君の歌声が一番好き『完結』

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「クソ、なんて事だ!」
 
 アメジスは声を荒らげる。
 バリアが次々に破られ、魔物が人々を襲い出したのだ。
 突然の事で収拾がつかない。

「西側は全滅だ。避難誘導はどうなっている?」

 城の周りだけでも何とか白の騎士団で抑えていた。
 警備団には避難誘導を頼み、近衛兵も戦っている。
 しかし、避難は間に合わず、被害の全容も掴めてはいない。
 何がどうなっているのか、さっぱり解らなかった。

「闇の騎士団はどうしているんだ」

 何故来ない。
 オニキスならば何があろうと直ぐに手を貸してくれるはすだ。
 そうだろ?

「殆ど人員が居ませんでしたし、今は全員で行商へ出かけています」
「全員で行かなくても良いだろう!」
「王様が歌うなと命令したので、行商に行くぐらいしか仕事が無かったんですよ」

 王様め、何やってくれてるんだ!
 白の騎士団のバフとヒールだけでは追いつかない。
 もう、城の守りも破られる。
 終わりだ。
 アメジスそう覚悟を決めた時だったった。

「どうなっている!?」

 飛び出して来たのはオニキスだ。
 迷わずアメジスに背中を預けて剣を構えた。

「遅い! 何してたんですか!!」
「すまん、行商に行っていた」
「それは知ってますよ! 何も全員で行かなくても良いでしょ!」
「王からの命令だったんだ」
「無視してくださいよ!」
「無茶言うな!」

 口喧嘩になりつつも、応戦と剣舞でバリアを張り直す。
 
「歌って下さい」
「王様から禁じられている」
「言っている場合か」
「確かに」
 
 今、王様の命令がどうこう言っている場合ではない。
 たとえ破った事で咎められても多くの国民が守られるなら良いだろう。
 アメジスとオニキスは歌声を合わせた。

 闇の騎士団の威嚇により、入り込んだ魔物は殆ど逃げ出す。
 バリアは再び張られ、残った魔物も退治した。
 だが周りは既に血の海で、まるで地獄の様なありさまだった。

「被害の全容は?」
「調べたくない」
「俺もだ」

 その場に立っているのはオニキスとアメジスだけであった。
 
 お互い血まみれである。

「怪我はないか?」
「全部返り血ですよ。貴方は? まぁ、聞くまでも無いか」
「肩にかぶり付かれた」
「何やってんだ! 早く言えよ!!」

 肩を抑えるオニキスは苦笑いを浮かべ汗だくである。
 急に意識が朦朧とし、倒れ込む。
 アメジスが支えた。

「おい、しっかりしろ!」

 支えると、体は熱く、熱を感じた。
 肩を破いて見ると、青紫に変色していた。
 なんらかの毒だろう。
 直ぐにヒールを試みるが、強い毒にやられているらしい、解毒しきれない。

「団長ーー!」

 駆け寄って来たの闇の騎士団の者だ。
 よくオニキスが頼りにしている男である。
 たしか名前は黒曜石。

「解毒が追いつない。神殿に連れて行ってくれ。僕はまだ助けられる人にヒールを施したいので連れて行けない」
「解りました」

 黒曜石はひ弱に見えるが、そこは流石に闇の力を持つものである、オニキスを抱き上げると、神殿の方へ向かった。
 オニキスは黒曜石に任せれば大丈夫だろう。
 直ぐに解毒を施したので、抜けきらなかったが危ない程でも無い。
 直ぐに神官に見てもらえば助かる筈だ。
 アメジスは直ぐに自分の仕事に戻るのだった。
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