三十路のΩ

文字の大きさ
上 下
4 / 35

4

しおりを挟む
 伊織の主な仕事は巴の補佐役である。

 今の所、国は安定している。
 騎士の仕事は城内や城下の見廻りと、貴族の警護、稽古、その他の雑務である。 
 伊織は元々巴の指示を他の団員に伝令する役割を担っていた。
 しかし、伊織がΩだと解ってからは、巴は伊織を他の団員に合わせる事を避けている様だ。
 伊織も、巴が気を使ってくれているのだと思い、巴の指示に従って仕事をしている。 

 たしかに、首輪は目立つ。
 他の団員に指摘されて何度も恥ずかしい思いをするのも嫌だ。

 伊織は薬草に関して智識が有る。
 最近は薬草の仕分け作業等を主にしていた。
 騎士団は怪我をする事が多い為、薬草の備蓄は大事である。
 何か災害があったときに対応するのも騎士団だ。
 薬草は多いにこしたことは無い。
 



「お疲れ様です。今日はαとΩの集いの日ですので、今日はこれで帰らせて頂きます」 

 普段は巴の仕事も手伝ってから帰宅する伊織たが、今日は兼ねてから伝えていた日だ。
 定時に帰り支度をし、挨拶する。

「本当に出るのか? あまり良い集いでは無いぞ」

 巴は何度も止めた方が良いと伝えていた。

「なるべくなら自分で結婚相手を決めたいですから」
「だから僕が居ると言うのに」
「自分で決めたいと言っているのに……」

 伊織を睨む巴に、伊織は溜息を吐く。

「では、お先に失礼します」

 伊織は巴に背を向けるのだった。

 



 国が開催するαとΩの集いは立派な会場で催される。

 ドレスコードが有るのだが……
 本当にこの衣装を着なければいけないのか……

 Ωの衣装は会場側が用意してくれると言う事で、サイズを伝えていた。
 しかし、渡された服に伊織は驚く。
 黒いタイトなスーツは、胸元が大きく開いたデザインである。
 乳首まで丸見えだ。

 こんな破廉恥な服を着ろと言うのか。
 
 そして、なぜか兎の耳まで付けなればならない。
 なんだこの理由のわからない衣装は。

 伊織は恥ずかしくて死にそうだ。

 しかし、周りのΩはみんな着ているし、仕方ない。

 伊織は成るように成れと、服とは言えないようなソレを着用し、会場に向かうのだった。

  


 豪華な大広間はそれなりに賑わっていた。

「今日のΩは10人です。先ずは一人目……」

 スポットライトを当てられ、一人ずつ紹介されるΩ。
 αは30人ぐらいだろうか。
 やはり、比率で言えば男性Ωは相当少ないのだろう。
 今日は男性Ωとαの集まりらしく、Ωは男性しか居ないが、αには女性も居るようだ。
 αは優秀な遺伝子なだけあって、ある程度知名度が有ったり、貴族が多い。
 そのため素性を知られたくない者も多いらしく、仮面をつけている者が大多数だ。
 紹介されるΩはみんな華奢で可愛らしい。
 そんな中、最後を飾るのが伊織だった。

「30歳のアナルバージンΩです」

 そう、紹介された。

 会場はざわついた。



 直ぐに交流会になったが、伊織にはα女性がよく集まってきた。

「すごい筋肉ね。何のお仕事をしているの?」

 そう、乳首が露わになっている胸元を普通に撫でてくる。

「騎士団に所属しています」
「まぁ、素敵。何故30にもなってアナルバージンなの?」
「つい先日の検査で急にΩだと判明したもので」
「珍しわね」

 伊織の事が物珍しく、珍獣を見るような目つきだ。
 
「ここはどうなっているのかしら?」

 そう、大胆に股ぐらを弄ってくる女。
 なんて下品な女なんだ。
 いくら布越しといえど、股ぐらを弄るだなんて。
 しかし、相手はα、どんな立場の女性かも解らず、手を払う理由にもいかない。
 伊織は困惑してしまう。

「やだぁ、ペニスも大きいわ。本当にΩなの?」

 勝手に弄っておいて、女はドン引きである。
 ドン引きしたいのはこっちだ。

「番うならやっぱり普通の可愛いΩが良いわ。ペットにだったらしてあげるけどね」

 女はフフっと笑って去っていった。
 

 女性達が去ると伊織はソファーで一人である。
 明らかに浮いてしまっていた。

 この会のルール的に、Ωからαに話し掛けるのは禁止だ。
 Ωはαが気にかけて寄ってきてくれるまではソファーで待つ事しか出来なかった。
 と、言っても伊織以外のΩは人気で、人が切れる事は無い。


「アァんだめぇ、乳首噛んじゃぁ」

 隣のソファーではもう、Ωは押し倒されて乳首を摘まれたり、噛んだりされているが、アレは大丈夫なのだろうか。

 伊織はただただ居た堪れない。

「余ってるΩはおコイツだけかぁ、流石にΩでもこんなゴツいの相手するぐらいならβと番うよな」

 なんて、ヤジまで飛ばされるしまつである。

「でも、もう30だろ。Ωって必ずαと番う決まりだし、コイツにもそのうち国が勝手に決めたαを充てがわれるんだぜ」
「白羽の矢が当たった奴は可哀想だよな」
「お前になるかも知れないぜ」
「怖~」

 そう、陰口まで叩かれている。
 無駄に耳が良すぎて全部丸聞こえなんだ。


「ほら、やっぱり僕と結婚するしかないんじゃないか?」

 ドカっとソファーに腰掛けて、肩に腕を回して来た男の声は聞き覚えが有った。
 仮面で顔を隠しているが、間違いない。

「団長……」

 こんな所で何をしているんだこの人。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。 かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。 後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。 群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って…… 冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。 表紙は友人絵師kouma.作です♪

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...