上 下
47 / 67
第一章 討伐騎士団宿舎滞在編

43 悪意は突然に④

しおりを挟む
 
「私、生きてる……」

 視界は青空、仰向け状態。
 動こうにも全身が痛くて何も出来ない。
 幸い頭は打ってないみたい。背負ってたバックパックがクッションになったのかバックボアにタックルされた割には背中もそれほど痛くなかった。

 自分のしぶとさに呆れつつ、生きているという事実を噛み締めた。

 周りを見れば、先程クレソンを採った時の川の下流だろうか?
 落ちた所も最初は崖だったが途中から坂道に変わっていて運良く転がり落ちる形になったから無事だったのだろう。

「ぅっ……! やばい、足……捻ってる」

 腹筋を使って横向きになり、立ち上がろうとするも、左足を捻ってるようで動かすと痛みが走った。これではまともに動けないし、落ちてきたところを登るのも難しい。
 骨折じゃない分、よかったと思おう。

「どうしよう……声出したら魔物来ちゃうよね……」

 こういう時は焦ったら負けだ。
 冷静になろう。
 ……きっと騎士達が探してくれるから救助は直ぐに来る。飲み水もあるし、食べ物もバックパックにある。あとは足の痛みだけだから、それは枝で固定するとしよう。

 そうと決まればゆっくりと立ち上がりなるべく痛みが走らないように庇いつつ木陰に移動して座る。魔物に見つからないようにするためだ。近くの枝を何本か痛む左足に添え木して、包帯がわりに着替えのシャツを持ってたモーリーナイフで切って割いたもので足首を巻く。

「今日ほど自分がキャンパーでよかった、と思う日はないよ……」

 ため息をついてバックパックを抱きしめる。
 ホーンラビットにバックボア……騎士達がいつも定期的に行っている簡単な討伐、そう聞いていたけど、実際討伐している所を目の当たりにして、緊張感を肌で感じると何を持って簡単なんだ、と思った。

 騎士達は、いつもこんな生と死のやり取りをしているのか……。

 そう思うと、また背筋がぞっとした。
 騎士達が、簡単だと言う討伐は私にとっては死地に向かうようなものだから。
 お気楽にピクニックだ、などと思ってた自分が恥ずかしい。

「うぅ……ルー……ダン、ヤック、ポール……団長さぁん……!」

 森の中に一人。いつ魔物が来るかも分からない、救助だっていつになるかわからない。
 怪我だってしてて痛いし、怖いし、不安でたまらない。
 自然と涙が出ていた。

「何が一人で出来る、生きていけるだ馬鹿ー!全然ダメじゃん、私の馬鹿ー!」

 この世界は危険だと、散々忠告された意味が今やっとわかった。
 わかったフリして、お気楽に私は構えていたんだ。今回、それがよく分かった。

 こんな事にならないと分からないなんて私は馬鹿だ。大人のくせに、大人だから、大丈夫とか何故思った?
 私はただの平和ボケした馬鹿でしか無かったのに!

 弱気になってる今だから自分を責めてしまうのも、分かっているけど涙は止まらなかった。

 そんな時だった、茂みからガサガサ、と音がしたのは。

「ひっ……!!」

 恐怖に、思わず息を引き攣らせる。
 また魔物だったらどうしよう……。
 震える手で、ナイフを握り締めた。

「無事か!?」
「……ライオネル、さん……!」

 茂みから出てきたのはライオネルだった。

 ……魔物じゃ、ない。

 救助が来た、その事実にほっと一息ついたら、緊張してたのか脱力感に苛まれた。
 カラン、と握り締めたナイフが落ちる。

 ライオネルは余程急いだのか、息が上がってて、髪もボサボサ、所々に葉っぱもついてる。
 私の現状を瞬時で把握し、ため息をつかれた。

 ――怒られる!

 そう思って瞼をぎゅっと閉じて覚悟したら、ぽんっと優しく頭を撫でられていた。

「……へ?」
「無事ならよかった。足を怪我して無事も何も無いが……生きててよかった」

 想像と全く真逆のセリフを吐かれて、キョトンとするしかない私に、ライオネルは気付いたのか顔を逸らし咳払いをする。

 ……ツンデレ?
 
「足は固定してるようだが、歩けるか?」
「杖か何かあれば」
「そうか……わかった」

 そう言うと、ライオネルは後ろを向いてしゃがみこんだ。

「あ、の……?」
「俺が背負う。早くしろ」
「えええ!?いやっ、それって騎士の何某に触れるのでは!?」
「は?何を言っているかわからんが、怪我人を背負うのは当たり前の行為だぞ」
「……デスヨネー」

 落としたナイフを鞘に収め、急いで片付けてから、ライオネルの肩に手を伸ばし捕まる。
 と、勢い良く立ち上がられ、不意の浮遊感に回した手をぎゅっと握り締め、しがみつく形になってしまう。
 重くないですか?と問い掛けそうになったけどそんな様子微塵も見せずにさっさと進み始めたから、舌を噛みそうになって言えなかった。

 しばらく、無言が続く。

 ライオネルの息遣いと、足を踏み締め歩く度に軋む鉄の鎧の音しかしない。

 鎧は、固くて冷たい。
 だけど、なるべく揺らさないようにしてくれている気遣いが振動から伝わってきた。

 坂や崖を登るのはこの鎧を着ているだけで絶対きついのに、さらに私を背負っての崖登り。
 きつくないわけないし、乱雑になるのは仕方ないと思うのに。
 ライオネルはひとつも文句など言わなかったし、逆に労りを行動で示してくれた。

 ……この人、口は悪いけど本当はいい人なのでは……?

 最初の印象と、悪意を隠さずぶつけられた事でずっと避けてきたけど。
 こうやって今日接してみて、分かったことがある。

 ライオネルは、ただ、真面目でまっすぐなだけなんだな、と。

「あのっ……ライオネル、さ……っ」
「すまなかった」
「え?」

 いきなりの謝罪に出鼻をくじかれた。

「……お料理聖女を危険に晒すつもりはなかった。ただ、俺は……お前に分からせたかった」
「何を、ですか?」
「現状と、その平和ボケした考えに、喝を入れたかったんだ」

 ……多分、ってか今までの言動から考察すると言いたいことはこうかな?

「……つまり、私はこの世界は危険なのにそれを分かって無いので騎士達の私への誤解を解くのと同時に現実の厳しさを教えてやろう、と?」
「……そんな所だ」

 いや、口下手か!

 今度は私がため息をつく番だ。

「そういう事はちゃんと順を追って説明してくれたら私も変な態度とらなかったのに!」
「なに?俺はちゃんと話したぞ」
「言葉が、圧倒的に足りません!伝わってません!」
「そ、そうか……悪かった」

 顔は見えないけど、しょんぼりするライオネル。声がちょっと小さくなった。
 なんだ、この人全然怖くない、むしろちょっと可愛いのでは?

 そんな事を思ってしまった自分に、思わず笑ってしまうと、ライオネルは慌てる。

「何故笑うのだ?」
「いえ、あまりにもライオネルさんの印象が180度変わったので、自分で自分を笑ってしまいました」
「……お料理聖女は変わってるな」

 ライオネルも、笑った。そんな気がする。

「あーもー、そのお料理聖女呼び、やめません?私は、山野ケイという名前がですね……」
「む。では……ケイ様、か?」
「様はいらないです。みんなにそう言ってるのにどうしても様付けされちゃって……困ってるんで!」
「ならば、ケイ。俺の事も呼び捨てで構わん」
「そうですか?じゃあ、ライオネル!早くみんなの所に戻りましょーう!」
「……はいはい」

 人と人は、話さなきゃわからないのだな、と。この時ほど私は思ったことはなかった。

「ケイ、今までのものも、今日食べたピザも全部美味かった」
「そうですか?じゃあ明日はもっと美味しいもの作りますね……第二宿舎の騎士達にも!」
「ああ、頼んだぞ」

 今日一日で、私は現実の厳しさや、第二宿舎の騎士達のこと、ライオネルの本当の優しさ、そして自分の認識の甘さに気付けた日だと思った。

 帰り道は、ライオネルが魔物が出ない道を選んで迂回してくれたので日が落ちる前に皆が待ってる馬車を置いてる広場に戻れたのだった。



 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件

実川えむ
恋愛
子供のころチビでおデブちゃんだったあの子が、王子様みたいなイケメン俳優になって現れました。 ちょっと、聞いてないんですけど。 ※以前、エブリスタで別名義で書いていたお話です(現在非公開)。 ※不定期更新 ※カクヨム・ベリーズカフェでも掲載中

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!

マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です 病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。 ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。 「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」 異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。 「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」 ―――異世界と健康への不安が募りつつ 憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか? 魔法に魔物、お貴族様。 夢と現実の狭間のような日々の中で、 転生者サラが自身の夢を叶えるために 新ニコルとして我が道をつきすすむ! 『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』 ※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。 ※非現実色強めな内容です。 ※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。

処理中です...