朧月楼の殺人

回転饅頭。

文字の大きさ
上 下
7 / 18

6

しおりを挟む
「なんなんだよ全く…」

 がたがたと震える手を押さえるようにして、ファイロは声を震わせながら言った。上擦った声がつい漏れてしまう。

「誰が、一体デュパンを…」
「そんなの、決まってるじゃねぇかよ。おい!」

 ファイロは執事風の使用人に詰め寄った。

「何の為にデュパンを殺しやがったんだ!?」
「わっ、私ではありませんっ!」
「嘘吐くんじゃねぇよ!この建物に前々からいたお前以外誰がやるんだよ!」
「まぁ待てよファイロ」

 ホームズはファイロに言った。

「彼がデュパンを殺したとしよう。動機は?」
「んなもん知るかよ?」
「彼が鍵を持っていた。確かに彼には殺害は可能かもしれない。しかしながらあの部屋に踏み込んだ時、デュパンは黒いジャケットを羽織って椅子に座っていた。見たところ、然程硬直も始まってはいなかった。ということは、殺害及び遺体の切断は僕らがこの朧月楼に訪れた後じゃないかと考える」
「執事さんはずっと、下のロビーにいらっしゃいましたわ」
「だろ?」
「だったら、誰が…」
「あぁ、しかも僕の見立てからすると、あの部屋は密室だったと思われる」

 ホームズは淡々と話す。ポワロとマープルは頷き、フェルはひっきりなしに爪を噛んでいる。

「僕らの誰にも、犯行は不可能だったかと」
「だったら…おい勘弁してくださいよ…」

 頭をもしゃもしゃと掻きむしりながら、ファイロは言った。

「まさか、本当にこの館がデュパンを食ったとでも…」
「…」
「だからあいつの首は見当たらないんだな」

 狂ったようにファイロは笑い出した。

「ファイロ、落ちつけよ!」
「はぁ?これで落ち着いていられるか?デュパンは確かに死んだんだぜ?この館に食われたんだっていうなら、俺らは餌じゃねぇかよ!」
「まぁ待て」
「はぁ?」
「建物が人を喰うなんて、あり得ないにも程がある」
「なら…」
「誰かに殺されたとしたなら、ここにもう一人、闖入者がいるかもしれない」
「ははっ、まさかそれはかつて人喰いの嫌疑がかかったまま死んだ額賀氏だとでも?」
「…」
「馬鹿言うなよ…畜生、どいつもこいつも…!」
「黙って聞いてりゃさぁ…ファイロ」

 フェルがむっつりしたような顔をして言う。

「何でそんなびびってんだよ」
「何だこのデブ。何言いたいんだ?」
「殺される心当たりでも、あるんじゃないの?」
「なんだと!」
「やめて!」

 耳を塞いでマープルは叫ぶ。

「もうやめて!」
「とにかく、この状況を打破するには、やはり謎を解かなければいけないな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

赤く燃ゆる狐 Burning Flame Fox

保谷きく
ミステリー
 とある夏の暑い最中。市内にある住宅街の一角で火災事故が発生した。  当時、家には誰もおらず、現場検証の結果、室内には金魚鉢もあり、気温も高かった点から、収れん火災かとも考えられた。  ――が、しかし。  そこが宅地となる遥か以前から、曰く因縁のある土地との言い伝えが残っており、『狐火』と呼ばれる、松明にも似た炎が現れると噂されていた。  単なる事故と捉えるには不可解なことが多く、どこか人為的でもあると感じた、同管轄内にて捜査一課に所属する鹿川刑事は、古くからの伝承をもとに事件を紐解く名探偵、美海瞳へと救援を求めた。  報告を聞き、矢のように眼光鋭くして、考えこむ美海。  やがて数多の民話や寓話がストックされている、彼女から導き出された答えは、この世の理を超えた、想像を絶するものであった――。  現在、第8回ホラー・ミステリー小説大賞にエントリーをしている、『怪物・突進・爆薬筒 Monster Attack Dynamite』の続々編になります。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

旧校舎のフーディーニ

澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】 時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。 困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。 けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。 奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。 「タネも仕掛けもございます」 ★毎週月水金の12時くらいに更新予定 ※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。 ※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。 ※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。

【毎日更新】教室崩壊カメレオン【他サイトにてカテゴリー2位獲得作品】

めんつゆ
ミステリー
ーー「それ」がわかった時、物語はひっくり返る……。 真実に近づく為の伏線が張り巡らされています。 あなたは何章で気づけますか?ーー 舞台はとある田舎町の中学校。 平和だったはずのクラスは 裏サイトの「なりすまし」によって支配されていた。 容疑者はたった7人のクラスメイト。 いじめを生み出す黒幕は誰なのか? その目的は……? 「2人で犯人を見つけましょう」 そんな提案を持ちかけて来たのは よりによって1番怪しい転校生。 黒幕を追う中で明らかになる、クラスメイトの過去と罪。 それぞれのトラウマは交差し、思いもよらぬ「真相」に繋がっていく……。 中学生たちの繊細で歪な人間関係を描く青春ミステリー。

昭和レトロな歴史&怪奇ミステリー 凶刀エピタム

かものすけ
ミステリー
 昭和四十年代を舞台に繰り広げられる歴史&怪奇物語。  高名なアイヌ言語学者の研究の後を継いだ若き研究者・佐藤礼三郎に次から次へ降りかかる事件と災難。  そしてある日持ち込まれた一通の手紙から、礼三郎はついに人生最大の危機に巻き込まれていくのだった。  謎のアイヌ美女、紐解かれる禁忌の物語伝承、恐るべき人喰い刀の正体とは?  果たして礼三郎は、全ての謎を解明し、生きて北の大地から生還できるのか。  北海道の寒村を舞台に繰り広げられる謎が謎呼ぶ幻想ミステリーをどうぞ。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女の如く、永遠に囚われて

white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。 彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。 ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。 良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。 実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。 ━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。 登場人物 遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。 遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。 島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。 工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。 伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。 島津守… 良子の父親。 島津佐奈…良子の母親。 島津孝之…良子の祖父。守の父親。 島津香菜…良子の祖母。守の母親。 進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。 桂恵…  整形外科医。伊藤一正の同級生。 遠山未歩…和人とゆきの母親。 遠山昇 …和人とゆきの父親。 山部智人…【未来教】の元経理担当。 秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。

処理中です...