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葵は隣国から入国して直ぐのモニュメントの前で千影を待つ。
尊明の銅像の前である。
もっとも目印になりやすそうなのが、この銅像だけだった。
あまり隣国への出入りは激しくなく、行き交う人々も行商人ぐらいである為に人気は少ない場所だ。
15分程ここに立っている葵であるが、まだ誰も見かけていない程である。
葵はこんな風に一人で誰かを待っている事が無かったので、胸がドキドキしてしまう。
無駄にソワソワしてキョロキョロしてしまっていた。
「巴さん、流石にこれは過保護ではないですか?」
「あんなにソワソワしてキョロキョロしているお兄様は初めて見る。見ろあの顔を!」
「あまり身を乗り出さないで下さい。葵様に見つかります!」
少し離れた木陰で巴と伊織は葵の様子を見ていた。
巴は葵が心配で居ても立っても居られなかったのだ。
「こんな所で待ち合わせをするなんて、何処のどいつなんだ」
「来たんじゃないですか?」
黒い馬で颯爽と現れたのは隣国の黒騎士である。
「待たせてしまったか?」
馬から降りて葵に駆け寄る千影。
「僕も今来た。まだ待ち合わせ時間より少し早いじゃないか」
フフっと微笑む葵。
「馬はどうした?」
「歩いて来た」
「君の屋敷からここまで少し距離が有るじゃないか」
「馬を出すと目敏いやつが気づくかもしれなくてな」
「目敏いやつ?」
葵は銅像に視線をチラリと向けて苦笑した。
馬を出すと尊明の監視に見つかりそうだったのだ。
なんでアイツはただの幼馴染を目敏く監視してくるのかサッパリである。
「秘密の近道が有るんだ。着いてきてくれ」
葵は、目敏い幼馴染にも知られていない秘密の抜け道を使って千影を案内するのであった。
一方、木陰から見ていた巴と伊織。
「まさか、お兄様の初恋の相手が隣国の黒騎士だなんて」
巴はガーンと、衝撃を受けた様子だ。
「本当に葵様がルンルンキラキラしていましたね」
どちらかと言えばクールで大人なイメージのある葵が、初恋に目覚めた少女の様で可愛らしく見える。
相手が誰だろうと初恋は良いものだと思う伊織だ。
「隣国にはαやΩ等は存在しない。と、言う事は奴もβと言う事になる」
「βが相手だと何かマズイのですか?」
「当たり前だ。αは問題無いが、αと番わないΩは一生発情に苦しまなければならない。統計上でもαの番がいないΩは早死に傾向がある」
「葵様は発情が強いタイプでは無く、薬で抑えられていると聞きましたよ」
「そもそも薬で抑えていること自体が健康上良く無い」
「そうなんですね……」
ついこの間までβだと思っていた伊織はΩの知識に乏しい。
確かに、Ωは基本的にはαと番うべきだと推奨されているとは聞いた。
「しまった! 見失った!」
少し目を離した隙に葵と千影の姿は無い。
代わりに別の黒騎士と、白騎士がその辺りをキョロキョロしているのが見えた。
「しまった! 見失った!」
「普通に尾行に気づかれて巻かれたんでしょう」
「あの鈍感が味方から尾行されているなんて思わんだろう」
千影が気になって隣国から後を着けて来たのは心配性の部下と光歌である。
「しかし、本当に隣国のΩなんかを相手にしているのか信じられん」
待ち合わせに来た千影に色気を振りまく隣国のΩ。
光歌は寒気を覚える。
おぞましいとさえ思った。
男だと言うのにあんな露出度の高い服を着て千影を誘惑するとは。
そもそも男だと言うのに男を誘惑して子供を産むのがΩ男性である。
もはや男でも女でも無い。
中途半端な存在である。
「光歌さんは団長に執着しすぎで信じられませんけどね」
こんな所までストーカーしてくる方が信じられないと思う心配性の部下である。
「お前こそ、執着してるだろう」
「自分はただ自分の上司が人の道を踏み外すのでは無いかと心配なだけですよ」
「僕もそうだ」
「嘘つけ団長のストーカーめ」
「お前こそ千影のストーカーだろうが」
千影を見失って険悪な雰囲気の光歌と心配性の部下である。
巴と伊織はそんな険悪な二人が見えていたが、スルーする事にした。
「王の目を気にしているお兄様が外で男と会うわけがない。十中八九屋敷だろう」
「屋敷への道には見張りが居ると思いますが、何の連絡も有りませんよ」
「用意周到なお兄様が抜け道を一つも作っていない筈が無い。少なくとも僕が知らない抜け道が三つは有るだろう。それを使ったんだ」
「なるほど!」
「取り合えず、僕の知っている抜け道でお兄様の屋敷に行こう」
巴と伊織は馬を走らせると、葵の屋敷に向うのだった。
尊明の銅像の前である。
もっとも目印になりやすそうなのが、この銅像だけだった。
あまり隣国への出入りは激しくなく、行き交う人々も行商人ぐらいである為に人気は少ない場所だ。
15分程ここに立っている葵であるが、まだ誰も見かけていない程である。
葵はこんな風に一人で誰かを待っている事が無かったので、胸がドキドキしてしまう。
無駄にソワソワしてキョロキョロしてしまっていた。
「巴さん、流石にこれは過保護ではないですか?」
「あんなにソワソワしてキョロキョロしているお兄様は初めて見る。見ろあの顔を!」
「あまり身を乗り出さないで下さい。葵様に見つかります!」
少し離れた木陰で巴と伊織は葵の様子を見ていた。
巴は葵が心配で居ても立っても居られなかったのだ。
「こんな所で待ち合わせをするなんて、何処のどいつなんだ」
「来たんじゃないですか?」
黒い馬で颯爽と現れたのは隣国の黒騎士である。
「待たせてしまったか?」
馬から降りて葵に駆け寄る千影。
「僕も今来た。まだ待ち合わせ時間より少し早いじゃないか」
フフっと微笑む葵。
「馬はどうした?」
「歩いて来た」
「君の屋敷からここまで少し距離が有るじゃないか」
「馬を出すと目敏いやつが気づくかもしれなくてな」
「目敏いやつ?」
葵は銅像に視線をチラリと向けて苦笑した。
馬を出すと尊明の監視に見つかりそうだったのだ。
なんでアイツはただの幼馴染を目敏く監視してくるのかサッパリである。
「秘密の近道が有るんだ。着いてきてくれ」
葵は、目敏い幼馴染にも知られていない秘密の抜け道を使って千影を案内するのであった。
一方、木陰から見ていた巴と伊織。
「まさか、お兄様の初恋の相手が隣国の黒騎士だなんて」
巴はガーンと、衝撃を受けた様子だ。
「本当に葵様がルンルンキラキラしていましたね」
どちらかと言えばクールで大人なイメージのある葵が、初恋に目覚めた少女の様で可愛らしく見える。
相手が誰だろうと初恋は良いものだと思う伊織だ。
「隣国にはαやΩ等は存在しない。と、言う事は奴もβと言う事になる」
「βが相手だと何かマズイのですか?」
「当たり前だ。αは問題無いが、αと番わないΩは一生発情に苦しまなければならない。統計上でもαの番がいないΩは早死に傾向がある」
「葵様は発情が強いタイプでは無く、薬で抑えられていると聞きましたよ」
「そもそも薬で抑えていること自体が健康上良く無い」
「そうなんですね……」
ついこの間までβだと思っていた伊織はΩの知識に乏しい。
確かに、Ωは基本的にはαと番うべきだと推奨されているとは聞いた。
「しまった! 見失った!」
少し目を離した隙に葵と千影の姿は無い。
代わりに別の黒騎士と、白騎士がその辺りをキョロキョロしているのが見えた。
「しまった! 見失った!」
「普通に尾行に気づかれて巻かれたんでしょう」
「あの鈍感が味方から尾行されているなんて思わんだろう」
千影が気になって隣国から後を着けて来たのは心配性の部下と光歌である。
「しかし、本当に隣国のΩなんかを相手にしているのか信じられん」
待ち合わせに来た千影に色気を振りまく隣国のΩ。
光歌は寒気を覚える。
おぞましいとさえ思った。
男だと言うのにあんな露出度の高い服を着て千影を誘惑するとは。
そもそも男だと言うのに男を誘惑して子供を産むのがΩ男性である。
もはや男でも女でも無い。
中途半端な存在である。
「光歌さんは団長に執着しすぎで信じられませんけどね」
こんな所までストーカーしてくる方が信じられないと思う心配性の部下である。
「お前こそ、執着してるだろう」
「自分はただ自分の上司が人の道を踏み外すのでは無いかと心配なだけですよ」
「僕もそうだ」
「嘘つけ団長のストーカーめ」
「お前こそ千影のストーカーだろうが」
千影を見失って険悪な雰囲気の光歌と心配性の部下である。
巴と伊織はそんな険悪な二人が見えていたが、スルーする事にした。
「王の目を気にしているお兄様が外で男と会うわけがない。十中八九屋敷だろう」
「屋敷への道には見張りが居ると思いますが、何の連絡も有りませんよ」
「用意周到なお兄様が抜け道を一つも作っていない筈が無い。少なくとも僕が知らない抜け道が三つは有るだろう。それを使ったんだ」
「なるほど!」
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