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フェリシア
しおりを挟むフェリシア……どうか、幸せに
幸せになって……
それは小さな、とても小さな声。
祈り。
光にも似た、祈りの言葉―――。
1.
ラウルは、木枯らしの吹くレンガの小道を足早に抜け、大通りへと出た。
通りに並ぶ店の窓には、背中を丸めた男の姿が映っている。その姿に気がついて、ラウルはふと立ち止まった。
中途半端に伸びてしまった茶色の髪はぼさぼさで、櫛を通したのはいったい何日前のことなのか覚えがない。あごの辺りにも不精ヒゲが盛大にその存在を主張している。二十代後半に入ったばかりだというのに、仕事に疲れ切った中年のサラリーマンのような背中が、実年齢より年嵩に見せていたが、じっくりと見れば、目元はやはりまだ若い青年であることが分かる。それが自分の姿だということに気がついて、やれやれとばかりにため息をついた。
(徹夜明けでは仕方がないか。)
ラウルはさっさとアパートに戻って一服した後、ゆっくり休みたい気分だった。
明後日にはエスタシアでコンサートがある。エスタシアは、のどかで自然豊かな辺境のコロニーである。前日に現地入りしなくてはならないため、完全な休日は今日一日なのだ。本当ならもう少し余裕のある日程だったのだが、押しに押したスケジュールはだんだんと切迫していき、今日に至る。それでもなんとか曲は完成し、ようやく一安心と言ったところだ。
十字路に立ち、信号が変わるのを待つ。
反対側の人の波がゆるゆると流れていくのをぼんやりと見ながら、ラウルはそっと胸のポケットからタバコを取り出した。
仕事の最中に何本吸ったのか、いちいち数えていないが、買ったばかりのはずのそれにはすでに中身はなかった。
舌打ちして、パッケージを握りつぶし、近くのゴミ箱に投げ入れる。
それは枠に当たり、弾かれて外に落ちた。
再び、ラウルは舌打ちする。
「めんどくせぇ」
小声でこぼしながらも拾い上げ、今度は投げずに歩いて行って放り込む。
最初からこうすれば無駄な労力を使わずに済んだのに。それでも路上に投げ捨てたまま放っておかなかったのは、ラウル自身の良心や道徳に反するということもあるが、何よりも街を徘徊する清掃用のロボットを見たくなかったからだ。あの丸い鉄の塊は、意識しなくても視界に飛び込んでくるものだが、あえて自分からヤツを呼び寄せることもあるまい。
疲れすぎて体がだるい。さすがに限界かもしれない、とラウルは思った。
「あ……あの、ピアニストのラウル・ランカートさん、ですよね?」
おずおずと遠慮がちに声をかけられて、ラウルは振り返る。小柄な二人組の女子学生が立っていた。期待と好奇心に満ちた少女たちの表情を見て、半ば面倒くさいと思いつつも、ラウルは答える。
少女たちは顔を見合わせて、歓声を上げると、飛び上がらんばかりに喜んだ。
「あのっ、サインしてくださいますか? 私、私達、ファンなんです!!」
「……ああ、構いませんよ」
少女たちのパワーに圧倒されつつも、勢い良く差し出された色紙にラウルは書き慣れたサインを記す。声高らかに、礼を言って走り去っていく二人をぼんやりと見送りながら、ラウルは再び、歩道に視線を戻した。こういうのも仕事のひとつではあるが、今のでさらに疲れが増したような気がした。人と会うというのがかなり億劫に感じてしまう。
徹夜明けには眩しすぎる太陽に眩暈を覚えて、ラウルはそっとため息をついた。
リィィン―――。
涼やかな透き通る音がどこからか聞こえてきて、ラウルは顔を上げた。
視線が、無意識に、何かに吸い寄せられるかのように、一点へと向く。
交差点の先で、一人の少女がじっとこちらを見ていた。
こちらを。
ラウルを。
そう感じたとき、世界から全ての音が消え去った。
車の音も、通りすぎる人達の声も、何もかもが消えてなくなり、彼女と自分だけがこの世界にいるかのように感じた。
少女は喪服を着ていた。くるくるとした金の巻き毛は短く、肩よりも少し上の辺りで揃えられている。青い瞳は金属味を帯びてラウルを映し出していた。
どこかぼんやりとした印象は否めない。垢抜けていないというべきか。純真無垢といった表現が似合いそうな感じである。
先ほどの女子学生と同じ年くらいだろうか。十代半ばのまだ幼い肢体に、黒のワンピースが映えて、何故か目が離せなかった。
その不可思議な感覚にラウルは戸惑う。
「……何だ?」
口に出した瞬間、止まっていた時は動き出した。
音が戻ってくる。
と、同時に呪縛も解けた。
「何だ?」
もう一度、ラウルは口に出して言った。
瞬きをした少しの間に、少女の姿はどこにもなくなっていた。
頭を抱えて唸った。白昼夢でも見たのだろうか。どこを見渡しても、少女の姿は見つけられなかった。
「重症だな」
ラウルは忌々しげに呟いた。
朝の早い時間から白昼夢を見てしまうとは、そうとう睡魔に侵されているのかもしれない。
やれやれとラウルは肩を竦めて、玄関の鍵を開ける。
最近になって、多少は名が売れ始めた作曲家兼ピアニストではあるが、生活は至って普通の、ささやかなアパート暮らしだ。 ピアノがあるため防音の部屋はあるが、それ以外はなんの変哲もない家には、使用人もいなければ、家事用のロボットもいない。
一人の生活は気ままで良い。些細な事に煩わされることはなく、作曲活動(仕事)に専念できる。
だが、しんと静まり返った薄暗い部屋に一人帰るのは虚しい。
結局のところ、寂しいのは事実なのだ。
『お帰りなさい、ラウル』
「……グレイス」
ラウルは息を呑んで立ちすくんだ。
長いストレートの金髪が翻って踊る。すらりと背が高く、細い体にいつも白衣を着た女性が快活な口調で出迎えてくれる。優しいぬくもりを与えてくれた恋人の幻影は、唐突に現れてはラウルを寂寥感の中に突き落とす。
ラウルはそうっとため息をついた。
「俺も存外、未練がましい男だな……」
扉に手をかけ、玄関で突っ立ったままだった事を思い出して苦笑する。
やっと新曲も書きあがって、ようやく自宅へと帰ってこられたのだ。さっさと寝よう。
扉を閉めるラウルの背後から、おずおずと可愛らしい声がかかったのはその時だった。
「あ、あの……ラウル・ランカートはあなたですか?」
ファンが自宅までくっついてきたのだろうか?
睡魔と疲れに負けて、営業用のスマイルも態度も何もない。不機嫌そのもので振りかえったラウルの視線の先にいたのは、先ほどの白昼夢で見た少女だった。
ラウルは目を見張ったまま、声を発する事も忘れて呆然と少女を見下ろす。
「ラウル・ランカート、ですか?」
少女は心細げに繰り返す。
「そう、だが……?」
美しい色をしているのだが、青い瞳に違和感がある。
光を跳ね返す、無機質の……。
そこでようやくラウルは気が付いた。
「お前、ドールか―――?」
「はい、フェリシアといいます。ご主人様、どうぞよろしく」
ラウルの問いかけににっこりと笑って、少女は頷いた。
それは、世間で『ドール』という名で知られる新型の機械人形だった。
「ドールが何の用だ? どこかの主人に命令されてサインでも取りに来たのか?」
「違います」
ラウルは家の中へと入り、散らかったままのキッチンを素通りして、そのままリビングへと向かった。出かけた時のまま、脱ぎ捨ててあった衣服やら何やらが散乱している。ぶつぶつと悪態をつきながらそれらを拾い上げ、ソファーの上に放り投げる。アップライトのピアノだけが、孤高の空気を保ち、別世界にあるようだった。
振り返ると所在無げにフェリシアが玄関口で突っ立ったままだった。あまりの散らかりように驚いているようにも見えた。
ラウルは大きく息をついて、もう一度尋ねた。
「じゃあ、何をしにここへ来たんだ?」
「先ほども申し上げました。あなたがわたしの主人です。ラウル・ランカート」
にっこりと屈託のない笑顔で、当然のことのように言うので、ラウルは、一瞬、聞き間違えたのかと思った。
「何を寝ぼけている」
機械人形など買った記憶はない。必要もないし、欲しいとも思わなかった。確かに家事一切をやってくれる機械人形がいれば生活は便利になるだろう。ラウルのようなタイプは仕事に没頭してしまうと、どうしても他のことは二の次になる。結果、今のように足の踏み場もない状態に陥るわけだが、さして不便にも思わなかったのは、グレイスがいたから。ぶつぶつ文句を言いながらも、世話を焼いてくれる彼女がいたから、問題はなかったのかもしれない。
彼女のことを考えるとまだ胸が痛む。
きっかけは些細なことだったと思う。
ラウルには彼女の考えていることが理解できなかった。
機械人形に感情を持たせたいとグレイスが言い出したとき、驚きもしたが、鼻で笑ったものだった。
グレイスの実家エルフェンバイン財団は機械人形を開発し、社会に大きな変革をもたらした。機械人形はおよそ人の手でできないこと、そしてできることも、人間の命令ひとつで従順に実行していく。機械人形は、人間の生活に密着することで、瞬く間に普及していった。
優秀な物理学者であるグレイスはロボット工学の第一人者である祖父のエルフェンバイン博士と共に開発に携っていた。
機械人形に心を与えることはグレイスの子供のころからの夢だったのだという。
機械人形に心を、感情を与えてどうするというのだろう?
ラウルは心底、不思議に思った。
「私は人の命令を聞くだけの機械人形を作りたかったわけじゃないわ」
ひどく落胆をしたグレイスの顔を思い出す。
すれ違っていく心。互いに忙しくなって、顔を合わせることも少なくなって行った。不便だからと研究所に詰めるようになって、以降、グレイスは帰ってこない。
「あの……ラウル?」
少女の声にラウルは我に返った。疲れている所為か、余計な事まで思い出してしまう。ラウルは頭を振った。
フェリシアは、今はまだそれほど市場に出回っていない、最新型のアンドロイド、『ドール』だ。
ラウルを主人だと言うこの機械人形が誰から送られてきたものか、すぐ見当がついた。
こんなことをするのは彼女しかいない。
「余計なことを!」
ラウルは苛立たしく舌打ちした。
今時、機械人形のいない家は珍しいが、ラウルは頑として機械人形を使おうとはしなかった。グレイスを思い出すからと言うのも否定はしない。家庭用の機械人形が便利なことは認めるし、一度も使ったことがないとは言わない。だが、ある一件から、機械人形が大嫌いになったと言っても過言ではない。使いたいと思わなくなったのはその時からだった。
モニターは消したままで、受話器を取り上げる。
そして未だに忘れられない番号を忌々しげに押した。
だがコールする前に、小さな手によって回線は切られてしまった。
「おいっ、何をする!?」
「だめです。電話はだめです。見つかってしまう」
フェリシアは首を振り、必死に訴えてくる。そして、見つかってしまうという不穏な言葉に眉をひそめる。
「何を言っているんだ、お前?」
「ラウルはまだニュースをご覧になっていないから、ご存じないのでしょう?」
フェリシアは自分の喪服を指し、そしてテレビをつけた。
とたんに飛び込んでくる映像にラウルは釘付けになった。
見覚えのある大邸宅。
穏やかに微笑む白髪の老人の写真が祭壇に飾られている。そして大勢の喪服姿の人々が悲しみに暮れている様子が映し出されていた。
「……エルフェンバイン博士」
ラウルも良く知っている人物だ。個人的な知り合いだと言ってもいいほどの。一緒に食事をしたこともある。温かい笑みと子供のように純粋な瞳を持っている人だった。
「そんな、何故……」
体が震え、ラウルは壁に手をついた。
「一週間前、研究所が爆発し、ちょうどその場に居合わせた博士はその爆発に巻き込まれ、意識不明の重体になり、意識が戻らぬまま、一昨日に亡くなったのです。今日が本葬になります」
フェリシアが説明し始めたと同時に、テレビでもそのときの状況を伝え始めた。爆発したという研究所の焼け跡の映像。けが人を収容していく救急車両の物々しい数。そして、テレビは博士の孫娘グレイスが未だ行方不明だと告げた。
「……グレイスが行方不明?」
一週間前の映像だと伝えているのに、ラウルにとっては今現在起こっている事故にしか思えない。
ラウルはその場に座り込んで映像を食い入るように見つめた。どこかにグレイスが映っているかもしれない。怪我をして動けないのかもしれない。そう思うものの、グレイスの姿はどこにも見つけられなかった。再び画面は白い献花に囲まれた博士の写真を映し出す。
「嘘だろう……」
「博士はもしかしたらこのようなことがあるかもしれないと心配なさっていました。けれどデータを盗もうとするライバル会社たちが、まさか本当に、このような暴挙に及ぶとは思ってもみなかったのです」
「事故ではなく、仕組まれたものだというのか?」
フェリシアは重々しく頷く。
「データの盗難を恐れたグレイスは、まだ開発途中のプログラムとデータをわたしに組み込み、起動させたのです。グレイスは言いました。ラウル・ランカートがわたしの主人だと。そうして、グレイスはデータを破棄した後……いなくなってしまいました」
「いなくなったって言うのはどういうことだ!?」
噛みつかんばかりのラウルにフェリシアは身を縮込ませ、首を振った。
「申し訳ありません。ただわたしにあなたのところへ行くように告げて、いなくなってしまったのです」
「そんな……そんな馬鹿なことが、あるか」
信じられない。信じたくない。
それではグレイスは自ら失踪したことになる。
何のためなのか、どうして帰ってこないのか、何もわからない。
ラウルは気が狂いそうだった。
今すぐ飛んでいきたかったけれど、研究所があるエスタシアは遠く離れた場所で、今からシャトルに乗ったとしても、標準時間で丸一日はかかる。幸か不幸か、仕事で向かうエスタシアへのチケットが手元にあるが、それは明日の朝の便だ。
それまで悶々と過ごさなくてはいけないということだろうか。
ラウルは思いっきり拳をテーブルに叩きつけ、突っ伏した。
グレイスが行方不明だとか失踪だとか、何かの間違いだと思いたかった。
「グレイスがいなくなったから、今度は俺がお前の主人になれということか」
「……そう、グレイスはわたしに言いました」
「俺が主人だと言う割には、言うことを聞かないじゃないか。必要ないと言っているにもかかわらず、家の中に入ってくる。電話を掛けようとすれば邪魔をする」
「申し訳ありません」
フェリシアは心底、申し訳なさそうに俯いた。
所詮はグレイスの命令が最優先なのだろう。
グレイスが最後に託したものがコレか。
ラウルはぼんやりと機械人形の少女を見遣る。
ちょっと見ただけでは本当に人間の少女だと見間違えそうだ。そして『ドール』には感情がある。豊富な感情表現を持ち、涙さえ流すという。
「少しお休みになってください。ラウルはとてもお疲れのようです」
「眠れると思うのか?」
「眠ってください。今、ラウルに必要なのは睡眠です」
思いがけない強い力で背中を押されて、寝室へと押し込まれた。
「おやすみなさい」
一言だけ言い置いて、フェリシアは扉を閉める。
ラウルは仕方なく布団の中へ潜り込む。もともと眠りたかったのだ。考えたいことは山のようにあったが、すぐに睡魔は訪れた。
どこからかピアノの音が聞こえていた。
お世辞にも上手だといえない、たどたどしいタッチは、まだ習いたての初心者だったころを思い起こさせた。
一生懸命に譜面を追いかける。気持ちだけが先走りして、技術が追いつかないもどかしさ。それでも楽しくて仕方がない気持ちがよく分かる。
いくつもの音が連なって旋律になる。明るい音や楽しい音、逆に寂しい音や悲しい音もあって、それらが表情を得て輝きだす。笑っている、喜んでいる。悲しい音の時には泣くのだ。怒ったりもする。それらはとても繊細で、まっすぐに心に響いてくる。嘘のない世界。
それはラウルの心が反映されているから。
音楽には心が反映されているから、美しいのだと思う。
「私は、ラウルの音楽が好きよ。だから機械人形たちにもこの想いを教えてあげたいのよ」
グレイスの言葉は嬉しかったけれど、ラウルにはどうしても彼女の気持ちを理解することはできなかった。
心のない機械人形に音楽を解することなどできるはずがない。
譜面どおりに正確な音を出せても、心が入っていなければ、たとえ美しい旋律だったとしても、ただ美しいだけの音の連なりでしかない。それでは人の心には届かない。流れて消えていくだけだ。どうしてそれが分からないのだろう。
機械人形たちに想いを教える?
どうやって?
そういうことは門外漢のラウルにとって、雲を掴むような話である。
そうやって突っぱねて、理解しようともしなかった。
こんなことになってしまうなら、もっと早くに、素直になるべきだった。
「ごめん」と一言謝って、歩み寄ることだってできたはずだったのに。
すべて失ってから、後悔しても遅いのに。
ラウルは子供のように声を上げて泣いた。誰にも憚ることなく泣くことができた。
しばらく途絶えていたピアノが、ためらいがちに再び奏で始める。それは、とても優しく、慈愛に満ちていた。
温かい光に包まれているようで、ラウルは目が覚めたとき、不思議と穏やかな気持ちになっていた。
意外なほど、頭がすっきりとしていた。
空腹感を覚えて、ベッドサイドの時計を見ると、お昼を少し回ったところだった。
着替える前に眠ってしまったので、服がしわくちゃになっていた。とりあえずの着替えを済ませ、ラウルはリビングへ顔を出した。
扉を開けて中を見ると、部屋は綺麗に片付けられていた。ラウルが眠っている間に掃除をしたのだろう。洗濯物の山も綺麗に片付けられている。足の踏み場もなかったリビングには、ちゃんとフローリングも見えていた。
「さすがに、完璧だな」
『ドール』も、もともとはハウスキーピングが目的で製造された機械人形と基本は同じなのだ。これぐらいならお手の物なのだろう。
だが、 肝心の少女の姿はリビングにはなかった。それならばキッチンか。
ラウルはリビングを抜けてキッチンを覗き込んだ。やはり、そこにいた。
足音で察知したのか、フェリシアは振り返り、にっこりと笑った。
「あ、おはようございます。今、コーヒーを淹れますね」
いつもは寒々しい印象しかないが、誰かがいるというだけで、こんなにも印象は変わるものだろうか。小さな体でくるくると動き回る少女はとても楽しげに見えた。
だがあの笑顔は作られた笑顔なのだ。
それほどたくさんの機械人形を見ているわけではないから、一概には言えないが、機械人形たちの笑顔は、それこそ本当に、みんな同じ「笑顔」だった。楽しそうに仕事をする姿を人間に見せるために作られた笑顔だ。そんな偽物の笑顔を見せ付けられて、気分が良いはずがない。
ニセモノの感情だ。
それはおそらく、グレイスにだって分かっていたことなのだろう。
だからグレイスもあんなことを言うのだ。
グレイスの夢。
機械人形に心を与える。
それは本当の感情を与えるということだ。
本物の感情かどうかなんて誰に分かる?
「まだ開発途中だったと言ったな」
それでも試作段階とはいえ、開発途中のデータを組み込んだフェリシアは、おそらくはエルフェンバイン財団の動く企業秘密と言ったところか。
だから、「見つかってしまう」だったのか。
フェリシアが慌ててラウルの電話を切った理由がようやく分かった。
他にも機械人形を開発し、製造、販売している会社は多い。けれどエルフェンバインのブランドに勝てるだけの力を持った会社は多くはない。彼らがフェリシアを欲しがるのは至極当然だ。
「さっき、下っ手くそなピアノを弾いていたのはお前か?」
ラウルはリビングのピアノを示しながら、尋ねた。
「……はい、すみません」
フェリシアは申し訳なさそうに頭を下げる。それが元々のプログラムからなのか、開発途中の研究の成果なのか、ラウルには判断がつかない。判断がつかないから余計にタチが悪い。
芳しいコーヒーの香りが鼻腔をくすぐり、淹れたてのコーヒーが差し出された。
礼を言ってから、一口飲んで驚いた。
ラウルの好みをすでに把握していたらしい。いつもの飲み慣れた味だった。
だがそれは当然なのかもしれない。グレイスがきっとラウルの好みをインプットしておいたのだろう。
そこでラウルは、気付いた。
グレイスはラウルがフェリシアの主人になることを想定して研究を続けていたということだ。
あんなにひどいことを言って傷つけたのに。それを思い出すだけで、胸がどうしようもなく痛む。
「俺は……機械人形なんかに音楽が分かるはずがないと思っている。たとえ、『ドール』でも、だ」
今でもその考えは変わらない。ただ与えられた命令だけを忠実にこなすだけの機械人形ならば考える余地もない。けれど、フェリシアは違う。グレイスがわざわざラウルに送りつけたフェリシアなら、もしかしたら可能性があるような気がしていた。
「お前はピアノが好きなのか?」
通常だったら、機械人形に嗜好など聞いたりはしない。聞こうなどと考えもしない。
「はい!」
フェリシアは瞳を輝かせて頷いた。
その笑顔に決心した。
「分かった。お前の主人になってやる」
「はい!」
不安げだったフェリシアの顔が明るく輝くような笑顔になった。
その笑顔は間違いなく本物だとラウルは思った。
2.
グレイス、聞こえますか。
ラウルはとても優しい人ですね。
繊細で、気難しくて、すぐに不機嫌になるけれど、とても温かい人です。
ラウルの紡ぐ音楽も優しくて、何故か懐かしく感じます。
どうしてですか?
これはあなたがプログラミングしたものですか?
まだ生まれたばかりの私が、懐かしいと感じるのはとても不思議です。
そうそう、ラウルがわたしにピアノを教えてくださいました。
グレイスが教えてくれたあの曲を弾いたら、とても下手くそだと言われてしまいました。
おかしいです。グレイスが弾いたとおりに弾いたはずなんですけど。
ラウルが言うにはリズムが合っていないんだそうです。
記号がいっぱい書いてある楽譜というものと、楽曲の速度を教えてくれるメトロノームという小さな器具を見せてくださいました。
記号の意味を教えていただきながら、もう一度弾いてみると。
不思議です。まったく違う曲になりました。
ラウルは「当然だ」と笑っていらっしゃいましたが。
きっと、グレイスが教えてくださったあの曲は、グレイスの創作なのですね。
そう言ったら、ラウルがおなかを抱えて笑っていらっしゃいます。とても苦しそうで、心配です。涙を流しているのに、笑っているんです。生命の危険はありませんが、心配です。
どうしましょう、グレイス。
グレイス。
でもわたしは今、とっても楽しいと感じています。
明日、ラウルはわたしもエスタシアに連れて行ってくれると言ってくださいました。ピアノのコンサートがあるんだそうです。
夕飯が済んだら、明日の準備をしなくてはいけません。
必要なのは楽譜と衣装一式だけらしいのですが、ラウルはどうしても楽譜に触らせてくれません。どうやら、昔、機械人形に書きかけの楽譜をゴミと間違われ、捨てられたことがあるのだそうです。だから清掃用の機械人形は嫌いなんだそうです。
……『ドール』は嫌わないでほしいです。
グレイス、聞こえますか。
ラウルは音の名前を教えてくださいました。音にも名前がついているのですね。驚きました。
C, D, E, F, G, A, H(ツェー、デー、エー、エフ、ゲー、アー、ハー)
と、それぞれに名前が付いているそうです。
グレイスもわたしに名前をつけてくれました。
「フェリシア」
その意味をずっと考えています。
どうしてわたしは他の兄弟姉妹たちのように記号ではなく、名前をつけてくださったのですか?
「それはお前がグレイスの夢だったからだ」
ラウルはそう言って、とっても寂しそうにわたしを見ます。
でもラウルが見ているのはわたしではないのです。
グレイス、聞こえますか。
とってもとっても胸が苦しいです。
どこも故障などしていないはずなのに、胸が苦しくて辛いのです。
グレイス、どうしてですか?
とても寂しいのです。
グレイス、教えてください。
これは何ですか?
3.
まだ朝の早い便だからそれほど乗客はいないと思っていたが、席はほとんど埋まっていた。
ラウルはひとりシートに腰掛けて、空いている隣の席を見る。
自分の甘さ加減と罪悪感で、ラウルは席に座っているのが苦痛でたまらなかった。
フェリシアは今、貨物室にいる。
いくら最新型の『ドール』とはいえ、機械人形だ。機械人形は荷物扱いになり、電源を切られ、目的地へ着くまで眠っている。
並べられたたくさんの機械人形。その中にフェリシアもいる。
その姿を想像するだけで罪悪感がラウルを襲う。
不思議だった。
いつの間にか、フェリシアを機械人形だと思わなくなっていたらしい。
フェリシアはどう思っただろう。人間と同じ感情を持っていながら、機械であるだけで、荷物扱いされる。たぶん嫌だと思ったのではないだろうか。
それでも従順なのは、主人であるラウルの言葉に逆らえないからだ。
お前は荷物だから貨物室へ行けと、どんな顔をして言ったのか。
フェリシアはどんな顔をして頷いたのか、覚えていない。
とにかく離陸まではラウルもここにこうして縛りつけられていなければならない。
ラウルはゆっくりと目を閉じた。
エスタシアは遠い。いくつもステーションを中継して行かなくてはならない。辺境のコロニーだから仕方がないといえば仕方がない。
それでも標準時間で二十四時間そこそこで行けるようになっただけでもずいぶんと楽になったものだ。
体に軽い重力がかかり、緩やかな振動が伝わってきた。
しばらくそれが続いた後、急に体が軽くなった。座席の前のランプが緑色に点灯し、機内の空気がふっと和らいだ。
宇宙へと出たのだ。
ラウルはもどかしげにシートベルトを外すと、すぐさま座席を立った。
とても二十四時間もの間、ここでじっとしていることなどできなかった。
ピアノの音が聞こえた。
最初は気のせいかと思ったが、どうやら本当に誰かがピアノを弾いているようだ。
ラウルは貨物室から聞こえてくる音に引き寄せられるかのように長い通路を進んでいった。
扉に手をかける。どうやら鍵はかかっていないようだった。無用心だなと思いつつも、ラウルは自分が今していることに苦笑する。
扉は音もなく開いた。
人の喧騒から離れた静かな場所で、ただ唯一、ピアノの音色だけが空間を満たしている。
実際はほんの僅かな明かりに照らされていただけだったが、薄暗い貨物室の中で、グランドピアノと金髪の喪服の少女が、まるでスポットライトに照らされて、浮かび上がっているように見えた。
「フェリシア……?」
フェリシアは手を止め、驚いたように振り返った。
「ラウル!」
心底嬉しそうに顔をほころばせ、フェリシアが駆け寄ってくる。
ラウルも驚きを隠せないでいた。
「お前、電源切られたんじゃ……」
「はい、わたしもよく分かりません。でもどうしてなのか、目が覚めてしまったので、ピアノを見つけて……あの、勝手に、弾いてしまいました」
フェリシアは申し訳なさそうに身を竦める。
「まあ、いいだろうさ。ひとりでこんなところにいるんじゃ退屈だろうしな。……どれ」
ラウルは笑いながら、グランドピアノに手を伸ばした。
軽く音を鳴らしてみる。なかなかいい感じに音が響いて、コンディションは悪くはなさそうだ。
椅子を引き寄せて座ると、フェリシアもちょこんと横に座った。
「あの、ラウル……はどうしてここに?」
「んー? 俺もひとりで退屈だったからさ」
そう言うと、フェリシアは安心したように笑った。
その笑顔を見て、ラウルはやっぱり来て良かったと思った。電源を切られたまま眠るフェリシアを見たくはなかったが、起きているならなおさら、一人でこんなところに置いておくのはあまりにもかわいそうだ。
「そうだな、いいものを聴かせてやる。まだどこにも発表していない新作だぞ。本当は明日のコンサートで初披露だったんだがな」
本当はまだ照れくさい。これは彼女のために作った曲だからだ。
グレイスに聴かせたくて作った曲だったが、聴いてくれるはずだった当のグレイスはいない。
行方不明だということを考えると、いても立ってもいられなくなる。が、今はどうしようもないことを知っている。
だからほんの少しでも慰めになるのなら、フェリシアに聴いてほしいと思った。
「グレイス、という曲だ」
フェリシアは、はっと目を見開いた。
ラウルはゆっくりとした動作でピアノを弾き始めた。
静かなメロディーラインが続くバラードだ。繰り返す旋律が幾重にも重なって厚みと深みを増していく。
メロディラインも素朴で優しく、それほど目立つ手法を使っているわけではない。
心を揺さぶる旋律がラウルの中に生まれて、急いで書き留めた。それがこの曲だった。
フェリシアに分かるだろうか。
グレイスが与えたかった感情は、教えられたものではなく、ましてや最初からインプットされてあるデータでもない。心の底から自然と湧き上がってくるもののはずだ。言葉なんかでは説明がつかない、つけようもないこの想いをフェリシアは理解してくれるだろうか。
「……綺麗」
か細い、今にも消え入りそうな声でフェリシアはつぶやいた。
フェリシアは静かに涙を流していた。
おそらくは、これこそが、グレイスが望んでいたものなのではないだろうか。
「グレイスがすぐそばにいるみたい」
うっとりと目を閉じてフェリシアはささやく。
曲は最後のコーダに入っていた。
ラウルも目を閉じてグレイスを想った。
今すぐにでもグレイスに伝えてやりたかった。
夢が叶ったのだと、伝えてやりたかった。
最後の音が余韻を残して消えていく。
ラウルは大きく息をついて、顔を上げた。じっと目を閉じながら聞き入っているフェリシアを見つめる。
「なんだかとても、幸せでした。グレイスがすぐそばにいて、笑いかけてくれているような、そんな感覚がありました。そう……エスタシアのあのお屋敷で、グレイスが笑っているんです。でもどうしてなのか、胸が苦しいのです、ラウル」
フェリシアはそこで口を閉じ、苦しそうに胸を押さえた。
「ラウルがグレイスのために作った曲だと考えると、とても胸が苦しいのです」
ラウルははっとして立ち上がった。
己の迂闊さを呪った。
「どうしてですか? わたしは壊れてしまったのですか?」
「いや、お前は壊れてなんかいないよ」
そう言ってやるだけで精一杯だ。
グレイスは予想していたのだろうか。
機械人形に感情を与えたあとに、何が起こるのか。
「すぐ治まるさ、大丈夫だ」
「ラウル……」
人に恋をするなんてナンセンスだと、笑い飛ばせたらどんなに楽だろうか。
でもきっと笑い飛ばすことのほうがナンセンスなのだ。
「大丈夫だよ、お前は正常だ」
フェリシアの金の巻き毛のやわらかさを感じながら、頭を撫でる。
その時だった。
ぐらりと機体が揺れた。
次いで、けたたましい警報が鳴り響く。
「……何だ!?」
貨物室の外に出ると、通路には煙が充満していて、すぐ先の様子も見えなかった。
この煙はいったい何なのか。
すぐにエンジントラブルによるエンジン停止がアナウンスされ、緊急の退避命令が出た。遠くから悲鳴が聞こえてくる。客室がパニックに陥っていることが容易に想像された。
「フェリシア!」
ラウルは手を差し出してフェリシアを呼ぶ。
フェリシアは並んだまま眠っている機械人形たちを見つめ、ゆっくりと首を横に振った。
「わたしは無理です。きっと脱出ポットには乗れません」
「何を馬鹿なことを言っている!?」
「だって、だってわたしは『ドール』です。あそこに並んでいる機械人形と同じです」
ラウルはかっとして怒鳴った。
「だからって、お前を置いていけるか。いいから、来い! 命令だ!」
伸ばした手にフェリシアがすがりつく。
フェリシアの手をしっかりと握って、ラウルは通路を駆け出した。
来たときの通路はまっすぐで障害物は何もなかった。その記憶を頼りに、ラウルは脱出ポットのある場所へと向かう。
きっと何とかなるはずだ。そう信じたかった。
ありがたいことに脱出ポットのある場所までは煙はまだ回ってきていないようだった。
大勢の人の声が聞こえる。不安に満ちた声。
まだたくさんの人が残っている。脱出ポットの数は足りるのか、そういう声も聞こえてくる。
「ポットの数は人数分用意されています。ご安心ください」
係員が必死に乗客をなだめようとしている。一人ずつ、順番に、ポットに乗せられていく。ラウルのあとに待っている人はいない。どうやらラウルが最後の乗客らしい。そしてポットの数もラウルの分を残すのみ。
「さあ、乗ってください。あなたが最後です」
まだ少年のような係員がラウルを促す。フェリシアが機械人形だと知っているのだ。ラウルははっと気がついた。この係員も機械人形だ。
「ラウル、行ってください」
震えているのに、フェリシアはきっぱりと言う。
「嫌だ」
「ラウル! お願いですから!」
「お前を置いていけるわけがないだろう!」
フェリシアは微笑んでいるのに、どうして俺のほうが子供のように駄々をこねているのだろう。逆じゃないか。
「ラウル。伝えてください、グレイスに。幸せだった、と。ありがとうございますと、伝えてください」
「お前……? 何を言っている、グレイスは……」
突然、何を言い出すのかと驚いた。グレイスが行方不明だといったのはフェリシアじゃないか。否、ニュースがそう伝えていただけだった。フェリシアはグレイスがいなくなったとだけしか言っていない。
「生きています。グレイスは、博士も、ちゃんと生きています」
「何だって!?」
「ラウル、あなたに会えて、幸せでした」
フェリシアはにっこりと笑う。
呆然としていたラウルは、そのままポットに押し込まれた。抵抗する間もなかった。
「おいっ!」
無常にも扉は閉まり、ラウルの声は空しく狭いポットの中に響く。
外の景色が見えなくなると、天井と足元に小さな明かりが灯った。
緩やかな振動とともに、軽い衝撃を感じたと思った瞬間、目の前の小さな窓に宇宙空間が映っていた。
「フェリシア……フェリシア!!」
泣き叫んでも、どうにもならない。
ポットは一番近くのステーションに向かうようにセットされている。
もう自分の力ではどうすることもできないのだ。
「誰か、助けてくれ。フェリシアを……」
ひときわ眩い閃光が窓の外を掠める。今までシャトルがいた辺りだ。
激しい衝撃がポットに襲い掛かり、ラウルは声を上げた。
視界の片隅に、小さな光がこぼれるように流れていった。
その景色を最後に、ラウルは意識を失った。
すべてが夢だったように思えて仕方がない。白い天井を見上げながらラウルはぼんやりと考える。
あの後、ステーションに保護された乗客たちは、検査と精神的なケアのために入院している。ラウルも例に漏れず、その一人だった。
夢だったらどんなに良かっただろうか。
フェリシアが感情のないただの機械人形だったなら、これほど辛くはなかったように思える。
どんなに怖かっただろうか。
どんなに寂しかっただろうか。
きっと最後の瞬間にはラウルを恨んだだろう。
助けるつもりだったのに。
最後にひとつだけ残った脱出ポット。
機械人形だった係員のあの少年の分も残されていなかった。
「フェリシア」
あの笑顔を忘れることはできない。
おそらく、一生、忘れることはないだろうと思う。
静かにドアをノックする音が響き、ラウルは返事をすると、のろのろと体を起こした。
入ってきた人物に目を見張る。
「……グレイス」
「具合はどう?」
ほっそりとした体に、相変わらずの白衣を着て、グレイスが微笑んでいた。
呆然として言葉も出ないラウルにグレイスは苦笑する。
「フェリシアから何も聞いていないの?」
「いや、ちゃんと教えてくれた。お前は生きているって。博士も」
体を起こしたラウルの正面に向くようにしてグレイスは腰掛ける。ラウルは俯いたままだ。
「そう、私と祖父は身の危険を感じて芝居を打つことにしたのよ。あの爆発は本当に事故だったけれども、身を隠すには今しかないと判断したの。祖父もすぐに意識を取り戻したし、軽傷だったの。でも犯人は誰なのか分からなかったから、警察や病院とも相談したのよ」
「博士の遺体は、あれは……?」
「ああ、機械人形を祖父に似せて作ったの。見た? 似てたでしょ?」
「……悪趣味だ。お前のもあるのか?」
「そう言うと思ったわ。ないわよ。だから私は身を隠したんじゃない」
グレイスは一度止めて間を置くと、ラウルが顔を上げるのを待った。
「フェリシアを、どうしても守りたかったから」
ぴくりとラウルの体が震える。グレイスはラウルの頬に手を伸ばす。
「あなたを巻き込んでごめんなさい。でもフェリシアを託せるのはあなたしかいなかったの。感謝しているわ」
「やめてくれ。俺は……」
言葉を続けられなくて、ラウルはもどかしげに首を振った。
「あなたが乗っていたシャトルのトラブルも仕組まれたものだったの。フェリシアを捕らえるためにエンジントラブルを引き起こしたものだったのよ。でも安心して、犯人は捕まったから。だから私もあの子もこうして、あなたのお見舞いに来れたのだけれどね」
ラウルは眉をひそめてグレイスの言葉を聞いた。
グレイスは明るく肩をすくめながら笑う。
「あの子も私に似て運の強い子なのね、きっと。……無事よ、あの子」
「……なんだって?」
「なんでも、もうひとつ、別のところに脱出ポットが残っていたらしいの。最後まで残っていた係員があの子を乗せてくれたんだって言っていたわ」
「生きている、だって!?」
冗談を言っているのかと思った。あまりにもひどい冗談だと思った。
だがグレイスが促す視線の先に立っているのは紛れもなくフェリシアで、相変わらずの喪服姿だった。
「ラウル、またお会いできて嬉しいです」
始めてあったときと同じ笑顔で、フェリシアは笑いながら飛びついてきた。
「フェリシア!!」
ラウルは声を上げて小さな体を抱きしめた。
これは、「幸福」という名の『ドール』がもたらす、幸せの始まり。
終
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