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第1章 佐伯悠亮としての日常
第21話 帰り道
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学校をあとにしたウツロと真田龍子は、連れ添って朽木市の中心である朔良区の町並みを南下していた。
中心街とはいっても、朽木市自体が閑静な都市であり、高層ビルなどもとりたたて多いというわけではなかった。
二人は秋の夕焼けの中を、やはり下校中の学生たちがすれ違いざまに発する声などをBGMに、会話をしながら歩いていた。
「雅の言ったことが本当なら……刀子さんや氷潟くんが、そのおそろしい『組織』の人間だとしたら……もしかしたらこれからも、わたしたちに何かしてくるかもしれない、ってことだよね……?」
「うん、たぶん……何か、よくないことが起こりそうな気がするんだ……万城目日和のことも気になるしね」
真田龍子がこわごわと問いかけてくる。
ウツロはそれに返答しながらも、『組織』や万城目日和のことが気がかりで、考えがまとまらない状態だった。
「万城目日和……いったい何者で、どこに潜んでるのか……あ、でもウツロ……変なことは考えちゃダメだよ? その、わたし……ウツロが何もかも背負って、苦しむところだけは、見たくないから……」
真田龍子はウツロを心配していた。
万城目日和の父である政治家・万城目優作は、ウツロの父・似嵐鏡月が手にかけた――
それを受け、ウツロは彼女ともし出合ったとき、しっかりと向き合いたい――
そう答えていた。
そのことでウツロが、思いつめているのではないかと、真田龍子は気が気でならなかった。
「ありがとう龍子、心配してくれて。でも、俺は大丈夫だから。たとえどんなことが起ころうとも、俺は父さんの言葉を忘れない……どんな状況に陥っても、自分を失ってはならないという言葉を……」
「ウツロ……」
やっぱり苦しんでいる――
真田龍子はそれを感じた。
どうしてウツロが苦しまなければならないのか……?
ウツロは何も、悪いことなんかしていないのに……
そう考えると、彼女もまた、苦しかった。
しかしこれ以上、言わないことにした。
ウツロをさらに煩わせることだけはしたくない。
そんな気持ちからだった。
「俺よりも龍子、君のことが心配だ。またあいつが、刀子朱利が、龍子に何かをしてくるかもしれない……俺には、それが不安でならないんだ……」
「ウツロ、わたしは大丈夫だから……」
お互いに「自分は大丈夫」と言い、気づかい合う。
しかしそうすることによって、お互いに苦しめあう。
わかりきってはいるのだが、二人の性格上、そういう態度を取るほかはないのだ。
不器用だった、ウツロも真田龍子も――
しかしながらその不器用さが、お互いの愛情に拍車をかけていた。
皮肉にも、であるが。
「ただ、一つだけ言えるのは……」
ウツロは歩きながら、真田龍子の手を握った。
やさしく、包み込むように。
顔をお互いに見合わせる。
ウツロのそれは真剣そのものだ。
その眼差しに、愛する者の顔が映り込む。
「龍子、俺はどんなことがあっても、君を守る……!」
「ウツロ……」
ウツロは静かに、だが決然と言った。
握り合っている手からは、言葉以上のものが圧力となって伝わってくる。
「ありがとう、ウツロ……わたしも負けない、絶対に……!」
つながる視線が、二人の少年少女の絆を、さらに強く結びつけた。
それはすでに、『絆』をはるかに越えたものになっていた。
二人は手を握り締めながら、その時間を慈しむように歩きつづけた。
放課後の黄昏が少しずつ、だが確実に落ちてくる。
まるで彼らを侵食するように――
(『第22話 ウツロと龍子のもぐもぐタイム』へ続く)
中心街とはいっても、朽木市自体が閑静な都市であり、高層ビルなどもとりたたて多いというわけではなかった。
二人は秋の夕焼けの中を、やはり下校中の学生たちがすれ違いざまに発する声などをBGMに、会話をしながら歩いていた。
「雅の言ったことが本当なら……刀子さんや氷潟くんが、そのおそろしい『組織』の人間だとしたら……もしかしたらこれからも、わたしたちに何かしてくるかもしれない、ってことだよね……?」
「うん、たぶん……何か、よくないことが起こりそうな気がするんだ……万城目日和のことも気になるしね」
真田龍子がこわごわと問いかけてくる。
ウツロはそれに返答しながらも、『組織』や万城目日和のことが気がかりで、考えがまとまらない状態だった。
「万城目日和……いったい何者で、どこに潜んでるのか……あ、でもウツロ……変なことは考えちゃダメだよ? その、わたし……ウツロが何もかも背負って、苦しむところだけは、見たくないから……」
真田龍子はウツロを心配していた。
万城目日和の父である政治家・万城目優作は、ウツロの父・似嵐鏡月が手にかけた――
それを受け、ウツロは彼女ともし出合ったとき、しっかりと向き合いたい――
そう答えていた。
そのことでウツロが、思いつめているのではないかと、真田龍子は気が気でならなかった。
「ありがとう龍子、心配してくれて。でも、俺は大丈夫だから。たとえどんなことが起ころうとも、俺は父さんの言葉を忘れない……どんな状況に陥っても、自分を失ってはならないという言葉を……」
「ウツロ……」
やっぱり苦しんでいる――
真田龍子はそれを感じた。
どうしてウツロが苦しまなければならないのか……?
ウツロは何も、悪いことなんかしていないのに……
そう考えると、彼女もまた、苦しかった。
しかしこれ以上、言わないことにした。
ウツロをさらに煩わせることだけはしたくない。
そんな気持ちからだった。
「俺よりも龍子、君のことが心配だ。またあいつが、刀子朱利が、龍子に何かをしてくるかもしれない……俺には、それが不安でならないんだ……」
「ウツロ、わたしは大丈夫だから……」
お互いに「自分は大丈夫」と言い、気づかい合う。
しかしそうすることによって、お互いに苦しめあう。
わかりきってはいるのだが、二人の性格上、そういう態度を取るほかはないのだ。
不器用だった、ウツロも真田龍子も――
しかしながらその不器用さが、お互いの愛情に拍車をかけていた。
皮肉にも、であるが。
「ただ、一つだけ言えるのは……」
ウツロは歩きながら、真田龍子の手を握った。
やさしく、包み込むように。
顔をお互いに見合わせる。
ウツロのそれは真剣そのものだ。
その眼差しに、愛する者の顔が映り込む。
「龍子、俺はどんなことがあっても、君を守る……!」
「ウツロ……」
ウツロは静かに、だが決然と言った。
握り合っている手からは、言葉以上のものが圧力となって伝わってくる。
「ありがとう、ウツロ……わたしも負けない、絶対に……!」
つながる視線が、二人の少年少女の絆を、さらに強く結びつけた。
それはすでに、『絆』をはるかに越えたものになっていた。
二人は手を握り締めながら、その時間を慈しむように歩きつづけた。
放課後の黄昏が少しずつ、だが確実に落ちてくる。
まるで彼らを侵食するように――
(『第22話 ウツロと龍子のもぐもぐタイム』へ続く)
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