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 勤労のあとは、【おとチキ】と缶ビールに限ると感じ始めたのは、居酒屋一銭で働きはじめてから一月が過ぎた頃だ。お客さんに教えてもらったのが、あの美形の挙動不審くんがいるコンビニにしか売っていないというオリジナルホットスナックの【おとチキ】だ。
騙されたと思って試しに買ってみたが、やばい。皮のパリパリ具合からジューシーさ、独自のスパイスのブレンドがたまらなくビールにあうのだ。無限ループのように病みつきになる【おとチキ】のせいでか、やや体が重くなってしまった気がする。
 音符のマークが書かれた包みに入ったそれを、裏路地を歩きながらパクつく。からの缶ビールのプルトップを開いてゴクリと流し込む。背徳感も相まって最高に美味しい。裏路地を半分までいったところで全部を片付けてしまった僕は、ふぅと息を吐いた。

「あっ、ちょっとすみません」

 僕か?と思いくるりと振り返る。

「僕?ですか」
「そうでゲス」

 僕が答えると、彼はサングラスのつるをちょいと上げた。明らかに、怖い人だ。

「待ってろでゲス」
「はい」
「おい、アンタはん」

 ドスの効いた声ではないが、腹まで響きそうなバリトンで言うと、素早い動きで僕の前に彼は立ちはだかった。声を出す間もなく頭の両側に手を回し、壁に手を突く。壁ドンだ。

「アンタはんに訊きたいことがあるでゲス」

 訛っているように聞こえるが、人民服を着ているところを見ると、彼は中国人だろう。言葉の末尾はおかしいが、そんな事は関係ない。やばそうな雰囲気。僕の心臓は早鐘を打ち始める。

「捜し屋」
「はい?」
「捜し屋でゲスか?」
「はっ、はい…?」
「ここ、音路町でゲスね?」
「はっ、はい」
「ってことは、アンタはんは捜し屋でゲスか?」

 サングラスからは彼の目線は感じられない。同じく取り巻きの二人からも感情が感じられない。手には陰陽マークのタトゥー、冷や汗が出て来た。つい…

「はいっ」
「そうでゲスか。ちょっと話をしようでゲス」

 ポケットに手を彼は突っ込んだ。つい身構えたが、彼が取り出したのはチュッパチャプスだ。コーラ味。

「おい」
「はい」
「プリンじゃないでゲスよ」
「はぁっ…」
「プリンに限るって…」

 彼は身を翻し、空中で左の取り巻きに回し蹴りを放った。取り巻きは大きく吹っ飛び、ゴミ箱に頭を突っ込んだ。

「何回言えばわかんだコラァ!」
「ひぃ!」
「ところで、アンタはん」

 男はまた僕の前に立ちはだかった。

「この東京のどこかに、お宝があるらしいんでゲス」
「お、お宝が…?」
「名前は、たしか、む、むじ…むじな?」
「【ムジカの瞳】」
「そう、それでゲス。チュッパの事は水に流すでゲスが、次はないでゲスよ」

 にやりと彼は笑って続けた。

「それを、捜してほしいんでゲスよ」
「ど、どこに…」
「そりゃ、アンタはん。捜し屋はプロでゲスよね?」
「うっ…」
「頼んだでゲス。これがあっしの名前と、LINEでゲスよ」

 名刺を差し出した彼。そこには【白龍】と、QRコードが書いてあった。

「明日、一回メッセージくれでゲス。もし忘れたら…ねぇ……」
「えっ…」
「さっさと登録するでゲス。そんじゃ」

 僕に背を向けると、取り巻きを連れて歌いながら白龍は去っていった。震える手でコードを読み取ると、LINEに友達登録されたようだ。
――そこには、チュッパチャプスが超至近距離で撮られていた。

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