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46.義母の悪事
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「突然こんな事になってしまって、ごめんね」
踊りに疲れたユリアを休憩させようとソファーに座らせたハディはユリアに謝る。
ユリアは何を謝られたのか良く解らず首を傾げた。
「婚約の事、咄嗟に君を助けようと思ったのだけど…… もっと他のやり方があったかも知れない。軽率だったよね」
「いえ、とても助かりました。此方こそ助けて頂いて有難うございます」
申し訳無さそうなハディにユリアは首を振る。
ただ、そうだよね。
と、少し悲しくなった。
あの場面ではそれが最善だったけれど、ハディ公子は自分を助けようとしただけなのだ。
別に私を愛して等いなくて、妻にする気も無いけれど、どうしようも無かったのだ。
そうだと気づいて、馬鹿みたいに浮かれてしまった自分が恥ずかしくなる。
「あの、それでね……」
「あ、婚約破棄ですか?」
一瞬の婚約者だったなぁ。
でも嬉しかった。
「いや、そうじゃなくて。君に手をあげようとする義母のいる家に君を帰したくは無いんだ」
「普段は折檻される事は無いのですよ。母上は小言を言うだけです」
「本当? そうなのかも知れないけど…… あの感じだと、君の義母は何か弱みを伯爵に握られていて、それを秘密にする変わりに君を娶らそうとしている様子に見えた。契約を違えてしまったのだから君の義母は今、戦々恐々としているはずだ。その怒りが君に向かない筈が無いし、今や何をされるか解ったもんじゃないよ」
ハディは心配そうにユリアの手を握りしめる。
「だからね、私の家に来て欲しい」
そう囁くのだった。
何もない男女が同じ家に帰るのはいかがわしいと思われるだろうが、曲がりなりにも今は婚約しているのだから問題無い。
普通ならば花嫁修行だと思われるだけだと、ハディは周りに聞かれない様に小声でユリアに話しかけて説得する。
ユリアはなんだか良くわ解らず、勢いに負けて頷いていた。
確かにさっきの義母の様相には殺気すら感じて恐ろしかった。
家には帰りたくない。
「ハディ公子の家に行きたいです」
そう言うと、ハディはホッと胸を撫で下ろすのだった。
「有難う、先の事はゆっくり考えよう」
ハディはそう言うと、少しユリアの側を離れた。
レオンに帰る事を告げに向かった様だ。
「吃驚しましたわ」
スッと隣に腰掛けたのはアイリスである。
挨拶周りに疲れた様子だ。
彼女も休憩に来たのだろう。
「ユリアさんにお怪我が無くて本当に良かったわ」
アイリスもユリアを心配していた。
側で見るまで内心は気が気でなかった。
ハディ公子との事も気が気でなくて、本当に色々、気が気でなかったのだ。
いつもより挨拶周りに疲れてしまったのはそのせいである。
だが、良い情報も得た。
「アイリス様は挨拶周りお疲れ様です」
ユリアもアイリスを労う。
「有難う。そんな事よりユリアさん、今日は家に帰らない方が良くてよ。貴女のお母様、不倫相手に継ぎ込んで借金まみれと言う噂ですわ」
アイリスが挨拶周りがてらに聞いた情報である。
噂は噂だが、火がない所に煙はたたないとも言う。
それにユリアに手を上げようとした義母には鬼気迫る物を感じた。
ユリアをこのまま家に返したら酷い目合されそうで、アイリスは気が気でないのだ。
「そうなんですね……」
ユリアも薄々だが義母はもしかしたら不倫しているかも知れないと思っていた。
だが父も不倫して自分が産まれている為、まぁ、仕方ないかもしれないとも思っていた。
異様に家にお金が無いのも気になっていて、先日調べて更におかしいとは思ったものの、自分が指摘する訳にもいかず、なんとか自分が出来る範囲の節約をするしか無かったのだ。
父に相談するにも、今何処に居るかも解らない。
もしかしたらまた新しい不倫相手と居るのかも。
そんな事を考えると鬱々として来てしまう。
「暫く家に来てください。父も母も喜びますわ」
「あ、あの……」
ガシッと手を掴まれ、ユリアは困ってしまった。
嬉しいけど……
「ユリアは私の家に来てもらおうと思ったんだけど…… アイリス様の家の方が良い?」
戻ってきたハディはショボーンとした顔でユリアを見る。
そんな捨てられそうな犬みたいな顔をしないで欲しい。
可愛すぎる。
「まぁ、そうでしたのね! 私ったらお邪魔しちゃって。馬にでも蹴られてきますわ」
あわわと、ユリアから離れるアイリス。
「アイリスが馬に蹴られるのは困るなぁ」
アイリスを抱きとめるレオン。
「アイリス様が馬に蹴られると私も困ります」
フフっと苦笑するユリアだった。
「じゃあ、ユリアは私と帰ってくれるんだね」
ハディはパアァーと明るい顔を見せると、ユリアの手を引く。
「さぁ、帰ろう」
「はい。王子とアイリス様、お休みなさい」
ユリアはレオンとアイリスにお辞儀した。
「ユリアさん、ご機嫌よう。ハディ公子も、お気をつけになって」
アイリスもお別れの挨拶をする。
視線で『ユリアさんに変な事をしたら許さない』と、訴えた。
ハディも解った様で苦笑している。
レオンとアイリスはハディとユリアを玄関ホールまで見送るのだった。
踊りに疲れたユリアを休憩させようとソファーに座らせたハディはユリアに謝る。
ユリアは何を謝られたのか良く解らず首を傾げた。
「婚約の事、咄嗟に君を助けようと思ったのだけど…… もっと他のやり方があったかも知れない。軽率だったよね」
「いえ、とても助かりました。此方こそ助けて頂いて有難うございます」
申し訳無さそうなハディにユリアは首を振る。
ただ、そうだよね。
と、少し悲しくなった。
あの場面ではそれが最善だったけれど、ハディ公子は自分を助けようとしただけなのだ。
別に私を愛して等いなくて、妻にする気も無いけれど、どうしようも無かったのだ。
そうだと気づいて、馬鹿みたいに浮かれてしまった自分が恥ずかしくなる。
「あの、それでね……」
「あ、婚約破棄ですか?」
一瞬の婚約者だったなぁ。
でも嬉しかった。
「いや、そうじゃなくて。君に手をあげようとする義母のいる家に君を帰したくは無いんだ」
「普段は折檻される事は無いのですよ。母上は小言を言うだけです」
「本当? そうなのかも知れないけど…… あの感じだと、君の義母は何か弱みを伯爵に握られていて、それを秘密にする変わりに君を娶らそうとしている様子に見えた。契約を違えてしまったのだから君の義母は今、戦々恐々としているはずだ。その怒りが君に向かない筈が無いし、今や何をされるか解ったもんじゃないよ」
ハディは心配そうにユリアの手を握りしめる。
「だからね、私の家に来て欲しい」
そう囁くのだった。
何もない男女が同じ家に帰るのはいかがわしいと思われるだろうが、曲がりなりにも今は婚約しているのだから問題無い。
普通ならば花嫁修行だと思われるだけだと、ハディは周りに聞かれない様に小声でユリアに話しかけて説得する。
ユリアはなんだか良くわ解らず、勢いに負けて頷いていた。
確かにさっきの義母の様相には殺気すら感じて恐ろしかった。
家には帰りたくない。
「ハディ公子の家に行きたいです」
そう言うと、ハディはホッと胸を撫で下ろすのだった。
「有難う、先の事はゆっくり考えよう」
ハディはそう言うと、少しユリアの側を離れた。
レオンに帰る事を告げに向かった様だ。
「吃驚しましたわ」
スッと隣に腰掛けたのはアイリスである。
挨拶周りに疲れた様子だ。
彼女も休憩に来たのだろう。
「ユリアさんにお怪我が無くて本当に良かったわ」
アイリスもユリアを心配していた。
側で見るまで内心は気が気でなかった。
ハディ公子との事も気が気でなくて、本当に色々、気が気でなかったのだ。
いつもより挨拶周りに疲れてしまったのはそのせいである。
だが、良い情報も得た。
「アイリス様は挨拶周りお疲れ様です」
ユリアもアイリスを労う。
「有難う。そんな事よりユリアさん、今日は家に帰らない方が良くてよ。貴女のお母様、不倫相手に継ぎ込んで借金まみれと言う噂ですわ」
アイリスが挨拶周りがてらに聞いた情報である。
噂は噂だが、火がない所に煙はたたないとも言う。
それにユリアに手を上げようとした義母には鬼気迫る物を感じた。
ユリアをこのまま家に返したら酷い目合されそうで、アイリスは気が気でないのだ。
「そうなんですね……」
ユリアも薄々だが義母はもしかしたら不倫しているかも知れないと思っていた。
だが父も不倫して自分が産まれている為、まぁ、仕方ないかもしれないとも思っていた。
異様に家にお金が無いのも気になっていて、先日調べて更におかしいとは思ったものの、自分が指摘する訳にもいかず、なんとか自分が出来る範囲の節約をするしか無かったのだ。
父に相談するにも、今何処に居るかも解らない。
もしかしたらまた新しい不倫相手と居るのかも。
そんな事を考えると鬱々として来てしまう。
「暫く家に来てください。父も母も喜びますわ」
「あ、あの……」
ガシッと手を掴まれ、ユリアは困ってしまった。
嬉しいけど……
「ユリアは私の家に来てもらおうと思ったんだけど…… アイリス様の家の方が良い?」
戻ってきたハディはショボーンとした顔でユリアを見る。
そんな捨てられそうな犬みたいな顔をしないで欲しい。
可愛すぎる。
「まぁ、そうでしたのね! 私ったらお邪魔しちゃって。馬にでも蹴られてきますわ」
あわわと、ユリアから離れるアイリス。
「アイリスが馬に蹴られるのは困るなぁ」
アイリスを抱きとめるレオン。
「アイリス様が馬に蹴られると私も困ります」
フフっと苦笑するユリアだった。
「じゃあ、ユリアは私と帰ってくれるんだね」
ハディはパアァーと明るい顔を見せると、ユリアの手を引く。
「さぁ、帰ろう」
「はい。王子とアイリス様、お休みなさい」
ユリアはレオンとアイリスにお辞儀した。
「ユリアさん、ご機嫌よう。ハディ公子も、お気をつけになって」
アイリスもお別れの挨拶をする。
視線で『ユリアさんに変な事をしたら許さない』と、訴えた。
ハディも解った様で苦笑している。
レオンとアイリスはハディとユリアを玄関ホールまで見送るのだった。
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