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第一部 水の精霊王
第四話 転入生
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ざわざわとした教室内はいつまでも落ち着かず、先生がしゃべりだすまでざわついていた。
綺麗な男の子だった。
日本人ではありえない肌の白さ。透き通るような肌の白さは人種の違いをまざまざと見せつけているようで、陶器のようだ。だが血が通っているゆえに、緊張からか、ほんのりと上気してピンク色に染まっている。
赤毛は角度によっては茶色にも見え、ゆるやかに波打っていた。長髪ではないが、柔らかな髪が風に揺れている。
すこし伏せられた目の色は綺麗な青。整った顔立ちが王子様然としていて、女子生徒がはしゃいで落ち着かない。
だが彼が纏う雰囲気は少し硬質で、どこか排他的な感じもした。
緊張しているのだと思う。
いきなりクラスに溶け込める空気感はない。
女子生徒たちの華やいだ気持ちも少しばかり理解できる。泉も思わず見惚れてしまったくらいのイケメン転入生だった。
ガタンと小さく椅子が音を立てた。
泉の斜め前に座っている淳の席からだ。
淳は呆然と転入生を見つめていた。
ふいに転入生の彼も淳に視線を向けたように感じた。
彼の口元が笑みを結ぶ。
途端に女生徒たちの悲鳴が上がった。
「静かに!日下部晄くんだ。ニューヨークからお父さんのお仕事の都合で日本に来たそうだ。日本語は、大丈夫だな」
ちらりと顔を覗き込んで担任は確認する。彼は静かに頷く。
「一学期も残りわずかだが、今日から二組の仲間だ。よろしく頼むな。それから清水、クラスの委員長として慣れるまでいろいろ教えてやってくれ」
「は、はい」
淳は珍しく慌てた様子で、席を立ち返事をした。
「席は一番後ろの長井の隣だ」
はいはーい。と元気よく沙紀が手を上げる。イケメンの転入生が隣の席に来ると大喜びだ。
泉に向かって得意げな笑顔を向けてくる。世話焼きの沙紀には転入生のお世話はもってこいの役目かもしれない。
だが、それよりも淳の様子の方が気になった。
呆然と息を飲み、転入生を見つめている。
転入生も無言のまま与えられた自分の席に向かって歩いていく。
淳の席までくるとふいに立ち止まった。びくりと小さく淳が反応する。
転入生はちらりと淳を一瞥し、「よろしく」と小さくささやいて通り過ぎていった。
血の気の引いた顔で、淳は机の一点をただひたすら見つめていた。
朝のホームルームが終わり、一限目の数学が始まると、それまでざわついていたクラスの空気がまた別の意味でざわついた。
先週の期末テストの結果が返されるからだ。
一人ずつ名前を呼ばれて答案用紙を返されていく。
出席番号順なので泉は後半だ。喜びはしゃぐ生徒もいれば、がっくりと肩を落とす生徒もいて、反応はばらばらだ。泉も数学はあまり自信がない。
先に淳が呼ばれて席を立って行った。まだ青白い顔はしていたけれど、落ち着いたように見える。
担任がにこやかに「満点だ」と告げ、淳に答案用紙を返した。ドッと歓声が上がる。
淳は静かに微笑み、答案用紙を受け取ると小さく頭を下げて席に戻ってきた。
目が合うとはにかんだ顔で手を振ってくれた。
「すごーい。さすがだね!」
「ありがとう。泉はどうかな?」
「うー。私の点は期待しないで」
淳は眉を上げてどうして?と尋ねてくる。せっかく図書館で教えてもらったが、それがちゃんと点数に反映されたか不安で仕方がないのだ。
名前を呼ばれて、泉は慌てて席を立つ。
担任はいつもと変わらぬ笑顔を浮かべて、泉の答案用紙を渡してきた。
ドキドキしながら覗き込むと、42点の文字が飛び込んできた。
50点満点中42点なら上出来だ。ぱあっと泉の顔が明るくなる。
「がんばったな」
いつも平均点のあたりをうろうろしていた泉だったが、少しだけレベルアップできたようだ。
泉は答案用紙で顔を半分隠しつつ、小さく頭を下げて急いで席に戻った。
興味深々の顔で淳が泉の答案用紙を覗き込んでくる。
泉が間違えた個所を確認して「ああ、ここか」と納得したように頷いた。
「ちょっと時間が足りなかったかな。今度はじっくり説明するよ」
「うん、ありがとう」
予想より良い点が取れていたことが嬉しい気持ちと少しだけホッとする気持ちがあって、泉は転入生がじっとこちらを見ていたことに全く気付かなかった。
二限目は体育で水泳だったので、女子は更衣室に、男子はそのまま教室で着替えだった。
更衣室は今朝の転入生の話で持ちきりだった。
席が隣になった沙紀がやや興奮気味にはしゃいだ声を上げている。
「いやぁ、めっちゃいい顔してるよ。モデルでもやっていそうだよね」
「沙紀、隣の席でめちゃめちゃ役得じゃん」
「でもまだあんまりしゃべんないんだよ。日本語大丈夫だって言ってたけど、片言だったらどーしよ」
「沙紀ががんがん押していくから引いてるんじゃない?」
「失礼な!そんながっついてないゾ」
明るい笑い声があちこちから上がっていく。
泉も一緒に笑いながら手早く着替えを済ませた。狭い更衣室は熱気でむんむんとして、じっとりと汗が出てくる。
早くシャワーを浴びて、冷たいプールに飛び込みたい気分だ。
一人二人と更衣室からプールに向かう人数が増え、泉もそれに続いた。
沙紀たちはおしゃべりに花が咲きすぎて、まだかかりそうだ。
泉がプールサイドにたどり着いたときには男子生徒たちはほぼ全員揃っていて、体育教師と雑談に沸いている。中心にいるのはやはり転入生の日下部晄だった。隣には淳もいる。何かしゃべっているようだった。
ぱらぱらと女子たちが更衣室から出てきたのを見て、教師が顔を上げる。
「よおし、準備体操を始めるぞ」
その掛け声で男子たちはわらわらとプールサイドに散らばった。ちらっと淳がこちらを振り返り、笑顔を向けた。泉は小さく頷き返す。それだけでドキドキするし、ほんわりと胸が暖かくなる気がする。にやけそうになる顔を精一杯押しとどめていると、別の視線を感じてドキッとした。
転入生だ。面白そうな顔をして泉を見ていた。目を細め、少しだけ笑った気がした。
見られていたのだ。
泉は恥ずかしくなって逃げるように顔をそむける。
ちらっと視線だけで窺いみると、涼しい顔でなにやら淳に話している。淳がぴくりと肩を揺らす。こちらを見たような気がしたが、短く何かを答えすぐに彼から離れていった。
「泉っち、どうした?」
沙紀がからかうように肩を抱いてくる。
「な、なんでもないよ。沙紀ちゃん」
「んふふっ、イケメン二人が並ぶと壮観だねぇ」
赤茶色の髪が陽光を浴びて、さらに赤く燃え上がっているかのようだ。淳の髪もすこし色素が薄いせいか、透き通るような金髪に見えなくもない。二人とも、違う世界の住人のようだ。外見は全然違うし、きっとタイプも違うはずだろうと思うのだが、なんだか印象が似ている気がして泉は落ち着かなくなった。
自分たちと同じ世界の人だろうか。拓海のように水界の将軍だったとか。
ふとそんなことを考えたが、纏う気が水界のものとは違う気がした。
もっと激しい、明るさ、熱。そんなものを泉は日下部晄から感じ取っていた。
眼福とばかりに沙紀はにやにやしている。
「最近の清水っちは麗しいほどの美しさだよね。一年の時はそんなふうに見えなかったのが不思議なくらい」
確かに一年の時も同じクラスではあったけれど、あんなに綺麗な人だった記憶がない。
「整ってはいたけどねー。物静かだし。そこまで目立つ感じはなかったよね。泉っちと付き合いだしてからなんかやたら綺麗になった気がする」
「あー、わかる!わかる!」
「そうそう。高橋さんと清水くん、付き合ってるんだよね!」
クラスの女子たちがわっと群がってきた。
「いつのまに?って思った!!」
「この前、図書館で一緒にいたよね?」
「デートしてた!」
「え、えっと…あの…」
「はいはい、からかわない!泉っちは初心なんだから」
よしよしと頭を撫でられて、泉は真っ赤になって振り払う。
「さ、沙紀ちゃん!」
「んー、かわいいっ。かわいい」
クラスのみんなが沙紀と同じ目で泉を見ていた。
確かに隠れて付き合っているわけじゃないけれど、さすがに周りの目を気にするべきだった。
デートしているところも目撃されているし、恥ずかしすぎる。
周りが好意的であればあるだけ、恥ずかしさが半端ない。
「こらぁ、そこの女子!!準備運動!!しっかりやらないと、プールには入れないぞ!!」
「はぁい!!」
さすがに教師に叱られてしまった。慌てて、みんな間隔を取って準備運動を始める。この天気で、プールに入れないのはつまらなさ過ぎる。泉もそそくさと体を伸ばし始めた。
プールの青い水が陽光を反射してきらきら光っている。
渡る風が水の匂いを含んで水面を揺らす。
泉は小さいころから泳ぐのは得意だった。いつまでだって泳いでいられるし、何故か安心できる。親にはよく「体がふやけちゃうよ」と叱られたものだ。自分の前世を思い出してからはどうしてこんなに水の中が好きなのか納得した。精霊界、水界ではないけれど、水の中は懐かしい故郷と繋がっているからだ。
南高は珍しく50mプールが完備されている。さすがに競技用には市内に施設があるが、南高のプールも競技用に使用するのにも遜色ない設備が整っているのだ。
今日は遠泳で、生徒たちがぐるりとプールの中を泳ぎ続けている。長く泳いでいられない生徒は途中でなんども足を着くが、終わりの合図があるまでは続けて泳がなければならない。
大きなプールなだけあって、真ん中の水深は150cmあり、身長が156cmの泉はつま先立ちしないと沈んでしまう。長く泳ぐのも問題はないが、なるべくプールの端っこを泳ぎながら、いつでも掴まれるようにするのが常だ。
「泉っち、相変わらずフォームが綺麗だわ」
後ろから沙紀が近付いてきた。ぷかぷかと浮きながら、平泳ぎで距離を縮めてくる。
「ありがと。沙紀ちゃんもね」
「おっ、日下部っちも上手じゃん。勧誘しようかな」
泉より少し先に泳いでいた転入生を発見したらしい。沙紀は嬉々としてスピードを上げ、近付いていく。
沙紀は小さなころから水泳教室に通っていて、水泳部でもあるので泳ぎは得意なのだ。何度か同じ教室に誘われたが、結局泉は通わずじまいだった。また勧誘かと苦笑しかけて、泉はぎょっとした。
「…っ」
苦悶の声を上げ沙紀が水に沈んだからだ。
「沙紀ちゃん!?」
急いで大きく息を吸って泉は潜った。
水に入る直前、ぎょっとして背後を振り返る転入生と、騒然とする生徒たちの声に気が付いた教師が、慌てて飛び込んでくる姿を見た。
水の中で沙紀は左足をかばうように体を折り曲げている。
苦悶の表情でぎゅっと目を閉じている。
泉ははっとして沙紀の左足首にまとわりつく黒い影を見た。
何かが沙紀の足に絡みついているようにみえた。
プールの底を蹴り、その勢いのまま沙紀に近付く。
息が続かないのか、沙紀が空気を求めて喘ぐ。口から大量の空気が吐き出され、沙紀は意識を失った。
「!!」
泉は沙紀の足元に絡まっているものを手で払う。
何がまとわりついていたのかは分からなかった。
力なく流れる沙紀の体を支えようと手を伸ばすと、沙紀の背後から転入生の腕が沙紀の体を掴み、引き上げた。
泉はもう一度、プールの底を蹴って、水面に浮きあがった。
男性教師が転入生と一緒に沙紀を抱き上げてプールサイドに引きずり上げる。
「井上先生!…沙紀ちゃん!!」
追いかけて泉もプールサイドに上がる。沙紀はすでに複数の教師たちに囲まれて手当てを受けていた。
すぐに咳込んだ沙紀の声が聞こえてくる。
「長井、大丈夫か?!」
ひときわ大きく吐き出した水音と激しく咳込んで苦しげに呻く沙紀の声に、泉はホッとして座り込んだ。
「泉、大丈夫かい?」
「あ、淳くん…うん、私は大丈夫」
いつのまにか淳がすぐ隣に膝をついて覗き込んでいた。
厳しい表情で井上先生は振り返り、まっすぐに転入生と泉を見据えた。
「日下部と高橋は無事だな。だが、高橋。溺れた人の前に行ってはダメだ。引きずり込まれる。それは危険行為だ。覚えておきなさい」
「は、はい。すみません」
泉が素直に謝罪をすると教師は頷いて沙紀の方に戻って行った。
教師が去った後も淳は心配げに見つめてくる。
「ごめんね。心配かけちゃったみたいで」
「うん、なんともなくて良かった」
淳が心配してくれているのだが、泉は沙紀の足元にまとわりついていたものが気になって仕方がなかった。
あれはあの時に見た黒い影のように思えて仕方がない。
「あ、あのね…さっき…」
黒い影を見たのだと伝えようとしたところで、淳は固く表情を引き締め指を口元に持っていき、泉の言葉を封じた。
「ここでは」
口にするな。と制止されて泉は口をつぐむ。
転入生は黙ったまま沙紀たちの様子を見つめている。
生徒たちが不安げに騒ぎはじめ、授業どころではなくなってしまった。
沙紀が授業中に溺れたことで、学校内は落ち着かない空気に包まれていたが、放課後になるとそんな喧噪も収まり、誰も口にしなくなった。沙紀が無事だったこともあり、事故のショックはあったものの、日常は流れていくものなのだろう。
泉ももちろん沙紀のことはショックだったが、すでに落ち着いている。あのあと迎えに来た保護者と一緒に帰っていく沙紀には笑顔があったからだ。ただ、水中で見たあの光景が脳裏に刻みつけられてしまって、なかなか忘れることが出来ずにいる。淳が口にすることを制止したことも、泉には何か大変なことが起こってるのではないかと不安がぬぐい切れない。あの場では話せないのならば、場所を変えれば淳にも話せるのかもしれない。
泉は早くこの不安を払しょくしたかった。
泉の手の中のスマホがブルっと振動する。
沙紀からの連絡にハッとした。
かわいいスタンプとともに送られてきた「心配かけてごめんね」の文字にホッと安堵した。
校内ではスマホの使用は禁じられているので、泉は慌てて外へと出る。
直接、声を聞きたかったが我慢した。
何度かのやり取りの後、元気そうな沙紀の様子に、泉はようやく安心できたのだった。
「泉!」
校舎から駆け寄ってくるのは淳だった。泉がスマホを握り締めているのを怪訝に思ったようだ。
「沙紀ちゃんから連絡が来たの。大丈夫そうで安心した」
「そうか、それは良かった」
淳は笑顔でそう返したが、泉が待ち合わせの場所にいなかったことで心配したらしい。
「ごめんね。校舎内で開けなかったから」
「ああ、うん。それは仕方ない…もう、帰れるなら、このまま行こうか」
かばんは持って出てきているし、すぐに帰れる態勢にあった泉は頷いた。
校門を出て駅へと向かう道の途中で、プールの裏手に差し掛かったとき、不意に淳が立ち止まった。
泉も同様に立ち止まる。
視線の先には、じっと何かを睨むようにプールの外壁を見上げている少年の姿があった。
「あれは、転入生の…日下部くん?」
「…ああ」
押し殺した低い声で、淳は短く答える。聞いたことがない不穏な声音に泉は思わず淳の顔を見上げる。
「…淳くん?」
厳しい視線を向けている淳の横顔とこちらに気付いた様子のない転入生の横顔を見比べ、泉は無意識に淳の腕に手を伸ばす。
転入生はひらりとフェンスを乗り越え、プールの外壁も飛び越えて行った。
「えっ」
なんという跳躍力だろうか。人間離れした身体能力に泉は言葉を失った。
外壁を飛び越える直前、こちらをちらっと見て笑った気がしたのは気のせいだろうか。
「あいつ…まさか本当に…」
朝からずっと淳は転入生に対してなにやら緊張した態度で接していた。
他人に対して人当たりも良く、自分のように人見知りなどしない淳にしてはその態度は珍しい。
前世からの因縁があるのかもしれないと泉ですら思ったのだ。
敵なのか味方なのか分からない。
けれど敵ではなさそうだと思ったのは、転入生から感じるのはどこか同種の気配があったからだ。
猛々しい気配は武人のそれ。将軍の一人かとも思ったが、該当する人物は泉には思い浮かばない。
「もしかして、彼も精霊界の?」
淳は泉の問いかけに逡巡する。視線が彷徨い、その言葉を口にするのをためらっていた。
ブウンと空気が震えるような違和感をすぐ近くで感じて、泉ははっと周りを見渡す。淳はすぐ外壁を見上げた。
「結界を…張ったのか」
そうつぶやくと淳は泉の腰に手を回すと、片手で泉を抱いたまま、フェンスをひらりと飛び越えた。
「え、ええっ?」
驚いた泉は慌てて淳にしがみつく。着地の反動を利用して、さらに大きく飛び上がった淳はプールの外壁をも飛び越える。
下を見れば水の張ったプールとそのプールサイドには転入生の日下部晄がにやりと笑ってこちらを見上げていた。
泉の目にも透明な膜が辺りを包んでいるのが分かる。
「じゅ、淳くん…っ?」
「結界の中に入る。しっかりつかまっていて」
言われなくても泉はすでに淳の首にしがみついていた。
高所恐怖症ではなかったはずだが、目を開けて下を見ることもできない。
淳は結界に向けて手を突き出す。
すさまじい力の抵抗が二人を押し返す。だが、小さな穴を穿ち、淳は泉とともに結界の中に身を滑り込ませた。
白く発光した結界を抜けて、ゆっくりとプールサイドに降り立つ。
恐々と目を開けると、ブウンと再び空気が震える音が聞こえて、穴が開いた結界は綺麗に塞がっていった。
日下部晄が驚いた様子もなくこちらを見てにやりと笑った。
白シャツの襟もとは開かれ、両手をズボンのポケットに入れたまま、好戦的な笑みを浮かべる少年は面白そうに笑いだす。
「やはり、お前たちか…水の」
びくりと泉の腰を抱く淳の手が震えた。
悠然と笑みを浮かべて立つ転入生を泉は呆然と見つめる。
赤い炎が彼の背後に見える。熱く、激しく燃え上がる炎が赤から金へと色を変える。
その存在に覚えがあった。
一度だけ、会ったことがある。
あの美しい至高界で。
彼は四柱の一。
朱金の美しい髪と青い瞳をした精霊王。
「火の精霊王…」
「炎帝…ラファ」
泉の言葉を継いで、淳が彼の名を紡ぐ。
信じられないものを見るように淳は眼前の少年を見つめる。
「久しぶりだな。ファラ・ルーシャ。それに奥方も。相変わらず仲がよさそうだ」
人懐っこい笑みを浮かべて少年は言う。クラスの中で戸惑いながら距離を測っていた様子とはまるで違う。
本当に懐かしい友と会えた喜びが浮かんでいた。
だが、その笑みは淳の言葉で一瞬のうちに消え去った。
「…何をしに来た?」
炎帝、火の精霊王はファラ・ルーシャの親友ともいうべき存在だった。
四大のなかでも特に仲が良かったと聞いている。
それなのに、淳が纏うのは怒りの波動。疑念と抑えきれない憤怒。悲しみ。
「じゅ、淳くん?」
憎しみすら込めて、淳は少年を睨みつけている。
晄は打ち付ける淳の怒りの波動から距離を取るように、後ろに飛び退った。
「ご挨拶だな。お前が、お前たちが呼んだんだろう?」
謎のような問いかけに、淳が眉を顰める。
「何のことだ?」
淳の怒りの波動に水が反応する。
穏やかに凪いでいたはずのプールの水が、荒々しく暴れだす。
「あの日、あのとき。俺はニューヨークにいたが、お前たちの声を聴いた。そして、その声に応える彼女の声も…」
あの大雨の日。大川が氾濫したとき。
泉が記憶を取り戻したときだ。
あのとき女神に呼びかけた声が、ニューヨークにいた彼にも届いていたと言うのか。そんなことがあるだろうか。
ずっと仲間を探して呼びかけていた淳。水界の同胞だけでなく、四大の一にもその声が届いていたというのなら、それは何より嬉しいことではないだろうか。
それなのに、淳は目の前の彼を睨みつけ、感情のままに怒りを隠そうともしない。
荒れ狂う水がその心情を物語っているようだった。
「だから…わざわざ海を越えて探しにきたと言うのか?」
二人は親友ではなかったのだろうか。
こんなふうに拒絶し、疑う淳の姿がにわかに信じられなかった。
「再び、奪うつもりか?」
低く唸るような淳の言葉に、晄の顔色が変わる。
目を細め、何かに耐えるように押し黙る。
「淳くん、何を…?」
奪う、とはいったいどういうことなのか。泉には全く分からない。
泉の知らない、二人の間にあった何かが、いまこの状況を作っていることだけは確かだ。
「お前は…一番初めだったからな」
あきらめたような声で、晄はつぶやいた。
ドキッと泉の心臓が音を立てる。
炎帝が口にした言葉を、恐怖とともに聞く。
それは、ファラ・ルーシャが四大のなかで一番最初に戦死したのだと、そう告げているのだと理解した。
「マナン・ティアールが失われて…次がフィーラ・メア」
水界が失われたことで瓦解していく精霊界。
「門の守護を失った至高界に黒い楔が穿たれた…」
「お前が!!」
淡々と話し続ける晄の言葉をさえぎって淳は激昂する。
プールの水が渦を巻き、いくつもの水柱となって大きく膨れ上がった。
「お前が、奪ったからだろう!?」
淳の叫びが合図となって、水柱が晄に襲い掛かった。
音を立てて襲い掛かる水柱を、晄は軽快なフットワークでかわしていく。
だが淳は晄の足を奪うように追い詰めていく。
「彼女を!!」
ひときわ大きな水柱が、晄の体を捕えた。ぐるりと体を拘束し、締め上げる。
「うっ!!」
苦悶の表情を浮かべて晄は呻く。
ぎりぎりと締め上げてくる水の圧迫に、晄ははくはくと口を開ける。
「ダメ!淳くん、やめて!死んじゃう!」
泉は淳にしがみつき嘆願する。理由は分からないが、淳が親友だった彼を傷つけるのは見ていられなかった。
水柱の拘束がゆらぎ、晄はプールにと投げ出された。
投げ出された晄の周りを水が渦巻いている。いつでも拘束できるのだと見せつけるかのように。
それでも彼を解放してくれたことにホッとした。
晄はプールの底に体を横たえ、激しく咳込んでいた。
「泉、どうして止める?」
「え、だって。彼はファラ・ルーシャの友だちだったはずでしょ?」
くっと悔し気に淳は顔をゆがめる。
「沙紀ちゃんを助けてくれたもの。悪い人じゃ…」
「泉…あいつは、裏切り者だ」
底冷えするような声で淳はそう告げる。
びくりとその怒りに触れた気がして泉は震える。
「え?」
「あいつは、シルファを…」
その言葉の禍々しさと、これから告げられるであろう言葉に、泉は立ちすくむ。
「…神聖不可侵の女神を…穢したんだ」
「え?…ど…うして…」
血の気が引いて、愕然と泉は淳を見つめる。
「…そんな」
何よりも大切な命の乙女を。
女神を護ることを至上の命としている四大の王たちが。
穢したとはどういうことなのか。
「アル・ファラルはお前を拘束したはずだ。裏切り者として」
くっくっと背後から晄の笑い声が聞こえて、振り返った。
底光りするような暗い光を湛えて、晄の瞳が怒りでらんらんと輝く。
「まったく…やってくれるぜ」
晄は右手で何かを掴み上げていた。
それが何か見定めようと目を凝らしたとき、それは人型を取り、大きく膨張した。
黒い、影が、人の形を取っていた。
晄の手によって首を掴まれ、苦し気に体をけいれんさせている。
「黒い影…」
「そうだ。こいつが、長井を襲った」
好戦的な目を黒い影に向けながら、晄は泉の問いに答える。
「ど、どうして沙紀ちゃんを…」
「長井が標的になったのはたまたま俺の近くにいたからだ。こいつが狙っていたのは俺のはずだからな」
「え?」
「まったく、しつこいやつらだ」
ぎりっと手に力を入れただけで、黒い影はぎゃっと断末魔の声を上げ、霧散した。
ひらひらと小さな葉っぱが風に揺られて落ちていく。
その光景を淳は眉をひそめて見つめている。
「木の葉の形代?」
晄がその葉を拾い上げ、ひらひらと揺らす。
「そうだ。これがどういうわけか、お前には分かるか?」
木の葉の形代を得意とするのは地の精霊たちだ。だが、誰かを襲うための術など、彼らが好んで使うことはなかった。おおらかで愛情深いのが地の精霊たちの特徴だからだ。光に一番近いとされるシルファにもっとも信頼されているのが地の精霊王。アル・ファラルが使う術では到底あり得ない。
何者かがアル・ファラルの術を真似て貶めようとしているのだろうか。
「俺たちは人間界に転生させられた。お前たちだけではなく、風も、地も」
「四大すべてが…ここに?」
「それはシルファの意思ではない。シルファではない誰かによって成され、歪まされている」
「シルファの意思ではないとどうしてお前が言える?」
いまだ疑念を捨てきれない淳が畳みかけるように問いただす。
「誰が俺たちを転生させたか、知っているからだ」
晄の放った言葉に泉も淳も絶句した。
どうして自分たちは転生したのか。ずっと疑問に思っていた。
再びの邂逅はこの上なく幸せで、何よりも得難い出来事だった。
けれど、記憶を持ったままこの世にあるのは何故なのだろうという疑問は消せない。
新しい生ではなく、途切れた運命を再生させるがごとく、力も記憶も、想いも受け継がれている。
まるで誰かがその運命を紡いでいるかのように。
その誰かを、運命を動かしている誰かを、彼は知っているのだという。
歪まされた、というのが気になった。
「俺はシルファを穢してなどいない。冤罪だ」
静かに、晄は淳をまっすぐ見据え、そう告げた。
終
綺麗な男の子だった。
日本人ではありえない肌の白さ。透き通るような肌の白さは人種の違いをまざまざと見せつけているようで、陶器のようだ。だが血が通っているゆえに、緊張からか、ほんのりと上気してピンク色に染まっている。
赤毛は角度によっては茶色にも見え、ゆるやかに波打っていた。長髪ではないが、柔らかな髪が風に揺れている。
すこし伏せられた目の色は綺麗な青。整った顔立ちが王子様然としていて、女子生徒がはしゃいで落ち着かない。
だが彼が纏う雰囲気は少し硬質で、どこか排他的な感じもした。
緊張しているのだと思う。
いきなりクラスに溶け込める空気感はない。
女子生徒たちの華やいだ気持ちも少しばかり理解できる。泉も思わず見惚れてしまったくらいのイケメン転入生だった。
ガタンと小さく椅子が音を立てた。
泉の斜め前に座っている淳の席からだ。
淳は呆然と転入生を見つめていた。
ふいに転入生の彼も淳に視線を向けたように感じた。
彼の口元が笑みを結ぶ。
途端に女生徒たちの悲鳴が上がった。
「静かに!日下部晄くんだ。ニューヨークからお父さんのお仕事の都合で日本に来たそうだ。日本語は、大丈夫だな」
ちらりと顔を覗き込んで担任は確認する。彼は静かに頷く。
「一学期も残りわずかだが、今日から二組の仲間だ。よろしく頼むな。それから清水、クラスの委員長として慣れるまでいろいろ教えてやってくれ」
「は、はい」
淳は珍しく慌てた様子で、席を立ち返事をした。
「席は一番後ろの長井の隣だ」
はいはーい。と元気よく沙紀が手を上げる。イケメンの転入生が隣の席に来ると大喜びだ。
泉に向かって得意げな笑顔を向けてくる。世話焼きの沙紀には転入生のお世話はもってこいの役目かもしれない。
だが、それよりも淳の様子の方が気になった。
呆然と息を飲み、転入生を見つめている。
転入生も無言のまま与えられた自分の席に向かって歩いていく。
淳の席までくるとふいに立ち止まった。びくりと小さく淳が反応する。
転入生はちらりと淳を一瞥し、「よろしく」と小さくささやいて通り過ぎていった。
血の気の引いた顔で、淳は机の一点をただひたすら見つめていた。
朝のホームルームが終わり、一限目の数学が始まると、それまでざわついていたクラスの空気がまた別の意味でざわついた。
先週の期末テストの結果が返されるからだ。
一人ずつ名前を呼ばれて答案用紙を返されていく。
出席番号順なので泉は後半だ。喜びはしゃぐ生徒もいれば、がっくりと肩を落とす生徒もいて、反応はばらばらだ。泉も数学はあまり自信がない。
先に淳が呼ばれて席を立って行った。まだ青白い顔はしていたけれど、落ち着いたように見える。
担任がにこやかに「満点だ」と告げ、淳に答案用紙を返した。ドッと歓声が上がる。
淳は静かに微笑み、答案用紙を受け取ると小さく頭を下げて席に戻ってきた。
目が合うとはにかんだ顔で手を振ってくれた。
「すごーい。さすがだね!」
「ありがとう。泉はどうかな?」
「うー。私の点は期待しないで」
淳は眉を上げてどうして?と尋ねてくる。せっかく図書館で教えてもらったが、それがちゃんと点数に反映されたか不安で仕方がないのだ。
名前を呼ばれて、泉は慌てて席を立つ。
担任はいつもと変わらぬ笑顔を浮かべて、泉の答案用紙を渡してきた。
ドキドキしながら覗き込むと、42点の文字が飛び込んできた。
50点満点中42点なら上出来だ。ぱあっと泉の顔が明るくなる。
「がんばったな」
いつも平均点のあたりをうろうろしていた泉だったが、少しだけレベルアップできたようだ。
泉は答案用紙で顔を半分隠しつつ、小さく頭を下げて急いで席に戻った。
興味深々の顔で淳が泉の答案用紙を覗き込んでくる。
泉が間違えた個所を確認して「ああ、ここか」と納得したように頷いた。
「ちょっと時間が足りなかったかな。今度はじっくり説明するよ」
「うん、ありがとう」
予想より良い点が取れていたことが嬉しい気持ちと少しだけホッとする気持ちがあって、泉は転入生がじっとこちらを見ていたことに全く気付かなかった。
二限目は体育で水泳だったので、女子は更衣室に、男子はそのまま教室で着替えだった。
更衣室は今朝の転入生の話で持ちきりだった。
席が隣になった沙紀がやや興奮気味にはしゃいだ声を上げている。
「いやぁ、めっちゃいい顔してるよ。モデルでもやっていそうだよね」
「沙紀、隣の席でめちゃめちゃ役得じゃん」
「でもまだあんまりしゃべんないんだよ。日本語大丈夫だって言ってたけど、片言だったらどーしよ」
「沙紀ががんがん押していくから引いてるんじゃない?」
「失礼な!そんながっついてないゾ」
明るい笑い声があちこちから上がっていく。
泉も一緒に笑いながら手早く着替えを済ませた。狭い更衣室は熱気でむんむんとして、じっとりと汗が出てくる。
早くシャワーを浴びて、冷たいプールに飛び込みたい気分だ。
一人二人と更衣室からプールに向かう人数が増え、泉もそれに続いた。
沙紀たちはおしゃべりに花が咲きすぎて、まだかかりそうだ。
泉がプールサイドにたどり着いたときには男子生徒たちはほぼ全員揃っていて、体育教師と雑談に沸いている。中心にいるのはやはり転入生の日下部晄だった。隣には淳もいる。何かしゃべっているようだった。
ぱらぱらと女子たちが更衣室から出てきたのを見て、教師が顔を上げる。
「よおし、準備体操を始めるぞ」
その掛け声で男子たちはわらわらとプールサイドに散らばった。ちらっと淳がこちらを振り返り、笑顔を向けた。泉は小さく頷き返す。それだけでドキドキするし、ほんわりと胸が暖かくなる気がする。にやけそうになる顔を精一杯押しとどめていると、別の視線を感じてドキッとした。
転入生だ。面白そうな顔をして泉を見ていた。目を細め、少しだけ笑った気がした。
見られていたのだ。
泉は恥ずかしくなって逃げるように顔をそむける。
ちらっと視線だけで窺いみると、涼しい顔でなにやら淳に話している。淳がぴくりと肩を揺らす。こちらを見たような気がしたが、短く何かを答えすぐに彼から離れていった。
「泉っち、どうした?」
沙紀がからかうように肩を抱いてくる。
「な、なんでもないよ。沙紀ちゃん」
「んふふっ、イケメン二人が並ぶと壮観だねぇ」
赤茶色の髪が陽光を浴びて、さらに赤く燃え上がっているかのようだ。淳の髪もすこし色素が薄いせいか、透き通るような金髪に見えなくもない。二人とも、違う世界の住人のようだ。外見は全然違うし、きっとタイプも違うはずだろうと思うのだが、なんだか印象が似ている気がして泉は落ち着かなくなった。
自分たちと同じ世界の人だろうか。拓海のように水界の将軍だったとか。
ふとそんなことを考えたが、纏う気が水界のものとは違う気がした。
もっと激しい、明るさ、熱。そんなものを泉は日下部晄から感じ取っていた。
眼福とばかりに沙紀はにやにやしている。
「最近の清水っちは麗しいほどの美しさだよね。一年の時はそんなふうに見えなかったのが不思議なくらい」
確かに一年の時も同じクラスではあったけれど、あんなに綺麗な人だった記憶がない。
「整ってはいたけどねー。物静かだし。そこまで目立つ感じはなかったよね。泉っちと付き合いだしてからなんかやたら綺麗になった気がする」
「あー、わかる!わかる!」
「そうそう。高橋さんと清水くん、付き合ってるんだよね!」
クラスの女子たちがわっと群がってきた。
「いつのまに?って思った!!」
「この前、図書館で一緒にいたよね?」
「デートしてた!」
「え、えっと…あの…」
「はいはい、からかわない!泉っちは初心なんだから」
よしよしと頭を撫でられて、泉は真っ赤になって振り払う。
「さ、沙紀ちゃん!」
「んー、かわいいっ。かわいい」
クラスのみんなが沙紀と同じ目で泉を見ていた。
確かに隠れて付き合っているわけじゃないけれど、さすがに周りの目を気にするべきだった。
デートしているところも目撃されているし、恥ずかしすぎる。
周りが好意的であればあるだけ、恥ずかしさが半端ない。
「こらぁ、そこの女子!!準備運動!!しっかりやらないと、プールには入れないぞ!!」
「はぁい!!」
さすがに教師に叱られてしまった。慌てて、みんな間隔を取って準備運動を始める。この天気で、プールに入れないのはつまらなさ過ぎる。泉もそそくさと体を伸ばし始めた。
プールの青い水が陽光を反射してきらきら光っている。
渡る風が水の匂いを含んで水面を揺らす。
泉は小さいころから泳ぐのは得意だった。いつまでだって泳いでいられるし、何故か安心できる。親にはよく「体がふやけちゃうよ」と叱られたものだ。自分の前世を思い出してからはどうしてこんなに水の中が好きなのか納得した。精霊界、水界ではないけれど、水の中は懐かしい故郷と繋がっているからだ。
南高は珍しく50mプールが完備されている。さすがに競技用には市内に施設があるが、南高のプールも競技用に使用するのにも遜色ない設備が整っているのだ。
今日は遠泳で、生徒たちがぐるりとプールの中を泳ぎ続けている。長く泳いでいられない生徒は途中でなんども足を着くが、終わりの合図があるまでは続けて泳がなければならない。
大きなプールなだけあって、真ん中の水深は150cmあり、身長が156cmの泉はつま先立ちしないと沈んでしまう。長く泳ぐのも問題はないが、なるべくプールの端っこを泳ぎながら、いつでも掴まれるようにするのが常だ。
「泉っち、相変わらずフォームが綺麗だわ」
後ろから沙紀が近付いてきた。ぷかぷかと浮きながら、平泳ぎで距離を縮めてくる。
「ありがと。沙紀ちゃんもね」
「おっ、日下部っちも上手じゃん。勧誘しようかな」
泉より少し先に泳いでいた転入生を発見したらしい。沙紀は嬉々としてスピードを上げ、近付いていく。
沙紀は小さなころから水泳教室に通っていて、水泳部でもあるので泳ぎは得意なのだ。何度か同じ教室に誘われたが、結局泉は通わずじまいだった。また勧誘かと苦笑しかけて、泉はぎょっとした。
「…っ」
苦悶の声を上げ沙紀が水に沈んだからだ。
「沙紀ちゃん!?」
急いで大きく息を吸って泉は潜った。
水に入る直前、ぎょっとして背後を振り返る転入生と、騒然とする生徒たちの声に気が付いた教師が、慌てて飛び込んでくる姿を見た。
水の中で沙紀は左足をかばうように体を折り曲げている。
苦悶の表情でぎゅっと目を閉じている。
泉ははっとして沙紀の左足首にまとわりつく黒い影を見た。
何かが沙紀の足に絡みついているようにみえた。
プールの底を蹴り、その勢いのまま沙紀に近付く。
息が続かないのか、沙紀が空気を求めて喘ぐ。口から大量の空気が吐き出され、沙紀は意識を失った。
「!!」
泉は沙紀の足元に絡まっているものを手で払う。
何がまとわりついていたのかは分からなかった。
力なく流れる沙紀の体を支えようと手を伸ばすと、沙紀の背後から転入生の腕が沙紀の体を掴み、引き上げた。
泉はもう一度、プールの底を蹴って、水面に浮きあがった。
男性教師が転入生と一緒に沙紀を抱き上げてプールサイドに引きずり上げる。
「井上先生!…沙紀ちゃん!!」
追いかけて泉もプールサイドに上がる。沙紀はすでに複数の教師たちに囲まれて手当てを受けていた。
すぐに咳込んだ沙紀の声が聞こえてくる。
「長井、大丈夫か?!」
ひときわ大きく吐き出した水音と激しく咳込んで苦しげに呻く沙紀の声に、泉はホッとして座り込んだ。
「泉、大丈夫かい?」
「あ、淳くん…うん、私は大丈夫」
いつのまにか淳がすぐ隣に膝をついて覗き込んでいた。
厳しい表情で井上先生は振り返り、まっすぐに転入生と泉を見据えた。
「日下部と高橋は無事だな。だが、高橋。溺れた人の前に行ってはダメだ。引きずり込まれる。それは危険行為だ。覚えておきなさい」
「は、はい。すみません」
泉が素直に謝罪をすると教師は頷いて沙紀の方に戻って行った。
教師が去った後も淳は心配げに見つめてくる。
「ごめんね。心配かけちゃったみたいで」
「うん、なんともなくて良かった」
淳が心配してくれているのだが、泉は沙紀の足元にまとわりついていたものが気になって仕方がなかった。
あれはあの時に見た黒い影のように思えて仕方がない。
「あ、あのね…さっき…」
黒い影を見たのだと伝えようとしたところで、淳は固く表情を引き締め指を口元に持っていき、泉の言葉を封じた。
「ここでは」
口にするな。と制止されて泉は口をつぐむ。
転入生は黙ったまま沙紀たちの様子を見つめている。
生徒たちが不安げに騒ぎはじめ、授業どころではなくなってしまった。
沙紀が授業中に溺れたことで、学校内は落ち着かない空気に包まれていたが、放課後になるとそんな喧噪も収まり、誰も口にしなくなった。沙紀が無事だったこともあり、事故のショックはあったものの、日常は流れていくものなのだろう。
泉ももちろん沙紀のことはショックだったが、すでに落ち着いている。あのあと迎えに来た保護者と一緒に帰っていく沙紀には笑顔があったからだ。ただ、水中で見たあの光景が脳裏に刻みつけられてしまって、なかなか忘れることが出来ずにいる。淳が口にすることを制止したことも、泉には何か大変なことが起こってるのではないかと不安がぬぐい切れない。あの場では話せないのならば、場所を変えれば淳にも話せるのかもしれない。
泉は早くこの不安を払しょくしたかった。
泉の手の中のスマホがブルっと振動する。
沙紀からの連絡にハッとした。
かわいいスタンプとともに送られてきた「心配かけてごめんね」の文字にホッと安堵した。
校内ではスマホの使用は禁じられているので、泉は慌てて外へと出る。
直接、声を聞きたかったが我慢した。
何度かのやり取りの後、元気そうな沙紀の様子に、泉はようやく安心できたのだった。
「泉!」
校舎から駆け寄ってくるのは淳だった。泉がスマホを握り締めているのを怪訝に思ったようだ。
「沙紀ちゃんから連絡が来たの。大丈夫そうで安心した」
「そうか、それは良かった」
淳は笑顔でそう返したが、泉が待ち合わせの場所にいなかったことで心配したらしい。
「ごめんね。校舎内で開けなかったから」
「ああ、うん。それは仕方ない…もう、帰れるなら、このまま行こうか」
かばんは持って出てきているし、すぐに帰れる態勢にあった泉は頷いた。
校門を出て駅へと向かう道の途中で、プールの裏手に差し掛かったとき、不意に淳が立ち止まった。
泉も同様に立ち止まる。
視線の先には、じっと何かを睨むようにプールの外壁を見上げている少年の姿があった。
「あれは、転入生の…日下部くん?」
「…ああ」
押し殺した低い声で、淳は短く答える。聞いたことがない不穏な声音に泉は思わず淳の顔を見上げる。
「…淳くん?」
厳しい視線を向けている淳の横顔とこちらに気付いた様子のない転入生の横顔を見比べ、泉は無意識に淳の腕に手を伸ばす。
転入生はひらりとフェンスを乗り越え、プールの外壁も飛び越えて行った。
「えっ」
なんという跳躍力だろうか。人間離れした身体能力に泉は言葉を失った。
外壁を飛び越える直前、こちらをちらっと見て笑った気がしたのは気のせいだろうか。
「あいつ…まさか本当に…」
朝からずっと淳は転入生に対してなにやら緊張した態度で接していた。
他人に対して人当たりも良く、自分のように人見知りなどしない淳にしてはその態度は珍しい。
前世からの因縁があるのかもしれないと泉ですら思ったのだ。
敵なのか味方なのか分からない。
けれど敵ではなさそうだと思ったのは、転入生から感じるのはどこか同種の気配があったからだ。
猛々しい気配は武人のそれ。将軍の一人かとも思ったが、該当する人物は泉には思い浮かばない。
「もしかして、彼も精霊界の?」
淳は泉の問いかけに逡巡する。視線が彷徨い、その言葉を口にするのをためらっていた。
ブウンと空気が震えるような違和感をすぐ近くで感じて、泉ははっと周りを見渡す。淳はすぐ外壁を見上げた。
「結界を…張ったのか」
そうつぶやくと淳は泉の腰に手を回すと、片手で泉を抱いたまま、フェンスをひらりと飛び越えた。
「え、ええっ?」
驚いた泉は慌てて淳にしがみつく。着地の反動を利用して、さらに大きく飛び上がった淳はプールの外壁をも飛び越える。
下を見れば水の張ったプールとそのプールサイドには転入生の日下部晄がにやりと笑ってこちらを見上げていた。
泉の目にも透明な膜が辺りを包んでいるのが分かる。
「じゅ、淳くん…っ?」
「結界の中に入る。しっかりつかまっていて」
言われなくても泉はすでに淳の首にしがみついていた。
高所恐怖症ではなかったはずだが、目を開けて下を見ることもできない。
淳は結界に向けて手を突き出す。
すさまじい力の抵抗が二人を押し返す。だが、小さな穴を穿ち、淳は泉とともに結界の中に身を滑り込ませた。
白く発光した結界を抜けて、ゆっくりとプールサイドに降り立つ。
恐々と目を開けると、ブウンと再び空気が震える音が聞こえて、穴が開いた結界は綺麗に塞がっていった。
日下部晄が驚いた様子もなくこちらを見てにやりと笑った。
白シャツの襟もとは開かれ、両手をズボンのポケットに入れたまま、好戦的な笑みを浮かべる少年は面白そうに笑いだす。
「やはり、お前たちか…水の」
びくりと泉の腰を抱く淳の手が震えた。
悠然と笑みを浮かべて立つ転入生を泉は呆然と見つめる。
赤い炎が彼の背後に見える。熱く、激しく燃え上がる炎が赤から金へと色を変える。
その存在に覚えがあった。
一度だけ、会ったことがある。
あの美しい至高界で。
彼は四柱の一。
朱金の美しい髪と青い瞳をした精霊王。
「火の精霊王…」
「炎帝…ラファ」
泉の言葉を継いで、淳が彼の名を紡ぐ。
信じられないものを見るように淳は眼前の少年を見つめる。
「久しぶりだな。ファラ・ルーシャ。それに奥方も。相変わらず仲がよさそうだ」
人懐っこい笑みを浮かべて少年は言う。クラスの中で戸惑いながら距離を測っていた様子とはまるで違う。
本当に懐かしい友と会えた喜びが浮かんでいた。
だが、その笑みは淳の言葉で一瞬のうちに消え去った。
「…何をしに来た?」
炎帝、火の精霊王はファラ・ルーシャの親友ともいうべき存在だった。
四大のなかでも特に仲が良かったと聞いている。
それなのに、淳が纏うのは怒りの波動。疑念と抑えきれない憤怒。悲しみ。
「じゅ、淳くん?」
憎しみすら込めて、淳は少年を睨みつけている。
晄は打ち付ける淳の怒りの波動から距離を取るように、後ろに飛び退った。
「ご挨拶だな。お前が、お前たちが呼んだんだろう?」
謎のような問いかけに、淳が眉を顰める。
「何のことだ?」
淳の怒りの波動に水が反応する。
穏やかに凪いでいたはずのプールの水が、荒々しく暴れだす。
「あの日、あのとき。俺はニューヨークにいたが、お前たちの声を聴いた。そして、その声に応える彼女の声も…」
あの大雨の日。大川が氾濫したとき。
泉が記憶を取り戻したときだ。
あのとき女神に呼びかけた声が、ニューヨークにいた彼にも届いていたと言うのか。そんなことがあるだろうか。
ずっと仲間を探して呼びかけていた淳。水界の同胞だけでなく、四大の一にもその声が届いていたというのなら、それは何より嬉しいことではないだろうか。
それなのに、淳は目の前の彼を睨みつけ、感情のままに怒りを隠そうともしない。
荒れ狂う水がその心情を物語っているようだった。
「だから…わざわざ海を越えて探しにきたと言うのか?」
二人は親友ではなかったのだろうか。
こんなふうに拒絶し、疑う淳の姿がにわかに信じられなかった。
「再び、奪うつもりか?」
低く唸るような淳の言葉に、晄の顔色が変わる。
目を細め、何かに耐えるように押し黙る。
「淳くん、何を…?」
奪う、とはいったいどういうことなのか。泉には全く分からない。
泉の知らない、二人の間にあった何かが、いまこの状況を作っていることだけは確かだ。
「お前は…一番初めだったからな」
あきらめたような声で、晄はつぶやいた。
ドキッと泉の心臓が音を立てる。
炎帝が口にした言葉を、恐怖とともに聞く。
それは、ファラ・ルーシャが四大のなかで一番最初に戦死したのだと、そう告げているのだと理解した。
「マナン・ティアールが失われて…次がフィーラ・メア」
水界が失われたことで瓦解していく精霊界。
「門の守護を失った至高界に黒い楔が穿たれた…」
「お前が!!」
淡々と話し続ける晄の言葉をさえぎって淳は激昂する。
プールの水が渦を巻き、いくつもの水柱となって大きく膨れ上がった。
「お前が、奪ったからだろう!?」
淳の叫びが合図となって、水柱が晄に襲い掛かった。
音を立てて襲い掛かる水柱を、晄は軽快なフットワークでかわしていく。
だが淳は晄の足を奪うように追い詰めていく。
「彼女を!!」
ひときわ大きな水柱が、晄の体を捕えた。ぐるりと体を拘束し、締め上げる。
「うっ!!」
苦悶の表情を浮かべて晄は呻く。
ぎりぎりと締め上げてくる水の圧迫に、晄ははくはくと口を開ける。
「ダメ!淳くん、やめて!死んじゃう!」
泉は淳にしがみつき嘆願する。理由は分からないが、淳が親友だった彼を傷つけるのは見ていられなかった。
水柱の拘束がゆらぎ、晄はプールにと投げ出された。
投げ出された晄の周りを水が渦巻いている。いつでも拘束できるのだと見せつけるかのように。
それでも彼を解放してくれたことにホッとした。
晄はプールの底に体を横たえ、激しく咳込んでいた。
「泉、どうして止める?」
「え、だって。彼はファラ・ルーシャの友だちだったはずでしょ?」
くっと悔し気に淳は顔をゆがめる。
「沙紀ちゃんを助けてくれたもの。悪い人じゃ…」
「泉…あいつは、裏切り者だ」
底冷えするような声で淳はそう告げる。
びくりとその怒りに触れた気がして泉は震える。
「え?」
「あいつは、シルファを…」
その言葉の禍々しさと、これから告げられるであろう言葉に、泉は立ちすくむ。
「…神聖不可侵の女神を…穢したんだ」
「え?…ど…うして…」
血の気が引いて、愕然と泉は淳を見つめる。
「…そんな」
何よりも大切な命の乙女を。
女神を護ることを至上の命としている四大の王たちが。
穢したとはどういうことなのか。
「アル・ファラルはお前を拘束したはずだ。裏切り者として」
くっくっと背後から晄の笑い声が聞こえて、振り返った。
底光りするような暗い光を湛えて、晄の瞳が怒りでらんらんと輝く。
「まったく…やってくれるぜ」
晄は右手で何かを掴み上げていた。
それが何か見定めようと目を凝らしたとき、それは人型を取り、大きく膨張した。
黒い、影が、人の形を取っていた。
晄の手によって首を掴まれ、苦し気に体をけいれんさせている。
「黒い影…」
「そうだ。こいつが、長井を襲った」
好戦的な目を黒い影に向けながら、晄は泉の問いに答える。
「ど、どうして沙紀ちゃんを…」
「長井が標的になったのはたまたま俺の近くにいたからだ。こいつが狙っていたのは俺のはずだからな」
「え?」
「まったく、しつこいやつらだ」
ぎりっと手に力を入れただけで、黒い影はぎゃっと断末魔の声を上げ、霧散した。
ひらひらと小さな葉っぱが風に揺られて落ちていく。
その光景を淳は眉をひそめて見つめている。
「木の葉の形代?」
晄がその葉を拾い上げ、ひらひらと揺らす。
「そうだ。これがどういうわけか、お前には分かるか?」
木の葉の形代を得意とするのは地の精霊たちだ。だが、誰かを襲うための術など、彼らが好んで使うことはなかった。おおらかで愛情深いのが地の精霊たちの特徴だからだ。光に一番近いとされるシルファにもっとも信頼されているのが地の精霊王。アル・ファラルが使う術では到底あり得ない。
何者かがアル・ファラルの術を真似て貶めようとしているのだろうか。
「俺たちは人間界に転生させられた。お前たちだけではなく、風も、地も」
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再びの邂逅はこの上なく幸せで、何よりも得難い出来事だった。
けれど、記憶を持ったままこの世にあるのは何故なのだろうという疑問は消せない。
新しい生ではなく、途切れた運命を再生させるがごとく、力も記憶も、想いも受け継がれている。
まるで誰かがその運命を紡いでいるかのように。
その誰かを、運命を動かしている誰かを、彼は知っているのだという。
歪まされた、というのが気になった。
「俺はシルファを穢してなどいない。冤罪だ」
静かに、晄は淳をまっすぐ見据え、そう告げた。
終
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