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「即興曲 第2番」 シューベルト

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<タイトル>

4つの即興曲 作品90 D.899 から

第2番 変ホ長調

<作曲者>

フランツ・シューベルト

<おすすめ盤>

内田光子(ピアノ)

フリードリヒ・グルダ(ピアノ)

<解説>

 シューベルトによる「4つの即興曲」は2組あり、作品90と作品142の合計8曲がそれになります。

 後者の作品142はより円熟の境地に達していますが、いっぽうで来るものを寄せつけないような威厳も含まれている気がします。

 かたや今回紹介する作品90は、それよりも聴きやすいと言っては語弊がありますが、シューベルトのピアノ作品の中でも比較的ポピュラーですのでおすすめです。

 さりげなくどこかでかかっているような印象がありますね。

 個人的には第2番が好きで、三連符の音型があたかも鳥の飛翔のように上がり下がりする表現が圧巻です。

 そのあとの悲痛な、しかし荘厳な第2主題への移行もゾクゾクします。

 この「落差」がいかにもシューベルト節と言えそうで、表現の幅が非常に興味深いです。

 この曲は意外かもしれませんが、ゲームの音楽にも使用されていたりします。

 音ゲーの名作である「ポップンミュージック」がそれで、ファンならさんざん泣かせられたであろう難曲「クラシック・シリーズ」で登場します。

 アレンジは加えられていますが、ピアノで弾くよりも難しいのではないとすら思ってしまいます。

 この曲を採用したスタッフの方はなかなかですね。

 おすすめしたのは熱海生まれで海外で活動し、グラミー賞を二度も受賞した内田光子さんと、ジャズを愛し、モーツァルトを「イエスの次に来る人」と賛美した巨匠グルダさんの音源です。

 内田さんのシューベルト録音は選集が出ており、音楽アプリにも配信されています。

 老巨匠ヴィルヘルム・ケンプの演奏に霊感を得たと語っており、「死ぬときはシューベルトを引いていたい」という言葉も、表現者としての矜持の発露ではないかと頭が下がるばかりです。

 グルダのシューベルト録音は、確かこの即興曲集だけが唯一公式なものだったと思うので、見逃せないレア音源であると言えます。

 録音の際には「死を覚悟した」とも伝えられ、それほどに同郷ウィーンの大先輩に最大の経緯を払っていたのだと思います。

 方向性は両者で違いますが、ある種「表現に殉ずる」所感をいだかずにはいられない名盤になります。

 こういうことを書くと聴くのに勇気がいるかもしれませんが、触れた瞬間、さすらい人フランツのライトファンタジー空間へワープしたかのような錯覚を得ます。

 流行りの音楽もいいですが、たまにはこんな世界もいかがでしょうか。
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