三十路のΩ

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 伊織の主な仕事は巴の補佐役である。

 今の所、国は安定している。
 騎士の仕事は城内や城下の見廻りと、貴族の警護、稽古、その他の雑務である。 
 伊織は元々巴の指示を他の団員に伝令する役割を担っていた。
 しかし、伊織がΩだと解ってからは、巴は伊織を他の団員に合わせる事を避けている様だ。
 伊織も、巴が気を使ってくれているのだと思い、巴の指示に従って仕事をしている。 

 たしかに、首輪は目立つ。
 他の団員に指摘されて何度も恥ずかしい思いをするのも嫌だ。

 伊織は薬草に関して智識が有る。
 最近は薬草の仕分け作業等を主にしていた。
 騎士団は怪我をする事が多い為、薬草の備蓄は大事である。
 何か災害があったときに対応するのも騎士団だ。
 薬草は多いにこしたことは無い。
 



「お疲れ様です。今日はαとΩの集いの日ですので、今日はこれで帰らせて頂きます」 

 普段は巴の仕事も手伝ってから帰宅する伊織たが、今日は兼ねてから伝えていた日だ。
 定時に帰り支度をし、挨拶する。

「本当に出るのか? あまり良い集いでは無いぞ」

 巴は何度も止めた方が良いと伝えていた。

「なるべくなら自分で結婚相手を決めたいですから」
「だから僕が居ると言うのに」
「自分で決めたいと言っているのに……」

 伊織を睨む巴に、伊織は溜息を吐く。

「では、お先に失礼します」

 伊織は巴に背を向けるのだった。

 



 国が開催するαとΩの集いは立派な会場で催される。

 ドレスコードが有るのだが……
 本当にこの衣装を着なければいけないのか……

 Ωの衣装は会場側が用意してくれると言う事で、サイズを伝えていた。
 しかし、渡された服に伊織は驚く。
 黒いタイトなスーツは、胸元が大きく開いたデザインである。
 乳首まで丸見えだ。

 こんな破廉恥な服を着ろと言うのか。
 
 そして、なぜか兎の耳まで付けなればならない。
 なんだこの理由のわからない衣装は。

 伊織は恥ずかしくて死にそうだ。

 しかし、周りのΩはみんな着ているし、仕方ない。

 伊織は成るように成れと、服とは言えないようなソレを着用し、会場に向かうのだった。

  


 豪華な大広間はそれなりに賑わっていた。

「今日のΩは10人です。先ずは一人目……」

 スポットライトを当てられ、一人ずつ紹介されるΩ。
 αは30人ぐらいだろうか。
 やはり、比率で言えば男性Ωは相当少ないのだろう。
 今日は男性Ωとαの集まりらしく、Ωは男性しか居ないが、αには女性も居るようだ。
 αは優秀な遺伝子なだけあって、ある程度知名度が有ったり、貴族が多い。
 そのため素性を知られたくない者も多いらしく、仮面をつけている者が大多数だ。
 紹介されるΩはみんな華奢で可愛らしい。
 そんな中、最後を飾るのが伊織だった。

「30歳のアナルバージンΩです」

 そう、紹介された。

 会場はざわついた。



 直ぐに交流会になったが、伊織にはα女性がよく集まってきた。

「すごい筋肉ね。何のお仕事をしているの?」

 そう、乳首が露わになっている胸元を普通に撫でてくる。

「騎士団に所属しています」
「まぁ、素敵。何故30にもなってアナルバージンなの?」
「つい先日の検査で急にΩだと判明したもので」
「珍しわね」

 伊織の事が物珍しく、珍獣を見るような目つきだ。
 
「ここはどうなっているのかしら?」

 そう、大胆に股ぐらを弄ってくる女。
 なんて下品な女なんだ。
 いくら布越しといえど、股ぐらを弄るだなんて。
 しかし、相手はα、どんな立場の女性かも解らず、手を払う理由にもいかない。
 伊織は困惑してしまう。

「やだぁ、ペニスも大きいわ。本当にΩなの?」

 勝手に弄っておいて、女はドン引きである。
 ドン引きしたいのはこっちだ。

「番うならやっぱり普通の可愛いΩが良いわ。ペットにだったらしてあげるけどね」

 女はフフっと笑って去っていった。
 

 女性達が去ると伊織はソファーで一人である。
 明らかに浮いてしまっていた。

 この会のルール的に、Ωからαに話し掛けるのは禁止だ。
 Ωはαが気にかけて寄ってきてくれるまではソファーで待つ事しか出来なかった。
 と、言っても伊織以外のΩは人気で、人が切れる事は無い。


「アァんだめぇ、乳首噛んじゃぁ」

 隣のソファーではもう、Ωは押し倒されて乳首を摘まれたり、噛んだりされているが、アレは大丈夫なのだろうか。

 伊織はただただ居た堪れない。

「余ってるΩはおコイツだけかぁ、流石にΩでもこんなゴツいの相手するぐらいならβと番うよな」

 なんて、ヤジまで飛ばされるしまつである。

「でも、もう30だろ。Ωって必ずαと番う決まりだし、コイツにもそのうち国が勝手に決めたαを充てがわれるんだぜ」
「白羽の矢が当たった奴は可哀想だよな」
「お前になるかも知れないぜ」
「怖~」

 そう、陰口まで叩かれている。
 無駄に耳が良すぎて全部丸聞こえなんだ。


「ほら、やっぱり僕と結婚するしかないんじゃないか?」

 ドカっとソファーに腰掛けて、肩に腕を回して来た男の声は聞き覚えが有った。
 仮面で顔を隠しているが、間違いない。

「団長……」

 こんな所で何をしているんだこの人。
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