7 / 35
7
しおりを挟む
巴が神官を呼んだのは、ある程度の医療行為は自分たちでも出来るからだ。
巴も伊織もヒールは心得ている。
そもそもヒールは伊織の方が得意であるため、自己治癒も伊織の得意なとろだ。
それがままならないとなると、分野が違う事になる。
呪い等の類を疑ったのだ。
しかし、神官にも原因は特定出来なかった。
そうなると、Ω特有の症状なのかも知れない。
巴は伊織を自宅で寝かせ、Ω専門の医師を自宅に呼んだ。
「どうだ?」
「おそらくは、酷い不安状態で出る症状なのだと思います」
「そうだろうな……」
伊織は僕を怖いと言っていた。
いままで仲良くやってきて、お互い背中を預ける仲だった。
それが実は上司であるから守っていただけであったのだろうか。
彼は仕事で仕方なくやっていた事だったのだろうか。
一緒にお風呂に入ったり、飯を食ったりして笑いあったのも、本当に楽しかったのは僕だけで、伊織は内心楽しくも無いのに作り笑いをしていたのだろうか。
ずっと僕を怖いと思っていたのだろうか。
巴は自分の中にある伊織の記憶が全てまやかしに思え、頭が混乱していた。
今の状況は確かに怖い。
いままでの伊織が全部嘘だったのなら、本当の伊織は何処に居るんだ。
僕は伊織の事を何も知らなかったのか。
そう思うと、悲しくて怖い。
「伊織さんの不安が強く出てしまったのは正しく発情出来てない事にあります。発散出来ない熱が頭に集まってしまっています」
「額に触れたが熱は無かったぞ」
「出ないから悪いのです。せめて熱が熱として出たら楽になるのでしょうが……」
「どうしたら良い?」
よく解らないが、他の分野では原因不明なので、もうこのΩ専門医師に頼るしか無い。
「伊織さんは三十路でも発情してない訳ではなく、発情が解りにくいタイプのΩなので、発情をしっかりと促す試みをしてみようと思います。本人がはっきりと自覚する必要があります」
「あんた、言い方が回りくどいぞ、端的に話してくれ」
兎に角、このさい原因とかはどうでも良い。
聞かされたところで理解出来ないだろう。
早く解決策を言ってくれ。
目の前で冷や汗をかいて苦しそうにしている伊織を早く楽にしてやりたいのだ。
巴は伊織の汗をタオルで拭いてやりながら、気持ちが急ぐ。
「座薬を処方しておきますね」
「座薬?」
「尻に入れて発情を促す薬です」
「なるほど……」
医師は、巴に座薬を渡す。
「僕が入れるのか!?」
「そりゃあ勿論、Ωもパートナーのαが直接入れた方が発情しやすいので」
「でも、僕、怖がられてて……」
まだパートナーとして認めてくれてないし……
「何か思い当たる節は無いんですか?」
「ちょっとストーカーっぽい事をしたとは思う……」
強引すぎて気持ち悪がられたのだろう。
「それか、仕事で厳しくしすぎたか」
伊織が優秀過ぎて甘えてしまったかも知れない。
「僕の事が生理的に受け付けないという可能性も……」
言っててなんだか悲しくなってくる巴だ。
理由なんて解らないが、山程ある事に気づいてしまった。
気づきたく無かった。
「全部的違いだと思います」
首を振るΩ医師。
「伊織さんは巴さんの前で倒れたのですよね? 発情してないΩはαには警戒心が強いものです。中でも伊織さんは特に警戒心が強いタイプのΩです。それが、巴さんの前で意識手放すという事は、それだけ巴さんを信頼して頼っているという事ですよ」
「なら、どうして伊織は僕が怖いと?」
「それが解らないから心当たりが無いかと尋ねたんですよ」
溜息まじりの医師。
そうなると、巴にも全く心当たりは無かった。
ただ、嫌われてないと知り、安心する。
「巴さんと伊織さんはよく話し合う必要がありますね。この座薬で様子を見て下さい」
医師はそれだけ言うと、席を外した。
室内には巴と伊織が二人っきりだ。
巴も伊織もヒールは心得ている。
そもそもヒールは伊織の方が得意であるため、自己治癒も伊織の得意なとろだ。
それがままならないとなると、分野が違う事になる。
呪い等の類を疑ったのだ。
しかし、神官にも原因は特定出来なかった。
そうなると、Ω特有の症状なのかも知れない。
巴は伊織を自宅で寝かせ、Ω専門の医師を自宅に呼んだ。
「どうだ?」
「おそらくは、酷い不安状態で出る症状なのだと思います」
「そうだろうな……」
伊織は僕を怖いと言っていた。
いままで仲良くやってきて、お互い背中を預ける仲だった。
それが実は上司であるから守っていただけであったのだろうか。
彼は仕事で仕方なくやっていた事だったのだろうか。
一緒にお風呂に入ったり、飯を食ったりして笑いあったのも、本当に楽しかったのは僕だけで、伊織は内心楽しくも無いのに作り笑いをしていたのだろうか。
ずっと僕を怖いと思っていたのだろうか。
巴は自分の中にある伊織の記憶が全てまやかしに思え、頭が混乱していた。
今の状況は確かに怖い。
いままでの伊織が全部嘘だったのなら、本当の伊織は何処に居るんだ。
僕は伊織の事を何も知らなかったのか。
そう思うと、悲しくて怖い。
「伊織さんの不安が強く出てしまったのは正しく発情出来てない事にあります。発散出来ない熱が頭に集まってしまっています」
「額に触れたが熱は無かったぞ」
「出ないから悪いのです。せめて熱が熱として出たら楽になるのでしょうが……」
「どうしたら良い?」
よく解らないが、他の分野では原因不明なので、もうこのΩ専門医師に頼るしか無い。
「伊織さんは三十路でも発情してない訳ではなく、発情が解りにくいタイプのΩなので、発情をしっかりと促す試みをしてみようと思います。本人がはっきりと自覚する必要があります」
「あんた、言い方が回りくどいぞ、端的に話してくれ」
兎に角、このさい原因とかはどうでも良い。
聞かされたところで理解出来ないだろう。
早く解決策を言ってくれ。
目の前で冷や汗をかいて苦しそうにしている伊織を早く楽にしてやりたいのだ。
巴は伊織の汗をタオルで拭いてやりながら、気持ちが急ぐ。
「座薬を処方しておきますね」
「座薬?」
「尻に入れて発情を促す薬です」
「なるほど……」
医師は、巴に座薬を渡す。
「僕が入れるのか!?」
「そりゃあ勿論、Ωもパートナーのαが直接入れた方が発情しやすいので」
「でも、僕、怖がられてて……」
まだパートナーとして認めてくれてないし……
「何か思い当たる節は無いんですか?」
「ちょっとストーカーっぽい事をしたとは思う……」
強引すぎて気持ち悪がられたのだろう。
「それか、仕事で厳しくしすぎたか」
伊織が優秀過ぎて甘えてしまったかも知れない。
「僕の事が生理的に受け付けないという可能性も……」
言っててなんだか悲しくなってくる巴だ。
理由なんて解らないが、山程ある事に気づいてしまった。
気づきたく無かった。
「全部的違いだと思います」
首を振るΩ医師。
「伊織さんは巴さんの前で倒れたのですよね? 発情してないΩはαには警戒心が強いものです。中でも伊織さんは特に警戒心が強いタイプのΩです。それが、巴さんの前で意識手放すという事は、それだけ巴さんを信頼して頼っているという事ですよ」
「なら、どうして伊織は僕が怖いと?」
「それが解らないから心当たりが無いかと尋ねたんですよ」
溜息まじりの医師。
そうなると、巴にも全く心当たりは無かった。
ただ、嫌われてないと知り、安心する。
「巴さんと伊織さんはよく話し合う必要がありますね。この座薬で様子を見て下さい」
医師はそれだけ言うと、席を外した。
室内には巴と伊織が二人っきりだ。
133
お気に入りに追加
276
あなたにおすすめの小説
【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
君の番として映りたい【オメガバース】
さか【傘路さか】
BL
全9話/オメガバース/休業中の俳優アルファ×ライター業で性別を隠すオメガ/受視点/
『水曜日の最初の上映回。左右から見たら中央あたり、前後で見たら後ろあたり。同じ座席にあのアルファは座っている』
ライター業をしている山吹は、家の近くのミニシアターで上映料が安い曜日に、最初の上映を観る習慣がある。ある時から、同じ人物が同じ回を、同じような席で見ている事に気がつく。
その人物は、俳優業をしている村雨だった。
山吹は昔から村雨のファンであり、だからこそ声を掛けるつもりはなかった。
だが、とある日。村雨の忘れ物を届けたことをきっかけに、休業中である彼と気晴らしに外出をする習慣がはじまってしまう。
※小説の文章をコピーして無断で使用したり、登場人物名を版権キャラクターに置き換えた二次創作小説への転用は一部分であってもお断りします。
無断使用を発見した場合には、警告をおこなった上で、悪質な場合は法的措置をとる場合があります。
自サイト:
https://sakkkkkkkkk.lsv.jp/
誤字脱字報告フォーム:
https://form1ssl.fc2.com/form/?id=fcdb8998a698847f
王は約束の香りを娶る 〜偽りのアルファが俺の運命の番だった件〜
東院さち
BL
オメガであるレフィは母が亡くなった後、フロレシア国の王である義父の命令で神殿に住むことになった。可愛がってくれた義兄エルネストと引き離されて寂しく思いながらも、『迎えに行く』と言ってくれたエルネストの言葉を信じて待っていた。
義父が亡くなったと報されて、その後でやってきた遣いはエルネストの迎えでなく、レフィと亡くなった母を憎む侯爵の手先だった。怪我を負わされ視力を失ったレフィはオークションにかけられる。
オークションで売られてしまったのか、連れてこられた場所でレフィはアルファであるローレルの番にさせられてしまった。身体はアルファであるローレルを受け入れても心は千々に乱れる。そんなレフィにローレルは優しく愛を注ぎ続けるが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる