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帰路についた千影の後に続く光歌と心配の部下。
結局、千影の居場所を見つけられずに断念し、この辺りをうろついていたわけであるが、時間内に出来るだけの事はしていた。
魔力の察知や、光歌の作り出した鳥達に探させる等である。
まったく察知できず、鳥達にも見つけられなかった。
と、言う事は、千影が尾行を警戒して自分の居場所を探せない様な仕掛けをしたと言う事である。
それだけ邪魔をされたくなかったのだろう。
千影の腕に白いミサンガが見えた。
ミサンガを交換するのは、好意の証であり、相手のくれたミサンガを付けると言う事は相手を信頼し、身を任せられるという意味合いがある。
殆どプロポーズに近い。
千影はあまり深くは考えず、割と誰にでもミサンガを渡す悪い癖がある様ではあった。
しかし、ミサンガを貰う事は無かったし、ましてや身につける等ありえない。
それも自分より遥かに魔力が劣るミサンガをだ。
あんな薄い魔力のこもったミサンガ等、なんの役には立たない。
それをあえて付けると言う事は、相手と相思相愛の場合のみだ。
そんな事は向こうの国では知らないだろう。
なので、少なくとも千影からは相手に恋心があると言う意味である。
千影もそういった事には疎いので、そんな気は無い可能性もまぁ、有ると言えば有るのだが……
「団長は本気みたちですね」
そう溜息を吐く心配性の部下。
「ただの天然の可能性もある」
それが千影だ。
一方、巴と伊織も葵の後を追えずにいた。
巴の知っている秘密通路はいつの間にかフェイクになっていたのだ。
少し迷った挙げ句、ぐるっと一周して別の通路に出てしまった。
直ぐに正規ルートで実家に向かった巴と伊織であるが、普通に葵が「どうした?」と、一人で出迎えた。
どうしたではない。
「兄上、なぜ秘密通路をフェイクにしたのですか!?」
隣国の男と逢引きする為に身内まで騙すとは!
と、巴は珍しく兄にキレている。
「すまない。定期的にルートを変えないと秘密通路が秘密通路にならないからな。変更したのを巴ちゃんに教えるのを忘れていたんだ」
ハッとする葵である。
尊明が、しつこくしてくるの全て悪いと思う。
「葵さんは千影さんの事が好きなんですか?」
単刀直入に聞く伊織。
「もちろんだ」
「恋してるって事ですか?」
「そうなのだろうか?」
「そうみたいですね」
「そうなのか?」
伊織から見ても、やっぱり葵は恋をしている。
「兄上! 相手はこの前まで鎖国していた国の男ですよ。しかも、あの国はβしか居ないじゃないですか!」
「巴さん落ち着いてください。葵さんはそもそも番う気がないのですから相手がβでも今の状況と変わりは有りませんよ」
「そもそも兄上が番を持たない事に僕は反対なんだ!」
「貴方、葵さんが番うような事があれば血の雨が降ると言ってたでしょう!」
「それはそうなんだが、どうせ恋に落ちるならこの国のαとであって欲しかったんだ!!」
巴は支離滅裂な事を言っていると自分でも解っているが、色々と複雑なのである。
自分でも気持ちがまとまっていないのだ。
「僕の問題だ。いくら弟でも巴ちゃんには関係ない話だ。放って置いてほしい」
キレ散らかしている巴に葵もムッとして言い返す。
こんな風に言い合いになるのは初めてだった。
「僕は兄上を心配しているのです!」
「有難う。嬉しいが、今は放っておいて欲しい。今日はもう帰ってくれ」
巴が言いたい事も葵には良く解っていた。
相手は隣国のβ男性だ。
しかも、かなり魔力を有する隣国の有力者。
色々と問題が有りすぎだ。
そもそも隣国ではΩ男性など居ないのだから理解されずらいだろう。
普通に気持ち悪がられる可能性の方が高い。
葵は確かに自分は千影を愛おしく思っていると思うが、気持ちを打ち明ける気も、ましてや受け入れて貰おう等とは思っていない。
良くて気心の知れた友人ぐらいにはなりたいとは思うが、それ以上を望むことは無かった。
むしろ、恋心には気づかれない方が良いだろう。
気づかれたらきっと気持ち悪がられて距離を置かれるはずだ。
自分はこのまま誰とも番わず一人でいる方が平和だし、いままでと何も変わらない。
それでも、目の前で巴に言われるのは何か違うし、悲しくなった。
「兄上…… 申し訳ありませんでした。今日は帰ります」
「僕こそごめんね巴ちゃん」
巴は葵の表情が悲しそうな事に気付いて冷静になる。
頭を下げた。
葵も巴を抱きしめる。
巴は伊織が手を引いて帰っていった。
葵は千影から貰ったミサンガを大事に見つめるのだった。
結局、千影の居場所を見つけられずに断念し、この辺りをうろついていたわけであるが、時間内に出来るだけの事はしていた。
魔力の察知や、光歌の作り出した鳥達に探させる等である。
まったく察知できず、鳥達にも見つけられなかった。
と、言う事は、千影が尾行を警戒して自分の居場所を探せない様な仕掛けをしたと言う事である。
それだけ邪魔をされたくなかったのだろう。
千影の腕に白いミサンガが見えた。
ミサンガを交換するのは、好意の証であり、相手のくれたミサンガを付けると言う事は相手を信頼し、身を任せられるという意味合いがある。
殆どプロポーズに近い。
千影はあまり深くは考えず、割と誰にでもミサンガを渡す悪い癖がある様ではあった。
しかし、ミサンガを貰う事は無かったし、ましてや身につける等ありえない。
それも自分より遥かに魔力が劣るミサンガをだ。
あんな薄い魔力のこもったミサンガ等、なんの役には立たない。
それをあえて付けると言う事は、相手と相思相愛の場合のみだ。
そんな事は向こうの国では知らないだろう。
なので、少なくとも千影からは相手に恋心があると言う意味である。
千影もそういった事には疎いので、そんな気は無い可能性もまぁ、有ると言えば有るのだが……
「団長は本気みたちですね」
そう溜息を吐く心配性の部下。
「ただの天然の可能性もある」
それが千影だ。
一方、巴と伊織も葵の後を追えずにいた。
巴の知っている秘密通路はいつの間にかフェイクになっていたのだ。
少し迷った挙げ句、ぐるっと一周して別の通路に出てしまった。
直ぐに正規ルートで実家に向かった巴と伊織であるが、普通に葵が「どうした?」と、一人で出迎えた。
どうしたではない。
「兄上、なぜ秘密通路をフェイクにしたのですか!?」
隣国の男と逢引きする為に身内まで騙すとは!
と、巴は珍しく兄にキレている。
「すまない。定期的にルートを変えないと秘密通路が秘密通路にならないからな。変更したのを巴ちゃんに教えるのを忘れていたんだ」
ハッとする葵である。
尊明が、しつこくしてくるの全て悪いと思う。
「葵さんは千影さんの事が好きなんですか?」
単刀直入に聞く伊織。
「もちろんだ」
「恋してるって事ですか?」
「そうなのだろうか?」
「そうみたいですね」
「そうなのか?」
伊織から見ても、やっぱり葵は恋をしている。
「兄上! 相手はこの前まで鎖国していた国の男ですよ。しかも、あの国はβしか居ないじゃないですか!」
「巴さん落ち着いてください。葵さんはそもそも番う気がないのですから相手がβでも今の状況と変わりは有りませんよ」
「そもそも兄上が番を持たない事に僕は反対なんだ!」
「貴方、葵さんが番うような事があれば血の雨が降ると言ってたでしょう!」
「それはそうなんだが、どうせ恋に落ちるならこの国のαとであって欲しかったんだ!!」
巴は支離滅裂な事を言っていると自分でも解っているが、色々と複雑なのである。
自分でも気持ちがまとまっていないのだ。
「僕の問題だ。いくら弟でも巴ちゃんには関係ない話だ。放って置いてほしい」
キレ散らかしている巴に葵もムッとして言い返す。
こんな風に言い合いになるのは初めてだった。
「僕は兄上を心配しているのです!」
「有難う。嬉しいが、今は放っておいて欲しい。今日はもう帰ってくれ」
巴が言いたい事も葵には良く解っていた。
相手は隣国のβ男性だ。
しかも、かなり魔力を有する隣国の有力者。
色々と問題が有りすぎだ。
そもそも隣国ではΩ男性など居ないのだから理解されずらいだろう。
普通に気持ち悪がられる可能性の方が高い。
葵は確かに自分は千影を愛おしく思っていると思うが、気持ちを打ち明ける気も、ましてや受け入れて貰おう等とは思っていない。
良くて気心の知れた友人ぐらいにはなりたいとは思うが、それ以上を望むことは無かった。
むしろ、恋心には気づかれない方が良いだろう。
気づかれたらきっと気持ち悪がられて距離を置かれるはずだ。
自分はこのまま誰とも番わず一人でいる方が平和だし、いままでと何も変わらない。
それでも、目の前で巴に言われるのは何か違うし、悲しくなった。
「兄上…… 申し訳ありませんでした。今日は帰ります」
「僕こそごめんね巴ちゃん」
巴は葵の表情が悲しそうな事に気付いて冷静になる。
頭を下げた。
葵も巴を抱きしめる。
巴は伊織が手を引いて帰っていった。
葵は千影から貰ったミサンガを大事に見つめるのだった。
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