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第二章 開戦
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「って、いう話なんですの」
ホテルの最上階のラウンジにあるカフェテリアには、昼間からコーヒーを飲んでいる客はいない。間違いなくその中で、しかも若者は浮いているに違いない。そんなことは意にも介さない口調で柑奈は話す。根っからのお嬢様だからか、そのあたりの感覚が少しずれている。虎之介は相槌を打つ。ビル群から流れてくる雲と鳥を眺めながら。
「虎之介さんは、お好きですの?」
「何が?」
「やだわ、何か別のことでもお考えになられてましたのね?」
虎之介は誤魔化すように笑う。それはそうだ、先週戦ったドライの事で頭がいっぱいだった。大輝でも苦戦を強いられている強敵。多分自分が一人で挑むにはあまりに強すぎる相手…あんなものが…
「映画まで、まだ少し時間があるね」
「えぇ、最近は騒がれてますね」
「あぁ、確かに」
主演の椎葉リョウは映画に出れば人気ナンバーワンは間違いない。確かな演技力に、涼しげな目元をした憂いの貴公子と呼ばれる若手俳優。一昔前の韓流スターのようだ。
「柑奈は、好きなの?」
「え?えぇ」
「照れるところじゃないって」
「やだわ、虎之介さんったら…」
柑奈は少し子供っぽい所がある。それが側から見たらぶりっ子に見えるかもしれない。実質、マリは柑奈のことが嫌いだという。虎之介はその点はあまり気にならない。お嬢様育ちで、世間をよく知らない。知らないなりの処世術のつもりなのだろう。
†
柑奈と横並びになり、真っ暗な映画館に入った虎之介。どうやらこれから始まるのは、完成披露の試写会のようだ。次回の女性アナウンサーが笑いながら言った。
「本日は【花言葉は君の名前】の完成披露試写会です。それでは、これから主演の方にステージに上がっていただきましょう!」
割れんばかりの拍手の中、主演の椎葉リョウと、相手役の園川純恋が入ってきた。椎葉リョウは微かに笑顔を浮かべながら手を振る。園川純恋はつつましく頭を下げながら入ってきた。
「それでは、ご挨拶の一言を、主演の椎葉リョウさんから…」
「どうも、主役の諸星カケル役の、椎葉リョウです。えっとこの作品は、花屋で働くカケルが、目の見えないヒロインのはなに触れ合いながら、心をお互いに開いていく話です…」
虎之介は椎葉リョウの話を聞きながら、眉間に皺を寄せた。
「とっても感動する話になっています。是非、涙してください」
「ありがとうございました!それじゃヒロイン役の園川純恋さん…」
「どうなさったの?虎之介さん」
柑奈の声も、あまり耳には入らなかった。
【似てる。あまりにも】
椎葉リョウの声がこだまする。それは先週、あの廃工場でドライを無惨にも処刑した、ツヴァイの影と重なる。
【アディオス・アミーゴ】
ホテルの最上階のラウンジにあるカフェテリアには、昼間からコーヒーを飲んでいる客はいない。間違いなくその中で、しかも若者は浮いているに違いない。そんなことは意にも介さない口調で柑奈は話す。根っからのお嬢様だからか、そのあたりの感覚が少しずれている。虎之介は相槌を打つ。ビル群から流れてくる雲と鳥を眺めながら。
「虎之介さんは、お好きですの?」
「何が?」
「やだわ、何か別のことでもお考えになられてましたのね?」
虎之介は誤魔化すように笑う。それはそうだ、先週戦ったドライの事で頭がいっぱいだった。大輝でも苦戦を強いられている強敵。多分自分が一人で挑むにはあまりに強すぎる相手…あんなものが…
「映画まで、まだ少し時間があるね」
「えぇ、最近は騒がれてますね」
「あぁ、確かに」
主演の椎葉リョウは映画に出れば人気ナンバーワンは間違いない。確かな演技力に、涼しげな目元をした憂いの貴公子と呼ばれる若手俳優。一昔前の韓流スターのようだ。
「柑奈は、好きなの?」
「え?えぇ」
「照れるところじゃないって」
「やだわ、虎之介さんったら…」
柑奈は少し子供っぽい所がある。それが側から見たらぶりっ子に見えるかもしれない。実質、マリは柑奈のことが嫌いだという。虎之介はその点はあまり気にならない。お嬢様育ちで、世間をよく知らない。知らないなりの処世術のつもりなのだろう。
†
柑奈と横並びになり、真っ暗な映画館に入った虎之介。どうやらこれから始まるのは、完成披露の試写会のようだ。次回の女性アナウンサーが笑いながら言った。
「本日は【花言葉は君の名前】の完成披露試写会です。それでは、これから主演の方にステージに上がっていただきましょう!」
割れんばかりの拍手の中、主演の椎葉リョウと、相手役の園川純恋が入ってきた。椎葉リョウは微かに笑顔を浮かべながら手を振る。園川純恋はつつましく頭を下げながら入ってきた。
「それでは、ご挨拶の一言を、主演の椎葉リョウさんから…」
「どうも、主役の諸星カケル役の、椎葉リョウです。えっとこの作品は、花屋で働くカケルが、目の見えないヒロインのはなに触れ合いながら、心をお互いに開いていく話です…」
虎之介は椎葉リョウの話を聞きながら、眉間に皺を寄せた。
「とっても感動する話になっています。是非、涙してください」
「ありがとうございました!それじゃヒロイン役の園川純恋さん…」
「どうなさったの?虎之介さん」
柑奈の声も、あまり耳には入らなかった。
【似てる。あまりにも】
椎葉リョウの声がこだまする。それは先週、あの廃工場でドライを無惨にも処刑した、ツヴァイの影と重なる。
【アディオス・アミーゴ】
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