上 下
1 / 67
序章 王宮での長い二日間

1 召喚は突然に①

しおりを挟む
 今日は楽しい楽しい野外キャンプ。
 私、山野ケイは都会の喧騒から離れ、日々の疲れを癒すべく愛車の原付ちゃん(自分で塗装した赤色のスーパーカブ)にキャンプの荷物を縛って乗り、トコトコとのんびり楽しく鼻歌など歌いながら近場のキャンプ場に向かっていた。

 ――……向かっていた、んだよ。


「ようこそ!我が召喚の儀にて参られた異世界人よ!ここはレイスディティアであり、我が国はアズール王国、そして我はアズール王国第一王子リュファス・ティア・レオニードである!」

 あれよあれよのうちに謁見の間という場所に連れられて来ました。
 そしてよくわからないうちに偉そうに私の座っている(ってか床に転がされてる?)場所より数段高い位置に立って反りくり返ってる赤い髪と瞳をもつ王子……――なんか着てるものからして煌びやかだなと思ったらやっぱり王子だった。――に、ご丁寧にここは異世界だよって説明された。

 話によると、ここはレイスディティアという世界で、剣と魔法にあふれる世界らしい。
 そして例に漏れず瘴気と魔物にあふれる世界でもあるってよ。
 つくづく王道異世界転移モノを地でいってるわ……。
 そんでもって、私を呼び出したのはこの国……アズール王国。
 なんでも100年も前から準備していたこの国きっての大計画だったらしく、100年かけて国民から魔力を供給してもらい、溜めた魔力と今世の選りすぐりの宮廷魔導士をかき集め、司祭とその上級信徒のサポートのおかげでようやく自分の世代で召喚の儀を行えたらしい。

 そんでまんまと成功し、異世界からやってきたのがこの私!山野ケイだったと言う訳さ。

 ふむ、こやつが王子なら私を中心として円を描くように周りにいる黒いローブを着ているのが、いかにも私共は魔法使いや魔道士です!ってやつね。
 白いローブ着てる人たちは王子と私の丁度中間くらいにいるから、神殿的な人なのかな?
 で、王子の左右にいるのがきっと宰相とか側近とか近衛騎士とかそういう人なんかな?よくわからんけど。王子はまだ長々としゃべっている。

 なんで王が不在なのかは事情は話せないそうです。
 自分が先導してやったので王は関係ない、でもいるから安心しろ。
 ……これ以上聞いたら異世界人でも不敬で打ち首だそうです。
 私、王様の事なんて何にも聞いてないけどね。
 1ミリも興味無いし。

 なんてどうでもいいツッコミをしつつ延々と続いている王子の話を聞き流す。よく口がまわるし体力続くな……と感心していたら。

「召喚の儀に応えたそなたにはやらねばならん事がある!それはこの世界に蔓延る瘴気から生まれる魔物や魔王を倒すことだ!そしてそなたは見たところ……女か?女であるよな?」

 ほーう?喧嘩売ってきたぞこいつ。
 てか勝手に呼び出してるのはそっちだし、私は応じた覚えはないからね?気付いたら変な魔法陣の真ん中に居て、黒いローブ(複数)に羽交い締めされて連れてこられてここに居るだけだし。何で呼び出されただけでそんな命を懸けた使命を背負わされてるのか全然わかんないし、私にそれを成し遂げないといけない義理は無いはずなのになんで勝手に決定なのか。

 そして人を見下して上から下まで不躾に見て?性別確認とかセクハラですか?
 いいよいいよ、100歩譲って私の今の格好が男物のライダースーツだから?そりゃわからんでもないさ。
でもちょっとまてや。この素晴らしきBカップが目に入らんか!?……入らんのか、そうか。
 ……はっ倒す。絶対。

「まあ、そんな些末なことはいい!」

 良くないけどな。
 その後もなんか演説の様な王子のお言葉は続いたけど、私はここが異世界なのだと頭で理解するのが嫌だったみたいで、早速現実逃避です。
 そりゃさ、この歳で(三十路前ですが何か?)いきなり貴女が聖女ですとか目の前でいわれてみ?そりゃあ現実逃避もしたくなりますわ。
 まあ、でも私は偉いので王子から言われたことをまとめるとですね。

・ここは異世界(わかるけど?)
・お前は聖女(アラサーにはきつい)
・魔物を浄化せよ(男なら討伐)
・帰り方?知らん。(いやそれ説明面倒臭いだけじゃ?)
・それよりこの世界を救える英雄となれる事を誇れ(何様?)

 ……という事です。
 いやまじで、俺様何様王子様?
 こっちの意見なんて丸無視ですわ。ってかその前に聞かれてもないし、もう聖女だって決定事項だし。
 とにかくこの世界がいかに素晴らしく、この国がいかに凄いか、それでいて召喚に選ばれたことが栄誉であり、難しい術に成功した偉業を讃えよ、この世界の中でこの国を救える使命までも与えてやったのだから感謝して身を粉にして死ぬまで仕えて働け。
 というのがあちらの正義で常識らしい。

……ははっ。笑うしかねえな。

「む。貴様なにを先程からニヤニヤと笑っているのだ」
「……失礼、殿下。もしよろしければワタクシのようなものに一つ発言をお許し下さりますでしょうか?」
「ふむ、よかろう!」

 私がいきなり自分勝手に発言をせず、許しを乞うて一歩引いてからの言葉と態度に、異世界人にしては礼儀がなっている、と王子がさらにふんぞり返って言う。 
 そんな馬鹿王子の態度にコメカミはピクピク。
 火山は大噴火五秒前待ったナシ。
 わざと丁寧に言うたに決まってるだろ、ぼけ!嫌味が通じないとか頭パッパラパーなんかな!そうだろうな!!
 よくある異世界ものの本やアニメみてたらわかることじゃ!こちとらこじらせてベーコンレタスも百合も桜も全てを網羅したオタクだぞ!こういう場所での処世術なんかは社会人してりゃなんぼでも解るんじゃ!
 なんなら黒歴史だがサークル作って創作もしたからな!
 いや、今はそんな事どうでもいいや!

 私はその場から立ち上がると息を最大限に吐き出し、吸った。
 それはもう肺から腹からと。
 元合唱団の声量と肺活量を今、使わんがために!!ここで使わにゃいつ使う!
 このバカ王子&その他大勢に向かって言おう。
 ……いや、叫ぼう。
 さあ、皆さんご一緒に。

「うっせえ!うっせえ!うっせえわ!!!!!」
「「「「「「「…………!?」」」」」」」

 謁見の間に、私の歌みたいな叫びが響いた。
 私の近くにいた人は余りの大声に耳を塞いで倒れてるし、王子に至っては溢れんばかりに目を見開いている。

「なんや黙って聞いとったら都合いい事ばっか言いくさってからよお!ここはブラック企業なんか!あん!?そげな危険で命はたかないけんこと、誰かハイハイ是非にィ言うて喜んでやると思っとんけ!!選ばれたとか知らんこっちゃねえが!きさん共が勝手に呼んで連れて来たんじゃ!なまじ聖女やらせるにしても言い方っちゅーもんがあるやろうが!それを名誉じゃ栄誉じゃとかええ事ほざきやかって、結局面倒事他人に押し付けてきさん共が楽ぅしたいだけじゃろが!こんド阿呆共が!!どつきあげてくらしあげるぞ!!!」

 怒号の叫びは止まりません。
 伊達に九州女やって無いので、言いたいことは言わせてもらいます。
 地球の方言(ド級に汚い言い方で言ってやった)なんて意味わかん無いだろうけど殺意だけは伝わったらいいなって思います。

 一通り言いたいこと言い終わったのでさっきの馬鹿王子と同じように真似してふんぞり返ってやった。
 言いたいこと言ってスッキリ満足してたら、いち早く復活した王子が元から全身赤いのに、さらにほっぺや耳まで赤くして(多分めっちゃ怒ってる)こちらを震える指で指さして……

「こ、こいつを……地下牢に閉じ込めておけええ――ッ!!」

 ……と、叫びました。


 ああ、地球にいる母さんお父さんお兄ちゃん弟妹、あと猫数匹よ。
 私の異世界転移初日は、大変なことになりそうです。





しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件

実川えむ
恋愛
子供のころチビでおデブちゃんだったあの子が、王子様みたいなイケメン俳優になって現れました。 ちょっと、聞いてないんですけど。 ※以前、エブリスタで別名義で書いていたお話です(現在非公開)。 ※不定期更新 ※カクヨム・ベリーズカフェでも掲載中

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。-俺は何度でも救うとそう決めた-

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
 【HOTランキング第1位獲得作品】 --- 『才能』が無ければ魔法も使えない世界。 生まれつき、類まれな回復魔法の才能を持つ少年アスフィは、両親の期待を背負い、冒険者を目指して日々を過ごしていた。 しかし、その喜びも束の間、彼には回復魔法以外の魔法が全く使えないという致命的な欠点があった。 それでも平穏無事に暮らしていた日々。しかし、運命は突然、彼に試練を与える。 母親であるアリアが、生涯眠り続ける呪いにかかってしまう。 アスフィは、愛する母を目覚めさせるため、幼馴染で剣術の使い手レイラと共に、呪いを解く冒険の旅に出る。 しかしその旅の中で、彼は世界の隠された真実に辿り着く―― そして、彼の『才能』が持つ本当の力とは?  --------- 最後まで読んで頂けたら嬉しいです。   ♥や感想、応援頂けると大変励みになります。 完結しておりますが、続編の声があれば執筆するかもしれません……。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

処理中です...