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電車でいきなり告白
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眠い朝、電車の中で俺は先週大学のゼミ活動で行ったディベートについて思い返していた。内容は男女平等についてで、議論の流れで女性専用車両についてどう思うかという話が持ち上がった。その時は正直興味がなかったが、女性専用車両が法律上なんの拘束力もなくただ鉄道会社の私的な規則だと知ったときは、やっぱりあった方がいいと思った。座って、優雅に隣のすし詰めになっている車両を見るのは気分がいい。
浅賀祐樹は、その男には見えない顔と華奢な体つきを利用して、女性車両に堂々と乗車していた。
自分の顔は嫌いだが、上手く付き合っていけば、結構得する。祐樹は、座席の背もたれに背中を預けて目をつむって、自分が降りる駅までの20分を眠って過ごすことにした。
彼は人生で5回目の満員電車に乗っていた。
最初、車両の中にこれほどの人を詰めるなんて拷問の一種ではないかと考えた。しかし、戸惑っていてはあの人を見失ってしまうと思い、決死の覚悟で乗り込んだ。想像通り満員電車は苦しく、今まで経験したことのない圧迫感を全身に受け、心が折れそうになった。
しかし、通路の窓を通して隣の車両に座るあの人を見ると、全身に受けている苦しみが嘘のように消えていくのを感じた。ただ、自分の目にあの人が映っている。それだけなのだか、それだけで幸福に満たされた。眠って、赤く染まっていく頬も薄く色づいた桜色の唇も、目の下にできたまつ毛の影もすべてが幻想的で、この世界に存在していることが信じられなかった。本当はこの苦しみを受けている自分が作り出した幻なのではないか。そう疑いたくなるほど美しかった。いつか、ふっと消えてしまう気がして、一刻も早く自分の存在を知ってもらい、つなぎ留めておきたいという焦燥感に駆られる。しかし、声をかけることは想像以上の困難で、自分がこんなにも勇気のない人間だとは知らなかった。
あの人は、いつも人混みを避けて、人がいなくなるまで駅のホームで一人立っている。それが、話しかけるチャンスなのに何時も見逃してきた。だから、今日声かけなくてはいけない。何と話しかければ、変に思われず、関心を持ってもらえるだろうか。そのことを長く考えていたが、一つとして、相応しい言葉が見つからなかった。
車内のアナウンスが流れ、電車が止まった。祐樹は人混みを避けるため一番最後に降り、駅構内の柱に寄りかかり階段を下りる人の数がまばらになるのを携帯電話で時間を潰しながら待った。とにかく、人ごみに巻き込まれて知らない人の体があったたりするのが嫌なのだ。だから、時間がかかっても祐樹は待つことにしている。そこへ突然、黒い影が祐樹を覆う。訝しく思い顔を上げると、彫りが深く肌が妙に肌が白い男が立っていた。身長もかなり高い。そして、知らない相手だ。突然知らない相手に絡まれる覚えと言えば一つ。男だってばれて、女性専用車両に乗っていることを説教される事だろう。祐樹は逃げようと、そっと後ろに一歩退く。すると、男性は祐樹の二の腕をつかみ周りに響くような声で言った。
「好きです。自分とお付き合いを前提に友達になって頂けませんか。」
何を言っているのか、一瞬理解できず、固まってしまったが直ぐに、女だと勘違いされて、告白されたことが分かった。俺は男だと言おうとしたが、先ほどまで女性専用車両に乗っていたことを思い出した。万一自分と同じ車両に乗っている女性がまだ近くにいたら、騒ぎたてられる可能性もある。ばれて注意されることや、多少のトラブルに鉢合わせすることは覚悟のうえでのっているが、回避するためにも、ここは間違えられた怒りを鎮めよう。それに、女に間違えられて告白されるのは、これが初めてじゃない。いつもなら、ふざけるなと言って金玉を蹴り上げているところだ。
祐樹は目の前の男を見た。そもそも、知り合いでも何でもない人に突然告白をするなど、無謀の極みだ。告白は最終奥義ではない。少しずつ意中の相手にアプローチし、好感度ゲージが最高潮に上がった時、結果を窺う手段だ。それを理解できていないなんて中学生か?もしくは、色々とこじらせすぎた童貞だ。相手はよく見れば、ずいぶん整った顔立ちをしていたので、女性にもてないということはなさそうだ。
浅賀祐樹は、その男には見えない顔と華奢な体つきを利用して、女性車両に堂々と乗車していた。
自分の顔は嫌いだが、上手く付き合っていけば、結構得する。祐樹は、座席の背もたれに背中を預けて目をつむって、自分が降りる駅までの20分を眠って過ごすことにした。
彼は人生で5回目の満員電車に乗っていた。
最初、車両の中にこれほどの人を詰めるなんて拷問の一種ではないかと考えた。しかし、戸惑っていてはあの人を見失ってしまうと思い、決死の覚悟で乗り込んだ。想像通り満員電車は苦しく、今まで経験したことのない圧迫感を全身に受け、心が折れそうになった。
しかし、通路の窓を通して隣の車両に座るあの人を見ると、全身に受けている苦しみが嘘のように消えていくのを感じた。ただ、自分の目にあの人が映っている。それだけなのだか、それだけで幸福に満たされた。眠って、赤く染まっていく頬も薄く色づいた桜色の唇も、目の下にできたまつ毛の影もすべてが幻想的で、この世界に存在していることが信じられなかった。本当はこの苦しみを受けている自分が作り出した幻なのではないか。そう疑いたくなるほど美しかった。いつか、ふっと消えてしまう気がして、一刻も早く自分の存在を知ってもらい、つなぎ留めておきたいという焦燥感に駆られる。しかし、声をかけることは想像以上の困難で、自分がこんなにも勇気のない人間だとは知らなかった。
あの人は、いつも人混みを避けて、人がいなくなるまで駅のホームで一人立っている。それが、話しかけるチャンスなのに何時も見逃してきた。だから、今日声かけなくてはいけない。何と話しかければ、変に思われず、関心を持ってもらえるだろうか。そのことを長く考えていたが、一つとして、相応しい言葉が見つからなかった。
車内のアナウンスが流れ、電車が止まった。祐樹は人混みを避けるため一番最後に降り、駅構内の柱に寄りかかり階段を下りる人の数がまばらになるのを携帯電話で時間を潰しながら待った。とにかく、人ごみに巻き込まれて知らない人の体があったたりするのが嫌なのだ。だから、時間がかかっても祐樹は待つことにしている。そこへ突然、黒い影が祐樹を覆う。訝しく思い顔を上げると、彫りが深く肌が妙に肌が白い男が立っていた。身長もかなり高い。そして、知らない相手だ。突然知らない相手に絡まれる覚えと言えば一つ。男だってばれて、女性専用車両に乗っていることを説教される事だろう。祐樹は逃げようと、そっと後ろに一歩退く。すると、男性は祐樹の二の腕をつかみ周りに響くような声で言った。
「好きです。自分とお付き合いを前提に友達になって頂けませんか。」
何を言っているのか、一瞬理解できず、固まってしまったが直ぐに、女だと勘違いされて、告白されたことが分かった。俺は男だと言おうとしたが、先ほどまで女性専用車両に乗っていたことを思い出した。万一自分と同じ車両に乗っている女性がまだ近くにいたら、騒ぎたてられる可能性もある。ばれて注意されることや、多少のトラブルに鉢合わせすることは覚悟のうえでのっているが、回避するためにも、ここは間違えられた怒りを鎮めよう。それに、女に間違えられて告白されるのは、これが初めてじゃない。いつもなら、ふざけるなと言って金玉を蹴り上げているところだ。
祐樹は目の前の男を見た。そもそも、知り合いでも何でもない人に突然告白をするなど、無謀の極みだ。告白は最終奥義ではない。少しずつ意中の相手にアプローチし、好感度ゲージが最高潮に上がった時、結果を窺う手段だ。それを理解できていないなんて中学生か?もしくは、色々とこじらせすぎた童貞だ。相手はよく見れば、ずいぶん整った顔立ちをしていたので、女性にもてないということはなさそうだ。
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