三十路のΩ

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 葵の誕生日パーティーは盛大であり、来客も多い。
 優雅な音楽が流れ、ダンスを踊ったり、会食を各々が楽しんでいた。
 葵は一人一人に挨拶をして回る。

「巴ちゃんもイオも楽しんでる?」

 巴と伊織に気づいて話しかけてくれる葵。

「お兄様、先程渡しそびれたのですが僕と伊織の手作りクッキーです」

 巴は葵にクッキーを渡す。

「有難う。イオも作ってくれたの?」
「どれが僕で、どれが伊織か当てて下さいね」
「僕が巴ちゃんの作った物を見分けられないわけ無いだろう」
 
 葵は一つ食べてみる。

「うーん、これは巴ちゃんの味じゃないね。イオが作ったの?」
「当たりです」
「うん、美味しいよ。有難う」
「それ、ピーマン入りですよ」
「えっ!?」

 葵はピーマンが苦手である。
 それを伊織に話したら、上手に隠して入れてくれた。
 ぜったい兄なら解ると思ったのだが、さすが伊織。
 思わず手をパチパチしてしまう巴だ。

「すごいや、全然解らなかったよ。イオも料理が得意なんだね」
「伊織は薬草を煎じたりもするので、器用なんです」
「すごいじゃないか」

 巴は伊織の自慢をし、葵もすごいすごいと、伊織の肩を叩く。
 可愛い兄弟過ぎる。

「おい、そこの筋肉ダルマ! 私の葵に馴れ馴れしいぞ。何処のどいつだ!」

 いきなり、ドスの効いた声で胸ぐらをつかまれ驚く伊織。

「お前そこ何だ! 僕の伊織に乱暴をするな!」

 直ぐに巴が反応して男の手を強く叩く。
 男は痛みに手を離した。

「無礼者、私が誰だか知らないのか貴様!」

 男は巴を睨んだ。
 巴も直ぐに気付いて手を離し、頭を下げる。

「尊明(たかあき)様」

 頭を下げる葵。
 尊明は葵が仕えるこの国の王である。
 伊織もハッとして頭を下げた。

「この者は私の弟とその妻です。と、言うかこんな場所に来ないでください。私は尊明様のものでも無いですし」 

 頭を下げたまま、呆れたように言う葵だ。

「そうだな。葵の弟は騎士団長で面識もある。しかし、そこの筋肉ダルマは何だ!」
「だから弟の妻だと言っているでしょう! そして馴れ馴れしくしたのは私です!」

 伊織を指差して怒る尊明に、葵もイライラした様に言い返す。

「兄と尊明様は乳兄弟なんだ。それで口答えも出来るから周りからは怖がられているんだよ」

 そう、伊織の耳元で囁き、教えてくれる巴。
 乳兄弟と言うことは、生まれた時期も近く、巴の母親が尊明にも授乳していたと言う事である。
 
「私だって葵をお祝いしたい」
「お祝いに来た態度では無いでしょう。ぶち壊しに来た態度です」
「ごめん。だって、葵が見ず知らずの筋肉ダルマに愛嬌を振りまいていたから」
「私の弟の妻を筋肉ダルマと呼ぶのをやめて下さい。それに彼は騎士ですよ。巴の側にいつも居たでしょう。見たことある筈です!」
「そういえば見たことあるかも知れない……」

 腕組みして怒る葵に、しゅんとなっている尊明だった。

 確かに王は葵には頭が上がらない様子である。
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