三十路のΩ

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 暫く寝て起きると、伊織の体調もそれなりに回復し、着替えて帰る事が出来た。
 巴が心配して送ると言ったが断り、一人で帰路につく。

 伊織は巴の事がよく解らない。

 公爵家の次男である巴は割と何でも望むままになる。
 優秀なαであるが、いままで独り身でいるのも巴の我儘を聞き入れる公爵が居るからだ。
 なので、ここでわざわざ伊織と結婚しなくても、巴が受け入れないのならそこまで無理強いされる事は無いのである。
 確かにいちいち断るのも面倒なのだろうが、だからと言って気心の知れた部下と番えるのだろうか。

 そもそも団長は俺を抱けるのか?

 考えただけでも伊織は具合が悪くなりそうだ。
 頭を振って考える事をやめる。
 団長も無責任な事はやめて欲しいものだ。




 αとΩの集いの後、巴も伊織もαやΩについての話はせずに、淡々と仕事をこなしていた。
 期日は迫り、国からどうなっているのかと聞かれた折に、そちらで決めて欲しい事を伊織は伝えた。

 そして期日。

 目の前にいる男に伊織は頭を押さえる。
 国が決めた相手は団長であった。
 そんな事あるか。
 また公爵家の次男である我儘を発動したに決まっている。
 何故そこまでして自分を妻に娶ろうとするのか、伊織には理解不能だ。

「国が独自に行なっている残り物のΩとαで
相性の良い者を遺伝子情報を元に算出しているらしいが、僕とお前だったらしい」

 そう、もっともらしい事を白々しく言われ、伊織は巴を睨んだ。

「信じて無いな? 俺も驚いたよ」

 伊織の表情に、巴もたじろぐ。

 なんせ、巴は本当にの事を言っているのだ。

 どうしても伊織を他のαに渡したく無かった巴は、あらゆる手を使って国が決めるαを自分にしようと画策していた事は本当である。
 しかし、αとΩを研究するラボまで足を運んだ際に『伊織さんの遺伝子ともっとも相性の良いα遺伝子は巴さんでした』と、結果の紙を渡されたのだ。
 
 その紙を伊織にも見せる。

「この通り、結果に偽りは無いぞ」
「確かに……」

 流石に国の印まで押される用紙に細工をするような事は巴はしない。
 伊織も認めざるおえなかった。

「これは運命なんじゃないか? 赤い糸的な」

 流石に巴も指に繋がってとしか思えない。
 らしく無い事を言っていると、巴自身、恥ずかしくなった。

「……解りました」

 伊織は渋々という雰囲気で頷き、用紙にサインする。
 これで伊織と巴は婚姻を結んだ事になるのだ。
 直ぐに国の者がその用紙を回収して行った。

 その後、伊織は急に顔色が悪くなり頭を押さえる。
 直ぐに薬草を取り出して噛んだ。
 それは頭痛薬だ。
 また頭が痛いのだろう。

「大丈夫か?」

 咄嗟にイスから立ち上がる巴。
 伊織の息は荒く、今にも倒れそうだ。

「伊織!」

 体を支える、額に手を充てる。
 熱は無さそうだが、意識も朦朧としていた。

「怖いです……」

 そう、声を出した。
 怖い?

「何が怖いんだ?」
「貴方が怖い……」

 僕が?
 僕が何で怖いんだ??

「伊織!! 誰か、神官を連れてきてくれ!」

 意識を失ってしまった伊織に、巴は慌てて声を荒げた。
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