああああっ!?」


 和洋折衷建築の城から悲痛な叫び声が聞こえてきた。
 あいつは頭がいいくせに、なぜこういうところで抜けているのやら。少し考えれば、僕が報復してくることくらい予想がつくだろうに。
 ま、ちゃんと調理はしてやるから、あの苦みは甘んじて味わうといい。ログアウト中も大会は続くのだし、手短に食べられるメニューにしないとな……。


 ○○○


 坂の傾斜が始まる部分に柵を設置し直し、そこにもたれかけるようにして集めた岩を載せ終えた。あとは上から垂れ下がっているロープを引っ張れば、木でできた柵が吊り上がって、岩が雪崩の如く落ちていく。
 傍からこの一帯を見れば、アスレチックか何かだと誤解されること請け合いだ。



「――これでよし、と」

「お疲れ様です、アストさん」

「っ、レイン?」


 装置に不備がないか最終チェックを済ませたところで、後ろから声をかけられた。
 心地良い声につられて振り返ると、そこには労るように微笑みを浮かべ、青いハンドタオルを差し出す銀髪ストレートの少女。
 ほかでもない、彼女は僕が恋焦がれてやまない女性、レインその人だ。
 不意打ちだったのもあり、にわかに胸の鼓動が高鳴り、体がほんのりと熱を持つ。


「わざわざありがとう、レイン。気を遣わせてすまないな」

「いえ、気に病まれないでください。私とアストさんは、その……恋人関係、なんですから。それに、実はこういったシチュエーションに、少し憧れが……」


 頬を染め、消え入りそうな声で恥ずかし気に俯くレイン。あまりの可愛さに、ついつい抱きしめたい衝動に駆られるが、ハラスメントコードが怖いのでぐっと我慢する。


「へぇ……言い方は悪くなるけど、ちょっと意外だ」

「えっ……」

「でも、凄く可愛かった。レイン、これからもどんどんやってくれると嬉しい」

「っ……アストさん、上げて落とすのは、ずるいと思います……」


 先程受けた不意打ちの仕返しをすると、レインは耳まで真っ赤になりながらもむくれ顔になった。
 二日前までは見せてくれなかった、彼女の素が現れた仕草。嬉しくて、嬉しくて、愛おしいという感情がとめどなく湧いてくる。

 どうして僕が、レインのような見た目も性格も最高な女性と付き合えたのだろうか。未だに、どこか信じられない自分が居る。

 ……考えるだけ無駄か。
 今はただ、自らの手にある幸せを噛み締めるとしよう。


「ところで、ミレアから何か言われなかったか?」

「ミレアから、ですか? そういえば、ここでタオルを渡すのを決心できたのは、彼女に背中を押されたから、だったような……?」


 なるほど。これは僕のご機嫌取りだな。
 何事か企むミレアの顔が目に浮かぶようだ。

 そうか。そんなにゴーヤづくしは嫌か。


 ○○○


 少しばかりレインと談笑した後、作戦会議に参加しようと彼女と一緒に城砦の見張り台まで戻ってきた。
 階段を上るのは地味に面倒なので、【空中機動】の二段ジャンプで途中の経路をショートカットさせてもらった。お姫様抱っこされているレインは赤い顔を手で覆っているので、可愛い顔が見れなくて非常に残念だ。

 見張り台に立ち、昼食のゴーヤを回避できたと思い込んでいるミレアは、ニコニコとした活発そうな笑顔を、これでもかというくらいに見せている。

 だからこそ、僕は右手の指を立ててグッジョブ! と伝え、開口一番に言ってやるのだ。


「喜べ、ミレア。夕食がゴーヤ単品からゴーヤチャンプルーにランクアップしたぞ」

「えええっ!? それじゃああんまり変わらないよっ! というか私、お昼がゴーヤだけになるところだったの!?」


 恐ろしい話を聞いたかのように愕然とするミレア。そんな彼女は放っておいて、アリアさんたちが座っている一角に向かう。
 別にレインを抱えたままでもいいのだが、揶揄われるのが嫌なようで軽く暴れられたため、不承不承ながら降ろした。

 アリアさんたちの労いを受けつつ腰を下ろし、今後についての作戦会議を始める。もちろん、後から僕を追いかけてきたミレアもこれに参加している。


「――と、敵を残したままだと岩の回収が覚束ない以外は、特に問題ないと思います。強いて言うなら、もう少し岩のストックがあった方がいいかもしれませんね」

「私もアスト兄と同じ意見。ほかは特にないかな……?」

「承知したわ。レイン、この後で追加をお願いできるかしら。MPが減りすぎない程度でいいわ」

「分かりました。やっておきます」


 予想していたより兵装の威力が高いことを伝え、反省と改善案の提示については終わった。
 次は、これからの動きについての相談だ。


「敵の第二陣は来ないようだから、予定通り攻めに出るわ。場所はウィーンフライトエリア内にあるギルドで、メンバーは……四人くらいがいいかしらね。立候補は――」

「はいはい! 私が行くっ!」

「手を上げるの早っ!? あっ、私も行きたい!」


 ミレアが真っ先に名乗り出たのち、少し遅れてシエラも挙手をした。
 まあ、守ってばかりだとつまらないだろうし、誰だって行きたいよな。まだ立候補こそしていないが、レインとミアも攻撃役に回りたそうにしている。
 視線が宙を彷徨っているので実に分かりやすい。

 自分の意見をハッキリ言えるミレアとシエラに、空気を読んで遠慮することもあるレインとミア。思わぬところで個性が現れたものだ。


「シエラが不憫だ。いつもその調子だから、永遠の友達を量産するんだよ……」

「心の声が漏れたみたいな呟きはやめてくれない!?」

「そんなに身を乗り出さなくとも……まさか図星か? 何となく察してはいたが、気が利かずハッキリ口に出してしまってすまん」

「なにおうっ!!」


 シエラが『むぐぐぐぐっ……!!』と唸っているが、僕の知ったこっちゃない。でも、ついつい弄りすぎてしまうのは悪い癖だな。慎むべし。

 んで、メンバー決めの途中だったな。アリアさんが呆れた顔をしていることだし、手早く決めよう。


「ミレアが出る以上、僕は留守番ですね。アリアさんはどっちがいいですか?」

「今回は防衛側に回るわ。私がリタイアしたらギルド全体の負けなのだし、攻撃に出るのはリスクが高すぎるもの」


 アリアさんの答えは予想通り、と。

 彼女が望むなら、そのうち攻撃にも参加させてあげたいが、実際に敵地の様子を見てからの方が危険度が下がるだろうし、最初は防衛役でよかろう。


「じゃあ、残ったレインとミアは攻撃側でも良いか? 押しつけつようで悪いんだが……」

「うぃ。私はそれでいいよ」

「私も問題ありません」

「なら、決まりだな」


 レインとミアの了承を得て、一先ずの組み分けが完了した。

 さて、これから忙しくなるぞ。




―――――――――――――――――――――――――――――――
『ギルド対抗「攻城戦」開催中!』 <残り二十二時間二十五分>

 ・参加ギルド 302ギルド
 ・残りギルド 296ギルド/302ギルド

 ・獲得フラッグ0 喪失フラッグ0
 ・獲得ポイント0 喪失ポイント0

 ・総合ポイント0

 ・広域マップ確認
 ・周辺マップ確認《ウェザリア》
 ・―――――――
 ・―――――
―――――――――――――――――――――――――――――――

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