三十路のΩ

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 葵が待ちに待った更待月の日が来た。
 葵は朝からルンルンだ。
 胸元はフリルの付いたオフショルダーを着用している。
 あれこれ考えたが、外は人目が気になるので、結局、庭先でティーパーティーする事にした。

「これから君の主が来るぞ。嬉しいのかセン?」

 葵の肩にとまり、クルクルポッポーと鳴く鳩。
 センは本当に手のかからない鳩である。
 食事もしなければ、用も足さない。
 本当に千影が魔法で作り出した鳩なのだろう。
 葵の肩によくとまってはクルクルポッポーと鳴い葵を癒やしてくれる。







 千影も葵に会える事を楽しみに更待月の日を待っていた。

 同じ様に何を着ていくべきだろうかとか、仮面は頑張って取るべきだろうかとか、そもそも自分なんかと会って葵は大丈夫なんだろうかと、あれこれと悩んでいた。

 千影は竹を割った様な性格なので、あれこれと悩む事はあまり無く、表情に出がちだ。

「団長は更待月に休みを取っていますが、何か有るんですか?」

 心配性の部下が千影を心配し、声をかけてくる。

「葵さんと会う約束をしている」
「あのΩですね。隣国のΩに入れ込むのはやめて下さい」
「ただ友人として会うだけだ」
「そうは見えないから言ってます」

 心配性の部下は注意口調で、千影を睨む。
 
「俺の交友関係についてお前から言われる筋合いは無い」
 
 千影もムッとして、部下から視線を反らした。
 反らした視線が白騎士リーダーである光歌と合ってしまった。
 
「まさかと思いましたが、噂は本当だったんですね」

 千影に歩み寄る光歌。

「隣国の、しかもΩを相手にするなんて、貴方どうかしています」

 そう、非難的な事を言う。

「なぜそんな事を言う?」

 心配性の部下にグチグチ言われるのはまだ解るとして、光歌にまで非難されるとは思わなかった。
 そもそも彼が自分に仕事以外に何かを言ってくるとは思っていなかった。

「あんな下等な生き物を貴方程の人が相手するなんて、それとも遊びですか?」
「どうしたんだ!?」

 かなり憤慨した様子の光歌に千影はビックリしてしまう。 
 普段はクールに仕事の話しかしない男である。
 こんなに声を荒らげる所も初めて見た程だ。
 そもそも、彼は人を差別するような事はしない。
 白騎士はたいてい黒騎士を毛嫌いしているが、彼からそういった意思を感じた事はなかった。
 白と黒の均衡を守ろうとしてくれる頼りになるリーダーである。
 それがいきなり隣国の人間を『下等』等と表する事に驚いた。
 確かに隣国の人間を『動物と同じだ』と差別的な事を思っている国民は多い。
 隣国は隣国の良い部分も秀でた部分もある。
 しかし長い鎖国がもたらした偏見と差別は根強かった。
 隣国からもどう思われているのか解らない。
 偏見と差別は両国にあるのかも知れない。
 しかし、それを光歌が口に出した事に驚いた。

「Ωは男だと言うのに男を誘惑して子作りをせがむ生き物らしいですね。信じられません」

 光歌は隣国のΩへの偏見が強い様だ。
 我が国にはαやΩ等の性別は無い為、理解が難しい。
 
「彼はΩだが、別に俺を誘惑してくる訳では無いよ。友人として接してくれている」

 正直に言えば友人と言って良いのか、千影は解らない。
 千影は友人になりたいが、今の関係がどう表せば良いのか解らなかった。
 子供の頃に遊んだのだし、あの頃は友達関係と言えたのだから、今でも友人と言っても良いだろうか。
 とにかく、光歌や心配性な部下に理解して欲しい。
 自分がどう思われようがこの際どうでも良いが、葵が悪く思われるのは嫌だった。


「貴方は相手をペットの様に可愛いと思っているかも知れませんが、最悪子供が出来るかもしれません。何をしてくるか解ったもんではありませんよ」

 光歌は更に激怒してくる。
 どうも話が噛み合わない。
 偏見がすごすぎる。

「俺の事はもう放っておいてくれ!」

 これ以上話をしても、しかたない。
 千影は諦めるしかなかった。
 それにこれ以上、葵を酷く言う話を聞いていられなかった。

「話はまだ終わってませんよ!」
「俺は終わった!」

 後をついて来ようとする光歌を突き放す様に歩く千影だった。
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