三十路のΩ

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「ずいぶんと魔力の弱いミサンガを身に着けているんですね」
 
 夜の番から朝の番への引き継ぎのタイミングで顔を合わせた千影と光歌。
 引き継ぎをすませて別れようとした時だ。
 光歌は千影のミサンガを指摘した。

「ああ、巴が編んでくれたんだ。初めて編んだと言うが、とても綺麗に編めているだろう」

 何故か自慢げな千影は、愛おしそうにミサンガを見つめた。
 光歌は気に食わない。

「殆どただの糸です。そんな物を身につけていると周りが誤解しますよ」
「何を言うんだ。繊細に魔力が編み込まれているだろ。周りが誤解するとは何だ?」

 腕組みをして睨む光歌に千影は本当に解らないと首を傾げてしまう。

 彼は寝起きで機嫌悪いのだろうか。
 それにしたって暴言が酷すぎる。

「ミサンガの交換はプロポーズの意味あいも有りますし、この国でそんな弱い魔力のミサンガを身につけるとなると、その辺のの風俗嬢に入れあげていると思われても仕方ないですよ」
「誰も気にして見るとは思わないが、勝手に思う分には構わないよ」
「貴方程の実力のある黒騎士ですよ。みんなが見ています。風俗嬢に入れあげているなんて思われて言い訳ないだろ!」

 あまりにもあっけらかんと言うものだから、光歌は千影にがんを飛ばす。
 無頓着にも程がる。

「落ち着いて下さよ白騎士のリーダーさん。もう交代の時間は過ぎてるんですから我々を家に帰してください。眠いんですよ」

 間に割って入るのは心配性の部下だ。
 
 気づけば光歌がキレているので、良く解らないだろうが後ろの白騎士たちも険悪な様子を見せているし、千影の後ろから黒騎士達も良く解らないが団長が罵倒されていると睨みを効かせていた。
 いつの間にか一発触発状態だ。

「そうだな。この話は終わりにしよう。俺のミサンガの事は気にするな。風俗嬢に入れあげているわけでもないし、プロポーズをしたり受けたりしたわけでもない」

 一応、誤解されないように言っておく千影だ。
 これで文句は無いだろう。

「そうですか。じゃあ、僕の作ったミサンガも付けてください」
「何だその流れは?」

 よく解らないが光歌からミサンガを渡される。
 キラキラと金に輝く光歌のミサンガはかなり魔力を編み込まれている。
 確かに持っていて役に立ちそうではある。

「僕にも千影のミサンガください!」
「君がさっき言った事を忘れたのか? 寝ぼけているのか?」

 ミサンガの交換はプロポーズだと言ったばかりだと言うのに、部下達がにわかにザワつきだしてしまったじゃないか。
 風俗嬢に入れあげている噂より、白騎士のリーダーに入れあげていると噂される方が良いと言うのだろうか。
 どっちかと言えば風俗嬢の方がまだマシな気がするのだが。

 光歌の考えがさっぱり解らない千影である。

「一旦、私が預かります」

 辺がザワついて皆冷静では無い中、冷静に光歌のミサンガを預かるのは心配性の部下だ。

「お前にやると言ってない」
「私も要りませんよ。預かると言ってます。光歌さんは一旦冷静になって下さい。そして我々を家に帰してください。残業が発生してるんですけど」

 心配性の部下に食って掛かる光歌。
 部下は呆れた様子である。

「解った。俺もこいつにミサンガを預けよう。これで良いか?」

 気を使ったのか何なのか、千影もミサンガを部下に預けた。

「一旦、解散にする。光歌は休みを取った方が良くないか? 熱でも有るだろう」

 黒騎士に解散をかけ、千影は光歌の額に手をあてた。
 もう熱が有るとしか思えない。

「熱なんて有りません!」

 光歌は怒りながら白騎士を率いて持ち場に向う。
 千影と部下もやっと家に帰れるとホッとするのだった。
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