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第一章 討伐騎士団宿舎滞在編
9 塩しお潮!!ここは海か!私は魚か!!?
しおりを挟む「ど、どうしました、ケイ様?」
私の近くに居たにもかかわらず復活が早い団長さんが、いきなり大声を出した私を心配してくれてる。けど、私にとってそんなことどうでもよかった。
何故なら……。
「団長さん……申し訳御座いませんが、食事の説明よろしくお願いいたします……」
「はあ……至って普通のスープとパン……ですが?」
また絶叫しそうになった。
至って?普通の?スープとパン、だと……?
これを日常的に食べていると言うのか?
団長さんがスープとパンと言って持ってきたものは、私からするとカップじゃなく、皿で汲んだお湯と平たいビスケットと言えるものだった。
申し訳程度に玉ねぎが入っているスープはオニオンスープらしく、味は塩味で出汁もコンソメもなし。
平たいパンはフォカッチャを思い出させる形だけど、小麦粉を適当に練って焼いただけのガチガチの……グルテンの塊。
おかずというか、目玉焼きと付け合せにサラダがあるのだけど、それはただ切ったものをのせただけで、ドレッシングも何もかかっていない。塩とオリーブオイルのみだ。これはこれで美味しいが、野菜です!!という主張が激しい。
目玉焼きは日本でいう片面焼きのサニーサイドアップではなく、両面焼きのオーバーターンにする前、ぐしゃぐしゃに黄身を混ぜてからひっくり返しました、みたいな……もちろん、味はついていなかった。
朝だから控えめなのかな?と思ってそれ以上はツッコミはせず、塩味しかしない朝ごはんを食べ、昼を待ってみた。
……結果、石のように硬い形だけクロワッサンもどきと何の肉か分からない焼きすぎて硬いステーキ、朝と同じサラダとスープが出てきた。
「……塩味」
「ケイ様?……あの、どうかなさいましたか?食事になにか不満でも……?」
おずおずと団長さんが問い掛ける。
周りを見ればわたしたちと同じような食事で、皆何も疑問を持たずに食べている。
と、言うことは、だ。この世界の基準はこれかこれ以下という事。だってここは曲がりなりにも宮廷付属の討伐騎士団。肉が出てるだけでもきっと凄いことなんだと思ったし、実際そうなんだろう。もしかしたら塩味であることさえも……いや、もう考えない。
材料の野菜などはどれも新鮮でおいしいから、ドレッシングがいらないって言うのはわかる。
でもって肉も筋張っていて顎が破壊されるかなと言うくらい焼き過ぎなだけで素材そのものの味は良い。何の肉か分からないのが怖いけど、ちょっと塩分多めっていうのも……まあ、わかる。訓練で疲れた身体を塩で補う的なね!
そう、素材そのものはいいのだ、全て。
味が無くても美味しく食べられるんだろう。
しかし、パン……お前はダメだ。
硬いパンもどき!いや、パンと呼ぶのもおこがましい!これはグルテンの塊でしかない!人でも殺すんか?ってくらい硬いし!これはいけない!!!保存の為なのか塩の味もする!塩分過多だよ!こんなん食べ続けてたら高血圧まっしぐらだわ!!
「団長さん……ここの食事はいつもこのようなものなのですか?」
「そうですね、夜も大体同じような内容で、パンが蒸かし芋になるくらいでしょうか」
「味は?調味料は?」
「調味料……とはなんですか?」
「……マジか……そうきたかー……」
チートうぇーい!とか女神様サービス良すぎない?とか思ってたけど、こういう事か……。
居るだけでいい、楽しんでって……食事がこれだと楽しみたくても楽しめないよ!
女神様、絶対こうなること分かってたな……?
だから調味料無限大チートなんだな??
異世界人が居るだけでその世界の文化が進むってこういう事なのね……。
私がため息をついていたら、何を勘違いしたのか団長さんが謝ってきた。
「すみません、ケイ様……」
「なんで団長さんが謝るんですか?」
「ご不満があるのに、何も出来ず……申し訳御座いません」
しょんぼりゴールデンレトリバー……。
団長さんが悪いわけじゃないのに、そこで謝っちゃうのがこの人のいい所であるし悪い所でもあるんだろうな。
私なんか地球では普通の一般人なのに、この団長さんは何故か私の事を聖女のように扱ってくる。
確かに私が聖女の能力があったら護衛する役割を担ってたって下地があったにせよ、ちょっと過剰じゃないかな……なんて思った。
でも、優しくしてくれるのはとても嬉しいし、感謝している。たった1日ちょっとだけど、この人は常に私にとても気を使ってくれるし過ごしやすいように何とかしようとしてくれる。
そんな人を悲しませたくはないよね?
「団長さんが謝ることじゃないです、私の住んでた世界の基準で物差し測っちゃっただけなので」
「……やはり、ケイ様のお口に合わなかったのですね」
「いえ、素材自体はとっても美味しいんです。……ただ……」
「ただ?」
首を傾げる団長さん。
イケメンのくせに可愛いとかやめろ。
咳払いをして、意を決して言う。
「塩味しかないのが……辛い……」
私の心の中で、キヨミズの舞台から飛び降りる位の勇気を使った。
人間、贅沢に慣れていたら二食で塩味縛りの食事に限界迎えて涙することになるからお前ら覚えておけよ!!
私の訴えに団長さんは少し考え込む仕草を見せると、にこり、と笑った。不思議に思った私が団長さんに目で訴えると、そのままの笑顔で頷く団長さん。
なにか考えがあるんだろうか?
「わかりました、それではケイ様にこの宿舎の調理場をお見せします。それで元いた世界と同じような食材や調味料?があれば自由にお使いください」
「え!?いいんですか!?」
「はい、それはもう。ケイ様に心穏やかに過ごしていただきたいので」
「ありがとうございます!!」
飛び上がらんばかりの私を、団長さんが破顔のイケメンビーム飛ばす勢いで見詰めるから反射的に真っ赤になって固まってしまった。
やめて、なんでそんな笑顔で見つめるの怖い。
胸のときめきを自覚しつつも、怖さが先に来てしまったので、誤魔化すように水を飲んだ。
「食事も終わりましたし、こちらに」
塩たっぷりの食事を終えた私に団長さんは促した。
素直について行くと、先程言っていた調理場に案内された。
調理場に、と言っても食堂と調理場はくっついていて、雰囲気は学生食堂って感じだ。
カウンターには食事を受け取るスペースと、食べ終えた食器などを置くスペースがあって、今は皆食べ終えたばかりなので大量の食器を前に忙しいそうに洗い物を頑張っている中学生位の子が見えた。団長さんがそこから直接その子に声をかける。
「ルー、今いいかい?」
「へ?……わ、わああ!?だ、だんちょ……じゃなかった!ウルファング士団長様!!わ、私のような下のものに、何か御用でしょうか!?」
「そう畏まらなくていい、ちょっとお願いがあるんだ。食堂に来てくれないか?」
「は、はい!ただいま!」
中学生位の子……ルーと呼ばれた男の子は、団長さんが声をかけると皿を割らんばかりに狼狽えていたけど、威勢の良いハキハキとした感じがとてもいい印象だった。
そして声をかけられて数分、泡だらけのまま急いで走りながら食堂にやってきた。
カウンター越しだったので、一旦調理場から出たあとぐるっと回って食堂に来たらしく、息も絶え絶えになっていたのが少し不憫に感じた。
「お、おまたせっいたし……ましたっ」
「急がせてしまったね、悪かった」
「い、いえ!!……そ、それで……御用というのは……?」
「ああ、まずはこちら。知っているだろうが、召喚の儀にてこちらの世界にこられたケイ様だ」
「え、あ……はじめまして、ボク……じゃない、私はルーと申します」
「あ、はじめまして……」
団長さんに紹介されたルーは、私を見るとビクッと身体を跳ねさせるも、直ぐに立て直り一礼をしてくれた。
けど、なんだかわたし恐れられていないか?
昨日から若干感じ取っていたけれど、周りの騎士達の反応が微妙なんだよね……。
騎士団の中で私が唯一女だってのもあるし(この男の世界に何故女が?みたいな反応あるし)見慣れないんだろう。ましてや異世界から来たってのもある。
そこはちゃんと事前説明して通知してたらしいけど……やっぱりあれか?ステータスか?
今現在私のステータス、団長さんに説明してもらったんだけどレベル的には幼児くらいなんだそうで。普通だったら有り得ないんだそうです。それはなんとなく謁見の間の時に聞いたような気がする。
普通なら庇護せねばならぬ存在……それを知らないのに教えもせずに放り出すなんて外道しかない、だからこそ団長さんが必死こいて昨日探し回ってくれたらしいよ。
そんなこと宮廷の人なんっも言ってくれなかったけどね!!
まあ、私が啖呵切ったからしょうがないんだけど。
そんな状態なのにその他が大人クラスだからバランスが取れてなくて存在自体が危ないって。だから団長さんめっちゃ過保護なのかな?と思ってる。
そんなちょっと扱いにくい人物を前にして、ルーを初めとする騎士達の反応は当たり前か。
……なんて妙に納得してしまった。
「それでだな、ルーにはケイ様と共に調理場の案内をして欲しいのだ。私は調理場の事は分からぬからな」
「ぼ……っ、わ、私がですか!?」
「空いてるのはルーしか居ないだろう?他の騎士はこれから討伐に行くそうだ」
「う、あ……は、はい……」
なんかめっちゃ嫌そうなんですけど!!
大丈夫か!?
私が不安そうに二人の会話を聞いていると、ルーが恐る恐るこちらに近付く。
「あ、のっ……どうぞこちらにっ」
めっちゃ緊張されてる……本当に大丈夫か?
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