三十路のΩ

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 城の本部。

「失礼します、巴です」
「千影です」

 巴が挨拶をして入ると、仮面の男も挨拶をする。
 彼は千影と言う名前だったらしい。

「隣国から応援に来てくれた騎士団長です。彼のお陰で火竜は追い返せました」

 巴は危険は去った事を知らせる。
 その場に集まっていた幹部はホッと胸を撫で下ろした。

「有難う。幹部の皆様も各自もどって危険の解除をお願いします」

 葵は幹部に解散を言い渡した。
 
 念の為に国に危険を知らせ、幹部には避難場所を確保して貰っていた。
 何事もなく済んで本当に良かった。

「被害はどうなっている?」

 そう、巴に聞く葵。

「バリアを張っていた隊士の何人か吹き飛ばされて軽症です。伊織が対応しています」
「解った。千影団長も有難う。助かった」

 葵は千影に握手を求める。
 千影はそれに応じた。

「しかし、何故、火竜が襲って来たのだろう。何が火竜を怒らせるような事をしたのか? 火竜の卵を盗んだとか……」
「そんな事をすれば大惨事になると解らぬ者は居ない。そもそも我が国に火竜の住処まで行ける様な猛者も居ない」

 困惑する千影と、苦笑する葵だ。

 魔物の脅威は有ったにしても、隣国のバリアが強く、風避けのような作用をしてくれていた為に、隣国よりは安全であったのだ。
 どちらかと言えば海から来る敵国の対処に追われていた。
 そちらは逆にこちらが風避けのような作用をして隣国は比較的に安全だったわけである。
 言わばWin-Winな関係だったのだが、隣国が鎖国状態であり、なかなか和解出来ずに居た。
 イザコザはあったものの今は手を取り合えて良かった。
 
「原因究明を急がせる。今日は解散にしよう。私は疲れた」
 
 葵は目眩を感じて頭をおさえる。

「おっと、大丈夫か?」

 直ぐに千影が支えてくれ、倒れずに済んだ。

「有難う。どうも人混みが苦手でね。嫌になるよ」

 葵は溜息を吐いた。

「誕生日パーティでお疲れな所にこの事態です。お兄様はもうおやすみになって下さい。後で伊織に様子を見て貰いましょう」
「ああ……」

 ただでさえ白い葵の顔色は、今や真っ青である。

「すまない。俺にも治癒能力が有れば良かったのだが、治癒は白の専門でな」
「知ってる。黒の貴方はバフと魔物への威嚇が得意なんだろ。すごい事だ。もう離してくれ」

 いつまでも支えてくれている千影に困る葵。

「離すと倒れてしまいそうだ。何処まで運べば良いだろうか」

 千影は葵を抱き上げてしまう。

「結構だ。降ろしてくれ」

 こんな所を尊明に見られでもしたら、とんでも無い事になってしまう。
 葵は余計にヒヤヒヤしてしまうのだ。

「お兄様は僕が運びます。千影さんはここで待っていて下さい」
「………解った」

 巴は葵の気持ちを察して葵を千影から受け取る。
 城には兄専用に用意された部屋がある。
 場所は知っているので、そちらに運ぶ事にした。
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