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2番

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 あれから、白龍は兄やんに逮捕された。周りの取り巻きはやはり兄やんのスパイだったようだ。僕はというと、いつもの日常に戻った。
 居酒屋【一銭】のバイト中も、姐さんはなんだか疲れたように溜息をついている。やはり【ムジカの瞳】が偽物だったからであろう。

「なんか、だれてもうたなぁ」
「いやいや、僕はほっとしましたけどね」
「そりゃそうですよね、めいさん、散々でしたからね?」

 いち姉がにっこりと笑ってこちらを見ている。

「めいちゃん、なんか弾いてくれへん?」
「え?いきなり何ですか?」
「えぇやんな。アンタギターうまないけど、歌は悪ないねんから」
「それ、複雑ですわぁ」

 僕はギターを手にして椅子に座って、じゃらんとギターを鳴らした。

「~海岸でぇ若い二人がぁ♪」
「みゃぁ~ん」
「そこはくしゃみやろ?いっちゃん!」
「すいません!うちのチャーシューが!」
「お約束みたいになってるじゃないすか…」
「しゃあないねえ、ちょっと貸してや」
「お、姐さん歌ってくれるんすね?」

 姐さんはギターを抱えて椅子に腰掛けた。細身の姐さんはホントにサマになっている。鼻歌を歌いながらじゃらんと鳴らす。

「毎度!お、やってるやないかい!」
「兄やん!」
「あれ?インターポールは?」
「あ、あれ?あいつに勝ったから辞めてもうた」
「もったいな!」
「ええやん、別に!せや、皆甘いもん好きか?」

 兄やんは紙袋に入れた何かを出して来た。これは今川焼きだ。

「これ、このへんじゃ有名な奴やねん」
「あ~、名前なら聞いたことあるかも…」

 それを聞いて、姐さんは首を傾げて言う。

「これ、回転焼きやねんやろ?」

 僕はその丸いお菓子に齧り付いた。
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