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「んで?もうちょっと詳しく話してくれへん?」

 姐さんの表情はいまいち読めない。ただ腕を組んでカウンターの向こうで高いところから僕を睥睨するかのように眺めるだけだ。いち姉なんかはあからさまに溜息をついている。

「ですから、その…」
「ホント、捜し屋さんじゃないって、正直に言えばいいじゃないですか?」
「なっ、ば、馬鹿言わないでくださいって!あんな怖い人に囲まれて、捜し屋か?なんて言われたら誰だって」
「今言えるのは、めいちゃんは今窮地やっちゅうことやな」
「そうなんですぅ、だから…」
「ま、頑張りや」

 事実上の最後通告に聞こえた。姐さんは呆れたように背を向けてキュウリを切っている。

「陰ながら、あたしも応援してますから!仕事が終わったらまた来てくださいね!」
「そんな殺生なぁ」

 僕は頭を抱えて、蹲るようにしてぶつぶつ呟くしかなかった。そうこうしてる間にも、あの白龍とかいうチュッパチャプスのアイコンは僕のスマホにちらちらと見えているのだ。

「ほら、食べや」
「あぁ」

 気の抜けたような返事をしてしまったが、僕の目の前に姐さんがキュウリを持ってきてくれた。ガラスの器にはオイキムチ風にしたキュウリが置かれている。僕は向き直って訊いた。

「あの、これって」
「あのな、分かるかめいちゃんよ。このメニューな、常連にしか出さんねん。いつもはごま油とラー油やねんけどな」
「姐さん?」
「んで、そのお宝ってのは、ホンマにこの街にあんねやろ?」
「それは、知らないですけど」
「…おもろそうやないか」
「え?」

 姐さんは悪そうな表情を浮かべている。

「マフィアだかマフィンだか知らんけど、そいつらより先にお宝をせしめれば、チャンチャンやない?」
「そっ、そんな無茶苦茶な!」
「いくらなんでも、女子供に手出しするような輩やあらへんやろ?」
「わかんないですよ?」
「とにかくや、めいちゃんは適当にそのマフィアだかマフィンだかを誤魔化しといてや」

 知らないうちに、いち姉も腕組みしている。

「ちょっと、店閉めるで」
「はい」
「ほな、めいちゃん。頼むで」



「そんな事になっとるんかいな?」

 兄やんも呆れた顔をしている。その夜にしか開かないカフェ【PEARL】は店内に静かなジャズが流れる落ち着いたカフェ。店長さんは元キャバクラのボーイであり、店員さんの美人さんはその店のキャストさんだったらしい。ふっと香るコーヒーの香りも今は気にならないくらいの窮地。

「そうなんですよ、助けてください」
「アホな事言うなや。なぁ倭同はん」
「それならホンモノに、お願いするしかないじゃないですか?」
「え!倭同さんってホンモノをご存知なんですか!」
「ほら、あそこにいるじゃないですか」

 豆をローストする、髪をオールバックに束ねた爽やかそうな男。店長さんらしいが、彼を倭同さんは指差している。

「え?」
「店長!充さん!」

 充さんと呼ばれた店長さんは足早にこちらに向かってきた。悔しいが爽やかなイケメンだ。

「さ、捜し屋さんってのは…」
「えぇ、まぁ元締めは僕じゃないんですけどね」
「お願いします、助けてください!」
「落ち着いて。まぁ話を聞かせてもらえませんか?」

 僕はその顛末を話した。充さんはうんうんとただ頷きながらじっと僕の話を聞いている。

「分かりました。でも僕もその【ムジカの瞳】っていうのは初めて聞きました」
「そんなもん、この街にあるんかいな」
「さぁ、それは何とも。でも心配なさらず、捜しましょう」
「えっ、有難うございます!このご恩は忘れません!」
「しかし、そのマフィアってのは少し厄介ですね」
「はぁ…」
「めいさん。とお呼びしても宜しいですか?」
「えぇ、もう何なら何とでも」

 充さんはこっちをじっと見て言った。

「とりあえず、誤魔化してください」
「え?」
「僕らも出来る限り頑張ります。その間余計な勢力はあまりないほうが良い。出来れば、伸ばして」
「そうなのぉ~」
「せや、自分が蒔いた種やねんからな。ま、姐さんも動いてはるんやろ?」
「あっ!」

 そうだ、一番の脅威が動いているんだった。

「まぁ、姐さんは、なんだかんだでカンが鋭いねん。任せてみたらどうや?」
「…」

 何だか話がややこしくなりすぎて、頭がパンクしてしまいそうだ。とりあえず僕は白龍にLINEでメッセージを送った。

【捜します。だから待ってください】

 返事はすぐに来た。お願いのスタンプだった。
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