上 下
21 / 67
第一章 討伐騎士団宿舎滞在編

19 甘味は誘惑の甘い罠

しおりを挟む
 カンカン。
 キンキン。

 金属音と木が何かとぶつかる音が聞こえる。
 ここは訓練場。

「熱気が……凄い……」

 三十人ほどの騎士達が打ち合いをしたり、案山子相手に木製の剣でひたすら打ち込みしてたり、とりあえずなんか各々で自主練している。

 あ、ちゃんとあのこわーいライオネルが居ない事は確認済みです。
 討伐に行ったので2、3週間は帰ってこないそうです。やったー。

 やっぱり怖い人いたらやりにくいじゃん、こういうこと。

「さてさて、ルー達は……と、居た!」

 頑張って案山子に打ち込みしているのは三人組。皮の鎧を着けて頑張っている。
 本格的に打ち込みをしているのはルー。軽装の金属の鎧を着けて真剣での打ち合い。
 流石、年齢制限を超えて騎士になっただけあります。

 ルーには声をかけられないので、三人組……の中でもへばってるポールに声をかける。

「ポール!」
「んえ?わあ、お料理聖女様だぁ」
「ケイだよ」
「ケイ様ぁ、どうしたんですか?ここは危ないよお?」
「差し入れ持ってきたんだ!みんなで休憩しよ」
「差し入れ!?わあーい!休憩だあ!!みんなーー差し入れだってー!!」

 私が声を掛けると、木刀を放り投げ走り出して騎士達に伝えるポール。おい、お前さんさっさまでへばってたやないかい。
 差し入れの力は怖い。特にポール。

「ケイ様、ありがとうございます。他に手伝うことはあります?」
「厨房にまだはこべてないのがあるんだけど、それを……」
「了解しました、すぐ持ってきますです!」

 ヤックがさっと動いて厨房まで走る。
 みなまで言わずとも、の働きをするんだよな、ヤックって。頭の回転が速いんだろうとは思うけど、最後まで聞かないのも困る気がする。特に、こういう騎士とかいう職業は。
 ヤックは騎士と言うか……もっと別の職業のが向いていそう。たとえば商人とかさ。

「おい、それ、貸せよ」

 考え込んでたら、後ろからダンが私が持ってた荷物を奪って持っていった。びっくりしたけど重かったから助かった。
 私が指示するまでもなく、ダンはどこからか木箱を持ってきててそれにパンプディングや、ラングドシャを並べてくれていた。
 ダンは口数すくないけどよく周りを見て、自分が今何をすべきか、をきちんと理解して行動する。リーダー素質があるんだよなあ。
 うん、ダンは本当に騎士向きだね。天職なんじゃなかろうか。将来がとっても楽しみです!

「ケイ様あー、みんな呼んできたよお」

 ポールの後ろから騎士達がぞろぞろとついてきた。ポールは見た目からか人懐っこくて騎士達から三人組の誰よりも愛され構われている、言わばこの騎士団のマスコットキャラ的な存在だ。ケンカしててもポールがいればすぐ収まる癒し系。そのくせ食には機敏で貪欲なので、騎士と言うよりコックの方が向いてると思う。

「えーと、パンプディングとラングドシャという異世界のお菓子を作ってみました。どちらも甘いのでお口に合えばと思います!」

 集まった騎士達が興味津々にダンが並べてくれたお菓子を見ている。

 甘いお菓子、と言ってもこの世界には無かったものなのでみんな不思議そうに見ている。
 そりゃそうだ、未知なる食べ物だもんね、警戒しちゃうか。失念した。

「わー!おいしそう!ボク、このラングドシャ?ってのから食べたーい!いっただきまーす!!」

 困惑している騎士達をそっちのけに、ポールが空気を読まずラングドシャをぱくり。
 騎士達の視線がポールに注目されるも、気にせずパクパク食べていくポール。
 騎士達は、ポールの感想待ちだ。

「お、美味しいー!ボク、こんなの食べたことないっ!あまぁいのがほろほろーで口で溶けるのぉ!」
 
 数枚食べたあと、ほっぺを両手で抑えながらポールは叫ぶ。その一言を皮切りに、お腹をすかせた騎士達がラングドシャに殺到。
 出遅れた騎士の一部はパンプディングを食べているポールのもとへ。
 当然これも配膳してはうれる、という感じで直ぐに無くなった。

「これが異世界のお菓子というものなのか」
「あまいけど色んな味がする!」
「甘いの食べたくなったらはちみつを舐めればいいとおもっていたけど……これは別格だな」
「異世界はこんな素晴らしいものを食べているのか!」

「「「「異世界ってすごい!」」」」

 今にも神に拝まんとする騎士達だったが、作ったのは私だと分かっているので熱視線が集中した。私的にはこの世界が異世界なのでこちらの方がすごいと感じるんですがね。
 立場変われば価値も変わるってね。

 瞬殺で無くなったお菓子の追加をヤックが持ってきてくれたけど、これも一瞬でなくなってしまったとさ。


***********


「ねえ、ルー?団長さんは居ないの?」

 お菓子もあらかた配り終え、皆さん今は落ち着いて各々お茶や水を飲んでいる。
 ちゃっかり自分の分を確保してラングドシャを食べながらルーは宿舎を指さして。

「あそこです」
「あそこって……団長室?」 
「はい。団長は滅多に自室から出ませんから」
「そうなの!?」
「そうですよ。なのでケイ様と御一緒に食堂へ来た時はびっくりしました」

 だからあの時モーゼだったのか、納得。

「じゃあ、普段の食事とかはどうしてるの?」
「当番制で届けに行ったり、ですかね?ですが食事を取られないことも多いので……お断りになることが多いです」
「な、んだ……と……」

 それはダメだ。由々しき事態を暴いてしまった……聞いたからには放っておけないではないか。
 なんとなく騎士達との壁を感じていたのはこういう事なのだろう。何か事情はあるんだろうけど、食事を取らないのは頂けない。
 やっぱりお菓子、届けよう。

「ケイ様、今度お菓子の作り方も教えてくださいね」

 ルーはラングドシャが気に入ったみたいで、大事そうに食べながら懇願する。

「うん、もちろん!ラングドシャ気に入った?」
「はい!このホロホロとした食感が楽しいです!」
「そっかそっか、これ、マヨネーズ作る時に余った卵白で作るから次にまた大量にマヨネーズ作る時に作ろうね」
「はい!!楽しみにしてます!」

 マヨネーズは当番制で大量に作ることが決まったらしい。ポールが一番気に入ってるので積極的に作っていくそうだ。

 ああ……この世界にマヨラーを誕生させてしまった……。

 異世界もので必ずと言っていいほど調味料チートするマヨネーズですからね……沼ですよ、沼。

 しかしまだまだマヨネーズのポテンシャルは引き出せていないし、マヨネーズはズボラ料理には欠かせないし万能で凄いのでちょこちょこ出していこうと思う。
 それにはまずは柔らかいパンを作りたいし、なんならパスタでもいい。

 そういえばお昼も作らなければなので自分の分のお昼は何にしようかな、なんて考えていると騎士達がザワザワとしているのに気が付いた。

「お料理聖女様がきてから、美味しいもの食べられてるよな」
「そうだな……この二日だけで神の食べ物を何度食べたか……」
「昼も食べられるかな?」

「「「「お料理聖女様……」」」」

 みんなの熱視線が痛い……。
 私は聖女じゃ無いので反応しませんよー……。
 
「……ルー、私そろそろいくね」

 ここは逃げるが勝ちです。
 なんとなく感じる騎士達のプレッシャーに、大事になる前に退散しようと思います。
 今は居ないけど何かあったらライオネルに角が生えてまた怒られるからね。

 それに来てそうそうに騎士達の胃袋を掴んでしまったようだけど、全員分を毎回は私にはちょっとプレッシャーなのです。
 
 気が向いた時に一品、とかならいいんだけどね、それに私はここにずっといる訳じゃないし、ずっと居られない。

 いつか離れなければならないのだからあまり料理しない方がいいのかな。
 こういうことも相談しにいこう。いや、しなければ!

 みんなが使ったお皿を片付けつつ考えていると、綺麗に完食されているパンプディングの空皿を見て、それはそれで嬉しくてによによするわたしなのであった。
 


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件

実川えむ
恋愛
子供のころチビでおデブちゃんだったあの子が、王子様みたいなイケメン俳優になって現れました。 ちょっと、聞いてないんですけど。 ※以前、エブリスタで別名義で書いていたお話です(現在非公開)。 ※不定期更新 ※カクヨム・ベリーズカフェでも掲載中

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!

マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です 病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。 ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。 「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」 異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。 「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」 ―――異世界と健康への不安が募りつつ 憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか? 魔法に魔物、お貴族様。 夢と現実の狭間のような日々の中で、 転生者サラが自身の夢を叶えるために 新ニコルとして我が道をつきすすむ! 『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』 ※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。 ※非現実色強めな内容です。 ※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。

処理中です...