三十路のΩ

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 伊織の軽い荷物を馬につけ、再びデートの続きである。
 城下町は今日も賑わっている。

 平和で何よりだ。

「団長、伊織さんお疲れ様です!」

 見廻り中の騎士団メンバーと遭遇し、挨拶された。
 伊織は恥ずかしくなる。 
 だって今、先に馬を降りた巴さんに抱きとめられた所である。

「お疲れ様。デートを楽しんでいた所だ。今日も町は平和だな。安心して休暇を楽しめるよ。見廻りをしてくれる君達のお陰だ」

 そう同僚の肩を叩いて激励する巴。
 何も知らないだろう同僚は内心『何言ってるんだ?』と、なってる事であろう。
 伊織が伝令なので、巴とはあまり直接しない同僚たち。
 照れて顔を赤くしている様に見える。
 あの同僚はαな筈だが、αまで誑かすαとは魔性過ぎる男だ。

「こら、僕のミントちゃんに顔を赤らめるのはやめろよな」

 そう、嗜める巴。
 やめてくれ、同僚が『は?』って顔をしているじゃないか。
 思わず巴の背中を強く叩く伊織だ。

「痛っ、照れてるのか?」

 とか言っているし、同僚はハハッと苦笑している。

「じゃあ僕達は指輪とチョーカーを買いに行くよ。引き続き見廻りを頼む」

 巴は終始ニコニコしながら伊織の手を引くのだった。
 同僚達は「はい!」と、返事して、見廻りに戻って行った。


「やめて下さいよ。アイツらまだ自分達が結婚した事は知らないでしょう。困惑してましたよ!」

 小声で注意する伊織。

「伊織がΩである事は伝えてあったし、僕がアプローチしてる事も伝えてあるよ。皆応援してくれてた」
「そうなんですか!?」

 聞いてない!!

「そんな事より店に入ろう」

 手を引く巴は、伊織を連れてジュエリーショップに入るのだった。


「巴様、いらっしゃいせ。此方へ」

 そう、入店と同時に奥の部屋に連れて行かれる。

「予約していたんですか?」
「いや、常連だからVIP対応なんだ」
「へー」

 ジュエリーなんて誰にプレゼントしたんでしょうね。 
 Ωは嫌いでもβの女性とは楽しんでいるのかも知れない。
 そんな事を考えると、モヤモヤする。

「勘違いするなよ? 姉や妹の使いをしたり、付き合いでのプレゼントを購入するだけだ?」
「別に聞いてませんよ」

 慌てて言い訳されると余計に勘ぐってしまうのだが。
 
「言っとくが僕は本当に君にしか興味が無い!」
「それはそれで……」

 手をギュッと握って、信じてくれと懇願する表情で言われると、ちょっと怖い。
 巴さんは何で俺なんかをこんなに愛してくれるんだろうか。

「逆に聞くが、伊織の方こそどうなんだ?」

 今度はムスッとしてしまう巴。

「俺はよく解らないです。童貞です」
「僕も童貞だ」
「あまり信用出来ないような事を言うのはやめてください」

 巴さんが童貞な理由無いじゃないですか!

「本当なんだが…… これはどうだ?」
「よく解らないので巴さんに任せます。俺に似合う物を選んで下さいね」

 店員がドン引きする中、下品な言い合いをしつつも商品を選ぶ二人だ。

 伊織は巴が選んでくれた物なら何でも嬉しい。

 巴はシンプルな指輪と、サファイアのついたチョーカーを選ぶのだった。

 巴はチョーカーと指輪に家紋を掘ってもらう様に頼み、その日は帰宅する。

 また巴に抱きしめられて馬である。

 心臓がいくつ有っても足りないぐらいにドキドキしてしまうから困る。
 顔が赤いのは夕焼けのせいにしよう。
 夕焼けに照らさせる巴の顔も本当に綺麗で、余計にドキドキしてしまう伊織であった。
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