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第一章 討伐騎士団宿舎滞在編
46 終わりよければすべてよし?
しおりを挟む……コンコンコン。
三回ノックは常識です。
「ロシアンミルクティー、飲みませんか」
ここは第一宿舎の団長室前。
夜更けなので自室に居るだろうけど、あえて団長室の扉を叩く。騎士の何某、とか言われそうだしね。たしかに夜に男性の部屋を訪れるのは……とか思うけど、今日は特別。
そこら辺は団長さんもわかってるでしょ。
「お待たせしました、どうぞ」
しばらく待っていると、扉が開いた。団長室から出てきた団長さんは、以外にもラフな格好だった。いつもはピシッと騎士団長服を着こなしているのに。
心做しか髪もしっとり……?もしかして風呂上がりですかね!!うわー、最悪なタイミング出来てしまった!!いつもより三割増の色気!
私が固まっているとそんな心情など知る由もない団長さんは持ってたティーセットを受け取り中に入るように促す。
気を取り戻し、いつものように来客用のソファに座る。久しぶりのソファ……なんか、すごく緊張するのは何故だろう。
いや、三割増の色気のせいだよ、絶対。
「えーと、今日のは新作なんですよ」
何から話していいか分からず、とりあえず置いてくれたティーセットを指指して言うと、興味深そうに視線をやる団長さん。
「見たことないものが沢山ありますね」
「団長さんが遠征に行ってる間に、色々作ったんです。これはジャムと言う食べ物で、パンに塗って食べたりクッキーやスコーンと共に食べたりするんですが……」
私の説明に頷きつつ、静かに聞いてくれる。
先程のことがあるので、ぎこちなくなってないかな……なんて思いながら。
ロシアンミルクティーはジャム入りのミルクティーなんだけど、本場は紅茶を飲みながらジャムを舐める……というのが本式だと教わっていたので今日はそれに則ってジャムは別添えだ。パンもラスクみたいに薄くスライスして焼いてきたからそれに乗せて食べつつミルクティーを飲んでもいい。
「ビックベリーとマーマレードの二種類のジャムを持ってきたので、好きなものを好きなようにお食べ下さい」
「ありがとう、では……私はマーマレードを頂こう」
ラスクにマーマレードを乗せて食べるスタイルでいくらしい。カリッと音をさせて咀嚼すると、甘さに眉を寄せるものもそれは一瞬で。ミルクティーで流し込むと笑顔になる。
「すごく甘いけれど、これは少し苦味もあって私好みです。ミルクティー……ですか?それとも、相性がいいですね」
「本当ですか?……良かった、そのジャムは母の味なので気に入ってくれて嬉しいです」
「これが……そうなのですか」
マーマレードをじっと見つめ何やら考え込む仕草を見せる。わたしは自分の分のビックベリージャムをミルクティーに入れてかき混ぜて飲んだ。
ほっとする味だ。
今日は色々あったから、普通の紅茶よりミルクティーが良かった。
お腹からじんわりとあったまる感覚に緊張していた身体が緩む。
程々に飲んで、食べて……多分今が最高のタイミングだ。
カップを一度ソーサーへと戻してから団長さんを見ると、気付いた団長さんも私を見返した。
「……今日は、ありがとうございました」
「さて?何のことでしょうか」
わざとらしくとぼける団長さん。
「ライオネルのこと、処罰なしにしてくれたこと、感謝してます」
あの後、報告と称して伝えた内容は『私は討伐へは同行したが、森の中に入らなかった』として伝えられた。
討伐に見学しに行ったけど、馬車の中で待っていた。なので私が迷子になったり、怪我をしたということや、野外実習などもしなかったことになっているのだ。
最初から何も無かった、という風に偽装したという事だ。
本来なら虚偽の報告など有るまじきことだけれど、そうしろ、と遠回しに団長さんが態度で示してくれたので今回のことは当然お咎めなし、今まで通りで良くなったのだった。
私がお礼を言うと、微妙な反応を示す団長さんが目の前にいた。
「……怪我は、大丈夫なのですか?」
「はい。ただの捻挫だったのと応急処置が良かったみたいで。走るのは当分無理ですが歩く程度なら全然」
「そうですか……」
どこか苦虫を噛み潰したような、なんとも言えない表情を浮かべる団長さんは、立ち上がると私の隣に移動してきた。
「え、と……団長さん?」
「私は、貴女を縛ってますか?」
「へ!?」
膝と膝がぶつかる位の、近い距離。
薄暗い室内で、団長さんの緑の目が煌めく。
「私は貴女を手元にずっと置きたくて避けてきた事に図星を指され……不甲斐ない自分に腹が立ちました」
森での出来事を言っているんだろう、ライオネルに指摘されたことをそれほどにまで気にしてる等思いもしなかった。
「いえ、それは私の無知が悪いだけであって……自分から行動せずに好意に甘んじた私が悪いのであって……決して団長さんが悪いって訳では……っ」
「団長さん、ですか?」
何故でしょう?今日の団長さんからはいつものような冗談やからかい等が全く感じられませんが、いかがでしょうか?
一旦距離を取ろうと離れると、詰め寄る団長さんにひっ、と息を飲む。
「貴女が、ライオネルと呼ぶ度に……私は腹の奥底が煮える様な感覚に陥ります。貴女を縛りたくないと思うのに上手くいかない」
あー……団長さんの髪がきらきら光って綺麗だな、しっとり濡れててそれがまた……とか馬鹿なこと思えるくらいの距離にいるってどうなのだろうか。アウトオブアウトなのでは!?
「あ、の……近いです」
「嫌ですか?」
「嫌、と言うか……緊張するので、話し合いするならもう少し距離をください、距離を!」
「ルーには許したのに?」
そこでルーが出る意味が分からない。
団長さんはこれ以上距離を詰めるつもりは無いのか、私をじっと見詰めるだけに留めてくれている。
だけど、ソファに置いている手と手、指先が触れるギリギリを保っているのが……なんというか……私的には気になるところだった。
「私は、今、隊服を着ておりません」
「はあ……」
言いたいことは分かる。
分かるだけあって小っ恥ずかしい!
この雰囲気で私がそれを許してしまったら。何かが起こりそうで怖い!
私が答えを濁しているのを察した団長さんは、耐えきれず俯く私を覗き込む。
「……ケイ様」
「ぎゃ!!」
起こりそうなのを起こしたくない私vs起こらないなら無理矢理起こす団長さんの戦いで、私は負けたのだろうか。……負けたな、うん。
「わかりました!わかりましたから!団長さんも、私のことは好きに呼び捨ててくださいー!!」
「それだけ?」
「……それだけっ!」
どことなく寂しそうな顔を見せる団長さんだけど、そこは譲れないので我慢して……って何を我慢する必要があるんだ。
久しぶりのイケメンビーム過ぎてちょっとパニックになってるのかもしれない。
「……なるべく、貴女を縛らないようにします。どこでも自由に、と私が言っておきながらそれが出来ていない……猛省します」
行動と言葉があってない気がしますけども。
これ以上は話しは終わり、と離れていく団長さんに、少し待ての合図で服を引っ張って止める。不思議そうにしつつも、座り直してくれた。
「私は……好きでここに居るので。みんなが居るこの討伐騎士団が好きです、まだ離れたくないです。だから、この世界の事もっと知りたい。それだけは宣言させてください」
流石に顔を見ながら言うのは恥ずかしかったので、服を握ったまま、早口で言った。
「……嬉しいです」
団長さんの、柔らかな声が間近で聞こえる。
……あれ?考えてみたら、私から団長さんに触れるのって初めてなのでは?
はっ、として顔を上げると団長さんもそれに気付いたようで蕩けるような笑顔がそこにありました。
「いつか、私のことも呼び捨てにしてくださいね?」
「……ははは……努力しまーす……」
一生無理。
私は心の中で呟いた。
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