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闇
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その男は、カウンセラーというよりも気の良さそうな教育実習生のような感じの男であった。聞いた話だと年齢は30歳手前だという話だが、それよりも大分若く見える。若作りしている訳ではなく、元々が若く見える顔立ちのようだ。彼の名は磯本昴といった。榛名や越川に会ったその時に手渡された名刺に書いてあった。
「これから、宜しくお願いしますね」
越川は磯本に言った。緊張しないでくださいと言わんばかりに磯本は柔和で人懐っこい笑顔を向けた。
「実はあの学校には、懇意にしている後輩の教員がいるんですよ」
「ほう、それは……」
「なので、私もそれとなく気にはしていたんです」
磯本はスイマセンと告げて水で唇を潤す。
「その先生からも、話が?」
「オフレコでお願いしたいのですがね。そうなんですよ」
榛名の印象は越川や渕上らのそれとはやや違っていた。柔和で人懐っこい印象の中、たまに見せる鋭い目つき。微かな闇を抱えているような雰囲気。
「越川さんは、あの…」
「そうなんです」
越川は小さく震えだした。
「あの学校には、本当に不信感しかない。誠実さというものがありません」
「ほう、詳しくお聞かせ願いますか?」
越川は口を開く。
「息子はイジメを受けていました。もう死んでしまいましたが、今でも無念そうに語りかけてくる気がするんです。それまで何もなく、五体満足に明るく過ごしてきたハズなのに、それが、あっという間に壊れていくんです。私は、何も知らなかったんだ」
「……」
「今となっては、もう…」
磯本はカバンから一冊の冊子をがさっと取り出した。
「息子さんのような生徒を、もう二度と出してはいけないんです」
「全くですね」
「私は、このお話を戴いてから調査を進めていました」
「えっ?」
「確かに、この学校では陰湿で組織的なイジメは存在しています、イジメは人間の尊厳をかくも簡単に破壊する。しかし、そんなものをつながりに築かれた人間関係というのは脆い。突けば、軽く崩れてしまう砂の城みたいにね」
磯本が顔を近づけて言った。
「主犯となっている生徒は、久根嘉樹という生徒です」
「え?」
「学校ではさわやかで、スポーツも万能な優等生として通っています。そして交際相手である同学年の冬原音流も、イジメの加害者です」
「そんな…」
「しかし久根と冬原の間に主従服従関係はないようです。これは多分、共鳴に近い」
「同じ穴のムジナってわけか」
憎々しげに越川は言った。榛名は一人俯いて何かを考えていた。
ー久根、何処かで聞いたような気がする。
「私が出来るのは、ここまでです。あくまで私の使命はイジメの加害者を糾弾する事ではなく、被害者と被害者のご家族のケアですから」
「しかし、何故そんな事を調べて我々に教えて下さったんで?」
渕上は訊いた。
「このケースは、また次元が違うと判断したからです。加害者は狡猾だ」
榛名は頷く。磯本の言葉にではない。彼の闇は恐らくそこにありそうだ。それを訊くことはしない。これからの付き合いで徐々に分かってくるかもしれない。
「これから、頑張りましょう」
越川と磯本は握手を交わす。榛名ははっとした。久根…恐らく崇彦と同じ中学だったような気がする。あまり馴染みのない苗字なので、頭の片隅のどこかにその苗字が焼きつけられていたようだ。
崇彦の口から、彼に関する話は何もなかった。もしこの久根が崇彦をイジメていたとするなら、何かきっかけがあったのか、それとも…
榛名の頭にとある人物の顔が浮かんだ。同級生の崇彦の友人、松金。彼に尋ねる事が一番手っ取り早いかもしれない。
久根嘉樹。彼の事を探る必要がありそうだ。
「これから、宜しくお願いしますね」
越川は磯本に言った。緊張しないでくださいと言わんばかりに磯本は柔和で人懐っこい笑顔を向けた。
「実はあの学校には、懇意にしている後輩の教員がいるんですよ」
「ほう、それは……」
「なので、私もそれとなく気にはしていたんです」
磯本はスイマセンと告げて水で唇を潤す。
「その先生からも、話が?」
「オフレコでお願いしたいのですがね。そうなんですよ」
榛名の印象は越川や渕上らのそれとはやや違っていた。柔和で人懐っこい印象の中、たまに見せる鋭い目つき。微かな闇を抱えているような雰囲気。
「越川さんは、あの…」
「そうなんです」
越川は小さく震えだした。
「あの学校には、本当に不信感しかない。誠実さというものがありません」
「ほう、詳しくお聞かせ願いますか?」
越川は口を開く。
「息子はイジメを受けていました。もう死んでしまいましたが、今でも無念そうに語りかけてくる気がするんです。それまで何もなく、五体満足に明るく過ごしてきたハズなのに、それが、あっという間に壊れていくんです。私は、何も知らなかったんだ」
「……」
「今となっては、もう…」
磯本はカバンから一冊の冊子をがさっと取り出した。
「息子さんのような生徒を、もう二度と出してはいけないんです」
「全くですね」
「私は、このお話を戴いてから調査を進めていました」
「えっ?」
「確かに、この学校では陰湿で組織的なイジメは存在しています、イジメは人間の尊厳をかくも簡単に破壊する。しかし、そんなものをつながりに築かれた人間関係というのは脆い。突けば、軽く崩れてしまう砂の城みたいにね」
磯本が顔を近づけて言った。
「主犯となっている生徒は、久根嘉樹という生徒です」
「え?」
「学校ではさわやかで、スポーツも万能な優等生として通っています。そして交際相手である同学年の冬原音流も、イジメの加害者です」
「そんな…」
「しかし久根と冬原の間に主従服従関係はないようです。これは多分、共鳴に近い」
「同じ穴のムジナってわけか」
憎々しげに越川は言った。榛名は一人俯いて何かを考えていた。
ー久根、何処かで聞いたような気がする。
「私が出来るのは、ここまでです。あくまで私の使命はイジメの加害者を糾弾する事ではなく、被害者と被害者のご家族のケアですから」
「しかし、何故そんな事を調べて我々に教えて下さったんで?」
渕上は訊いた。
「このケースは、また次元が違うと判断したからです。加害者は狡猾だ」
榛名は頷く。磯本の言葉にではない。彼の闇は恐らくそこにありそうだ。それを訊くことはしない。これからの付き合いで徐々に分かってくるかもしれない。
「これから、頑張りましょう」
越川と磯本は握手を交わす。榛名ははっとした。久根…恐らく崇彦と同じ中学だったような気がする。あまり馴染みのない苗字なので、頭の片隅のどこかにその苗字が焼きつけられていたようだ。
崇彦の口から、彼に関する話は何もなかった。もしこの久根が崇彦をイジメていたとするなら、何かきっかけがあったのか、それとも…
榛名の頭にとある人物の顔が浮かんだ。同級生の崇彦の友人、松金。彼に尋ねる事が一番手っ取り早いかもしれない。
久根嘉樹。彼の事を探る必要がありそうだ。
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