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終、あんたを手放す気はさらさらない

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 その後、ふたりは何度も何度も獣のごとく睦みつづけた。

 夜が更け、月と太陽が入れ替わり、空が明るくなりはじめた頃にようやく意識を途切れさせ、泥のような眠りの後に、また互いを求めて愛し合う。
 理性に立ち返る時間すら惜しんで、寝台で、バスルームで、窓辺で、ひとり用の一等客室のあらゆる場所で、ふたりは溺れるように繋がった。

 時折口にするのは、部屋に用意されていた水と酒と、メリアデューテの買い込んだ露店のジャンクフードだけ。
 それすら行為の中で戯れに与え合うみたいにして、目も眩むようなめくるめく怠惰な生活は、ゆうに三日に及んだ。



「一生こうしていたいところだが……さすがにそうもいかないな」

 そして、淫蕩の限りを尽くした三日目の晩。

 もう何度至ったかわからない情交の果てに、ふたりは寝台で心地よい疲労の余韻に浸っていた。
 ふとサイオンがつぶやけば、腕の中で子猫のように丸まっていたメリアデューテが、ぴくりと小さく肩を竦ませる。その言葉の中に、終わりの時が近いことを感じ取ったのだろう。

「……ええ、そうね……。夢のような時間を、ありがとう」
「なあ、デューテ。俺の国に来ないか」

 この女を抱くと決めた時から心に浮かんでいた、とあるヴィジョンを告げる。
 乱れた髪のひと房をシーツから掬い上げて口付けると、サイオンを見上げた翠緑の瞳は、不思議そうに瞬きをした。

「ごめんなさい。よく意味がわからないわ……?」
「このままあんたを手放す気はさらさらないってことだ。この国を出て、俺の国へ来い。――結婚しよう」

 はっきりと告白してようやく伝わったようだ。メリアデューテはみるみるうちに真っ赤になって、それからじわりと目に涙をにじませる。

「うれしい……。でも、わたくし……」
「こんなただれた生活を送っておいて、今さら貞淑な神の花嫁を気取るつもりか? 修道女は諦めて、俺のものになれ」

 出会ってたった半月。身体を繋げて数日。
 それでも、サイオンはこの女こそが己の生涯ただひとりの伴侶だと確信していた。
 抱きしめて赤髪を梳くと、メリアデューテは何度も何度もしゃくりあげて頷いた。

「サイオンは、どちらのご出身なの?」
「グランディオニスだ」

 グランディオニス王国。
 この国の隣国で、非常に豊かなことで知られている。リットミンスターからさらに半月ほど西へ行けば、国境にぶつかる。

「実は、だいぶ前から『戻ってこい』とせっつかれていたんだ。そろそろ気楽な冒険者稼業は廃業して、本来の立場に戻るべきかもしれないと思っていた頃合いでな」
「ご家業を継がれるということ?」
「いや、家は兄が継いでいる。俺はまあ……手伝いってところか」
「そう、ですか」

 メリアデューテは何かを考えるように目蓋を閉じた。そして数秒の後に、まっすぐ迷いのない目でサイオンを見つめる。

「ではサイオン。わたくしをさらってくださる? 依頼の報酬はいかほどかしら」
「――金貨三枚。それから、あんただ」

 わざとらしく口の端を持ち上げてみせると、メリアデューテはクスクスと朗らかに笑った。

「わかりました。貴方についていきます。今はまだ、何もできないただの“元令嬢”だけど……。どんな生活でも、きっと慣れてみせるわ」

 彼女の強さと勤勉さ、そして好奇心があれば、どんな環境でもきっとうまくやれるだろう。
 たとえ、サイオンの家の規模が・・・・・少々大きい・・・・・としても。

 サイオンは目を細めて、「それは心強いな」と愛しい額にキスをした。



 それから、約ひと月後。

 グランディオニス王国は、十年前に王位継承権を返上して出奔した王弟殿下が、美しい妻を連れて戻ってきたと、国中がお祭り騒ぎになるのだった。

〈了〉
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みんなの感想(2件)

dragon.9
2023.10.28 dragon.9
ネタバレ含む
灰ノ木朱風
2023.10.28 灰ノ木朱風

ありがとうございます!
たしかにこのふたりの子世代のおはなしはすごーくたのしそうですね!
相変わらずらぶらぶな親に呆れつつも愛されてしあわせいっぱいの家族になりそうです

解除
ストロベリー ラビット

めっちゃ面白かったー♡
その後の2人や、元国の方々のざまぁもぜひ見たかったですψ(`∇´)ψ

灰ノ木朱風
2023.10.28 灰ノ木朱風

ありがとうございます!
きっと元国の人たちがおくちあんぐりしてしまうようなざまあが後日あったと思います

解除

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