3 / 4
【学校生活の始まり】
しおりを挟む
桜が咲き乱れる今日、入寮手続きを終え、紫ともに寮へ向かっている最中だ。桜女子の寮は二人一部屋と決まっている。普通の高校生なら、相室になる同居人がどんな人か気になって、悶々・鬱々・ワクワクと過ごすのかもしれない。
ただし、普通ではない私は、そんな学生らしい悩みとは無縁だ。当然というかやっぱりというか、部屋の相手は予想通り紫である。
「父の計らいで相部屋になったの」
まあ、護衛の件を考えれば当然だが、納得いかないこともある。最善策を考えるなら、部外者が多い寮暮らしは避けた方が良いはずだ。それよりも、瑕たちがいる実家暮らしのほうが安全ではないかと思う。
「そこは私のわがままなのよ。高校に進学してからも、瑕たちに頼りっぱなしでは面白くないでしょ」
紫からお願いしたのか。自分が狙われていると言うのに、えらく甘い考えだ。危機感が足らないのではないか。
「ごめんなさいね。灯にも負担がかかると思うけど、それほどではないと思うわ。私の為に色々と細工がしてあるから、寮内では襲われにくいはずよ」
なるほど、それならまだ納得できる話かな。しかし、そうなると学校自体にも似たような細工が、施されているのだろうか?
「当たり。実際は、学校どころかこの辺の地域全体に仕掛けがあるのよ。ただし、どの場所も寮の自室よりは不完全なものになっているわ。立ち入りが制限できる部屋と、誰もが自由に歩ける街では、差が出ても仕方のない話ではあるけれど」
そうなんだ。ということは、防備は思っていたより万全なのかも。実際のところ、私の出番はほとんどないのかもしれない。
「そうね。普通の暴漢程度なら、私を襲おうとも思わないはずよ。逆に言えば、それでも襲撃してくるものは、常識外の存在ということになるわ」
弓永 宗みたいな、か。
「ねえ……」
何?
「『虫』を使った会話じゃ、話しづらいわ」
「これは、『虫』を操るための訓練なんだから、付き合ってよ」
実は今までの会話で、私は言葉を発していなかった。『虫』を使って、私の考えを紫へと伝えていたのだ。『虫』は常人には気づかれない存在で、異様な存在がそこらにいるのに、誰も気にしない。刀もそうであったが、尋常ならざるモノはそういったことが得意らしかった。
「『虫』による念話は、灯の考えをぼんやりと伝えているだけで、言葉で発しているようには伝わってないのよ。近くにいる人なら、何となく灯が喋っているように思うけど、遠くの人からしたら、私が一方的に話しているみたいに映るじゃない」
などと、お嬢様は仰っているけど、私は主張を変えるつもりは無い。前回の襲撃で私は力不足を理解し、努力をしているのだ。紫を護衛するために。
「そうは言っても、訓練しないと紫を守れないじゃないか」
「別に訓練をするなと言っている訳じゃないのよ。時と場合を考えて欲しいと言っているの。もっと上達するまでは、もう少し人目を気にしてほしいわ」
「やれやれ、お嬢様は注文が多いですな」
この言い分には、灯も少しムッとしていたが、主張を変える気は無いようだ。
「分かった。取敢えず部屋に入るまでは普通に話すよ」
紫は「それで良し」と頷いていた。
「せっかくの学校生活だもの。敵からの襲撃を恐れているだけじゃ面白くないし、灯も大変よ。楽しみましょう、これからの生活を」
こんなことを言う紫の表情は、希望に溢れる新生活が楽しみだという感じだけど、目の前のことばかり気にしているようにも映る。その様子がなんだか、重く冷たい感覚を私に与えていた。
寮は基本的に2人1部屋となっている。部屋は意外と広く、清潔・安全・快適と全く問題なかった。実家にある私の狭い部屋より快適といって過言ではない。エアコンが付いているし。
「思ったより綺麗で安心したわ。自宅のバスタブより少し広い程度しかないけど、仕方がないわね。見知らぬ人と一緒だったら気が滅入っていたところよ」
流石はお嬢様だ。庶民とは感覚に大きな隔たりがある。この部屋がバスタブ並みってどんな豪邸だろう。一度くらい、紫の屋敷へ行ってみればよかったかもしれない。私の部屋なんて、四畳程度の物置を整理して使っている。紫なら発狂していたかもしれない。
「いや、並みの寮と比べ得ればかなり快適だと思うよ。他のお嬢様学校がどうかは知らないけど、シーツ・毛布は毎日交換してくれるんだって。お金がかかってる」
実家じゃ全て自分でやっていたけど、サボり気味でホコリ臭かった。
紫は「うーん」と少し考えている。口元に綺麗な指を当てている姿が様になっている。お嬢様は伊達じゃないね。
「ベッドメイキングはやってくれないのね。そこが残念だけど、これも独り立ちに必要なことね」
もはや何も言う事は無い。生きている世界が違う。
「そういえば、桜女子って全寮制じゃなかった?紫は今までどうしてたの?」
先ほどの口ぶりから、今までは実家で暮らしていたみたいに聞こえた。けど、確紫は中等部から桜女子に通っていたはずだ。
「全寮制といっても、結構ゆるいわよ。大した理由が無くても、自宅からの通学は許可されるの」
「なるほど」
などと、雑談を交わしているけど、私の脳裏には張りつめたものが有った。ここは瑕たちの庇護から離れた、警戒地区なのだ。紫は寮内で襲われる可能性は低いと言っていたが、私は安心なんて出来ていない。
だって、考えてみれば当然だろう。私が敵だったら、油断していて弱い護衛しかいないときを狙って襲うはずなのだ。
すでに敵は学校へ侵入している可能性だってある。それこそ、今すぐにでも襲ってくるかもしれない……。
そんな心配をしている私を見てきになったのだろう。紫は辺りを見渡し、うんうんと頷いていた。
「この部屋の防備は自宅に居たころ並みよ。ドアさえ閉めていれば襲われることは無いと思うの」
周囲を見回してみたけど、私にはその防備とやらはわからなかった。弓永 宗の娘というのは伊達ではない様だ。常人に分からない事まで良く分かっている。
「部屋は安全てことか」
「そうよ。いざとなったら、この部屋に立てこもるのも一つの手ね」
なるほど、引きこもりになるのも良いかも。
「あくまで最終手段の話としてだけど。そんなことより、重要な問題があるわ」
ベッドに座っている私に向かって、紫は真剣な表情で話しかけている。
「重要なこととは?」
神妙そうに眉を寄せる紫。絶世の美貌のせいで何をやっても様になるのは良いが、こういう時により相手を緊張させるのは短所だと思う。
いや、相手がより真剣になってくれるから、やっぱり長所かも。なんにしろ、その美貌のせいで私はすっかり真剣モードである。
そして、紫が次の言葉を紡いだ。
「朝食は2日に一回、主食がパンらしいの。私はこの15年間、365日欠かさず朝はご飯なのに、どうすれば良いのかしら?」
「パンでも良いじゃん」
ガクッときた。こっちが真剣に聞いていたのに、どうでもいいようなことを言われたな。
そのせいで即答してしまったが、私は悪くない。なんか紫は面食らっているけど、全然悪くないはずだ。
「むむむ!パンで良いなんてことは無いわ。そんな簡単に、これまでの人生を覆せるわけ無いじゃない」
なにが、むむむ!だ。朝飯なんて、何でもいいじゃないか。不健康児の私は、バナナと牛乳で済ませる事も多いのに。
「ふーん。どうやら、灯の同意を得られないようね」
当たり前だ。拗ねた表情をしても、取り合わないぞ。それに、私の中のお嬢様像だと、朝は優雅にパンとコーヒー取っているイメージなんだけどな。
「灯も分かってないわね。白米に目玉焼き、味噌汁と梅干、納豆。これほど朝食にふさわしい取り合わせは無いわ。まさに、ミコノス島の青い海と白い建物のような優雅さね」
なんという庶民飯。紫もお嬢様としての外聞に、気を付けた方がいいと思うな。イメージぶち壊し過ぎ。だいたい、巫女の巣棟てなんだよ。
「まあ、話はこれくらいにして、荷物を片付けましょうか。この調子じゃいつまでたっても終わらないわ」
そう言って、片づけを始める紫。
『別にいいんだけどさ』と少し納得いって無いながらも、荷物の整理を始める私。
そんな二人の様子は、まさに新生活の始まりという感じだ。クラスにはどんな面子が集まるか楽しみではあるけど、不安もある。
それは、敵がクラスメイトとして紛れ込んでいる可能性だ。弓永 宗達と紫が物理的に離れる状況、敵がこんな好機を逃すはずはない。そこで重要となるのが、いかにその存在を暴きだすかだ。
今はそのためにやるべきことが見つからないけど、何かやらないと気が済まない。一先ずは、学校内の探索でもやろうかな。
桜女子は中高一貫校であるだけあって、結構敷地がデカい。校舎は何棟も有り、体育館などの他の施設を含めれば20はあるだろう。空から見ていてもその全容掴むのは苦労しそうだ。
ちなみに、空からの観察と言っても私が空を飛んでいる訳じゃない。例のように『虫』を飛ばして、その視界を共有している。
この『虫』は本当に凄い。移動速度や丈夫さといった生き物としての能力が優れているのは当然で、特殊能力も持っている。
たとえば、優れた視力や特殊な攻撃手段などだ。私は未だに『虫』を満足に扱えておらず、展開できる範囲や処理できる情報量は少ない。それでも、普通なら入ることが出来ない夜間の学校内へ侵入し、広大な敷地の俯瞰映像を手に入れている。しかも昼間のように鮮明だ。
人智を超えた存在―、その力を私は使っている。
そして、私の前に現れるかもしれない敵はこの領域だ。それが実感できただけで、冷水に浸かったような感覚が体に走る。
「灯、いい加減寝たらどうなの。夜更かしはお肌に悪いわよ」
はいはい、今日はおしまい。なんか一気に冷めた。私はこんなに色々と心配して考えているのに、紫はなんだか呑気だよな。瑕たちにしても対策が甘いし。
敵は学校へ潜み、虎視眈々と紫を狙っているのだから、熱心に探さないと敵を見つけるなん不可能だと思っているんだけど、こんなんで大丈夫なのかと心配になるよ。
しかし、そんな私の心配は入学式が始まると同時に、無意味だったと思い知らされる。
ただし、普通ではない私は、そんな学生らしい悩みとは無縁だ。当然というかやっぱりというか、部屋の相手は予想通り紫である。
「父の計らいで相部屋になったの」
まあ、護衛の件を考えれば当然だが、納得いかないこともある。最善策を考えるなら、部外者が多い寮暮らしは避けた方が良いはずだ。それよりも、瑕たちがいる実家暮らしのほうが安全ではないかと思う。
「そこは私のわがままなのよ。高校に進学してからも、瑕たちに頼りっぱなしでは面白くないでしょ」
紫からお願いしたのか。自分が狙われていると言うのに、えらく甘い考えだ。危機感が足らないのではないか。
「ごめんなさいね。灯にも負担がかかると思うけど、それほどではないと思うわ。私の為に色々と細工がしてあるから、寮内では襲われにくいはずよ」
なるほど、それならまだ納得できる話かな。しかし、そうなると学校自体にも似たような細工が、施されているのだろうか?
「当たり。実際は、学校どころかこの辺の地域全体に仕掛けがあるのよ。ただし、どの場所も寮の自室よりは不完全なものになっているわ。立ち入りが制限できる部屋と、誰もが自由に歩ける街では、差が出ても仕方のない話ではあるけれど」
そうなんだ。ということは、防備は思っていたより万全なのかも。実際のところ、私の出番はほとんどないのかもしれない。
「そうね。普通の暴漢程度なら、私を襲おうとも思わないはずよ。逆に言えば、それでも襲撃してくるものは、常識外の存在ということになるわ」
弓永 宗みたいな、か。
「ねえ……」
何?
「『虫』を使った会話じゃ、話しづらいわ」
「これは、『虫』を操るための訓練なんだから、付き合ってよ」
実は今までの会話で、私は言葉を発していなかった。『虫』を使って、私の考えを紫へと伝えていたのだ。『虫』は常人には気づかれない存在で、異様な存在がそこらにいるのに、誰も気にしない。刀もそうであったが、尋常ならざるモノはそういったことが得意らしかった。
「『虫』による念話は、灯の考えをぼんやりと伝えているだけで、言葉で発しているようには伝わってないのよ。近くにいる人なら、何となく灯が喋っているように思うけど、遠くの人からしたら、私が一方的に話しているみたいに映るじゃない」
などと、お嬢様は仰っているけど、私は主張を変えるつもりは無い。前回の襲撃で私は力不足を理解し、努力をしているのだ。紫を護衛するために。
「そうは言っても、訓練しないと紫を守れないじゃないか」
「別に訓練をするなと言っている訳じゃないのよ。時と場合を考えて欲しいと言っているの。もっと上達するまでは、もう少し人目を気にしてほしいわ」
「やれやれ、お嬢様は注文が多いですな」
この言い分には、灯も少しムッとしていたが、主張を変える気は無いようだ。
「分かった。取敢えず部屋に入るまでは普通に話すよ」
紫は「それで良し」と頷いていた。
「せっかくの学校生活だもの。敵からの襲撃を恐れているだけじゃ面白くないし、灯も大変よ。楽しみましょう、これからの生活を」
こんなことを言う紫の表情は、希望に溢れる新生活が楽しみだという感じだけど、目の前のことばかり気にしているようにも映る。その様子がなんだか、重く冷たい感覚を私に与えていた。
寮は基本的に2人1部屋となっている。部屋は意外と広く、清潔・安全・快適と全く問題なかった。実家にある私の狭い部屋より快適といって過言ではない。エアコンが付いているし。
「思ったより綺麗で安心したわ。自宅のバスタブより少し広い程度しかないけど、仕方がないわね。見知らぬ人と一緒だったら気が滅入っていたところよ」
流石はお嬢様だ。庶民とは感覚に大きな隔たりがある。この部屋がバスタブ並みってどんな豪邸だろう。一度くらい、紫の屋敷へ行ってみればよかったかもしれない。私の部屋なんて、四畳程度の物置を整理して使っている。紫なら発狂していたかもしれない。
「いや、並みの寮と比べ得ればかなり快適だと思うよ。他のお嬢様学校がどうかは知らないけど、シーツ・毛布は毎日交換してくれるんだって。お金がかかってる」
実家じゃ全て自分でやっていたけど、サボり気味でホコリ臭かった。
紫は「うーん」と少し考えている。口元に綺麗な指を当てている姿が様になっている。お嬢様は伊達じゃないね。
「ベッドメイキングはやってくれないのね。そこが残念だけど、これも独り立ちに必要なことね」
もはや何も言う事は無い。生きている世界が違う。
「そういえば、桜女子って全寮制じゃなかった?紫は今までどうしてたの?」
先ほどの口ぶりから、今までは実家で暮らしていたみたいに聞こえた。けど、確紫は中等部から桜女子に通っていたはずだ。
「全寮制といっても、結構ゆるいわよ。大した理由が無くても、自宅からの通学は許可されるの」
「なるほど」
などと、雑談を交わしているけど、私の脳裏には張りつめたものが有った。ここは瑕たちの庇護から離れた、警戒地区なのだ。紫は寮内で襲われる可能性は低いと言っていたが、私は安心なんて出来ていない。
だって、考えてみれば当然だろう。私が敵だったら、油断していて弱い護衛しかいないときを狙って襲うはずなのだ。
すでに敵は学校へ侵入している可能性だってある。それこそ、今すぐにでも襲ってくるかもしれない……。
そんな心配をしている私を見てきになったのだろう。紫は辺りを見渡し、うんうんと頷いていた。
「この部屋の防備は自宅に居たころ並みよ。ドアさえ閉めていれば襲われることは無いと思うの」
周囲を見回してみたけど、私にはその防備とやらはわからなかった。弓永 宗の娘というのは伊達ではない様だ。常人に分からない事まで良く分かっている。
「部屋は安全てことか」
「そうよ。いざとなったら、この部屋に立てこもるのも一つの手ね」
なるほど、引きこもりになるのも良いかも。
「あくまで最終手段の話としてだけど。そんなことより、重要な問題があるわ」
ベッドに座っている私に向かって、紫は真剣な表情で話しかけている。
「重要なこととは?」
神妙そうに眉を寄せる紫。絶世の美貌のせいで何をやっても様になるのは良いが、こういう時により相手を緊張させるのは短所だと思う。
いや、相手がより真剣になってくれるから、やっぱり長所かも。なんにしろ、その美貌のせいで私はすっかり真剣モードである。
そして、紫が次の言葉を紡いだ。
「朝食は2日に一回、主食がパンらしいの。私はこの15年間、365日欠かさず朝はご飯なのに、どうすれば良いのかしら?」
「パンでも良いじゃん」
ガクッときた。こっちが真剣に聞いていたのに、どうでもいいようなことを言われたな。
そのせいで即答してしまったが、私は悪くない。なんか紫は面食らっているけど、全然悪くないはずだ。
「むむむ!パンで良いなんてことは無いわ。そんな簡単に、これまでの人生を覆せるわけ無いじゃない」
なにが、むむむ!だ。朝飯なんて、何でもいいじゃないか。不健康児の私は、バナナと牛乳で済ませる事も多いのに。
「ふーん。どうやら、灯の同意を得られないようね」
当たり前だ。拗ねた表情をしても、取り合わないぞ。それに、私の中のお嬢様像だと、朝は優雅にパンとコーヒー取っているイメージなんだけどな。
「灯も分かってないわね。白米に目玉焼き、味噌汁と梅干、納豆。これほど朝食にふさわしい取り合わせは無いわ。まさに、ミコノス島の青い海と白い建物のような優雅さね」
なんという庶民飯。紫もお嬢様としての外聞に、気を付けた方がいいと思うな。イメージぶち壊し過ぎ。だいたい、巫女の巣棟てなんだよ。
「まあ、話はこれくらいにして、荷物を片付けましょうか。この調子じゃいつまでたっても終わらないわ」
そう言って、片づけを始める紫。
『別にいいんだけどさ』と少し納得いって無いながらも、荷物の整理を始める私。
そんな二人の様子は、まさに新生活の始まりという感じだ。クラスにはどんな面子が集まるか楽しみではあるけど、不安もある。
それは、敵がクラスメイトとして紛れ込んでいる可能性だ。弓永 宗達と紫が物理的に離れる状況、敵がこんな好機を逃すはずはない。そこで重要となるのが、いかにその存在を暴きだすかだ。
今はそのためにやるべきことが見つからないけど、何かやらないと気が済まない。一先ずは、学校内の探索でもやろうかな。
桜女子は中高一貫校であるだけあって、結構敷地がデカい。校舎は何棟も有り、体育館などの他の施設を含めれば20はあるだろう。空から見ていてもその全容掴むのは苦労しそうだ。
ちなみに、空からの観察と言っても私が空を飛んでいる訳じゃない。例のように『虫』を飛ばして、その視界を共有している。
この『虫』は本当に凄い。移動速度や丈夫さといった生き物としての能力が優れているのは当然で、特殊能力も持っている。
たとえば、優れた視力や特殊な攻撃手段などだ。私は未だに『虫』を満足に扱えておらず、展開できる範囲や処理できる情報量は少ない。それでも、普通なら入ることが出来ない夜間の学校内へ侵入し、広大な敷地の俯瞰映像を手に入れている。しかも昼間のように鮮明だ。
人智を超えた存在―、その力を私は使っている。
そして、私の前に現れるかもしれない敵はこの領域だ。それが実感できただけで、冷水に浸かったような感覚が体に走る。
「灯、いい加減寝たらどうなの。夜更かしはお肌に悪いわよ」
はいはい、今日はおしまい。なんか一気に冷めた。私はこんなに色々と心配して考えているのに、紫はなんだか呑気だよな。瑕たちにしても対策が甘いし。
敵は学校へ潜み、虎視眈々と紫を狙っているのだから、熱心に探さないと敵を見つけるなん不可能だと思っているんだけど、こんなんで大丈夫なのかと心配になるよ。
しかし、そんな私の心配は入学式が始まると同時に、無意味だったと思い知らされる。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる