三十路のΩ

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「僕たちも踊ろうか」

 葵は再び挨拶周りに戻ったので、巴は伊織の手を引く。
 
「俺は社交ダンスなんて踊れませんよ」
「僕がリードするから大丈夫だ」

 そう、ダンスの輪に連れ込まれる。
 巴に任せて体を預けるが、本当に上手にアシストしてくれて、踊れているような気分になる伊織。
 本当に王子様みたい人である。
 
「僕に惚れ直した目をしている」

 フフっと微笑む巴。

「常に毎時間、何時でも惚れ直していますよ」

 彼を見る度に恋に落ちるようだ。

「僕も同じだよ」

 そう、言って抱きしめてくれる巴に、また惚れ直す伊織だ。


 一方、挨拶周りを続ける葵と、それに付き纏う尊明。

「私との事を考えてくれ葵」
「無理だと何度も断っているでしょう。私は公爵家の嫡男なんですよ」

 付き纏う尊明に葵は困っていた。
 尊明がついて来るものだから、挨拶したくても会釈だけで避けられてしまう。
 それでは仕事にならない。
 
「私はホストであり、来て下さった方に礼をしたいのです。貴方に着いて来られると困るのです。そもそも招待してませんから、帰って下さい」

 誕生日パーティであるが、社交界は挨拶の場である。
 出来るだけ顔を利かせておきたい。
 それは全て王である尊明の為でも有ると言うのに……
 32歳にもなって子供の様に我儘なのだから。
 尊明には子供だって、もう3人も居る。
 困ったものだ。
 いい加減に僕離れして欲しいと思う葵である。


 葵は何度も断っているのだが、尊明が結婚を迫ってくる。
 尊明はハーレムで子供をもうけており、既に世継ぎもいるので安心なのだが、だからなのか、結婚は本命の葵としたいと言うのである。
 葵は葵で、既に3人と結婚したが、子供には恵まれなかった。
 どうやら子供が出来にくい体質なのだろう。
 気難しい性質だとも診断された。
 合うαが見つからなかったのだ。

 葵は既に子供を諦めていた。

 もし、巴と伊織の間に息子が生まれたら公爵家の跡取りとして話さなければならないが、出来なければ出来ないでどうにでもなる。
 それはそれとして、葵は、尊明を兄弟の様に思っている。
 それに相手は王である。
 あまりにスキャンダル過ぎるだろう。
 周りは見て見ぬふりをしてくれているが、それにしたってである。
 ちゃんと后を娶って欲しい。

 葵はストーカーの様に着いてくる尊明に、挨拶周りを飽きらめて自分の席に戻るのだった。


 巴と伊織の方に視線をやれば、二人は幸せそうに微笑み合い、社交ダンスを楽しんでいる。
 伊織はダンスの心得はないらしく、たどたどしい。
 何度か巴の足を踏んで申し訳無さそうな表情をしている。
 そんな伊織も愛らしく感じる様で、巴は楽しそうだ。

 いいなぁ。

 僕もあんな風に笑いあえるパートナー、番が欲しい。

 葵はまだ番を許していなかった。
 子供が出来たら番おうと思っていたのだ。
 自分はもう32歳であるし、この先独り身だろう。
 寂しい気持もある。

 しかし、どうしても尊明の事は受け入れられなかった。
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