君の歌声が一番好き『完結』

文字の大きさ
上 下
6 / 12

6

しおりを挟む
 3時間も馬車を運べば隣の国に着いた。
 向こうの行商人と落ち合う。

 荷物を降ろし、向こうが用意しておいてくれた荷物を積む。

 話は黒曜石がしてくれるので、その間オニキスは他の団員とブラブラする事にした。
 しかし、隣の国なのに全く違う装いで驚く。
 大きな湖は海と言うらしい。
 そしてそこにさ大きな船と呼ばれるものが沢山浮かんでいた。
 あんな大きなものが水に浮かぶとは驚きである。
 
「団長、すごいでしょうこの国は、俺らが昼間に歩いていても石を投げられない」
「俺は団長では無いんだが……」

 普通に行き交う人々。
 と、言うか、人が多すぎて少し人酔いしてきた。

「町の方へ出ませんが。我が国には女性が少ないでしょう。この国には女性が沢山いて、俺達とも普通に話をしてくれるんですよ。ナンパに行きましょう団長」
「普通に名前で呼んでくれ。俺は良い。ここで海を見てる。お前達、行って来い」

 ナンパが何なのか良く解らないが、海を見てたい気分なので断った。
 他の団員はチェっと、少し残念そうにしつつも、町に繰り出した様子だ。
 こっちでは黒髪を怖がらないらしい。
 確かに色んな色の髪が居るなぁ。
 中には頭に耳を生やした人までいる。
 兎耳やら猫耳やら、犬耳やら。
 色んな人種が居る様子だ。

「顔色が悪いですね。船酔いですか?」
「元からこの顔色だ。心配しないでくれ」

 声をかけられ首を振る。
 人に酔ったと思っていたが、船も見てると酔うものなのか。
 気をつけよう。

「行商団の方ですよね? 見ない顔だ」
「ここには初めて来た」
「その様だ」

 隣に腰を降ろした男はクスクスと笑っている。

「このハーブを噛んでみて下さい。酔いに効きます」
「有難う」

 男が差し出した葉っぱを噛んでみる。
 爽やかな香りだ。
 確かに気分が楽になる。

「私は薬屋です」
「良くなりました」

 薬屋さんに頭を下げる。
 見ると彼は緑色の髪に、銀の瞳をしている。そして、狐の様な耳があった。

「獣人は初めて見ましたか?」

 オニキスが驚いた表情をした事に気づいたらしい。

「すまない。耳は本物なのか?」
「触ってみますか?」
「良いのか?」

 クスクス笑う獣人。
 耳を恐る恐る触ってみる。

「どうですか?」
「もふもふしてて可愛な」
「可愛いのは貴方の反応ですよ」

 獣人はくすぐったそうに笑っていた。

「私は翠(すい)と言います。貴方は?」
「俺はオニキスだ」
「オニキスさん。貴方は不用心な方です」
「不用心?」
「私は貴方をナンパしてます」
「ナンパ?」
「口説いているということです」
「口説いていたのか?」
「私が差し出した薬草も、何のためらいもなく噛んでしまった。もし怪しいものだったらどうしたのですか?」

 心配そうにオニキスを見つめる翠。

「よく解らないが、悪意をもって近づく者は解るよ。君からは悪意を感じなかった」
「それを上手く隠せる者も居ますよ。味方の様に近づいて、後ろからカブってね」
「君は違っただろ?」
「私は違いましたが、運が良かっただけだと思って下さい」
「気をつけよう」

 翠は本気でオニキスを心配して言ってくれている事は解ったので、頷くオニキスだ。


「団長ーー! そろそろ帰りますよーー!」

 黒曜石が呼んでいる。

「団長さんだったんですか?」

 翠が驚く。

「団長はアイツだ」

 団長がこんな所で油を売るわけが無い。

「また来てくれますか?」
「また来るよ。行商団員だからな」
「またお話ししましょうね!」
「ああ、また」

 翠にまた来ると言って、オニキスは馬車に戻るのだった。
 帰りも3時間かけて帰った。
 滞在が2時間、国をあけたのは8時間程度である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

処理中です...