三十路のΩ

2

　再検査を要求した結果は変わらず、別な病院でもΩとして診断結果が下りてきた。

　もはや絶望しかない。

　いままで騎士として活躍してきて、これからもそうやって生きていくつもりであった。
　自分はまだまだ現役である。
　それが、Ωとしてαと番って今直ぐ妊活しろと言うのだ。
　人生が180度変わるようなものである。
　どうやって生きていけば良いのか、まるでわからなかった。
　Ωとしての生き方が想像出来ない。　　

　しかし、このままウダウダ悩んでいても仕方が無かった。
　勝手に期日は迫ってくるし、いままで世話になった騎士団にも不義理は出来ない。　
　ちゃんと辞表を出し、引き継ぎをしなければ。
　正直辞めたくはないが、騎士団もΩを雇っておきたくは無いだろう。
　いままで何もなかったと言え、これからも何も無いとは言い切れない。
　万が一何があって、お互い不本意な番にでもなってしまったら友情も何もなくなってしう。
　それだけは避けたい。
　家には万が一を避ける首輪も送られて来た。
　これも着けなければならない。
　Ωの証である。
　一目でわかってしまうのが恥ずかしいが、これもまた仕方ない事だ。

　伊織の心境は今や虚無である。





　騎士団本部の団長室。

　時勢は平和と言えど、いままで溜まった事務作業等に追われている。
　真面目な部下が一人遅刻している。
　いままで無遅刻無欠勤どころか、人より先に来て、人より後に帰るような奴だ。
　それが連絡も無く一時間も遅れていた。
　心配だ。
　いや、相手は三十路の負け知らず。
　心配する事は無い。
　何処かで迷子の世話でもしてるのだろう。
　でも、連絡を忘れた事は無かったのだ。
　何が些細な事でも、たとえ5分の遅刻だって理由を連絡してくる奴である。
　一体、どうしたんだ。
　団長の巴は伊織が心配でイライラしていた。

「遅くなって申し訳ありません」
「遅い！　何処で何をして……」

　声をかけられ、やっと来たかと睨みつけた巴は驚く。
　なんたって真面目で屈強な部下の首元に首輪がしてあるからである。
　それはΩの目印じゃないか。
　
「あの、その、これで……　辞表を……」

　伊織も何をどう言って良いか解らず、挙動不審になってしまいならからも辞表を提出する。
　顔は真赤だ。

「どういう事か、はっきりしっかり説明しろ！」

　思わず怒鳴ってしまう巴。
　普段は顔色１つ変えない伊織なのだが、今にも泣き出しそうな表情である。

「自分も何が何だか解らないんですよ～」

　と、情けない声を出していた。

　自分でもよく解らない伊織は、国から送られて来た手紙をそのまま巴に見せる。

　巴は辞表と共に手紙を見せられて、ただただ驚いた。
　なんたって相手は無骨で負け知らずの頼りになる部下である。
　それがΩ！？
　三十路で！？
　
「よし、解った。結婚しよう」

　辞表を破り捨ててゴミ箱に捨てる巴。

「？？？？」

　伊織はポカーンとして声も出ない。

　何言ってるんだ団長は？？　

　あと、その辞表、寝ずに考えて書いたので、せめて読んで欲しかった。