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第一章 討伐騎士団宿舎滞在編

8 振り返ればもう……

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「ケイ様~!今日のご飯はなんですかー!?」

 新米騎士団員のルーがやってきた。
 彼はまだ成人してないので騎士団の仕事にはついていけない。だからいつも訓練以外の空いた時間に私の手伝いをしてくれている。
 最初は私の事を怖がっていたのだけど、なんか気付いたら懐いていたので良しとする。

「んー……今日は風の日だっけ?じゃあ、カレーにしようかな?」
「カレー!?やったー!ボク、カレー大好きです!」
「玉ねぎいっぱいだよ?」
「……そ、それを乗り越えても!カレーは美味い!」

 玉ねぎ、の単語に嫌な事を思い出したのか、ルーは怯んだけど、その後の美味しさも同時に思い出したようでやる気に満ち溢れている。

 カレーは万人にウケる。
 それはこの世界もそうであったようで、初めてカレーを出した日は奪い合い、後、おかわり戦争の喧嘩勃発したほど。
 死人が出るかと思ったね。 

 あれ以来何度かリクエストがあってカレーが出まくったけどいまではおちついたものよ。
 ……思い出すとちょっと遠い目になりそう。

 嬉しい事に食材なんかの呼び方は私仕様に変換してくれるみたいで、玉ねぎは玉ねぎ、じゃがいもはじゃがいもって変換して聞こえる。
 見た目も似たり寄ったりだからそれっぽいものが地球で言うそれ、みたいな感じ。
 いや、これは流石に……っていう見た目のもの、まあいわゆる異世界ならではな食材は……

「ルー、これ何?」
「それですか?……んっと、○□■■ですね!」
「……そっかー!」

 ……な、時もあるし。

「これは?」
「それはタケノコです!」
「これが……タケノコ……」

 ……な時もある。

 ちなみに今持ってるタケノコらしきものは見た目でっかいキノコである。
 うん、キノコ。しいたけ寄りの見た目のキノコ。

 多分食べたらタケノコの味がするんだろうな。
 そっと元のカゴの中にもどした。

 今日は風の日。

 この世界……レイスディティアは、七日を一周として、それを4回繰り返してひと月。
 そしてひと月を12回繰り返して一年としてるので、地球とまるで同じで数えやすかった。

 ただひとつ違うのは曜日の呼び方で、光の日、火の日、水の日、土の日、風の日、闇の日、女神の日……って呼んでる。数え方は、2週目の火の日、とか火の日の2とかバラバラで、日にちという概念はなかった。
 だから誕生日とかも、2の月の3週目の土の日……みたいに言うらしい。
 わかればいいでしょ、ていうアバウトさが異世界っていう感じがする。

 そんでもって、それぞれに神が居て、それを祀る日……らしい。担当の神の力が強くなるんだって。
 これはスキルとか魔力、滅多にないけど加護とかに関係あるから重要らしく、例えば魔法を使うなら闇の日がやりやすいとか、魔力があがるとか、魔物が出やすくなる……とか、そういうことらしい。
 とにかく生活に関わることだから、各曜日?は気をつけた方がいい日と過ごしやすい日があるからそれを参考にして生きているそうだ。
 うーん、何ともサバイバル。
 
 例外は女神の日ってのがあって、この世界を統べる頂点の女神様の事らしく、この日は穏やかで女神が護ってくれるから仕事とかもお休みして神殿にお祈りに行くんだって。
 行けない人はお祈りだけでもいいみたいだけど、長くそれを続けると加護が薄くなる?とかでどこかで必ず近くの神殿に行くんだそうだ。
 自分で神棚みたいなの作る人もいるらしいけど、それは貴族とかが多くって、基本、神殿に行くのが常識なんだそう。
 地球でいうミサ?みたいなもんかな?

 ここの討伐騎士団は自分達の簡易神殿があって、それは遠征に行く時にもっていく用なんだそうで、ここ宿舎には無い。
 だから普段は宮廷の神殿に預かってもらってるらしいし、お祈りしに行くって言ってた。

 多分、女神の日の女神様が私が話した、あの優しい女神様だと思う。今度、女神の日になったら神殿行ってみようかな、報告がてら。
 あ、でも他の人に会うのは嫌だし、特にあの馬鹿王子とは死んでも会いたくない。それに、司祭様と顔を合わすのもなんだかな……気を遣わせてしまうかもしれない。だから、ちょっと考えものだ。

 そんでもって今日、風の日は日本で言うと金曜日にあたる日なので、なんとなくカレーにしてみた。 
  ほら、海軍の人は曜日感覚が無くならないように金曜日はカレーの日ってしてたじゃん?私はそこの出身じゃ無いけど、なんとなくね。日本恋しいで、習慣にしてみようかなって。
 
 こんな話したら絶対ルーが食いついてくるだろうから、今は内緒にして。

 私は嫌な顔をするルーに大量の玉ねぎを押し付けて、ひとり黙々とじゃがいもの皮を剥く作業に没頭する。


 ――……あれから、どのくらいたっただろう。色々ありすぎて遠い目になる。


 少し過去を振り返ることになるのだけど。
 団長さんに、有無を言わさないイケメンビームをくらったあと、私はあれよあれよと用意されてた部屋(団長さんが絶対私を保護すると前もって他の騎士さんにお願いして整えててくれた)へと連れていかれ、そのまま寝た翌日の話。

 私は、今日も小鳥の鳴く声で起きた。

 やはりこの世界の人達、朝がめっちゃ早いみたいで夜明けから活動してる。
 神殿の皆様みたいに日も登らぬうちに、なんてことは無いけどそれでも騎士団の皆は訓練だとか、周辺警備だとかで忙しそうだった。

 掻い摘んで聞いた所、この国には大きくわけて王家や貴族、宮廷の事を守る近衛騎士団、国を脅威から守る討伐兵団があって、ここは討伐騎士団の部隊宿舎のうちの一つなんだとか。
 もうひとつは傭兵団ってのがあるけど、それは平民や冒険者が集まった民間兵団であって、国とは別で、独自ルールの元、街を守るんだって。
 
 この討伐騎士団は国を脅威から守るってだけあって、宮廷周辺や、国境、領地、あらゆる場所に現れた魔物を討伐することを生業としている言わば実力主義、剣技だけが己を誇示する!……っていう、力こそ我なり!みたいな集団だった。
 だからこそ身分なんて関係無いらしく、平民も貴族もごちゃ混ぜ。なんせ力があれば入れるからね。

 反対に近衛騎士団は貴族様が集まるお飾り騎士団らしく、宮廷警備とか、王族や貴族をお護りするのが主な仕事。だから嫡男以外の貴族の次男、三男が入る所らしい。そんでもって、あの嫌味ったらしい馬鹿王子が騎士団長してるらしいよ?もうその時点でうわぁ……お察し、って感じだよね。絶対近付かないでおこう。

 そんな感じで団長さんに教えてもらった。

 夜だったから、と朝から討伐騎士団の宿舎を案内してもらっているのだ。
 まあ、案内はついでで、本当は食堂に行く道すがら案内されているんだけどね。

 宿舎は三階建てで、下が食堂とお風呂や武器庫、その他色々あって、見習いの部屋などがある。
 2階が騎士団員の部屋で、3階に団長の部屋がある。上に行けば行くほど偉い人用の部屋なのはわかるけど、私は3階に部屋を設けられた。
 まあ、この騎士団の中で唯一女だから、って言う理由らしい。
 そりゃそうだよね……いくら私が普通の見た目でも(あ、馬鹿王子のムカつく発言思い出した)一応、女であればこの男ばかりの中では、何があるかも分からない。それを未然に防ぐなら……って所でしょう。私でもそうしている。

 そんな話をしながら食堂に着いた。
 昨日とは違って沢山の騎士達が溢れかえっていて、楽しそうに歓談しながら食事をしている。
 その中を団長さんが姿を表すと、それまでガヤガヤとしていた食堂は一気にシーンと静かになってしまった。

 ――……うん、上司がいると食べにくいよね、ごめんなさい。

「……普段は、自分の部屋で食べるものですから」

 団長さんが申し訳なさそうに言う。
 うん、だろうね。この反応をみたらわかるよ!!

 団長さんが進めば団員がすっと道を作る。
 モーゼか何かなのかな?
 なんかすごく……不自然なほどに恐れられてない?

 空いているテーブルが無かったのに、団長さんが座ると気を利かせた団員が退いてくれた。

「ケイ様、ここに」 
「あ、ありがとうございます……」

 なんとなく居心地の悪さを覚えつつ、素直に促された席に座る。
 団員達の視線が気になるけど、団長さんは慣れているのか平然としている。
 うーん、こんなもんなのかな?わからん。

「私は食事を取りに行ってまいりますので、少しお待ちください」

 丁寧に断りを入れて去っていく団長さんの背中を見ながら、周りを見渡す。
 昨日はよく分からなかったけど、食堂は大きな窓があって、そこから気持ち良い光が差し込み、食堂を照らす。そしてその先は訓練所がみえる。訓練所から直通で来れる仕様なんだろうな。
 そりゃ動いたらお腹も空くし、訓練後は早くご飯食べたいよね。

 なんて考えてたら団長さんが食事を持ってきてくれた。やっと確認出来る、異世界の食事!

 期待を半分に、初めて触れる異界の文化。
 だけど私は目の前に置かれた食事を見て……さけんだ。

「な、なんじゃこりゃーーー!!!!」


 謁見の間以降の、大声だったと思う。
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