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音路町アロマージュ
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その日から、充のカフェ【PEARL】に臨時の店員として交替で【甘納豆】と美音が入ることになった。基本的にコーヒーを淹れるのは充。3人はえみりと同じくホールの接客ということになる。
そこに客として俺、鵲、天峰が入る。もはや常連客だ。流石に充のこだわりのコーヒーをただ飲みするのは気が引けたが……
夜湾のダウジングロッドは店の窓際にサンキャッチャーのようにぶら下げている。それをちらちらと見ながら夜湾は仕事を続けていた。
「基本、わいが持ってないと反応はせえへんかったんやけど、まぁ才能ってやつかな。わいの目の届く範囲やったら反応するようになったんや」
「なんかすげぇんだかわかんねぇけど」
「アホか彩羽。そこやないねん。わいのダウジング能力の成長っていうもんをやなぁ」
「はい、お二人さん。喋ってばっかいないで、手動かす手!」
えみりに叱咤されながら、夜湾と彩羽は洗い物を続けた。仕事の合間、美音はというと客として来ている鵲を見ながらほんのり頬を赤らめている。
「皆さんお疲れさま。今日はスリは来なかったみたいだね」
「せやなぁ。やけどハリさん。あの女刑事はんは何でスリの容疑者をハリさんに捜してくれっちゅう依頼をしたんやろ」
「そうっすよ。警察だったらそういうのは民間人に頼むのはだめっすからねぇ」
「何かやんごとなき理由があったんだろうな。多分」
カフェ【PEARL】のフードメニューはコーヒーをメインにしているせいかやや少なめだ。少なめではあるが素朴な味のパウンドケーキや自家製ワッフルといったものが意外に人気でよく注文される。俺はこの店のパウンドケーキが好きだ。懐かしい味がする。隠し味に味噌が入っているらしい。えみりの直伝パウンドケーキ。それをつまみながら閉店前の会議を行う。
「にしても、やっぱり酒を飲んだ後の酔い覚ましで来る客が多いな」
「そうなんですよ。アマさん。見事なまでの戦略でしょ?」
「でも、あんまりお酒は出ないね?」
「まぁ、それでも皆が僕のコーヒーを目当てに来てくれるならそれで充分ですよ」
「相変わらずいい事言うよなぁ、充さんは…」
「そりゃそうやろ彩羽よ。色んな修羅場を潜ってきとるんやから…ね?」
充は恥ずかしそうに笑っていた。
†
翌日、今川焼きを売り終わった俺たちは、また充のカフェに向かう。今日は美音がホールに出るという。俺はいつものように、客として鵲と天峰を連れ、奥の席に鎮座した。今日もまた自家製のパウンドケーキにグァテマラのセット。昨日はブルーマウンテンだったが……中ではもう既に夜湾と彩羽が待ち構えている。入り口には夜湾のダウジングロッドがぶら下げられ、それをちらちらと気にしながら…
「あれっ?やっぱりそうだ!」
黒髪セミロングの清楚な出立ち、小顔な彼女が店にやって来た。俺は彼女に手を挙げ、鵲は小さく頭を下げ、天峰は小さく微笑んだ。彼女は音路町の通称、ヒメ子さんの花屋でバイトをしながら歌手活動をしている内海乃月である。垢抜けた雰囲気。脇には長身の爽やかそうな長髪を頭の後ろで束ねた男が一人。
「あぁ、ここって珍しいお店だよね。夜の10時から開店するっていう…」
「およ?乃月ちゃんやん!久しぶり!」
「あっ!夜湾さんだ!彩羽さんも!」
「誰よ、その人。まさか…」
天峰の目が少しだけ泳いだ。乃月はくすくすと笑っている。脇の男も頬を人差し指で掻きながら言った。
「名乗る程のもんじゃありませんって」
「とりあえず、あたしの彼氏じゃないですからね!」
「そうかそうか、でもなんかどっかで見た事があるような気が…」
「まぁまぁいいじゃありませんか!とりあえず僕は、まぁ【徳田】ってことにしといてくださいよ」
その徳田はテーブルに着くと、乃月の斜向かいの席に座りオリジナルブレンドを注文した。乃月はやや緊張したような表情を浮かべている。多分、仕事の話だろう。とりあえず今は関係なさそうだ。
「気になりますよねぇ…あっ、ハ、ハリさんには大丈夫だよって言ってましたし…」
「ばっ、バカ言うなよって、オ、オレは気になんかしちゃいねぇって!はは、あは、あははは!」
音をたててアイスココアを一気に啜り込むと、天峰はもう一杯おかわりを注文した。
「あ!誰かと思ったらここ、充さんのお店だったんすね!」
金髪色白のハードケースを持った若い男。【甘納豆】と同じくストリートミュージシャンの在原啓斗だ。彼の父は大物だが、それは一切公表していない。
「いらっしゃい啓斗くん。最近どうだい?」
「いやぁ、どうすかねぇ。って充さんに訊いたってわかりゃしないか。そうだそうだ、うん。ってあんま変わらないかも。にしても、いい香りっすねぇ。あ、主語ないわ。コーヒー、いい香りっすね!」
「相変わらず、全部思った事口にするんやな…」
俺は隣のテーブルに座る啓斗に手を挙げる。なんだかんだで夜にも関わらず客の入りは上々だ。
「あっ…!」
夜湾が眉間に皺を寄せた。俺を呼ぶとぶら下げていたダウジングロッドに視線を向ける。
それは、ぐるぐると円を描くように回っていた。
そこに客として俺、鵲、天峰が入る。もはや常連客だ。流石に充のこだわりのコーヒーをただ飲みするのは気が引けたが……
夜湾のダウジングロッドは店の窓際にサンキャッチャーのようにぶら下げている。それをちらちらと見ながら夜湾は仕事を続けていた。
「基本、わいが持ってないと反応はせえへんかったんやけど、まぁ才能ってやつかな。わいの目の届く範囲やったら反応するようになったんや」
「なんかすげぇんだかわかんねぇけど」
「アホか彩羽。そこやないねん。わいのダウジング能力の成長っていうもんをやなぁ」
「はい、お二人さん。喋ってばっかいないで、手動かす手!」
えみりに叱咤されながら、夜湾と彩羽は洗い物を続けた。仕事の合間、美音はというと客として来ている鵲を見ながらほんのり頬を赤らめている。
「皆さんお疲れさま。今日はスリは来なかったみたいだね」
「せやなぁ。やけどハリさん。あの女刑事はんは何でスリの容疑者をハリさんに捜してくれっちゅう依頼をしたんやろ」
「そうっすよ。警察だったらそういうのは民間人に頼むのはだめっすからねぇ」
「何かやんごとなき理由があったんだろうな。多分」
カフェ【PEARL】のフードメニューはコーヒーをメインにしているせいかやや少なめだ。少なめではあるが素朴な味のパウンドケーキや自家製ワッフルといったものが意外に人気でよく注文される。俺はこの店のパウンドケーキが好きだ。懐かしい味がする。隠し味に味噌が入っているらしい。えみりの直伝パウンドケーキ。それをつまみながら閉店前の会議を行う。
「にしても、やっぱり酒を飲んだ後の酔い覚ましで来る客が多いな」
「そうなんですよ。アマさん。見事なまでの戦略でしょ?」
「でも、あんまりお酒は出ないね?」
「まぁ、それでも皆が僕のコーヒーを目当てに来てくれるならそれで充分ですよ」
「相変わらずいい事言うよなぁ、充さんは…」
「そりゃそうやろ彩羽よ。色んな修羅場を潜ってきとるんやから…ね?」
充は恥ずかしそうに笑っていた。
†
翌日、今川焼きを売り終わった俺たちは、また充のカフェに向かう。今日は美音がホールに出るという。俺はいつものように、客として鵲と天峰を連れ、奥の席に鎮座した。今日もまた自家製のパウンドケーキにグァテマラのセット。昨日はブルーマウンテンだったが……中ではもう既に夜湾と彩羽が待ち構えている。入り口には夜湾のダウジングロッドがぶら下げられ、それをちらちらと気にしながら…
「あれっ?やっぱりそうだ!」
黒髪セミロングの清楚な出立ち、小顔な彼女が店にやって来た。俺は彼女に手を挙げ、鵲は小さく頭を下げ、天峰は小さく微笑んだ。彼女は音路町の通称、ヒメ子さんの花屋でバイトをしながら歌手活動をしている内海乃月である。垢抜けた雰囲気。脇には長身の爽やかそうな長髪を頭の後ろで束ねた男が一人。
「あぁ、ここって珍しいお店だよね。夜の10時から開店するっていう…」
「およ?乃月ちゃんやん!久しぶり!」
「あっ!夜湾さんだ!彩羽さんも!」
「誰よ、その人。まさか…」
天峰の目が少しだけ泳いだ。乃月はくすくすと笑っている。脇の男も頬を人差し指で掻きながら言った。
「名乗る程のもんじゃありませんって」
「とりあえず、あたしの彼氏じゃないですからね!」
「そうかそうか、でもなんかどっかで見た事があるような気が…」
「まぁまぁいいじゃありませんか!とりあえず僕は、まぁ【徳田】ってことにしといてくださいよ」
その徳田はテーブルに着くと、乃月の斜向かいの席に座りオリジナルブレンドを注文した。乃月はやや緊張したような表情を浮かべている。多分、仕事の話だろう。とりあえず今は関係なさそうだ。
「気になりますよねぇ…あっ、ハ、ハリさんには大丈夫だよって言ってましたし…」
「ばっ、バカ言うなよって、オ、オレは気になんかしちゃいねぇって!はは、あは、あははは!」
音をたててアイスココアを一気に啜り込むと、天峰はもう一杯おかわりを注文した。
「あ!誰かと思ったらここ、充さんのお店だったんすね!」
金髪色白のハードケースを持った若い男。【甘納豆】と同じくストリートミュージシャンの在原啓斗だ。彼の父は大物だが、それは一切公表していない。
「いらっしゃい啓斗くん。最近どうだい?」
「いやぁ、どうすかねぇ。って充さんに訊いたってわかりゃしないか。そうだそうだ、うん。ってあんま変わらないかも。にしても、いい香りっすねぇ。あ、主語ないわ。コーヒー、いい香りっすね!」
「相変わらず、全部思った事口にするんやな…」
俺は隣のテーブルに座る啓斗に手を挙げる。なんだかんだで夜にも関わらず客の入りは上々だ。
「あっ…!」
夜湾が眉間に皺を寄せた。俺を呼ぶとぶら下げていたダウジングロッドに視線を向ける。
それは、ぐるぐると円を描くように回っていた。
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