三十路のΩ

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「結構、綺麗になりましたね」

 久しぶりに孤児院に来た伊織。
 だいぶ衛生的で子供達も満足いく食事が出来てそうだ。
 みんな走り回って元気そうである。
 良かった。

「伊織と巴さんからの寄付金のおかげです」

 そう、院長は頭を下げた。

「巴さんも寄付していたんですか?」
「伊織もか」

 お互い知らずに同じ所に寄付していたようだが、子供達が元気ならそれで良い。
 
「少し庭を見せて下さい」

 巴は院長に挨拶をしてから、伊織の手を取ると庭を見せて貰う。
 庭のすみ、そこは荒れ地であったが、巴と伊織が畑にした場所である。
 今もちゃんと畑は作物を作っている様だ。
 そして、少し離れた所に伊織の薬草園が有った。
 そこはかなり見つけ辛い場所なので、もう枯れ果てていると思っていた。
 しかし、薬草園もちゃんと薬草を育てている様子である。

「すごい、ちゃんと薬草育ててくれているんですね」
「そうだな。種類もちゃんと作っている様だ」

 伊織が揃えた以外の薬草も植わっているので、誰が薬草好きな職員が居るのだろう。

「誰!?」

 子の声がして、見ると男の子が立ってた。

「ここは僕が見つけたんだ。僕の薬草園だぞ!」

 そう、薬草を守る様に手を広げて立つ。

「君の薬草なんだな。取ったりしない」

 そう、伊織は笑う。
 この子が薬草をみつけて、薬草園を守ってくれているらしい。
 もしかして、荒れていたところから再生させてくれたのだろうか。

「ここの薬草を植えたのは僕たちだけどな」

 苦笑する巴。

「嘘だ! 荒れ放題だったぞ!」
「よくここまで直してくれた。有難う」
「お前らが植えたのなら、なぜ放置したんだ!」
「ごめんよ。引き継ぎはしたんだが…… 薬草は育てても使い方が解らなかったりで放置されちゃったのかも知れないな。人目につかない位置にしちゃったしな」

 怒る男の子に謝る伊織だ。
 実際に、育て方や使い方をノートに記して残したのだが、誰も興味が無かったのだろう。
 お金に余裕もできたので、薬草も買える。

「今は僕の薬草園だから、今更返せって言われても、返さないんだからな!」
「これからも薬草の世話をよろしく頼む」

 男の子は薬草が大好きみたいだ。
 伊織はフフっと笑って男の子の頭を撫でる。

「そうだ。この種をあげるよ。解毒剤になる薬草が育つ」
「良いのか?」

 種をあげると、子供は喜んだ。
 貴重な種なので、伊織も大事に育てるつもりで持っていた。

 まぁ、良いか。

 貴重だが、種はまた機会があれば買える。
 それに高度な魔法が必要なわけでも無く、ただ単に世話が大変で育ちにくい種類なのだ。
 その代わり効能は絶大である。
 畑の様子から手間暇はかけてくれる子だろう。
 きっとこの薬草も育て上げられると信じて伊織は種を子供に託したのだ。
 
「がんばって育ててね」

 伊織は育て方のメモも渡し、子供の頭を撫でた。

「良いのか? 育てるのを楽しみにしていた種だろ?」

 巴は伊織の小声で聞く。

「ええ、ここの畑を大事にしてくれているお礼になりました」

 伊織は、自分と巴が作った畑や薬草園がまだ大事にされている事が嬉しかったのだ。

「もう帰りましょう。男の子が警戒してます」

 見知らぬ大人が二人も大事な薬草園に入ってきたら、それは怖いだろう。
 二人共長身だ。
 伊織は屈んでいるが、筋肉ダルマだ。怖いに決まっている。

「驚かせてごめんな」

 伊織は男の子に手を振った。

「……お兄ちゃん種、有難う。また来てね」

 男の子はまだ警戒した様子だが、伊織に手を振り返してくれる。
 伊織はフフっと微笑むのだった。
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