上 下
22 / 67
第一章 討伐騎士団宿舎滞在編

20 一石二鳥って素晴らしい言葉です

しおりを挟む

「団長さん、いらっしゃりますか?」

 所変わって団長室前。
 茶器が揃ったお盆に作ったパンプディングとラングドシャを乗せて持ってきた、なう。
 なう、はもう古いのか。今はなんて言うんだろう。

 団長室の重々しい扉をノックし……たかったけど出来ないので少し大きめの声で問い掛けるとしばらくの後、扉が開いて団長さんが顔を出した。

「ケイ様、どうされました?」

 ちょっとびっくりしてる団長さんが出てきてくれた。
 急な訪問だったし、慌てたのかな?
 そして心做しか、少し顔色が悪いような。
 多分さっき食事云々を聞いたからそんな気がするのかもしれないのでとりあえずスルー。

「お茶菓子作ったので休憩しませんか?」
「お茶菓子……ですか?それは……」
「あー!すみません、こっちにはそういう習慣ってか、概念が無いんですよね!んーと、軽い……食事?かな?」
「食事ですか……」

 難色を示す団長さん。
 ふーむ、おやつとかなんて説明したらいいか分からない。

「お茶を飲みながら少し休憩しましょう、という習慣ですよ。それに少し相談事もありましたし……」
「そうですか。では……どうぞ?」
「失礼します」

 ぺこっと頭を下げてから入室。
 すっ、と持っていた茶器の盆をスマートに持ってくれるので流石としか言えない。

 そのまま促される形で応接用のソファに対面で座る。
 茶器の盆を団長さんがテーブルに置いてくれたので、まずはお茶を注いだ。

 この世界のお茶はどことなく薬っぽい味がする。どくだみ茶みたいな、そんな感じのお茶だ。嫌いでは無いのでそれはいいのだけど、今回は団長さんに、ということなので元の世界から持ってきている紅茶……――と言っても安物のティーパックだけど――を入れてきた。

「珍しい……香国のお茶のようですが……?」
「これは紅茶という、地球の……んと、私の故郷で売ってる外国のお茶です」
「……複雑ですね?」
「言葉にすると複雑ですが、世界中どこでも誰でも買えるほど飲まれてるものですよ」
「そうなのですか。それにしても、とてもいい匂いです」 

 団長さんの前に茶器を置きながら説明すると、その香りを楽しむようにカップをくゆらしている。
 ワインでそうするのみるけど、紅茶にも適応するのか?よく分からないけど。
 そして一口飲むと団長さんは微笑んだ。

「美味しい……紅茶、でしたか?これは飲みやすいですね」
「安物のティーパックですけどね、入れ方は拘りました」
「これが安物……地球とは本当に凄い所なのですね。レイスディティアでは高級品になりますよ?」

 手元の紅茶を見つめつつ感慨深く団長さんは言う。
 ここと文化が違うのだから当たり前なんだけども。当然違う事も逆なことも山ほどある。こんな安物のティーパックでも、ここでは高級品になるのだ。
 紅茶に感動してる団長さんの前に振り分けておいたパンプディングとラングドシャをそっと置く。

 不思議そうにそちらを見ると、カップを置いてまずはとラングドシャに手を伸ばした。

「それはラングドシャといって、焼き菓子になります」
「……甘くて、サクッとして、口の中で解けていきますね。面白い食感です」
 「猫の舌、と言う意味らしいです。薄いから、みたいな」
「ネコ……ほほう、今度見て見ましょうか」

 こっちの世界ネコいるのか。
 お菓子の名前の意味を教えたらめちゃくちゃびっくりしてた。
 ……もしかして私の知ってるネコじゃないかも知れないけど。なんか同じ名前の何かがいるのは分かった。

 そのあとも、二、三枚食べては紅茶を飲みつつ感想をくれたけど団長さんは食リポ上手だった。でも甘いものあまり好きじゃないのか、パンプディングに手を伸ばして食べるけど、パンプディングもほかの騎士達と同じような感想の後、一口食べてはまた紅茶飲んでた。
 
「団長さん、甘い物苦手です?」
「美味しいですよ?」
「味噌汁の時と反応が違ったので……」
「あれは神の食べ物ですから!」

 はい!今日一番の笑顔ありがとうございましたー!

 完食はしてくれたけれど、団長さんはどちらかと言うと紅茶のが気に入ったみたいだ。
 甘い物より紅茶なら、コーヒーも好きかもしれない。今度持ってこよう。

「この、お茶菓子というのはいい習慣ですね。先程までの疲れが取れました」
「本当ですか?じゃあ、次は違う物をお持ちしますね」
「是非」

 笑って頷いてるから悪い気はしてないんだろう。
 うん、お茶飲んだら団長さんの顔色、良くなった気がする。

「……ところで、相談というのは?」

 一息ついたところで団長さんが話のきっかけをくれた。お茶を飲んでるあいだ、他愛ない話ばかりしていて本題を忘れていた。

「あ、そうだった。あの……食事の事なんですが……」
「ああ……騎士達、でしょう?……報告、というか嘆願書がポツポツと上がってきてます」
「へ?!」
「ケイ様に、この宿舎の料理番になって欲しいとの嘆願書です……私としては却下しようと思っていたところで……」
「その事なのですが!」

 渡りに船、とはこういうことだ!
 ここに来て三日ほどしか経っていないのにも拘わらず、もう嘆願書が出ていたのはびっくりしたけど、これで交渉しやすくなった。

「要望には応えたいですが、私一人で全員分の食事を毎度作るのは正直辛いです。なので代案ですが、自分の食事を自由に作らせてもらう代わりに作り方などを他の騎士にも教えたいと思うんです。今の見習いの子達が学習して存続して作って貰いたいなと思いますし、それを騎士達にも教えてみんなが作れるようにしたいと思うんです」

 反論、というか余計な事を考えさせないようにわざと怒涛の如く捲し立てるようにして意見を口にした。
 そんなわたしをびっくりした瞳で見る団長さんだけど、私の意見を咀嚼し、掻い摘んで一番気になるであろう事を質問してきた。

「作り方を、見習い騎士達だけでなく、騎士達にも……ですか?それはどういった意図で?」
「はい!調理技術が上がれば野営とかの時に助かるんじゃないかなって。腹が減っては戦は出来ぬと日本では言うので!訓練の一環として受け入れてもらえれば私が講師として教える事ができます!」

 そうなのだ。私の考えたことは2つ。
 一つは騎士達みんなに作り方もしくは、レシピを公開して誰でも作れるようにすること。
 そうすれば一人一人の調理技術も上がるし野営時美味しいご飯が食べられて困らないし、ご飯美味しくて士気も上がると思うし、なにより訓練の一環として扱えるのでは?と思ったのだ。

 料理を教えながら出来た料理を振舞って、それを騎士達が食べて多少騒ごうが訓練なのだからライオネルも、そうそう口を出せないはず。
 そしてもし、近い将来私が居なくなっても困らない、という訳だ。
 そしてもう1つが……

「作ったものを試食する人は絶対居るので、そこは訓練に関係無い団長さんと、副団長がいいと思います。元いた世界では、そういう専門の機関があったんです。もちろん、二人の分は責任持って私が作ったものを献上しますので」

 私が言ってるのは保健所の検食の事なのだけどね。この世界には必要ない事だけど、今回ばかりは制度を利用させてもらいます!

 こうすれば団長さんの食べない問題は解決するだろう。団長として訓練で作ったものを食べなければならないという大義名分を与えたのだから。そしてあわよくばライオネルの胃袋も掴めるかもしれない……という、1つで2つ美味しい一石二鳥の作戦なのだー!

「腹が減っては戦は出来ぬ……ですか」
「はい、有名な人が多分言いました!こちらの世界の、ですけど!」
「……言い当てられたかと思った……」
「へ?」
「いえ、なんでもないですよ?」
 
 団長さんは少し難しい顔をした後、しばらく考え込んだ。

 私はなんともない振りをして、紅茶を飲む。
 内心はバクバクしている。

「……わかりました、ケイ様にご負担がないのならば」
「本当ですか!?」 
「はい。しかしくれぐれも御無理はなさらないでください。辛くなったらすぐにでもやめてくださいね?」
「大丈夫です!じゃあ、早速仕込みしないと!もうすぐお昼ですからね!」

 許可を貰ったことでウキウキとはやる気持ちを抑えきれず、ぐいっとのこりの紅茶を飲み干し片付け始める。

 そんなわたしを眺めながら、団長さんはクスクスと声を出して笑っているのに気付いた。

「な、なんですかっ、?」
「いえ、かわいいな、と思って」
「へあ!?」
「食事に一所懸命な所が見ていて楽しいです」 
「なっ!!食いしん坊とか思ったんですか!?」
「……さあ?」

 ニヤ、と笑う団長さん。
 この笑みの時は何か企んでそうで、それでいて意地悪で、なんというか……大人の魅力たっぷり、という妖しい感じがして苦手だったりする。
 ぐぅのねも出ないので、ここは早めに退散しておくが吉!

「どーせ私は食欲魔人ですよーだ!お昼ご飯、覚悟しててくださいね!!」

 団長さんの分の食器も早々に片付けて、去り際に捨て台詞を吐いた。
 昨日から翻弄されっぱなしなのが悔しいので、お昼は絶対めちゃくちゃ美味しい物を作ってやる、と心に決めたのだった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件

実川えむ
恋愛
子供のころチビでおデブちゃんだったあの子が、王子様みたいなイケメン俳優になって現れました。 ちょっと、聞いてないんですけど。 ※以前、エブリスタで別名義で書いていたお話です(現在非公開)。 ※不定期更新 ※カクヨム・ベリーズカフェでも掲載中

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。-俺は何度でも救うとそう決めた-

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
 【HOTランキング第1位獲得作品】 --- 『才能』が無ければ魔法も使えない世界。 生まれつき、類まれな回復魔法の才能を持つ少年アスフィは、両親の期待を背負い、冒険者を目指して日々を過ごしていた。 しかし、その喜びも束の間、彼には回復魔法以外の魔法が全く使えないという致命的な欠点があった。 それでも平穏無事に暮らしていた日々。しかし、運命は突然、彼に試練を与える。 母親であるアリアが、生涯眠り続ける呪いにかかってしまう。 アスフィは、愛する母を目覚めさせるため、幼馴染で剣術の使い手レイラと共に、呪いを解く冒険の旅に出る。 しかしその旅の中で、彼は世界の隠された真実に辿り着く―― そして、彼の『才能』が持つ本当の力とは?  --------- 最後まで読んで頂けたら嬉しいです。   ♥や感想、応援頂けると大変励みになります。 完結しておりますが、続編の声があれば執筆するかもしれません……。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

処理中です...