朧月楼の殺人

回転饅頭。

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「なんで…」

 マープルは震える足で立つのがやっとのようだ。ホームズの腕に腕を絡めたままがたがたと震えている。
 鍵のかかった馬酔木の間のドアを鍵を使って開くと、扉に寄りかかるように倒れていたポワロが廊下にごろりと出てきた。頭を鈍器で殴られているようだ。

「また、部屋に鍵がかかってたのに…」
「なんて事だよ…自分の部屋すら安全じゃないなんて…」

 部屋はまた完全なる密室のようだ。部屋の片隅に転がっている血塗れのガラスの灰皿が凶器らしい。ホームズはじっと様子を見ている。

「フェル、見立てられるかな?」
「んなもん、信用できないよ」

 ファイロは言った。

「そいつが犯人だったら、いくらでもでっち上げはできる。俺たちは皆殺しにされちまうんだ…」
「ファイロ…」
「きっと、これは呪いなんだよ!」
「まさかな…」

 フェルは小さく呟いた。

「あの時焼け死んだ女の子の…」
「フェル…呪いなんて下らない!」
「なんだよマープル。まさか、あの時の娘が生きてるか、この中に知り合いがいて俺たちに復讐してるとか言うのか?あ?」
「ファイロ!」
「誰も信用できるか!」
「ファイロ待って!」
「触るな!」

 マープルはファイロに突き飛ばされた。衝撃でマープルはポワロの部屋のベッドの角に頭をぶつけた。

「ま…マープル!」

 ポワロの隣で目を開いたままマープルは動かなくなった。打ちどころが悪かったのだろう。

「あっ…あぁぁ!」
「おい、遂に正体を現したなファイロ…」
「ちっ、違う!違う!」
「デュパンを殺したのも、ポワロを殺したのもお前だったのか!」
「違うっ!」
「落ち着けフェル!」
「密室だの何だの、そんなもんは関係ない!見たでしょう?ホームズ、こいつは今目の前でマープルを殺した!」
「うわぁぁっ!」

 ファイロは手元にあったガラスの灰皿を手にして、フェルに殴りかかった。フェルはファイロに殴られ、頭を割られてしまった。

「はぁ…はぁ…」
「ファイロ…」
「はは…ははは…」

 狂っている。
ファイロは間違いなく正気を失っている。眼光はギラギラと光り、その光はホームズを捉えた。

「あんたも、見ただろ?」
「…」
「これでおしまいだよ」
「ファイロ…」

 ファイロはホームズにガラスの灰皿を手に殴りかかった。ホームズは受け流すようにファイロを躱す。
 ファイロは馬酔木の間のガラスを突き破ると、真っ逆様に地面に落下した。窓がなくなった部屋に雨が入り込む。

「あぁ…」

 ホームズは頭を抱え、左右に振った。
推理研究会は、遂にホームズ一人になってしまったのである。
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