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音路町スニーカー

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 案の定、今俺の目の前で塩ラーメンを啜っている夜湾と彩羽は、俺の放った一言がトリガーになって、豪快に塩ラーメンを噴射した。

「なっ!何すかそりゃ?」
「ホンマやてアマさん!何やねんそれ?」
「そんなん、俺が訊きたいよ」
「そうそう」

 美音が同調して頷く。イヤホンを耳に突っ込みっぱなしなのに、よく話が聞けるもんだ。俺は続けた。

「当然、知らないんだな?」
「アマさん、そりゃないっすよ。いくらなんでも…窃盗なんて」
「ホンマっすわ。それにしてもやな、何でまた【捜し屋】を騙るんかな?」
「そこなんだよなぁ」
「話題作りしかなくね?」

 美音は冷めたような顔で言った。

「そりゃそうでしょうよ。【捜し屋】はこの街じゃ知らない人なんていない。でも【捜し屋】が誰かなんて知ってる人は少ないじゃない?」
「まぁ、せやな」
「格好のターゲットじゃない?」
「それにしても、ホンモノの【捜し屋】を知ってる奴らにバレるぞ」
「そこなんだよね」

 美音はイヤホンをようやく外した。

「って事はよ。この街のことをよく知らない奴の仕業なんじゃないかな?」
「そうとも取れるな」
「もうちょい調べてみないとね?」
「MLちゃん……」
「どうしたの?彩羽さん」
「…かっけぇ」
「……せやな」
「そこは突っ込み入れないんだね。夜湾さん」



 俺はその日、店じまいを済ませた後、仲間に召集をかけた。緊急事態だ。いつも使う居酒屋に集合をかけると。真っ先に返事を返したのは充。律儀に「承知しました」と。奴らしい。
鵲はスタンプ。夜湾と彩羽も一緒だ。唯一、返事がなかったのが陶芸家のタマゴ、天峰だ。

「ハリさん、おるんやろうな?」
「どうだろうね?ちょっとアトリエに行ってみよう」

 そう言っている矢先、俺のスマホに着信があった。画面に目を落とすと、意外、いや、少し予想はしていたが…
――御夕覚の三文字。

「あいよ」
【天河、今大丈夫か?】
「どうしたんだ?」
【今、容疑者が捕まったよ】
「ちょっと、嫌な予感がするんだけど」
【その通り。針生天峰だよ】
「そっか…」
【職務質問に引っかかったらしい】
「…ぱっと見、あいつ不審者だからな…」
【ちょっと、来てくれないかな?】

 俺は通話を切った。それから全員に会合中止の連絡を流す。

「どうしたの?お兄ちゃん」
「天峰が捕まったよ」
「あぁ…」
「びっくりしろよ」
「ハリさんなら、しょうがない」

 薄情だな。お前ら…
俺はキッチンカーに鍵を差し込むと、音路署に向かうことにした。



「そりゃ、捕まりますって」
「失礼だな美音ちゃんは…」

 陶芸家、針生天峰はとてつもなく派手な格好をしていた。こいつに何があったんだろう…

「黒以外の原色を着るからじゃないか?」
「おっ、オレだってたまには気分転換に、いつもと違う格好をしたくなるんすよ!」
「だからって、真っ赤なアウターに、ショッキングブルーのシャツに、迷彩柄のパンツにって、全然似合ってないカッコして…」
「それでタピオカミルクティー飲んでたら犯罪すか?」
「まぁ、悪くはないが…」
「似合ってはないですよね…」

 そっかぁと天峰は頭を抱える。いつもに増して顔色は良くない。御夕覚は言う。

「ちょっと犯罪級に似合ってなかったから、職務質問したんだとさ」
「凹むからもう、やめてくださいって…」
「わかりましたから。でもよかったじゃないですか?ハリさん。お兄ちゃんが迎えに来たから」
「勘弁してくださいよ、ホント…」

 天峰は頭をくしゃくしゃと掻きむしる。

「アマさん、すいません」
「タイミング、悪かったな」
「ホントですよ。あの窃盗団ですよね」
「そうだよ。お前かと思ったよ」
「冗談きついですよアマさん。いくらなんでも他所様の物は盗まないですよ」
「だよな」
「あっ、そう言えば…オレの取り調べをした刑事が何か変なことを言ってたんですよ」
「?」
「と言うか、盗み聞きしたような感じになりますけど。何か小さい声で、こいつでもいいかって…」
「こいつでもいいか?」

 その一言が魚の骨のようにつっかえた。何の事なんだろう…
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